オラは平和を愛しています。
会社でオラほど平和を愛している人がいるでしょうか。
でも、平和はオラを愛してはくれません(ぉぅぃぇぃ
月末、大どんでん返しというか仏壇返しをくらい
出張に同行することがケテー
ぅぉぃ、誰だよ。出張にパートさん連れてくって決めたのっ!
しかも、4年ゴリゴリいた前任者と違い一年目のこのパートさん、戦闘能力はスライム並みだぞ。
知らんぞ~(ゴーナキ
オラは平和を愛しています。
会社でオラほど平和を愛している人がいるでしょうか。
でも、平和はオラを愛してはくれません(ぉぅぃぇぃ
月末、大どんでん返しというか仏壇返しをくらい
出張に同行することがケテー
ぅぉぃ、誰だよ。出張にパートさん連れてくって決めたのっ!
しかも、4年ゴリゴリいた前任者と違い一年目のこのパートさん、戦闘能力はスライム並みだぞ。
知らんぞ~(ゴーナキ
伊野尾くんのおかげで、楽しい9月を過ごすことができました。
ドラマのテキストおこしは、「ハケンの品格」以来でしたが
その当時の内容と比べても、圧倒的なテキスト量というか
伊野尾くんの台詞量でしたね。
どちらかと言えば、このドラマは台詞のリズムや物語を運んでいく
スピード感が面白く、このスピードの緩急をどんなバランスで入れようかと
話が進むにつれて、考えるのが楽しかったです。
テキストにすると、物語の行間のような俳優さんたちの表情も
書いている自分は、さらに楽しく感じられました。
読んでくださった方には、上手く伝えられなくてゴメンネ。
そんなシーズン1の余韻も冷めやらぬうちに、WOWOWではシーズン2が
10月から放送されますね。
以前、予想をお伝えしたとおりですと、冬休みにはシーズン1から通しで
シーズン2を見ることができるのでしょうか。それとも、来年の冬休みになるのかな。
オラとしては、千葉県警遠山さまにシーズン2もいいところを見せていただきたいと
思う次第でございます。
彼は尚哉を導くつもりが、導かれていくというか一緒に同じ時を過ごせることに
安らぎを覚えていくのだろうなと、思っております。
願わくば、いつか彼にも一人ではあるが孤独ではないと、そう言って欲しいですね。
シーズン2のテキストについてですが、WOWOWまでついて行ってしまうと
現在の所属で任期1年目のオラの身体が持ちませんので、
地上波放送をゆるりと待っていたいと思います。
その時は、また拙ブログにお付き合いいただけると幸いです。
ほな、サイババ。
初めてココアを作った国はオランダですが、オランダは
起業に関する縛りが緩いので、起業はしやすかったそうです。
しかし、食に対するこだわりがじぇんじぇんありません。
よって、食品メーカーはオランダで起業だけして、隣のベルギーにすぐ逃げちゃうそうです。
バンホーテンはもうベルギーの会社です。
という話を、昔オランダに行ったとき、在住の日本人に教えてもらいました。
レストランで、平気でクノールのスープ出すんだぜ。びくーりするよ。 by
青い提灯の祭り
子供の頃の尚哉(10歳時:嶺岸煌桜)が体験した、あの祭りだ。
尚哉がお面を被って参加しようとすると、前年に亡くなったはずの祖父 - 吉満寛人 が話しかけてくる。
祖父:尚哉、お前はここへ来ちゃだめだ。
尚哉:じいちゃん?
お堂の中で、祖父に言われた「べっ甲飴を選べば、お前は孤独になる。」というあの言葉。
青和大学キャンパス
夏休み前の試験が終わった
尚哉(青和大学文学部の新入生) - 神宮寺勇太
難波(尚哉の同級生) - 須賀健太
谷村(尚哉の同級生) - 吉田あかり がいる。男子二人はぐったり気味、でもこれで夏休み。付き合っている難波と谷村は楽しそうだ。旅行先をどこにしようかとワクワクした様子だ。
見ていられないとその場を離れようとする尚哉に、二人には夏休みの予定を聞かれるが実家は横浜だからいつでも帰れると答える。
谷村は、祖母の家に自分は墓参りに毎年行くと言われたが、あの祭りを経験した尚哉は、8年間祖母と祖父の家には行っていない。今年もまた、盆踊りの季節が近づいているのだと感じる尚哉だった。
高槻の研究室
生方(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 は、テーブルいっぱいに信州土産を広げている。
どうやら高槻に頼まれてあの「青い提灯の祭り」について、調査を行っていたようだ。地元の図書館で盆踊りに関する記述のある図書をコピーしており、それを高槻に渡すが「青い提灯の祭り」については、どこにも記載がないという。
夏休みでもあるし、地元に行けば何か分かるかもしれないという生方。しかし、図書にさえ記載のない内容の追加調査を断る高槻。記録がないということは、よそ者には話せない・知られたくないことがあると考えられる。その共同体にとって都合の悪いこと、知った人に危険があるから生方の調査はここまで・・・ということにしたいという。
生方は了承して研究室を出たものの、いつか大きな怪異に高槻が襲われるかもしれないという不安が増すのだった。
第7話で村田たちにヒアリングをした喫茶店
尚哉は、遠山宏孝(千葉県警広報官)-今井朋彦 と待ち合わせをしていた。
年代こそ違えど、あの青い提灯の祭りを体験した遠山。
問いかけに、警察官になりたいという話ではないと、遠山に答える尚哉。
遠山も今は冷静になれたらしく、
遠山:それでいい。私たちの間では嘘はナシということにしよう。
そう告げた。
尚哉は、あの青い提灯の祭りは今も行われているのかを遠山に尋ねた。
祖母が亡くなってから田舎には帰っておらず、あの青い提灯の祭りのことも殆ど覚えていないので、その後のことを遠山に尋ねたかったらしい。
遠山:あの村は人口が減って、今は盆踊りはやっていない。3年前に墓じまいをすることになって、久しぶりに村に足を踏み入れた。今は合併して地名も変わっていた。
尚哉:あの青い提灯の祭りが何だったか、もう判らなくなってしまったってことですか。
遠山:知ってどうする。私たちの状況に変化があるとも思えないけどね。孤独を受け入れて生きていく方法を見つけるしかないんだ。私たちにかかった呪いが解けることはない。
遠山と別れ、公園の中を歩く尚哉
すれ違う少女とぶつかった拍子にイヤホンが外れ、浮気をごまかしているカップルの女性の嘘の声が耳に届いてしまう。
耳をふさいだとき、昔の記憶がふと蘇った。
子供の頃、同じように耳をふさぐと慌てて祖母に何か注意されたことを思い出したのだ。急いで尚哉は駆け出すのだった。
高槻の研究室で
駆け込んできた尚哉、高槻に慌てて話し出す。
尚哉:先生、思い出したんです。子供の頃、嘘が聞こえて咄嗟に耳を押さえたら、ばあちゃん 尚哉の祖母 - 中島はるみが見たこともない怖い顔でやめさせた。
祖母: そんなことしたら、皆に気づかれるだろっ!
高槻:つまりおばあさんは青い提灯の祭りの存在を、そこに行くと何が起きるのかも知っていた。
尚哉:(うなずく)
高槻:気づかれるだろって、怒るのも気になるね。・・・何故?
尚哉:わかりません。でも怒られたのは、村に居る時だけでした。
高槻:つまり、村にいる誰かに知られると良くない・・・ってわけか。
尚哉:俺、行ってみたいです。村に行ってあの祭りがどういうものなのか、確かめたい。
高槻:危険かもしれないよ。
尚哉:わかってます。
高槻は尚哉の決心に、すばらしい と落ち着いて称えるのだった。
オープニング
校庭を歩く尚哉、すると向こうから尚哉の祖父が歩み寄ってきた。驚く尚哉が「じいちゃん、何でここに。」と呼びかける。
祖父:来るな、戻ってくるな。子供は帰れ、寄り道せずに真っ直ぐに、そして今夜は早く寝ろ!
そう言って、祖父は尚哉を押し倒す。後ろ側に倒れ込む尚哉・・・。
健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠 の車の中
後部座席でドアガラスに頭をぶつけて目覚める尚哉、祖父との会話は夢だった。
運転席の健司に話しかけられる。高槻は売店での買い物から戻ってきた。買ってきたのは、お弁当と巨峰ぶどう。そしてなぜか「筍の水煮」季節外れだから、生の筍はなかったらしい。
はしゃいで買い物をしてきた高槻に、(高槻が)とことん楽しむつもりでいる様子に見えることを尚哉が伝えると
高槻:だから深町君も気楽にね。もし、何もわからなくても、来年もまたここに来ればいいんだから。
と、リラックスするよう促す。
佐々倉古書店
花江(健司の母) - 和泉ちぬ を訪ねる生方。盆踊りに関する書籍を探してくれるよう、頼んでいたらしい。
高槻に追加調査をやめるよう言われていた生方だったが、やはり気になって古書を見せてもらう。
その中に、「ある農村の風習 信州」 とタイトルのついた古書を見つける。
花江によると、地元の郷土史家が作った本と思われるが手作り感満載で、値段がつけられずに処分しようとしている本だという。
その本に「のろいの盆踊り」と書かれ、提灯の色が青である という部分をみつけた生方は、 花江に買取りを申し出る。
尚哉の祖父の家
かず兄という従兄が、家の前で待ってくれている。祖父と祖母の住んでいた家には、今はもう誰も住んでいない。尚哉の祖母が亡くなってからは空き家になっており、従兄も市役所勤めで中心街にいるためここには来ていないという。空き家も随分増えたそうだ。この辺りは桃の産地と聞いていた高槻は、従兄に近所の家から桃を3個ほど分けてもらえるよう頼む。
仏間から、自分があの日熱を出して寝かされていた部屋に移った尚哉。当時のことを思い出している。
当時、熱を出して祭りに行けなかった尚哉に、従兄がお面を買ってきて渡してくれていたことを話す。
従兄がお面を買ってきてくれた盆踊りは、5年ほど前に取りやめになってしまったらしい。その頃の盆踊りはすぐ近くの「お山」と呼ばれる山の中腹の神社で行われていて、「特別と言うかお盆には行くな、って言われたの。普段はそんなに厳しくないんですけどね。その日は特別なんですよ、お祭りの時間だけ入れって。」と言うのだ。
高槻が子供が行ってはいけない理由を尋ねたところ、従兄は「大人たちは、蛇が出ると言っていた」という。従兄の知っている盆踊りは、「全国どこでもやってる普通の盆踊りで、強いて言えば至って健全だった。」とその様子を答えていた。
高槻:健全・・・。
従兄:8時には終わって子供はすぐに帰らされるんです。「子供は帰れ、寄り道せずに真っ直ぐ。そして今夜は早く寝ろ。」って。いつもは優しいじーちゃんやばーちゃんが、結構キツイ口調で言うんですよね。
家の外で、近所の尚哉の祖母の知人(ふせえり) が桃を持ってやってきた。
従兄が桃を届けてもらった礼を言い従弟の尚哉を紹介すると、高槻たちの目の前で彼女の表情が突然変わった。
尚哉があいさつをして、子供の頃ここによく来ていた尚哉であることを聞いてきた女性に答えると
驚いた顔で尚哉をまじまじと見つめ、尚哉が大きくなって亡くなった祖母も喜んでいるだろうと言い、去っていく。
従兄:ばぁちゃんな、入院したあと変な事言ってたんだよ。「尚哉は山神様に取られたから、育たんかもしれん。」って。
尚哉と高槻は、「やはり祖母は青い提灯の祭りで尚哉に起きたことを知っていた。」と確信を持ったのだった。
山の中腹にあるという神社を目指す
あぜ道を渡りながら、尚哉は高槻に山神様についての推察を話す。高槻は、祖母が言った「とられた」というのは「盗まれた」と書いて「とられた」と言ったのか「捕まる」と書いて「とられた」という意味で言ったのかが気になっているようだ。尚哉は育たないという、自身の短命について気にしているようだが、「気にしなくていいよ、もうこんなに大きく育ったんだから。」と、高槻に言われる。
鳥居の前で一礼をして入っていく、佇まいは昔のままだと感じる尚哉。
一人の謎の老人(モロ師岡) が薪を背負い麦藁帽をかぶった姿で近付いてきた。
老人:あがらん方がいいよ。
高槻:どうしてですか?
老人:蛇が出るからな。
尚哉:(軽く顔を向こうに背けて、様子を気づかれないようにする。)
高槻:私、青和大学で民俗学を教えていて、研究の一環で山神様について調べているのですが・・・。
老人:山神様・・・聞いたことないな。
尚哉は気づかれないよう、堪えている。
老人:ともかくお盆の間は登らない方がいい。
高槻:この上で、何か特別なことでもあるんですか?
老人:そういうことじゃないよ。
高槻:以前はこの村で、ちょうど今頃盆踊りをやっていたそうですね。今はやっていないんですか?
老人:あぁ、やってないよ。
健司が下から高槻に声をかけてくる。
ともかく止めておきなさいと言い残して、老人は山を降りていく。
尚哉はたどり着いた健司に、先ほどの老人の様子を説明する。
尚哉:まとめるとあの人は山神様を知っていて、お盆の間は特別なことがあるからこの山に登っちゃいけないそうです。
やらなくなったはずの祭りを今もやってるっていうのが、よくわからないんですけど。
健司:そうとう訳アリだな。
高槻:健ちゃんの方は?
