源氏物語を読み終え、達成感よりも喪失感が優勢なまま数日が過ぎた。
54帖にわたる大作を読むのに家事などの合間の時間をあるたけ注いでいたからなんだか急に手持ち無沙汰になった。否、それだけではない。物語の虜になってしまっていたことが大きい。千年も前に書かれた架空の物語に夢中になるなんて自分でもでも想定外であった。
原作者は言わずと知れた紫式部だが、古文が苦手な私は主人公である光源氏が稀代のプレイボーイだということくらいしか覚えてなかった。
この世のものとは思えない美貌、知性も才能も家柄も最上のものに恵まれたプレイボーイ。仮に、身近に実在したらいけ好かない人物であろうと思われるにも拘らず、読み進めるにつれて徐々に心を許し、挙げ句の果てには源氏の魅力は否定できるものではないと少なからず惹かれてしまっている自分がいて、紫式部の筆力に心底感服している。
前述の通り私は古文が大の苦手だったので、今回は歌人である与謝野晶子夫人の現代語訳を読んだ。夫人の訳がまた素晴らしく、原作者の紫式部に対するのと同じくらいに大きな敬意を抱いた。原文を読むだけでもひと仕事であるのを、多くの考察と研究とを惜しまず、紫式部が描かんとしたことを現代語に置き換えるというのは、さぞ苦労の多い作業であったろうと思う。しかも、夫人が同作品を訳すのは二度目で、育児の時期と重なったというのだから、その使命感たるや如何に。
光源氏の誕生からその孫の世代までの長い物語である。昔の宮廷が主な舞台になっており、月日の経過と共に登場人物の身分が変わると呼び名も変わるので、いくら現代語訳とはいえ、読んでいく上で人間関係の把握が一番難しく感じた。
そこは『3分で読む源氏物語』というサイトが帖ごとの登場人物の相関関係をあらすじと共に明らかにしてくれているおかげで解決した。
昔の人の、おまけに貴族のことであるから、現代人には馴染めないのかと思いきや、現代社会でもそういうことあるよねということが描かれ親近感を覚える。
例えば、和歌の返しは内容も然ることながら、受け取ったらなるべく早く返すことも重要で、使いの者やお付きの者達が「早く早く」と主人を急かすあたりはメッセージアプリの既読マークのそれに通じるものがあるし、浮気相手にどれだけ本気だかを滔々と語る行為は時代を越えて全世界共通の飽くなき愚行であると証明している。
季節の移ろいと共に描かれる人間模様に、筆者の人生観や宗教観が巧みに織り交ぜられているが、華やかな世界を背景に人生の儚さが際立ち、読む側としても自分の人生をちょっとでも思い返さないわけにはいかないような気がしてきた。
最後の帖がこの先も物語が続いていきそうな余韻を残しているせいもあって、「続きが気になる」状態が継続されて達成感よりも喪失感なのである。
Nozomi
54帖にわたる大作を読むのに家事などの合間の時間をあるたけ注いでいたからなんだか急に手持ち無沙汰になった。否、それだけではない。物語の虜になってしまっていたことが大きい。千年も前に書かれた架空の物語に夢中になるなんて自分でもでも想定外であった。
原作者は言わずと知れた紫式部だが、古文が苦手な私は主人公である光源氏が稀代のプレイボーイだということくらいしか覚えてなかった。
この世のものとは思えない美貌、知性も才能も家柄も最上のものに恵まれたプレイボーイ。仮に、身近に実在したらいけ好かない人物であろうと思われるにも拘らず、読み進めるにつれて徐々に心を許し、挙げ句の果てには源氏の魅力は否定できるものではないと少なからず惹かれてしまっている自分がいて、紫式部の筆力に心底感服している。
前述の通り私は古文が大の苦手だったので、今回は歌人である与謝野晶子夫人の現代語訳を読んだ。夫人の訳がまた素晴らしく、原作者の紫式部に対するのと同じくらいに大きな敬意を抱いた。原文を読むだけでもひと仕事であるのを、多くの考察と研究とを惜しまず、紫式部が描かんとしたことを現代語に置き換えるというのは、さぞ苦労の多い作業であったろうと思う。しかも、夫人が同作品を訳すのは二度目で、育児の時期と重なったというのだから、その使命感たるや如何に。
光源氏の誕生からその孫の世代までの長い物語である。昔の宮廷が主な舞台になっており、月日の経過と共に登場人物の身分が変わると呼び名も変わるので、いくら現代語訳とはいえ、読んでいく上で人間関係の把握が一番難しく感じた。
そこは『3分で読む源氏物語』というサイトが帖ごとの登場人物の相関関係をあらすじと共に明らかにしてくれているおかげで解決した。
昔の人の、おまけに貴族のことであるから、現代人には馴染めないのかと思いきや、現代社会でもそういうことあるよねということが描かれ親近感を覚える。
例えば、和歌の返しは内容も然ることながら、受け取ったらなるべく早く返すことも重要で、使いの者やお付きの者達が「早く早く」と主人を急かすあたりはメッセージアプリの既読マークのそれに通じるものがあるし、浮気相手にどれだけ本気だかを滔々と語る行為は時代を越えて全世界共通の飽くなき愚行であると証明している。
季節の移ろいと共に描かれる人間模様に、筆者の人生観や宗教観が巧みに織り交ぜられているが、華やかな世界を背景に人生の儚さが際立ち、読む側としても自分の人生をちょっとでも思い返さないわけにはいかないような気がしてきた。
最後の帖がこの先も物語が続いていきそうな余韻を残しているせいもあって、「続きが気になる」状態が継続されて達成感よりも喪失感なのである。
Nozomi
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます