静かだ。
珍しく海が凪いでる。
先週まで、あんなに吹いてたのにさ、この日はそよとも吹かない。
木曜までの予報は、6mの風だったのに。
若干の浪気こそあるが、物音がしない。
鴎の鳴き声さえ、囀りのようだ。
今日の広田湾は、何かが違う。
この数週間、余震の相次いだ東北沿岸地帯。
魚もビビって、逃げたか隠れたのかのようだ。
この日は、何かが違う、、、
これだよ!
ヒグマが来た!
自然界では、自分より猛々しい種に立ち向かうことは絶対にない。
メスが子を守る時ぐらいだろう。
だが、それだって周到に辺りを伺った末の絶対危機以外は、ただ逃げ去るのみだ。
魚も、いや、風さえも黙らせてしまう、ヒグマの圧!
今にも振って来そうな空は、ヒグマの圧で空中にバリアでも張ってるかのようだ。
久方ぶりにヒザが登場。
何処も釣れてないらしい。
そうだよな、何処も釣れてるって聞かないもんな。
サクラマスもダメみたいだ、シーズンなのにさ。
釜石では親潮の冷やっこい水を嫌ったイワシが、岸壁で群れてる。
しかも、半分痙攣したように動きが鈍いから、タモで掬ってる有様だ。
オイ、釣らすんだろうな!
すでに、お腹が痛い、、、
今日は、寝てねんだからな!
タップリ寝てくりゃいいのに、、、
満潮8時に合わせて、5時出船。
潮止まり際、朝マズメ、曇天、牡蠣上げ作業船2艘。
絶好の条件だ。
1時までの8時間で、、、2枚。
2枚だぜ。
たったの、2枚!
つ~~か、ヒグマさ!
アンタ、風止めても魚止めたら意味ね~~べよ。
何しに来たん?
魚釣るために来てんのにさ、魚追っ払ってどうすんのよ!
しかも、上げ具合の良いイカダばっか巡ったんだぞ。
ちった~~~上下関係わきまえろや!
と、心の中で叫ぶ船頭。
オイ!
イカダに縋って何の反応も無い。
5分後には恐ろしく寒々しい殺気を感じる。
あの~~動いてもいいスカ?
ひざまずいてお伺いを立てる。
その繰り返しで8時間。
お腹は限界を通り越してる。
最後の1時間は、大あくびしまくり。
怒声とは違った緊張感のある、あくびだぞ。
来週はどっする?!
広田湾は、どうにもクソですよ。
エサ欲しいんなら、釜石でタモで掬ってりゃいんじゃないスカ~~
と、心の中でしか叫べない船頭。
心づくしの Kawasaki を10本持ってきたパイセン。
夜なべして造ったんだろうな?
いや、つ~~か、今パイセンは夜勤の仕事してんだよね。
仕掛けの丁寧さが無い手さばき振りからも、大丈夫なんかな? と察っする。
案の定、仕事場で25歳の女の子にブチ切れられてるらしいぞ。
何やってんだよオッサン!
分からんのか!
何度同じことやってんだよ、このデブが!
だがら、魚も釣れねんだ。
なんで、センターズレんだよ!
と、この女の子も心の中で叫んでいるんだろう、、、
魚釣りたいんなら、他所でどうぞ。
この1枚を釣りたいんなら、付き合いましょう。
と、ヒグマの心の優しさを伺いながら心の中で冗談呟いたらさ、、、
来るってよ、来週も。
来んのかい!
お願いだから、魚は止めないでください。