山の向こうの村まで行ってきた健司は、「向こうはこっちよりも若者が多いらしい。山の向こう側にも神社があって今日は盆踊りで皆が準備をしていた。」と状況を伝える。提灯の色を高槻に聞かれ「赤だ。祭りの終わり時間は夜の11時だそうだ。」と答えた。更に、こっちの祭りがあった頃も、向こうの村は山を越えてこちらの祭りには絶対に参加しなかったらしいと。
その理由を高槻に聞かれ、健司はその理由を「お化けが出るから、だそうだ。」と話した。
「これは益々行くしかないね。」高槻を先頭に、健司と尚哉も神社の奥に入っていった。
生方が巫女のバイトをしている神社
生方が、バイト先の神主(ベンガル) に話を聞きに行く。
佐々倉古書店で見つけた、あの本の記載について尋ねに行ったのだ。
盆踊りの時に、
のろいの文句を唱えると
死者が戻ってきてくれる
(ページをめくると)
盆踊りの
提灯は青
古書を読みながら神主が答えてくれた。
神主:盆踊りのときに、死者が帰ってくるっていう話自体は、珍しくはないよね。
生方:そうなんですけど、なんかこの本自体からなんというか・・・恐れみたいなものを感じるんです。
神主:瑠衣子ちゃんのゼミの先生は何て言ってるの?
生方:この本のこと、まだ話せてなくて。
神主:珍しいな、瑠衣子ちゃんの言う「おそれ」って、恐怖のこと?(うなずく生方をみて)当たってるかもね。これを書いた人は、何かを恐れている。
生方:どうしてそう思うんですか?
神主:(御幣の紙が棒に巻き付いているしるしを指さし)これは、巻き幣(まきべい)だよ。昔一部の地域で使われた、未練を残した死者がこの世に戻ってくるのを防ぐおまじないで、この筆者がここに巻き幣を書いたのは、死んだ人が戻ってくることに恐怖を感じていたからだと思う。
そう言って、神主は戻っていった。
生方は、スマホを手に取り高槻に連絡をしようか、まだ戸惑ってしまうのだった。
神社の社殿近くまでたどり着いた3人
なぜか若者である尚哉が、一番遅れてついてくる。高槻に持たされた荷物が結構な重さだったからだ。
中身は、買ってきたブドウと分けてもらった桃、そして弁当だ。
(お弁当にフルーツって)なんか楽しもうとしてますよね。息が切れそうで、尚哉はくたくたになる。
お札所に一礼をし、金銭を箱に入れた高槻はお札を手に取る。
山の絵に、御符 と書かれ筍の絵がついていた。
やっぱりね、高槻は何かを確信したようだ。
佐々倉古書店
生方は、花江から健司と尚哉と高槻が、健司の車で「盆踊りの調査に出かけた」ことを知る。
健司が怖がっていたと聞き、なぜ盆踊りの調査で怖がっていたのか尋ねると、「なんかその盆踊りで死んだ人にあった人がいるんですって。」と聞いて驚く。しかも今日はお盆だ。
神社で
社殿の周りを眺めて歩く高槻。二人はそれを少し離れてみている。
尚哉は、健司にずっと高槻と一緒にいるのに怪異などを信じないことについて、聞いてみた。
健司は、高槻が怪異にのめり込むのも良くないと思っており、健司曰く「先日テレビに出たのも、今の自分の姿を見た誘拐犯が何か反応するかもしれないと思っているようだ。」「犯罪か怪異か・・・。どこかでケリがつくと、あいつも楽なんだろうけどな。」と高槻を見つめながら話した。尚哉を見て「お前の決着もここでつくといいな。」そう言って高槻のいる方へ歩き出していった。
佐々倉古書店の前から、スマホで高槻に連絡をとる生方。
自分には危ないからと止めた調査を、高槻が続けていることを心配している。
自分がその後調べた内容をスマホに送信するので、絶対に読むように伝えた。
社殿の前で、お弁当を食べている3人。
健司がブドウを食べていいか尋ねると、「それはダメ。あとで。」と高槻に却下される。
生方から高槻のスマホに、データが送信される。尚哉がそろそろ降りなくていいのかを訪ねると、高槻は「降りるのは8時を過ぎてから、子供たちがいてはいけない祭りに行くよ」という。
やっていないはずの祭りに行くと言い出した高槻を不思議がる健司。普通の盆踊りはもうやっていない。でもあの老人が言ったもうやってないよ。 の言葉は嘘だった。健ちゃんが調べてくれたことを合わせても、青い提灯の祭りはあると思うと言う高槻。自分が調べたことがどう関係あるのか、健司が聞くと「こっちではお化けが出るんでしょ。たぶんこの村では今日、死んだ人たちのための祭りをやる。」そう答えながら、生方から届いたメールを見せる。あの記載にある 盆踊りの時に のろいの文句を唱えると 死者が戻ってきてくれる 健司が今までの話と一致することに気が付く。
夜が来て、祭りが始まる直前
バックから高槻が3人分のお面を取り出し、お盆の意味について話し出す。元々盆踊りには、お盆に帰ってきた死者や精霊を供養する意味があり、地方によってはお面・傘・頭巾で顔を隠して盆踊りをするが、これはあの世から帰ってきた死者が踊りに紛れ込んでも気づかないようにするためだという説が有力なのだと言う。あの当時、従兄がくれたお面を被っていた尚哉は、そのために祭りに入り込めたのかもしれないのだ。また、死者に顔を見られるとあの世に連れていかれるという説もあるため、気を付けるように高槻が注意を促した。健司は「それは重要な情報だ」としっかり面を頭にかける。
その時、戸の隙間から霧が入り込んでくる。
尚哉は霧の入り込んできた向こう側に、青い提灯を見つける。
霧の量が多すぎ、健司の顔はもうわずかしか見ることはできない。恐る恐る高槻を呼ぶ尚哉。高槻もその提灯を見つけ、尚哉に語り掛ける。
高槻:深町君、絶対に近くにいるから、忘れないで。
尚哉:はい。
高槻:呪いはね、呪われたと思い込んだら負けなんだよ。
帰ってきた。帰ってきた。
お前は孤独になる。お前は孤独になる。
尚哉の耳にだけ、大合唱が聞こえる。恐ろしくなった尚哉は耳をふさぐ。
高槻にはその声が聞こえないようだ。
帰ってきた。帰ってきた。
お前は孤独になる。お前は孤独になる。
