世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

ポーチュラカ

2022-05-07 05:19:25 | 花詩集

おじょうさん あなたは
もう少し学ばなくてはいけないよ

いつまでもいつまでも
指をくわえて
おかあさんの帯に捕まってちゃいけない

甘いお菓子欲しさに
大人のひとにひょこひょこついていったら
いつか大きな穴に落ちてしまうよ

人はだれでも一度は
こけたりつまずいたりするものだけど
そこからもう一度起き上がるためには
ちゃんと良いことを学んで
心に力をつけておかねばならないんだ

だのにあなたときたら
もう何年も学校にいるのに
傷ついた人の胸に
上手に布を巻くこともできない

鉛の叫びをあげて
地に伏している人に向かって
平気で皿をつきだし
もっとお菓子はないのって 言う

黄色いポーチュラカのように
かわいい君よ
いつになったら
自分の心で歩きだすんだい?



(花詩集・18、2004年11月)




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ブナ

2022-05-06 04:50:50 | 花詩集

しづかなる月光を
総身に浴びながら
音もなく歩き出す
わたしたちの魂があることを
あなたたちは知らない

調べも知らぬ若い小鳥のように
よしもない歌を日々歌い続けて
魂の萎えにおびえるあなたたちの
心の底にあるものを
えぐるように見ることが
わたしたちにできることを
あなたたちは知らない

あなたたちは知らなすぎるのだ
知らなすぎるということさえ
知らないほど
知らなすぎるのだ

何度わたしたちが倒されても
ヒコバエは生えてくる
種はいくらでも芽吹き出す
それは執拗な生命力などではなく
限りない地球の愛を
何とかして伝えようとしている
美しい神々の群読の中の
ひとすじの澄んだ声なのだと……

気づくことさえできないほど
あなたたちは何も知らないのだ



(花詩集・17、2004年10月)




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エノキ

2022-05-05 05:11:12 | 花詩集

自分の 悪いところが
わかった ということは
足場が 見つかった
と いうことなんだよ
そこを踏み台にして
次のステップに 進めるんだ

だからさ よかったね
失敗して

つまずいて 転んで
ぺしゃんこになって

今までのあなたが
こなごなになって

そこから
あたらしい虹が
のびあがるんだ
そして
ほんとうの世界を
歌いはじめるんだ

さあ のぼっておいき
待っているから
あなたが
ほんとうに望んでいたものが
あそこで
待っているから



(花詩集・16、2004年9月)




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アップル・ミント

2022-05-04 05:00:26 | 花詩集

良いことばを
美しいことばを
つかいなさい
魂が悦びにふるえることばを
人人の心の折り目を
正しくなぞる優しいことばを

そうすれば
生き方が美しくなる
瞳が美しくなる
なぜならことばは
心を創っていくものだから

例えば
青いミントの畑のほとりで
風に吹かれながら
あなたが見つめている細い後ろ姿に
その美しいことばを
言っておあげなさい

ーーきれいな服が欲しいのじゃない
  おいしいものが食べたいのじゃない
  ただ 美しい仕事をして
  働くことに倦まないあなたの
  微笑のそばに いたいのですーー

口に出さなくてもいい
胸の響きの中から
ほほえむ瞳の奥から
魂の耳にささやいておあげなさい
本当の言葉なら それは必ず伝わる

全てを知っている風が
あなたの天使になるのだから



(花詩集・15、2004年8月)




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メダケ

2022-05-03 04:58:38 | 花詩集

わたしのおかあさんは
こどもは生んだけれど
おかあさんにはなれなかった
そんなひとです

こどものころになくした
自分の幸せを探して
そればかり探しているうちに
ほんとうの幸せを
置いてけぼりにして
ひとりぼっちで死んでしまった
そういうひとです

イクナッチャ サヤサヤ
イクナッチャ サヤサヤ

あの日
うちのそばにあった竹やぶが
必死にあなたをとめていたのに
どうして行ってしまったのですか

人はなぜ
時に
行ってはならない暗がりの道に
どうしようもなく
迷いこんでしまうのですか

イクナッチャ  サヤサヤ
イクナッチャ サヤサヤ

あのとき 泣き叫んでいた竹やぶは
新しい道ができて
今はもうないと聞いています




(花詩集・14、2004年7月)




