白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

Master対棋士 第50局

2017年07月21日 21時30分32秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
竜星戦本戦の対戦表(未公開)を見た感想は・・・。
「えっ、この位置?」でした。
まあ、何であれ全力を尽くすのみですね。

なお、事前収録のテレビ棋戦なので、対局日や結果等は話題にできません。
ご了承ください。


さて、本日はMaster対棋士シリーズの第50回です。
半年前に始めた企画ですが、ようやくゴールが見えて来ました。
今回登場するのは柯潔九段です。
本局を含めて4回対局しましたが、世界最強の打ち手もとうとう勝てませんでしたね。



1図(テーマ図)
黒1では、A以下を決めてからBに開けば第22局第48局と同じになります。
すると白2と入られるのが厄介ということで、黒1と上方に寄せて牽制しましたが・・・それでも入って来ました!
なんて図々しい奴なんだろう、と思ってしまいます(笑)。

ただ、狭いからこそ入りやすいという場面もあります。
例えば・・・。





2図(参考図)
このように、黒が手間をかけた所に入って来られて困った経験は、多くの方がお持ちでしょう。
相手が手間をかけているからこそ、上手く荒らせば大きなポイントを挙げられるのです。
実戦の打ち込みも、そんな意味があるのかもしれません。





3図(実戦)
実戦に戻りましょう。
白1から捌きに入りました。
上を打ったり下を打ったりと忙しい限りですね。

殴り合いなら当然黒が有利です。
しかし、元々黒の石数が多く、地になる可能性が高かったところなので、白はどちらかを取られても良いのです。
このことが黒の対応を難しくさせています。





4図(実戦)
その後、白1とケイマして一段落です。
白△は取られましたが、まだ活用の余地がありますし、下方の白は安泰になっています。

さて、ここで黒は左辺を守りたいのですが、ぴったりした着点がありません。
黒Aでは打ち込みが残りますし、かと言ってBと堅く守る気もしません。
白△の味とも関連するのですが、白Cなどからの侵略の余地があり、ほとんど黒地ができないからです。
という訳で、実戦は黒Dに向かいましたが、すかさず左辺に打ち込まれ・・・。





5図(実戦)
その結果がこの図です。
黒を分断し、明らかに白攻勢です。

黒の多い所に打ち込んで行ったはずなのに、何故こんなことになってしまったのでしょうか?
不思議ですね。

本日の対局

2017年07月20日 21時11分27秒 | 対局
皆様こんばんは。
木曜日は日本棋院棋士の手合日です。
幽玄の間でも多くの対局が中継されました。
本日は特に熱戦が多かった印象ですが、目を引いた対局と言えば、やっぱりこれですね。





左辺の黒は一体何でしょうか?
私の新刊では2間開きの用語について解説しているのですが・・・。
これは要件を満たしているか微妙です(笑)。
どちらかと言えば2間飛びと呼ぶ方が正しいような気もします。

しかし、これはこれで1局でしょう。
皆様が真似して上手く行く保証は致しかねますが・・・(笑)。


さて、本日は私も対局がありました。
いつものように苦労しましたが、今回は何とか勝つことができました。

ところで、最近随分打っている気がして数えてみましたが・・・。
6月は6局、今月は3局打って来週もう1局、来月も頭に1局入っているという、なかなかのハードスケジュールです。
普段月2局ぐらいのペースなので、一気に来ると結構大変ですね。
体調管理だけは気を付けていきたいと思います。



1図(テーマ図)
井澤秋乃四段との対局、私の白番です。
ここに至るまでに後悔する手があり、黒△と打ち込まれた場面では形勢が悪いと思っていました。
と言うのは・・・。





2図(変化図)
例えば単純に白1、黒2と飛び合うと、黒は大石につながりそうなのに、白はなかなかつながりません。
後から打ち込んで来たにも関わらず、黒が威張っています。

かと言って、特に冴えた手段も思い浮かびません。
そこで・・・。





3図(実戦)
実戦は白1と狭い所に入って行きました。
地を稼ぐというより、黒の根拠を脅しています。
何とかして白△の勢力を生かさなければいけないと思いました。

白7までは定型で、次に黒Aと当てれば白Bとコウに受けます。
コウ材は白CやDにあると主張しているのです。
そして黒がコウに負けると、全体の黒の生死が危険になる可能性があります。





4図(実戦)
そこで実戦は黒1とコウを避けましたが、白2、4と黒にプレッシャーをかけながら中央を膨らませました。
こう打っておけば、相変わらず黒Aのコウは仕掛けにくい状況です。
目一杯に頑張り、少し元気が出て来ました。
白△が置き去りになっているだけに、形勢が良くなったとは思えませんでしたが・・・。

ところが、実際には相手もテーマ図の時点から形勢が悪いと思っていた気配です。
囲碁あるあるですね。
相手にも後悔の手があったのです。

悪手を打つと形勢が悪くなったと思ってしまうのは、人間の性でしょうか。
それは弱さにもつながりますが、人間同士の碁を面白くしてもいます。

碁聖戦第2局

2017年07月19日 21時17分01秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
新作「やさしく語る 布石の原則」の表紙カバー(仮)ができました。



発売まではまだ時間があるので、これから変更される点もあるかもしれませんが、大体こんな感じになります。
「やさしく語る 碁の本質」の続編であることがすぐに分かるデザインですね。
実際に本になる日が待ち遠しいです。

さて、本日は第42期碁聖戦挑戦手合五番勝負【主催:新聞囲碁連盟】第2局が行われました。
棋譜や解説は幽玄の間でご覧頂くとして、当ブログでは私が注目した場面をご紹介しましょう。