堪らず尚哉は、社殿を飛び出してしまう。高槻がその後を追いかけるが、尚哉の左手を掴んだ時
二人は転んで、なぜか尚哉がつけていたお面だけが地面に落ちてきた。
尚哉の姿はどこにもなく、立ち上がった高槻は青い提灯を見上げ、尚哉の名前を呼んでその姿を探すのだった。
ひとり気が付いた尚哉
幼い頃、父や母と暮らした場所の近くで目が覚める。高槻を探すが姿はない。
見覚えのある場所で、向かい側から幼かった自分と母が歩いてくる。立ち止まり、道の向こうに父と女性が歩いているのを見つけた幼い尚哉。(これは、尚哉が昔父の浮気の現場を見た場面だった。)父に話しかけると「尚哉、このひとはお父さんの仕事先の人だ。」と言う。耳を押さえ、顔をしかめる尚哉。父が嘘をついていることを母に伝えると、そんなことは知りたくないのよ。と叱られてしまう。
小学校の教室。男子に呼び止められ「皆で遊びに行くからお前も来いよ。」と言われ、耳を押さえる子供の尚哉。どうして嘘をつくのかを聞くと「お前が気持ち悪いからだよ。」と言い返されてしまう。「何が嘘がわかるだよ、そんな変な奴。変な奴同士一緒にいろ!」そう言われて指さす先には、背中に傷を負った高槻(幼少期:高橋來) が泣きながら廊下を歩いていくのだった。
佐々倉古書店の2階。難波に呼ばれて振り返ると、大学生活で知り合った者たちがテーブルについている。
姿が見えなかった高槻を心配していたことを伝えると
「何言ってるの、深町君から離れるわけないじゃないか、君がいると便利なのに。ウソ発見器になるからね。」「お前嘘がわかんの?それかくして一緒にいたんだ。(難波)」「何の知識もないのに先生の助手になれたってそういうこと。(生方)」「こっちにこないで。(花江)」「いいじゃないか、こいつがいると彰良が落ち着くんだから、利用価値はある。(健司)」
お前は孤独になる。
お前は孤独になる。
お前は孤独になった。
お前は孤独になる。
堪らず、二階から駆け降りる尚哉。耳をふさいでいると今度は、高槻の研究室にいる。
高槻がボードに「死」「穢(けがれ」という字を書いている。
高槻:死は穢れと言われるよね。つまり、死者の祭りに参加した君は、汚れているんだよ。
だから、生者の世界に君の居場所はない。
だが、尚哉は高槻に言われたあの言葉を思い出していた。
7話。高槻が研究室で自分の背中の傷を見せたとき
高槻:もし君が、自分に起こったことと向き合いたいのなら、僕は付き合うよ、とことんね。
********************************
尚哉:偽者だ、本当の先生はそんなことは言わないっ!
高槻:僕は、ホンモノだよ。
耳を押さえた尚哉は確信する。
ほら、俺に嘘は通用しない。
***************************
盆踊りの太鼓の音・・・尚哉は神社に戻ってきた。
高槻の名を呼びその姿を探す。踊りの輪の中を歩き回ると、後ろから手を掴まれる、それは尚哉の祖父だった。
祖父:戻ってくるなと言ったよな。
帰ってきた。帰ってきた。帰ってきた。
面をつけてた人々に取り囲まれる。
祖父:お前は山神様にとられた子。もう戻れねぇ。
帰ってきた。帰ってきた。帰ってきた。
放してもらえますか、面をつけた高槻が二人の前に進み出てきた。尚哉に面を渡し自分の面を外そうとする。
尚哉;先生、外しちゃだめだ。
高槻:大丈夫。(尚哉は高槻に駆け寄る)
祖父:お前たちは生きているにもかかわらず、この祭りに入り込んだ。代償を払わなくてはいけない。
社殿の中
祖父は、目の前に三つの飴を並べ「もう知っているな、何が起きるか。お前はべっ甲飴を食べて孤独になった。(そう言ってべっ甲飴を抜く)だからお前たちは、あとの二つから一つ選べ、失うのは「話すこと」か「歩くこと」か。」と問いかける。
高槻は、「それなら僕が二つ選びます。それで代償は十分でしょう。」と答える。高槻が飴を取ろうとすると、祖父が取り上げる。
高槻が、やっぱりそうなんですね、あなたは好んで代償を払わせているわけじゃない。そしてこの祭りは、恐ろしい死者の祭りじゃない。それを聞いて、驚く尚哉。生方のデータによれば、「盆踊りのときに のろいの文句を唱えると、死者が戻ってきてくれる。」と書いてあった。のろいの部分は「ひらがな」だった。あの筆者は、何かの文献でそのような記述を見つけてきたと思うが、おそらく元の記述には「のろい」の部分は漢字で書かれていた。「呪い」という字はそのまま「まじない」とも読み、盆踊りの時にまじないの文句を唱えると死者は戻ってきてくれる。幽霊は恨みがあるとこの世に現れるとされているが、ときには生きている人間を慰め、生きる希望を与えるために現れるのだと。大きな災害のあとに多くの人が幽霊を見たというのがそのためであろうと。祖父たちは生きている人に呼ばれて戻ってきたのではないか、と。
尚哉は、祖父が自分のために来てくれたのかと尋ねると、祖父は面を外し「だとしても、生きている人間がこの祭りに来てはならない、代償は払え。」と告げる。
帰ってきた。帰ってきた。帰ってきた。 またまた大合唱で、面をつけた者たちがやってくる。
代償なら払います。そう答える高槻。
かつてイザナギノミコトは、死者の国を脱出するとき追手の前に頭に飾ったつる草を投げた、その草はみるみる育ちブドウになったという。(手に握られていた巨峰を床に置く)追手がブドウを食べているうちに、イザナギは逃げた。
そう言って、尚哉の手を掴み動き出す。
それでも追ってきた追手に、イザナギは櫛の歯を折って投げた。櫛は筍になり、追手が筍を食べている間にイザナギはまた逃げた。(お札を取り出して撒く、追手はブドウに手を伸ばしている)
帰ってきた。帰ってきた。帰ってきた。
二人が振り返ると、追手はついてくる。
高槻:呪いは呪われたと思い込んだら負けだ。
尚哉:呪いは呪われたと思い込んだら負けだ。
二人:呪いは呪われたと思い込んだら負けだ。
もはや呪文がえしっ!