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ケヤキ

2022-05-02 04:52:22 | 花詩集

そんなに
ため息ばかりつかないで
塩辛い涙を煮詰めて
焦がしているばかりでは
魂が根無しの花のように
いつか枯れてしまう

胸がせつないのは
気持ちが焦っているからです
焦っているのは
何も見えなくなっているからです

あなたがこだわり続けているものが
あなたの魂を呪縛して
まわりのすべてのものから
遠ざけてしまっているのです

空の明るい真昼に
ロウソクを何本灯しても
見ようとしないものは見えない
網にかかった人魚を
海に解き放つように
少しは息を抜きませんか

あなたを縛っているものは
たわいもない小さな暗示なのです
蟻のようにちっぽけな一本のピンが
あなたの影を刺して
動けなくしているだけなのです



(花詩集・13、2004年6月)





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クスノキ

2022-05-01 05:38:57 | 花詩集

この壁は
乗り越えられる壁だ
たとえどんなに難しい壁でも
無理にでもそう思うことだ
気持ちで負けてはだめだ

今はまだ力が足りなくても
いつか必ずそれを
乗り越えられる自分になる
そんな自分を信じることだ
そして一歩を踏み出すことだ
少なくとも
今何をやるべきなのか
やれるのか
考え始めるべきだ
背を向けてはならない

私があきらめたら
この世界はもう終わりなのだ
だからあきらめてはならない
そう思うことだ
背骨を千切られるような
心の痛みに出会っても
自分を見捨ててはだめだ

絶望と怠惰の沼に
自分の旗を捨ててはならない
それは乗り越えられる壁だ
乗り越えられる壁なのだ



(花詩集・12、2004年5月)




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オキナグサ

2022-04-30 05:11:23 | 花詩集

前に進みたくても
どうしても進めない時がある
そんな時は一旦進むのをやめ
焦る心を少し落ち着かせてから
静かに周りを見回してみると良い

するとそこには
手をつけずに放っておいた宿題や
あなたのために誰かが流した涙や
あなたが気まぐれに殺しては
捨てていった人の心なんかが
腐りかけて山になった
トカゲの死骸のように
うずたかく積みあがっていたりするものだ

それらを一つも片付けようとしないで
前に進もうとしても無理なのだよ

あなたが今までのあなたであり得たのは
あなたが何も知らなかったからだ
あなたが今前に進めないのは
何も知らないでいることは
もうできないからだ

誰かや何かのせいにしてはいけない
それは自分をも捨てることだから
宿題をやりなさい
少しずつでいいから
時の女神は
必ずあなたを待っていてくれるから



(花詩集・11、2004年4月)




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ナノハナ

2022-04-29 05:23:57 | 花詩集

冬の最後の叫びが
大地の皮膚を裂いていく
その中から
春の悦びがあふれ出す
氷にとじこめられていた
何万もの光の鳥の群れが
いっせいに空に飛び立つように
地球の大合唱が始まる

ああ
解き放たれたこの悦び
再び出会えたこの悦び

菜の花が
あんなにも金色に咲くのは
このすさまじいほどの悦びを
誰かと共にしたいと
地球が思ったからなんだ

菜の花が
あんなにもまぶしく歌うのは
地球のことばを
目に見える形にして
私たちにも伝えたかったからなんだ

だから
すべての命は
みんなこの地球の
ことば そのものなんだよ



(花詩集・10、2004年3月)





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ウメ

2022-04-28 04:59:43 | 花詩集

それは春とは名ばかり
風にまじる氷がまだ針のように頬を刺す頃
何があったのか
庭園の梅の木の下で
少女は泣きながら
恋人の不実をなじっている

彼はやさしくないのよ
こんなに私を傷つけるんだもの

年を経た梅の木は
こまやかな枝の先々の紅の粒を
ぽちぽちと裂きはじめた
すると澄んだ香りが
薄絹のようにひるがえって
少女の肩をそっと抱いて ささやくのだった

お嬢さん
男というのはね
ごめんという一言が言えないために
百万倍のむだな苦労をする生き物なのさ

梅の木のそのささやきが
彼女の心に届いたらいいのだが さて
不謹慎だとは思ったが
傍らで聞いていた私は
笑いをかみ殺すのにひとしきり苦労した
やれやれ

いつの世も
女の苦労の種は
変わらないんだなあ



(花詩集・9、2004年2月)




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