杜王町に住む人気漫画家:岸辺露伴 - 高橋一生 は、露伴の担当編集者:泉京香 - 飯豊まりえに
自身の話を、「男A」の話として語り始める。
男Aが、会員制のスポーツジムでトレーニングをしていると、自分をみつめる若い男性:橋本陽馬 - 笠松将 と目が合った。
彼は男Aのことを以前から気にかけていたといい、Aの筋肉のつきかたを見て、
作りすぎてない感じがいいですよね。誰にデザインしてもらってるんです?
そう尋ねてきた。
誰に、面白い言い方をするな。確かにボディデザインとは言うが、そういう捉え方はしていなかったよ。
それでいうなら、このデザインをしたのは僕だ。
ま、職業的にも当然だが。
デザイナーなんですか?
漫画家だ。
なんて漫画描いてるんです?うわぁ、さすがにうまいなぁ。たぶん、俺が目指すのもこっちなんだろうな。
同業者には見えないが・・・。
彼は役者と言うかモデル志望で、自分が所属するモデル・プロダクションの社長に(モデルとして説得力のある)身体を作ってこいと言われジムにやってきたらしい。しかしあまり興味がないまま入会したため、筋トレのことがよくわからないし気持ちがどうも乗らないようだ。
トレーナーをつけるにはデイ会員のため別料金になってしまい、会費だけでも結構高いこのジムはマシンだけはいいものが揃っているから、朝と夜はランニングをすればいい、その方が走るのは前から好きな自分に向いているというのだ。
そういって彼は窓際にあるランニングマシンに乗ると、情報をセットし走り始める。
お兄さん。
走り始めてすぐ、そう言って橋本に声を掛けてきた男たちがいた。
自分はいつもこの場所のマシンを使っているので、橋本に移動して欲しいという。
よし、じゃあ16km。
楽勝、楽勝。
そう言って、男たちはランニングを始める。
それを眺めている橋本。
真面目にトレーニングするわけでもなく、ふざけながらマシンを利用していた男たちを横目に
橋本はその場を離れて行き、表でランニングを始めていた。
あいつらフォーム出鱈目すぎ、しかもたった16km/hとか。あんな奴らに邪魔されるなんて、クソッ。
トレーニングの邪魔をされ、心の中では面白くなかったようだ。
線路わきの道路に駐輪されている自転車も、彼のトレーニングにとっては邪魔な存在だ。
坂道、階段。街の景色の中も彼にとっては全てトレーニングコースになっている。
気が付くと彼は一日中、街の中を走っていた。
同棲中の彼女のマンションで
ランニングを終えて、橋本は彼女と同棲しているマンションへ戻る。
ここは彼女:早村ミカ - 真凛 の部屋だ。
帰って来た彼の体つきが以前と変わったことを喜ぶミカ。
これなら次のオーディションに合格するだろうと、彼を励ます。
シャワーを浴びるため脱衣所で上着を脱ぐと、橋本は自分でも身体つきが変わっていたことを喜び
ランニングのポーズで筋肉の付き方が、それに向いてきていることを喜ぶ。
夕食の支度が出来てもまだシャワーを済ませてこない橋本に、彼女がしびれを切らして呼びにいくと
まだ鏡の前で走る練習をしていた様子に驚く。
ミカちゃん、俺デザイン決めた。
夕食のパスタを食べながら、自分の考えを伝える橋本。
デザイン、何の?
ボディメイクのだよ。俺走る筋肉に特化してる方が向いてると思うんだよ。
そうなの?
そう、あぁ食事も気を付けないと。こういうの(パスタ)もダメだ。
ミカちゃん、これからはタンパク質中心の食事にしてくれる?
いいけど。
同意した彼女の答えに満足したらしく、今食べた分を消費してくるとまた走りに出かけようとした。
適当に帰っていいよ。そう告げて出て行くが・・・
ここ私のマンションだよぉ~。
走ることに夢中で、彼の耳には入っていないらしい。
先ほど線路沿いの道に駐輪されていた自転車を「邪魔だな」と足蹴にして去って行く。
走ることに対する自信からなのか、何かが彼の中で変わっていた。
彼の走るコースは、いつの間にか街を離れ寂し気な石段の坂までも走るようになっていた。
朝、ミカがマンションの寝室で目を覚ますと、ベッドに橋本の姿がない。
リビングのドアを開けると、そこには様々なトレーニング機材が置かれていた。
驚くミカをしり目に縄跳びを続ける橋本。
(ここは自分のマンションなのに、こんなにトレーニング道具だらけにして)もぉ、片付けてよぉ。
ミカちゃん、走るのに必要な筋肉って知ってる?
え、足?
全部だよ、無駄な筋肉なんて一つもない。
でも、中でも腸腰筋が一番重要なんだ。簡単に言うと「太ももを上げる筋肉」。
そう言うと、ミカに自分用のタンパク質中心の食事メニューが置いてあるメモの場所を知らせて、それを守るよう伝える。
その場所にはミカのバッグが置かれており、中にある財布の現金が抜かれていた。
ミカが問いただすと、「ジムでプロテインを買うのに使った。オーディションに合格すれば返す。」と悪びれず答えるのだった。
怒って着替えに行くミカ。
インターホンが鳴り、手が離せないので橋本に出てくれるよう頼む。
縄跳びの邪魔をされた橋本は、舌打ちをしてドアを開ける。
オイッ、三回もインターホン鳴らすってどういうつもりだ。
大事なトレーニングの時間なんだ、朝の配達は止めろっ!今度こんなことしたらタダじゃ済まないぞ!
そういって、配達員 - 春木生 の男性を脅し出した。自分が時間指定を依頼したからと、慌てて止めに入るミカ。
部屋に戻り、先ほどの橋本の態度を咎める。
トレーニングの邪魔をされたくないからだと、聞く耳を持たない橋本は外出しようとマンションを出る。
先ほどの配達員が表で、沢山の荷物の配達に困っているのを見て、また舌打ちをした。
邪魔だな。
自分が走ること以外、相手の動きは無駄な動作であると言わんばかりだった。
降りてきた橋本の姿を見かけた配達員は、会釈をする。
橋本は、スタートアップのストレッチをしていた。