二人は手をつないで走り出すのだった。
明け方、神社の入り口の石段で、倒れ込んでいた二人。
健司と生方が駆け寄ってくる。
起き上がった高槻は健司に駆け寄り、桃を3個取り出すように言う。
それでも追ってくる軍隊にめがけて、イザナギが桃を3つ投げると
追手の追跡は止んだ。
そういいながら、受け取った桃をひとつずつ石段に置いた。
これで、山神様が許してくれるといいけど。
転んで泥がついたまま、高槻は後ろの尚哉たちを振り返った。
結局、健司は意味が分からず何の話だ?と言っている。
高槻:全部説明したら、健ちゃんの人生観変わっちゃうかもよ。
理解できない健司を置いて、高槻は先に石段を下りていく
心配した生方に、瑠衣子君の調査が役に立ったよ。僕が止めろと言ったときに調査を続けてくれて助かった。ありがとう。そう感謝を伝えた。
生方がどうしてここに来たのかを尚哉が尋ねると、どうしてちゃんと高槻の面倒を見なかったのかと叱られる。
健司がバックを尚哉に持たせて、4人は山を降りていく。
神社の方角を振り返る高槻。
喫茶店で遠山と話す尚哉
メモ帳に「呪い」と書いた文字を見せて、遠山になんと読むか尋ねる。
遠山;のろい・・・だろ。
尚哉:まじないとも読むそうです。のろいとまじないって、随分印象が違いますよね。俺は家族とうまくやれてるわけじゃないですし、大学に入ってよく話す相手はできましたけど、友達って言いきっていい関係でいれるか不安だし、恋人も無理かなって思います。
でも・・・俺、孤独じゃないです。家族とか友達とか、恋人って名前の人はいなくても、俺は孤独じゃない。
だから、あの祭りで本当に大切な人を見つけるための「まじないをかけてもらった」って、思うことにします。
遠山;そうか・・・。
遠山は尚哉を否定するわけでもない。歪みなく話す彼の言葉に、少しだけ自分が救われたような気がしたのかもしれない。
研究室に向かう尚哉の声
本当はどうかなんてわからない。のろいなのか、まじないなのか。自分の人生に起きた現象を変えられないなら、解釈を変えてみようと思う。
ドアをノックして研究室に入ると、ボーボー頭の生方が床に転がっていて驚く尚哉。次に出かけるときは、自分に声をかけてから出かけるよう、尚哉に注意すると再び床の住人になる。高槻曰く、どうやら資料を読み込み過ぎて頭から離れなくなってしまい、床で頭を冷やしているらしい。尚哉はそっとブランケットを生方にかける。高槻はいつもの調子で飲み物を勧めてくる。
高槻;飲み物を用意するね。選択肢はココアかコーヒーか、紅茶かほうじ茶。紅茶かほうじ茶はティーバック仕様。因みにココアは初めてココアを作った国、オランダ産だよ。
尚哉;コーヒーをお願いします。
高槻:思ったより頑固なんだね。
尚哉:はい、これが俺なんで。
(尚哉の声)俺がどういう人間かは、これから自分が決めればいい。
研究室の扉は閉まっていく。
第8話終了。 文字数27608文字程度。乙!
シーズン1が終了いたしました。
木曜日の「めざましテレビ」?では、伊野尾くんが
最終回のロケの様子を話してくれました。
神社での撮影は、かなり遅い時間まで行われたらしく
真っ暗でとても怖かった。
撮影用のライトを使ったので虫がたくさん寄ってきてしまい
幽霊とかがたくさん出てくるかと思ったら
結果的にたくさんの虫に寄り付かれた
みたいなウマイ落ちも喋ってくれて、面白かったです。
以前、ジャニーズのタレントさんが出演したWOWOW共同作製ドラマは
ミラー・ツインズ がありましたが、シーズン2は同様にWOWOW先行で
冬休みには地上波で見ることができましたので、地上波で見たい方は
ワクワクを持続させて待っていれば、吉報が届くと思います。
まぁ、お金払ってる人にくらいは、先に楽しませて差し上げましょうよ。
呪いはね、呪われたと思い込んだら負けなんだよ。
スラムダンク的な伊野尾くんのこの台詞。
もはや
大喜利の予感しかない。
いやぁ、来週というか今週がいよいよ最終回ですね。
自分の見た解釈が、皆さんの思うものと違うかもしれませんが
そらまぁ、しゃーないのであります。
それにしても、毎回伊野尾君の台詞の量には圧倒されますね。
そして、あのセリフの抑揚。
誰かに似てるなぁ~と5話辺りから考えていたのですが
沢口靖子の抑揚に似ているのであります。
次回はどのくらいの文字数になるのか、恐ろしいですが
楽しんでやりたいと思います。目が痛いけど。
感想がいただけると嬉しいのですが、クレームだと心が折れるので
プラマイ ゲロ ってことにしときます。
よろしくどうぞ。
千葉県警内の記者クラブ室
壁の時計が16時44分を指している。簡易な応接セットとも呼べない椅子に
畑中健吾(千葉の地元新聞の若手記者で健司の大学剣道部の後輩)-森永悠希
林 文雄(全国紙毎朝新聞千葉支局のエース記者)大水洋介/ラバーガール
村田康介(畑中の先輩ベテラン記者)西村直人
大野忠一(地元テレビ局の記者)大朏岳優
が集まってくる。どうやらこの時間、それぞれに差出人不明のメールが一斉に送られてきているらしい。
畑中が林を心配するが、林は大丈夫気を付けるから と強がりとも思える返事をするだけだ。
20時16分
別室から大きな音が聞こえる。村田は 何の音だ? と畑中に尋ねるが、この部屋からは様子がわからない。
大野が記者クラブ室に駆け込んできて、林がトラブルにあったことを伝える。
急いで廊下へ駆け出す3人。
どうやら資料室の金属製の書棚のラックが倒れてきたらしく、10センチ程度の資料ファイルに埋もれ
身動きがとれない林を、一緒に入室していたらしい警察官が助けている。
どうやら入室制限があるらしく、断りを入れて大野が入室し林を引っ張り出した。
林は右足の靴が片方脱げたまま、大野と警察官に両脇を抱えられ、資料室から出てくる。
畑中は怯えた様子で やっぱり呪いだ とつぶやくのだった。
この騒ぎを少し離れた所から見ていた 遠山宏孝(千葉県警広報官)-今井朋彦 が声を掛ける。
呪い?と無表情に尋ねる遠山へ、畑中は いいえ と否定するのが精いっぱいだった。
民俗学Ⅱ 第15回 学校の怪談 講義
講義終了直前、高槻は試験について、課題レポートとその題材について説明してる。
しかし、前回のエンディング直前。研究室の階段の踊り場で、高槻の両目が青く光るのを見てしまった尚哉(青和大学文学部の新入生)神宮寺 勇太 は、課題のことが頭に入ってこない。
回想
尚哉:先生、その眼の色・・・。
高槻:見られてしまったね。これを説明するには、いろいろ話さなきゃならないことがある。あまり楽しい話じゃないから、できれば今はしたくない。構わない?
