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ぶんやさんの記録

断想:聖霊降臨後第21主日(特定25)(2017.10.29)

2017-10-27 08:30:04 | 説教
断想:聖霊降臨後第21主日(特定25)(2017.10.29)
基本的人権と難民問題 出エジプト22:20~28

<テキスト>
20 寄留者を虐待したり、圧迫したりしてはならない。あなたたちはエジプトの国で寄留者であったからである。
21 寡婦や孤児はすべて苦しめてはならない。
22 もし、あなたが彼を苦しめ、彼がわたしに向かって叫ぶ場合は、わたしは必ずその叫びを聞く。
23 そして、わたしの怒りは燃え上がり、あなたたちを剣で殺す。あなたたちの妻は寡婦となり、子供らは、孤児となる。
24 もし、あなたがわたしの民、あなたと共にいる貧しい者に金を貸す場合は、彼に対して高利貸しのようになってはならない。彼から利子を取ってはならない。
25 もし、隣人の上着を質にとる場合には、日没までに返さねばならない。
26 なぜなら、それは彼の唯一の衣服、肌を覆う着物だからである。彼は何にくるまって寝ることができるだろうか。もし、彼がわたしに向かって叫ぶならば、わたしは聞く。わたしは憐れみ深いからである。
<以上>

1.この主日の福音書
この主日の福音書は、マタイ22:34~45で、律法の中でどの掟が最も重要かということについての、イエスとファリサイ派の人びととの対話である。そしてイエスが「最も重要な第1の掟は心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くしてあなたの神を愛すること、第2として隣人を自分のように愛すること、と答えられてというエピソードである。特祷ではそれを受けて「わたしたちにも隣り人の僕となる心をお与えください」と祈る。旧約聖書はそれを受けて出エジプト記22:20~26が読まれる。

2. 生きる権利
本日のテキストでは、「寄留者」、「寡婦」、「孤児」、「貧しい者」が、すべての人と同じように生きる権利を持ち、その権利はすべての人によって守られなければならないということが強調されている。当たり前といえば、これほど当たり前のことはない。ここでは「権利」という形ではなく、「義務」「掟」という形で、むしろ社会的弱者の基本的人権を犯してはならないという命令として述べられている。他人の権利を尊重しなければならないという規定の根拠は「自分の権利」を侵してもらっては困るということにある。しかし、ここではその当たり前のことが、誰でも同じような境遇になる可能性を秘めているからである、ということとして説明されている。
誰でも「寄留者」になるかも知れない。誰でも「寡婦」になるかも知れない、誰でも「孤児」になるかも知れない。自分がそうならなくても自分の家族が、特に自分の子どもが同じような境遇になるかも知れない。誰でも、生活に困り、借金をしなければならなくなるかも知れない。そういう「不幸の可能性(危険性)」を抱いている。そのことについては当たり前すぎて、それ以上の説明は不要であろう。

3. 基本的人権
ここで述べられている「生きる権利」のことを現代では「基本的人権」という。広辞苑によると、基本的権利とは、「人間が生まれながらにして有している権利」と定義されているが、それは確かにそうに違いないが、「何を生まれながらにして有しているのか」ということになると、何も規定していないと同じである。インターネットで、「基本的人権」という言葉を検索していると、非常に面白い定義に出会った。「基本的人権とは、人間が、ひとりの人間として人生をおくり、他者との関わりを取り結ぶにあたって、最大限に尊重されなければならないとされる人権のことである」(wikipedia)という。この定義は基本的人権における他者との関わりということを重視している点は評価できるが、「一人の人間として人生をおくり」という言葉が曖昧であり定義としては不十分である。
わたし自身は次のように定義したいと思っている。基本的人権とは、「すべての人間は人間として生きる権利をもち、その権利をお互いに尊重し合わねばならない」。日本においても憲法によってその権利は保障されている。この「わたしの権利」は誰からも犯されてはならない。特に、国家権力も侵すことができない。と同時に、わたしには「他人の権利を侵してはならない」、あるいは「他人の権利を尊重し、守る」という「戒め」ないしは「義務」がある。この権利と義務とが表裏一体になっているのが基本的人権である。