1図(実戦)
白1と大股に開き、黒2の打ち込みには軽やかに白3とボウシ!
黒Aのハザマが空いていますが、白△を捨てる作戦なので許される手です。
黒Aには白Bと三々に入り、白△を取っても小さな地しかできません。

この打ち方は、まるで置碁の白のようで面白いですね。
最近研究されている手だそうですが、Masterの影響と思われます。
(Master対棋士・第10局)





2図(変化図)
ここからは対局者ならではの厳しさ、と感じた場面をご紹介して行きます。
36手目では、私ならノータイムで白1です。
他の手はほとんど浮かびません。
この手だと黒AやBから捌かれて戦いが終わる可能性がありますが、それはそれで仕方ないと感じます。

実戦の打ち方は、黒に対して厳しい代わりに、挟んだ石への負担も大きいです。
右側に黒の壁が控えているので、私は白が怖いと感じます。
力に自信のある山下九段らしい選択ですね。





3図(実戦)
42手目では、白1から切断を狙えば堅実です。
私の第一感でしたが、これはいかにもヌルいですね。
実戦の打ち方には有無を言わさぬ力強さがありました。
しかし、井山碁聖が冷静に受け流し、形勢は黒が打ちやすくなったでしょうか?





4図(実戦)
71手目の黒1には、白2と押さえる一手! というのが形の常識です。
しかし、実戦は山下九段が物凄い手を繰り出して行きました。

私も盤の前に座っていれば、白2と押さえない手を考えるかもしれません。
しかし、実際にはもっと前からこの場面を想定していた筈です。
私なら、こんな手は上手く行きそうもないな、と考えるのをやめてしまいそうですが、流石にタイトルを争う棋士は踏み込みますね。

勝負という面から見れば、本局は井山碁聖の完勝でしたね。
形勢の悪い碁も簡単には勝たせない山下九段ですが、本局はあまり粘れませんでした。
力の出しにくい碁形になってしまったようです。
第3局には修正して臨むでしょうから、好勝負を期待しましょう!

AIの弱点

2017年07月18日 22時00分00秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
幽玄の間での若手棋士とDeepZenGoの対局は、もうすぐ累計100局に達しそうですね。
過去の棋譜は、
ソフト右上の保存棋譜ボタン→大会サーバーの棋譜タブを選択→「ハンドルネームで検索」にチェックを入れ、「DeepZenGo」と入力→検索開始
という手順でご覧頂けます。



上記の手順で、このように一覧表示されます。
太字で表示されているのが勝者です。


さて、本日はDeepZenGoと伊田篤史八段の対局で驚いた場面をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
伊田八段の黒番です。
DeepZenGoが白1、3と出切って仕掛けました。
白△を捨てた代わりに、外側で優位を築こうとしています。
いかにもDeepZenGoらしい打ち方と感じます。

大きな戦いはDeepZenGoの得意分野です。
こうなると人間には分が悪いのではないかと思いました。
しかし、1つ落とし穴が・・・。





2図(実戦)
黒1に対して、白は下辺を生きなければいけないのですが、白2、4とは!
何の変哲も無い手に見えるかもしれませんが、私はビックリして思わず声が出ました。





3図(実戦)
黒2、4から絞られ、5目中手です。
プロはもちろん、アマ高段者レベルでも瞬間的に見える死活なのですが・・・。
当然ながらこの碁は黒勝ちになりました。





4図(変化図)
ハネツギでなく、白1、3のハネカケツギなら問題無く生きていました。
これも簡単な手ですね。


多くの囲碁AIには、大局観に優れ、部分に弱いという特徴があります。
これは一般的なイメージと違いますし、当初私も勘違いしていたところですね。

そして、この部分に弱いというのは、囲碁に限らずAIの大きな課題になるような気もします。
囲碁は部分でいくら損をしても最後に勝てば良いですが、実社会では細かいミスが許されないこともありますからね。
AIが大局的な判断をして、人間が部分的判断を補助する、そんな未来を想像しています。

本日の対局

2017年07月17日 22時27分29秒 | 対局
皆様こんばんは。
最近話題のこの本、ようやく購入しました。


普通の本は200ページちょっとですが、こちらは何と400ページ超!
読み応えがありそうですね。
ですが、読むのはMaster対棋士シリーズを完結させてからにしようと思います。
先入観無しで私の感想や考えを述べるつもりです。

さて、本日は竜星戦の予選で小山空也三段と対局しました。
広間での一斉対局ですが、持ち時間1時間なので隣を気にする余裕はありません。
ところが・・・。



隣でこんな碁が打たれていたので、若干集中力を持って行かれました(笑)。
もっとも、それは開始数分の話、すぐに自分の碁しか見えなくなります。
序盤から難しい戦いが続いた1局でした。



1図(実戦)
私の白番です。
全く警戒していなかった黒1の切りが飛んで来ました。
慌てて読みましたが、この石は取れそうにありません。





2図(変化図1)
白1、3が真っ先に浮かびますが、攻め合いは白が苦しそうです。





3図(変化図2)
かと言って前図白5で、本図のように左から白1と取りに行っても黒2、4で捕まりません。
白が困ったかと思いましたが・・・。







4図(実戦)
白1とツケる手がありました。
黒Aなどと白2子を取って来れば、白Bと切って隅とつながります。





5図(実戦)
という訳で実戦は黒1の切りですが、白2が成立して黒3子を取ることができました。
その代わり白△を取られそうですが、危機は脱しています。





6図(変化図3)
この後黒1と動いても、白8まで取ることができます。
白△が働いていますね。

この後も何とか乗り切って勝ち、5年ぶりの本戦出場が決まりました。
本局はツキがありましたね。