涙を堪え、震える声で悲しそうに話す高槻に、尚哉は頷くことしかできない。
高槻:やっぱり深町君は優しいね。
尚哉:戻りましょう、皆が待ってます。
頷いた高槻は、研究室へと戻っていった。
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講義が終わり、退室しようとした尚哉を高槻が呼び止める。
今回は高槻が管理するサイト「隣のハナシ」への相談ではなく、違う方面からだという。
オープニング
研究室には、大仏柄のカップを手にした健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠がいた。
いつもは尚哉に上から目線の態度をとる健司が、大仏柄のカップに注いだコーヒーを尚哉に「飲め」とすすめてくる。
どうやら違う方面という依頼は、健司からのようで、一応頼む側だから気を使って見せているらしい。
高槻:今回は健ちゃんが深町君に頼みごとがあるんだってよ。
尚哉:僕ですか?
健司:今回はお前の力を借りたい。嫌なら断ってもいい(圧)
尚哉:俺の力って、嘘を見抜くことですか?何をすれば・・・。
具体的に話を進めようとしたところで、生方(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 が限定品のプリンを携えて飛び込んでくる。生方には、まだ尚哉の能力について話していないため、話がとん挫していると
気配を察した生方は、改めますと研究室を出ていく。
これから研究室に呼ぶのは、健司の母校の剣道部の後輩:畑中で、今は千葉県警の記者クラブ室に所属している
彼はその記者クラブでおかしな体験をしているらしい、簡単に言うと怪異ではないかと。
それなら高槻の出番ではないかという尚哉に、畑中は自分を信頼して相談を寄せてきた。
刑事の勘ではあるが、今回畑中は嘘をついている気がするというのだ。
そこで尚哉にその話に噓がないかを確かめて欲しいらしい。
研究室を後にした生方、足取りが重い。
通りすがりに見かけた難波(尚哉の同級生) - 須賀健太 と谷村(尚哉の同級生) - 吉田あかり のカップルに、持ってきたプリンを渡す。
いいねぇ、学部生たちは。院生に未来はあるのかねぇ・・・。
そんなことを呟いて、無邪気な難波たちを眩しそうに見るのだった。
高槻の研究室
飲み物を渡す高槻、そばにいる尚哉に気後れする畑中。健司に話すように促され、畑中が重い口を開いた。
畑中:始まりは雑談だったんです。丁度みんな大きな事件を片付けてリラックスしていて。たまたま小学生のときの話になりました。(村田は怖い話が大好きだったという。)
畑中:4時44分に何かが起こるっていう、怪談が流行ったって。
高槻:学校の怪談で語られる怪異ですね。4という漢字をシと読むと、生死に関わるの 死 に繋がることに加え、4は四次元を連想させることから沢山の怪異が語られています。ある少年が4時44分44秒に、理科室で光っている鏡に触ったところ半年後に床下から下半身が白骨化した状態で見つかった・・・。とかね。
健司:(ビクビク)
話を聞いていた林は全然聞いたことがないといい、村田がもうすぐ4時44分になるので自分が聞いた呪いを試してみようと言い出す。その場にあったホワイトボードに黒いペンで輪を書き、4時44分丁度に4人で輪の中に手を入れると、四次元の扉が開いて、中に引きずり込まれるというものだった。
大野は、俺の小学校のときでは、呪いにかかるって話でしたよ。と、はしゃぐ。
村田に促されて、4時44分に4人は輪の中に手を置いた。もちろん、その日は何事もなかったが翌日、4時44分に4人へ一斉にフリーメールから、奇妙なメールが届いたという。メールの本文には「4444」と書かれていた。だが、村田ひとりだけ「444」というメール内容が届いた。その日の帰り道、村田はマンションの脇を通り抜けたとき落ちてきたレンガが足に当たり、ケガをしたというのだ。
健司は尚哉に目配せをするが、畑中の声が歪んでいる様子はない。
数日後の4時44分、村田以外の3人にメールが届く。林にだけ「44」という内容で、林が資料室に行ったとき、資料室の棚が倒れてきたというのだ。
素晴らし・・と声をあげ立ち上がる高槻の両肩を、健司が慌てて抑える。
林は、ギリギリ無事で大した怪我はおっていないという。メールのアドレスはフリーアドレスで、心当たりはなく誰にでも作れる。開示請求をすれば、情報は得られるが騒ぐのは体裁が悪いと言う村田に、畑中は従っているようだ。
健司が、先にケガを負った村田と林について畑中に尋ねると「村田先輩はいつもいいネタを持ってくる凄い人で、林さんは去年少年犯罪のスクープを取った記者クラブのエースなんです。」と答えた。
二人が誰かに襲われる理由があるかという健司の問いに、
畑中:考えられません。
と答える畑中。苦痛に顔をしかめる尚哉を、高槻と健司は見ていたのだった。
大学前で(歩きながら)
畑中の最後の言葉だけが、嘘であったことを二人に報告する尚哉。つまり、畑中には襲われる心当たりがあるということだと高槻。解決したがっているのに、なぜ畑中は自分たちにうそをつくのか。そんなこと言っても判るわけないな。助かった、あとはこっちで探ってみる と健司。
そんな健司を高槻は呼び止めた。怪異として調査を続けるつもりだという。
喫茶店
ヒヤリングのため、村田と林を呼び出した高槻と尚哉。
テンションが上がりかけた高槻に、尚哉がブレーキをかける。
最初にケガをした村田に(足の様子を見せてもらう)次に棚が倒れてきたという林からヒヤリングを始めようとしたとき
両名に声をかける人物がいた。
遠山広報官だ。すぐに記者クラブ室に戻った方がいいと告げて去っていく。彼について林が高槻たちに説明する。急に態度が変わるし、すぐに戻れと言われてしまったので経緯は後ほどメールで説明すると立ち上がる。前任者は演歌が好きなおじさんだったが、遠山が担当になってから広報の雰囲気が変わったという村田。
遠山が、自分たちが誰かを聞いてきたのに、結局誰かを確認しなかったことを不審に思う高槻。
佐々倉古書店の二階
健司の話では、「村田は一杯飲んで帰る途中であるマンションにさしかかり、そこからレンガが落ちてきて足にケガを負った。」と高槻たちに説明する。高槻にあてられた村田のメールにも、同じことが書かれていたそうだ。マンションの管理人がすぐに調べたが住人は何も知らないと。嘘をついている住人がいるとも考えられる(尚哉)同意する健司。
健司:畑中が、二人が襲われる理由があると思ってる以上。俺は誰かが故意にレンガを落としたと思う。