4. 難民問題
さて、今日の旧約聖書のテキストのメッセージ、「寄留者を虐待したり、圧迫したりしてはならない。あなたたちはエジプトの国で寄留者であったからである。寡婦や孤児はすべて苦しめてはならない。もし、あなたが彼を苦しめ、彼がわたしに向かって叫ぶ場合は、わたしは必ずその叫びを聞く」(20~22)を現在の課題として捉えた場合、それは難民問題への私たちの姿勢の問題であろう。難民問題は決して私たちと無関係な遠い他所の国の問題ではない。実は私たちは何時でも、突然、難民になる可能性をうちに秘めて生きている
現在の国際関係において最も深刻な問題は難民問題である。難民問題はその原因が、民族問題や政治権力によるもの、宗教・思想に絡むもの、あるいは自然災害等によるものもあり、規模も数十人レベルから何万人、何十万にレベルのものもあり、多種多様なので、理解するのが非常に難しい。日本など海に囲まれているのであまり問題意識がないが、国境問題が絡み、その解決はさらに難しくなる。考えて見ると、イスラエル民族のエジプト脱出という出来事も、難民問題である。彼等は40年間ちかく定住の地がないままに砂漠地帯をさまよったのである。難民問題を単純に「正義・不正義」というような基準で定義づけることもできない。非常に複雑な問題を含んでいるので3つのケースを取り上げて、難民問題を考える。
(1)私の難民体験
私にも難民経験がある。太平洋戦争の末期、ソ連軍が満州に侵攻した時点で、約85万人の日本人が抑留されたといわれている。何しろ一つの国が崩壊するという出来事であるから正確な数字はわからない。例えば、私の家族がその85万人の中に含まれているのかどうか。ともかく、終戦の直前に満州を脱出して挑戦で敗戦したのである。あるいは、北満州のソ連国境に近いところにいた日本の開拓農民はほとんどが死亡したとされているが、その数は把握されていない。ともかく、公的には85万人近くの日本人が抑留され「難民」とされたのである。これらの日本人のほとんどは食糧問題、人口問題という複合的な理由により、国策として日本政府は1936年から1956年までの間に500万人の満州移住を計画していたとされている。そのために全国各地に「満州移民キャンペーン」がなされ、満州に移住させられた人びとであった。ともかく個人的な理由というよりも国家的な事情によって満州の地に移住した人びとも、日本の敗戦と同時に、85万人に近い人びとが難民になったのである。当時10歳の私もその難民の一人であった。そして約1年間の抑留の後、北朝鮮の難民施設から鉄条網を破って脱走し、38度線を突破して帰国したのであった。
(2)ミャンマーの難民
現在、最も深刻な難民問題の一つはミャンマーのロヒンギャ族問題であろう。この民族の歴史に関しては謎の部分が多く、ハッキリしないが、ハッキリしていることは彼等がイスラム教徒であり、ミャンマーの地に定住しているが、ミャンマー人ではない。何故、彼等がミャンマーに定住するようになったかその理由は不明である。もともとはタイの住んでいたと思われるが、タイが仏教国になり迫害を受けるようになり、周辺諸国は移住をし始めたのだろうの推測されている。19世紀になると、これらのイスラム教徒たちは、ミャンマー南部の海岸地帯、ラカイン地方に定住するようになり、既にそこに住んでいた仏教徒たちと対立し始めた。20世紀に入り、太平洋戦争の時代にはミャンマーを占領した日本軍はラカイン地方に手を伸ばしミャンマー人に武装させ、イギリスと戦った。その時、イギリス軍もその地のイスラム教徒を武装化し日本軍と戦わせた。その戦争を通じて、ミャンマー人とロヒンギャ人との対立は深まった。大戦後、ミャンマーは共和国となり、ラカイン地方のイスラム教徒も一時的に共存関係が成立していた。現在では、ロヒンギャ族とはラカイン地方にするイスラム教徒というのが一般的な定義である。人口は約500万人とされている。
1962年にミャンマーにおいて軍事クーデターが起き、政府軍(国軍)が主導するビルマ民族中心主義に基づく中央集権的な社会主義体制(ビルマ式社会主義)が成立すると、扱いが急速に差別的となり、1978年と1991~92年の計2回にわたり、20万人から25万人規模の難民流出をひきおこしている。この間、1982年に改正国籍法(現行国籍法)が施行されると、それに基づき、ロヒンギャはミャンマー土着の民族ではないことが「合法化」され、ロヒンギャを主張する限り、外国人とみなされるようになった。2015年には総選挙を前に、それまで認めていた選挙権と被選挙権もとりあげられ、同年5月には人身売買業者が仲介したロヒンギャ難民のボート・ピープル事件も発生し、南タイ沖で木造船に乗ったロヒンギャ集団が漂流したり、陸上で人身売買業者によるロヒンギャの集団殺害が発覚したりして、国際社会を騒がせている。「大統領より上の立場に立つ」と宣言して2016年4月に国家顧問に就任したアウンサンスーチーに、国際社会はこの問題解決に大きな期待を掛けたが、実際には一人の人が力によってどうにかなるような問題ではなく、ロヒンギャ問題は解決の見通しがついていない。2017年現在、バングラディッシュの難民キャンプに保護されているロヒンギャの人々の数は50万人を超えている。難民キャンプの衛生状態も悪く、病気の発生リスクがますます高まっている。10月10日、大規模なコレラ予防接種キャンペーンがバングラデシュのコックスバザール近郊で始まりまった。90万回分のワクチンが200を超える移動予防接種チームによって届けられている。ユニセフを中心に国際的な連携で、安全な水の提供、栄養支援、学習の機会の提供、子どもの保護などの緊急支援を懸命に進めている。日本政府もこの問題の解決のためには一定の経済的援助を行っている。
