阿部薫というミュージシャンがいたことをご存じでしょうか?
阿部薫は1949年に生まれ1978年に29歳の若さで亡くなった天才と呼ばれた伝説のフリージャズ・ミュージシャンです。メインはアルトサックスですが、ハーモニカ、エレキギター、ドラムス、シンセサイザーなど様々な楽器を演奏しました。生前より亡くなった後の方が評価されるようになり、今でも時々話題に上ります。
私が彼に会った(演奏を聞いた)のは、1973年頃で福島市にあった喫茶店カフェ・パスタンででした。当時パスタンは普通の喫茶店でメゾン・ド・ミヌールというビルの張り出した2階にあり、そこで演奏会が行われました。
阿部薫は小柄で色白、坊ちゃん然とした風貌で少し上目遣いでぼそぼそと話す、そんな印象でした。しかし、一旦演奏を始めると、どこにこんなエネルギーが潜んでいるのだろうと思えるような音を奏でました。時にやさしく、時に激しく。
パスタンのママ松坂敏子さん(以後ママと書きます。)は、彼のことを「きれいな音の人」と言っていました。
パスタンはその後隣の昔花屋さんがあった1戸建てに移って本格的なジャズ喫茶として営業を始めました。そこでは、たくさんのミュージシャンがライブ演奏を行いました。阿部薫もたくさん演奏をしています。その演奏も1,2度聞いています。私は既に仕事で福島市を離れ、パスタンを訪れる機会は少なくなりました。パスタンでの演奏をYouTubeで見ることができます。こちら。
パスタンでは自由に演奏してそれをママの息子の亨(すすむ)くんがTEACの2トラ38を回して録音しました。その音源でいずれレコードを出しましょうというのが阿部薫、ママ、亨くん、3人の約束だったそうです。
1978年、ママから電話がありました。
「阿部さん 死んじゃった ・・・・」
それから20年以上経ったころ、出張の帰りにパスタンに寄ると、ママが一生懸命CDを作っていました。阿部薫がパスタンでレコーディングした演奏のCDです。CDRに一枚一枚手作りをしていたのです。その時に買ったCDが今手元にあります。録音された時期は、1974年から1977年です。制作は1999年9月です。
これは10枚組のボックス。
他に3枚。
たぶんその後だったと思いますが、市販の阿部薫のCD「暗い日曜日」も買いました。
朝ドラ「あまちゃん」の音楽を担当した有名な大友良英さんは、高校時代にパスタンで阿部薫の演奏を聴き、衝撃を受けたと書いています。記事はこちら。ひょっとすると同じ時間、同じ空間に私もいたかも知れませんね。
阿部薫のCDを聞くことはほとんどありません。でも彼の演奏は記憶の中にしっかりと残っています。命を削って演奏したミュージシャン。もう少し長く生きてほしかったなー。