高槻:でも棚が倒れた方は、林さんを襲おうって人がいても、警察署の中は選ばないでしょ。他にもっと襲いやすい場所があるんだから。
健司:怪異だと思うのか、じゃなぜ畑中は嘘をついてる。
高槻:・・・、わからない。でも怪異の方がいいよ。誰かが誰かを襲うってことは、そこに悪意があるんだから。それは悲しいよ。
健司は高槻の抱える想いに気づいたようで、自分の言葉をのみ込むのだった。
重苦しい雰囲気に尚哉は話を切り替えようと、今日出会った遠山にの印象について話し出す。
千葉県警の合同捜査で一緒になったことのある健司は、現在は広報官であるという遠山の名前を聞いて驚く。
取り調べでは何人もの犯人を自白に追い込んだというスゴ腕の刑事だったが、なぜか現場を退いている遠山。態度にはいろいろと問題があるらしく、急に上司にくってかかったり部下を怒鳴ったりすることがあるという噂だ。急に態度が急変すると「クロ遠山がとり憑いた」という陰口をいう者もいるらしい。
村田がケガを負ったというマンションの前
生方が出てくるのを待つ高槻。管理人に聞いたところによると、村田の件以外で事故や事件が起きたということはないという。
高槻たちの様子を窺う遠山。気づいているが、振り向かずに歩き続けるよう生方に伝える。彼のことについて調べるよう依頼され、生方はそのまま歩き去る。振り返り高槻が遠山を見つめると、遠山は反対方向へ去っていった。
千葉県警の記者クラブ室
畑中が高槻を記者クラブ室に案内し、4時44分の儀式に使用したホワイトボードについて説明している。書棚が倒れた部屋を見たいと言うと、ドアの前までならと答える畑中。記者たちは、廊下は自由に歩くことはできるがそれ以外の部屋に入ることはできない。棚が倒れたのは広報課別室で、資料室のような使われ方をして記者たちはここに入ることはできない。
棚が倒れたとき、林がここに居たのは何故なのかを高槻が尋ねると、たまたま煙草を吸いに廊下へ出たところを資料を抱えた警察官に出くわした林と大野が、運ぶのを手伝ったかららしい。
畑中は基本的にこの部屋に入ったことはないが、林を助けたときに右足の靴が脱げてしまい、その靴を探すのにまず棚を戻そうということになって、皆で入室したのだという。
高槻が、倒れた棚だけでも見たいと頼むので畑中が困っていると、後ろから遠山がどうしたのかと声をかけてきた。
高槻:ご挨拶し損ねてばかりですね。青和大の高槻と申します。
畑中が、高槻が青和大学の先生で先日倒れた棚を見たいと頼まれていることを説明する。
遠山:ただの普通の棚ですが。
高槻:僕は大学の研究で、不思議なことを研究しているものですから、興味があるんですよ。突然倒れたのは、妖怪や幽霊の仕業かもしれませんからね。
遠山:大学の先生はおかしなことに興味をお持ちですね。いいでしょう、少しだけお目にかけます。
遠山がドアのロックを解除し、電気をつけて倒れた棚のある方向を指す。中に入ろうとした高槻を、当然とばかりに遠山が遮る。資料室はガラス張りにブラインドが設えてあり廊下から見えるようになっているため、高槻は廊下側から畑中に当日の警察官と林の位置状況の説明を求める。資料を運んでいた警察官は奥で資料をしまっていて、林は棚の手前に立っていたらしいという。
もういいでしょう、遠山は電気を消しドアを閉める。
高槻の研究室
生方から、遠山の調査報告を受ける。交番勤務時代はとても評判がよく、異動のときには子供から年寄りまでお別れにかけつけた。その後少年課に配属され、たくさんの子供たちの更生の手助けをしたという。今の遠山とは印象が違い凄くいい警察官に聞こえるけどという高槻。
生方:今日はワンコ君は、いないんですか。試験準備とか?
高槻:ワンコ君?(生方が、新しく用意したマグカップを見せて)あ~ぁ、大仏君からワンコ君になったんだね。
生方:試験のあとは夏休み、いいなぁ、学部生はお気楽で。
うなだれている生方をみて、思い出したように高槻は手作りのプリンを持ってくる。
この前、せっかく生協の限定プリンを生方が持ってきてくれたのに、食べ損ねたからお詫びに作ったのだという。
本当はあの時自分が相談したいことがあったと、高槻が気づいてくれていたことに喜ぶ。
今、生方は自分の研究に行き詰まりを感じていて、自分よりも優秀な研究者がすでに書籍を沢山出版しており、自分にできることがあるのだろうかと、悩んでいたのだ。
高槻は、あせらずにじっとその対象と向き合っていると、いつか底が抜けたみたいに見えてくることがあるから と、悩む生方を励ますのだった。
健司行きつけの定食屋で
健司と畑中は、一緒に食事をとっている。うつむいたまま、畑中はスマホの画面を健司に見せる。
4という数字のメールが、とうとう畑中あてに届いたようだ。
襲われる原因を気づいていながら隠している畑中に、俺に言いたいことがあるんじゃないのか?そう問いかける健司。
やっと畑中は、そのことについて話し始める。
畑中は、遠山が着任早々、畑中以外の記者クラブの三人が何か不正をしていると思い込んでいる様で、三人が自分の前任者と何か特別な関係だったのかな?と聞かれたというのだ。分からないと畑中が答えると、三人のことを調べるて教えるように言われたという。しかし、スパイのようなまねは嫌だったので・・・。と健司に話す。
健司:遠山広報官は、いう事を聞かなかったお前や、疑っている村田たちを罰しようとしてる。
畑中:身内の恥なんで、お話せずすみません。
健司:この話、彰良にしていいな。
畑中:はい。
千葉県警の前で
県警から出てくる遠山を、高槻と尚哉が呼び止める。
高槻:4時44分の呪いに、あなたは関わっているんですか?
遠山:いませんよ。記者クラブでそんな遊びをやっているなんて、今知りました。
高槻:先日、僕たちが事件の関係者じゃないか気にしておられましたよね。あれは何故ですか?
遠山:理由なんかありません。
尚哉は苦しくて顔を背ける。その気配に、前を歩く遠山は尚哉たちの方を振り向く。
高槻:村田さん、林さん、大野さんの不正を疑っているんですか?
遠山:そんなわけないじゃないですか。
明確な嘘が、更に尚哉を苦しめる。
遠山:そこまでお聞きになりたいのなら、ご説明しましょう。私は村田記者を清廉潔白な人物だと信じています。
林記者が独自に事件関係者を見つけてくる手腕は見事です。大野記者はずるいことを一切しない真面目な性格だ。
私の前任者ともいい関係だったと聞いています。
嘘のコンボに耐え切れず、耳を押えて尚哉がよろめく。支える高槻。
そこへ駆け寄った遠山は、尚哉の腕をつかんでこう問いかけた。
君は嘘がわかるのか・・・と。
嘘を聞くと、声が歪むんじゃないのか?