(3)シリア問題
もう一つの重要な難民問題はシリア問題である。この問題の政治的背景については複雑すぎて簡単には説明できない。ここでは今起こっている難民問題の現実という点にだけ問題をしぼって考えたい。このことについて、シリアで現在活動している「国境なき医師団」の日本人スタッフの村田慎二郎さんがこんなことを言っている。村田さんは2012年5月から2015年2月の間に4回シリアに出かけ、合計20ヶ月も活動している。その意味ではシリア難民問題について最も詳しい人だと言えるであろう。シリアでは、国民のおよそ3分の1が難民となり、そして今や国民の約半数が人道援助を必要としている。村田さんは次のように言っておられる。「出口見えないこの内戦の一番の犠牲者は、女性や子どもを含む一般市民である」。「スタッフの家族が空爆に巻き込まれて亡くなった」、「子どもたちは身体中、ノミやダニにさされ、皮膚炎が流行している」。「人びとは戦争ではなく、生きるために闘わなくてはいけません。運よく周辺諸国に逃れることができても、家族や友人を目の前で失くした子どもたちの心理的な傷跡は深刻です。大人たちは家族を養うための仕事を見つけることができません」。「一方で、内戦下のシリア国内にとどまっている人びとの多くは、国外に逃れる術さえ持たない、貧しい人びとです。厳冬期、十分な暖房機器もなく、空爆や砲撃に怯えながら、乳幼児でさえ、凍えるような寒さに耐えるしかないのです。シリアでは、医療・人道援助の必要性が日増しに高まっています」。
こういう状況において、3年前に世界中を駆け巡った一枚の写真がある。その写真は、血まみれになった3歳の男の子の写真である。そしてタイトルに「ぜんぶかみさまにいいつけてやるんだから……」。
この言葉は、シリア内戦で亡くなった3歳の少年が最後に残した言葉である。シリア問題、それは複雑すぎて、きっちりと理解することは非常に困難である。 現在でもなお、その解決の目処は立っていない。しかし、それはすべて大人の世界の問題である。そしてその悲劇は、幼い子供にも及ぶ。この子はそこで犠牲になっている多くの子どもたちの中の一人である。これらの子どもたち、そしてこれらの子どもたちを育てている母親たちのことを私たちはどう考えるべきなのか。神の目は大人たちの戦争に向けられるよりも、その被害者となっている子どもたちに向けられている。そのような中、名前も知られないで、ただ一言「ぜんぶかみさまにいいつけてやるんだから……」と言って死んだこの3歳の子供を神さまが見落とすわけがない。これを読んだだとき、私はショックを受け、厳粛な気持ちにさせられました。この子に言いつけられたら、世界は救われない。
難民問題の原因は、ほとんどの場合、権力者による権力闘争にある。そこに宗教が絡んだり、経済関係が絡むが根本的には権力者による縄張り争いであり、その結果、母国を終われたり、高い塀の中に押し込められたりする。その被害をまともに受けるのは、権力とは全く関係のない、子どもたちである。

5.細かい配慮
最後にもう一度この日のテキストに戻ろう。注目すべき点は、お金を貸したり、借りたりするという実にささやかな関係が、実は人間関係において、強い立場と弱い立場とを生み出すのである。お金を貸すといういわば「愛の行為」が人間関係における上下関係を生み出す。どうしても借りた者は貸し主に対して弱くなる。貸した方はそんな気がなくても貸した相手に対して強い立場に立つことになる。一寸した貸し借りによって、人間関係が上下関係が生じる。だからこそ、金の貸し借りということにおいては、貸す者には借りた人間に対する細かい配慮が要求される。上下関係を生み出さないお金の貸し方は可能か。これが問題である。それができないなら貸さない方がいい。貸さないであげても結果は同じである。貸すことによって借りる人間の尊厳を犯してはならないということに尽きるだろう。それができない人間には「貸す資格」がない。特にこの点について、神は厳しい目で貸す者の行動を監視している、という。なんと厳しいことだろう。基本的人権について監視しているものは法律でも憲法でもなく、神の目である。

《 強い人己の利のために戦さする、その被害者は弱い者たち 》
《 ぜーえんぶ言いつけてやる神さまに、世界に響く幼子の泣き声 》

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