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宇宙船がリープを離れ、成層圏外に飛び出してからしばらくのことは、あまり覚えてはいない。人間たちが狂って、ために船の中で起こった惨劇のことは、思い出したくないのだ。ただ、気付いたときには、わたしは宇宙空間にひとりで浮かんでいた。
白い宇宙服を着ていた。緑色のベルトには、時空跳躍装置がついていた。それをどんなふうに扱えば、どういうことになるかも学んでいた。わたしは、宇宙船の乗客たちはどうしたろう、とふと考えた。覚えていないが、きっとみんな死んでしまったろう。だが、わたしは、死ねないのだ。どんなにむごい環境に飛び込んでも、わたしはわたしの生きていける環境を、自分の中に作ってしまう。
どれだけの間ぼんやりしていたのか。やがてわたしはようやく、時空跳躍装置に触れる気になった。その中には、父が集めておいてくれた、生命が存在する可能性のある星のデータがあるのだ。わたしは装置の小さなボタンをいじり、ランダムを選択した。すると、装置は時空を跳躍して、わたしの体を一気に異空間に運んだ。
どれだけの時間が経ったのかはわからない。それは数万年かけて起こったこととも、ほんの数分で起こったこととも感じられた。わたしは宇宙空間に、ただぼんやりと浮かんでいただけだったが、いつの間にか目の前に、黄色い星があった。
瑪瑙玉のようなその星を認めると、わたしは突然焦って、その星に向かって泳ぎ始めた。新しい世界がある。誰かがいるだろうか。わたしが生きていける新しい世界はあそこにあるだろうか。
だが、不思議なことに、まるで同極の磁石にでも出会ったかのように、わたしはその星に行くことができないのだ。どんなにがんばって進んでも、その星にたどりつくことができない。黄色い星は不愛想な顔をして、わたしを拒絶し続ける。
なぜなんだ、とわたしは叫んだ。すると、確かに、誰かの声が、わたしに聞こえたのだ。
ここに来てはいけない。
誰なのだ。わたしは驚いた。だが、その声はもう二度と聞こえなかった。誰なのだ、とわたしはもう一度叫んだ。その声に驚いたかのように、時空跳躍装置が突然働き、わたしをまた違う時空へと運んで行った。
(つづく)