人気漫画家:岸辺露伴 - 高橋一生 の自宅前に、傘をさしたスーツ姿の男がやってくる。
紙の手提げ袋、背中にバッグ。いかにも若い営業マンといった風情だ。
どうやらこの若い男(増田朋弥)は、不動産業者らしい。
うぁーっ、凄い屋敷。エグイっすね、漫画家って儲かるんだぁ。
後ろからバテ気味についてきた上司(中村まこと)にタメ口とは、軽いものだ。
あったりまえだ、日本の漫画は世界中で読まれてるからな。
いや、それ説明になってない。
そらもぅ、すげーもんだよ。
特にここの先生は、「超」が付くくらい有名でな。
聞いたことあるだろ、キシダ・ゴハンって。ぅぉぃ
グルメ漫画家なんかっすか?
それは知らん。
とにかく、偉い先生だから失礼のないようになっ!
ただ、引きこもって仕事をしてる分、世間知らずなのは間違いない。
不動産の相場なんて、さっぱりだろう。
いいか、こっちのペースで行くぞ。
丁寧に、強気にだ!
うぉぃっす!
坂道を上がった場所にある露伴の自宅兼スタジオの前で、こんな会話を
されるとは、どういうことか。
それは、漫画家の彼が相続したわけでもないのに、最近ある山をいくつか所有したことに
原因があるらしい。
岸辺露伴は、窓の外を眺めながらストレッチをしている。
手首の角度は直角90度を保つ。各指は曲げずにまっすぐを保つ。
深く呼吸をし、手のひらを窓側に向け指の一本一本を折り曲げながら
気持ちを集中しようと・・・。
ごめんくださいぃぃぃぃ~っ。お忙しいところを失礼しますぅぅぅ~っ。
キタガワ不動産の者ですがぁぁぁ~。
なんとか声を無視して、全部曲げた指を再び一本ずつ開こうとするが・・・。
キシダゴハン先生、いらっしゃいますでしょうかぁぁぁ~っ。
不機嫌そうに作業机で漫画を描くゴハ・・・露伴。
突っ立っている若い部下の横で、上司の男は、平謝りで詫びている。
別にいいよ、僕が読んで欲しいのは漫画であって、名前じゃない。
ですよねぇ。
出直して参りましょうか、先生はお忙しそうですし。
彼らの顔を見ないまま、露伴は話を続ける。
いや、サインの練習をしておこうと思ってね、キシダゴハンの。
先生、相当根に持ってるみたいです。
絨毯の外側に出て、膝をつき更に二人掛かりで平謝り状態。
露伴が土地の話について聞こうとすると、上司の男は
「(露伴は)あの土地をリゾート会社に転売するつもりではないか」と、地主が心配しているという。
漫画家の先生が、どうして土地が必要なのかというので
漫画の為だよ、漫画を描くために買うんだ。
と言っても、信じ難いといった表情だ。
いやいや、こんなもうこんな家に住んでいて超有名なんですよ。
今更こんなことして漫画書かなくても、人生大成功じゃないっすかぁ。
若者のこの言葉にスイッチが入ったのか、彼をソファーに追い込むと露伴はアツくなり語り始める。
この岸辺露伴が、金やチヤホヤされる為に漫画を描いていると思っているのかっ!
僕は読者に読んでもらう為に漫画を描いている。
読んでもらう、ただそれだけの為だ。
単純なただ一つの理由だが、それ以外はどうでもいい。
そして僕は、読んでもらう為に毎日毎日リアリティのあるネタを探してるんだ。
その為なら、たとえ全財産を使っても惜しくないねぇ!
上司の男が、露伴のペースになり始めたことを感じ、謝って出直そうとしたが・・・
ヘブンズ・ドア
今、心の扉は開かれる。
露伴がそう言って二人の間に立ち、彼の能力ヘブンズ・ドアを使った。
すると、彼らの顔の表面に筋が入る。
そう、鼻を中心に観音開きに皮膚がはがれ、中からページが出てくると
心や記憶の情報がたちどころに本のようになり、それを露伴に読まれてしまうのだ。
(お肌のパックを縦半分に切ったようなときや、片側綴じのときもある。)
本人たちには眠ったように倒れ、読まれているときの記憶はないらしい。
倒れている男たちを眺める露伴。
馬乗りのように体をまたいで、彼らの本=情報を読む。
人間の身体には今まで生きてきたすべてが記憶されている。
たとえ本人が忘れていても消せない記憶が。
それはインタビューなどでは決して得られない100%のリアル。
そのリアリティーこそが、作品に命を吹き込むエネルギー。
極上のエンターテイメントとなる。
上司の男にはまるで週刊誌を起こしたような字体の内容が書かれている。
漫画家が山林を買うって?今日飛び込んできたビッグニュース!起死回生のチャンス到来! とか
岸田ゴハン先生きっと世間知らず。吹っ掛けても大丈夫!!!臨時ボーナスも夢じゃない! だの。
あぁ、あと腰がお悪いそうです。お大事に。
ざっくりと読むと、その中のページに露伴はペンで修正と加筆を加える。
修正:岸田ゴハン
加筆:露伴と正直に取引きする。
書き込まれた命令には、絶対に逆らうことはできない。
ふと、目をとめる内容があったらしい。
私には家族に言えない秘密はほとんどない。
しかし、これだけは墓場まで持って行かなければならない。
あとは12年前に宝くじで1万円が当たったけど、カミさんに言わずにパチンコに使っちゃったことぐらいだな。
彩夏、あの時ちゃんと伝えられなかったこと、今だったら言えるかな・・・。
露伴ニヤリと笑う。(武士の情けで忘れてやれ。)
天からのギフトと言うしかないが、
うぉぃ、そのページ破いて外してるぞっ!
重要なのは能力じゃぁない、
それを漫画に活かすこの岸辺露伴の才能だ。
顔の前に外したページを持ってくる。返してやれ、返してやれよ。
オープニングタイトル