そして、先生もそのことをご存じだ。
隠すことはない、青い提灯の祭りに行ってしまったんじゃないのか?
自分しか知らないはずの怪異を次々言い当てる遠山に、驚いて見つめ返す尚哉。
遠山はこう言った。
私もだ。
驚きの声をあげる尚哉。
遠山:嘘がわかるから、村田・林・大野が私の前任者を抱き込んで、謝礼と引き換えに捜査情報を手にしていたと気づいたんだよ。
高槻:だから畑中さんに、3人を調べてもらうよう頼んだんですね。
遠山:ともかく、この件に首を突っ込むのはやめて、私に任せてもらえないか。
高槻:そういうわけにはいきません。畑中さんに警告メールが届いています。今の話をきくと(畑中に)大変なことが起こる。
急いで高槻が健司に連絡を取ると、畑中は急な取材で呼び出された、村田も一緒だから大丈夫だというので行かせたという。高槻の説明に、顔色が変わる健司だった。
工場跡のような場所に呼び出される畑中、心細いので村田を必死に探している。
下を歩いている畑中に、3人は何やら数日間は休むようなケガを負わせることを企んでいるらしい。
歩き回る畑中の行く手を、怖がらせるように鋼材が倒れてくる。
畑中は腰を抜かして、後ろに倒れ込む。
村田と林が上から袋状のものを畑中めがけて落とそうとしたとき、殴られた大野が転がっていた。
驚く村田と林。肩を叩かれて振り向くと、怒りモードの健司がそこに居た。
俺のカワイイ後輩に手ぇ出そうっていうんだから、覚悟はできてるんだろうなぁ。んぁぁあ。(圧)
高槻の研究室に歩きながら戻る 高槻・健司・尚哉・畑中
村田たちは、畑中が遠山に自分たちを監視するように頼まれたことに気づいていた。
そこで彼らは、4時44分の呪いを利用することを思いついた。という高槻。
畑中:呪いは自作自演っていうことですか。
健司:あぁ。
高槻が現場となった資料室を確認したとき、2つ気づいたことがあったという。
1つは、通常はあの場所に入れないということ。
もう1つは、倒れた棚に入っていたファイルは何だったのか?
高槻が資料室の中を窓ガラス越しに見た際、倒れた棚にあったのは昨年度、つまり遠山の前任者が広報官だったときに取り扱われた事件のファイルだったというのだ。
昨年度の千葉県警と言えば、未成年の殺人による事件で大騒ぎだったと思い出す健司。
畑中が研究室に来た時、林について
去年、少年犯罪のスクープを書いた記者クラブのエースなんです。
そう言っていたと伝える高槻。
研究室のドアをあけると、ソファーには遠山がいた。
倒れた棚のファイルを全て見直してみたところ、高槻の予想通り供述調書が一部なくなっており、なくなっていた調書を畑中に見せる遠山。
それは犯人の隣人の調書だった。直接犯人の逮捕につながったわけでもないこの調書がどうして重要だったのかと、遠山に尋ねる畑中。
日付が去年の6月3日であり、その供述で警察は初めて少年が怪しいと思い始めた。にも拘わらず、林記者は同じ日に少年の関係者に取材をし、記事にしていたのだ。
高槻は、遠山の前任者が情報を林たちに流していたのだろうという。その供述調書の日付が証拠になると。
大野記者のテレビ局は、たまたま同じ日に犯人の少年にインタビューをしている。その映像はスクープとして、その後何度も放映されることとなった。
畑中:それも情報を流してもらっていたんですね。
遠山:村田記者も、昨年はいいねたを沢山つかんで記事にしている。確認したところ村田記者は、君の会社主催の演歌公演のチケットを、ホテルや食事付きで私の前任者に提供していたらしい。
高槻:林さんは、その供述調書を処分しようとして、警察官を手伝うフリをしてあの部屋に入った。そして先に靴を片方脱いで警察官の目を盗んで棚を倒したんです。そこへ村田さんと大野さんが駆けつける。
まず、書棚を立て靴を探そうということになった隙を見て、目的の書類を抜き取ったんです。畑中さんを襲おうとしたのは、しばらく休ませるためでしょう。その間に、畑中さんの職場のパソコンを調べ、遠山さんになにか報告をしていないか確認をしたかった。でも、下手に襲えば警察が動くことになります。だから畑中さんに4時44分の呪いを信じ込ませた。
畑中さん、呪いを信じたうえでケガをした事情を聴かれたら、なんて答えてましたか?
畑中:呪いのせいですとは言いづらいですから、自分の不注意ですとか、曖昧な証言をしていたと思います。
高槻:それでは捜査は始まりません。だから自分たちは(畑中を襲っても)安泰だと考えたんです。
先輩たちのことを尊敬していただけに、落胆する畑中。
落ち込む後輩の肩を叩いて、今日は飲もう と声をかけてなぐさめる健司。
遠山に供述調書を返すと、健司と畑中は一緒に研究室を出ていく。
二人が去った後、遠山は尚哉を警察官の仕事についてみないかと誘う。
自分たちの能力は警察の仕事の役に立つし、千葉県警に入れば遠山の目が届くので尚哉に配慮することができるというのだ。自分なら、尚哉の抱えている悲しみや苦しみを理解できるのだからと。
こうなったのは何歳からだ?と尚哉に尋ねる遠山。
自分もそのくらいの年齢だった。はじめは自分に何がおきたのかもわからず、嘘だけが歪んで聞こえるのだと親に話したら笑われ、ムキになって証明して見せたら今度は嫌な顔をされた。それ以来、親との距離が縮まったことはない。
親でさえそうなんだ、友人は作らないことにした。(尚哉に恋人がいないことを知ると)その方がいい。本気で好きになった相手が嘘つきだと知って苦しむのは君だ。
全ての人の間に線を引いて、踏み込まないこと。それが一番だよ。
でも私には君がわかる、他の誰よりも。
高槻が話に入って飲み物を勧める。それ以上踏み込んだ話なら、落ち着いた方がいい。年下の人間を動揺させて決断を迫るのは、いただけないですよ。彼は1年生です。就職以前に民俗学を専攻しないかと、誘おうとしたんです。横入りは困ります。深町君の人生は、深町君が決めることです。さぁ、何を飲みます?
今日は失礼しますよ、そう言って遠山は去っていく。
何事もない様子で、高槻は尚哉に飲み物をすすめる。
尚哉:すいません、俺・・・。
そう言い残して、尚哉は研究室を出て遠山を追いかけていった。
遠山の肩を掴み、どうしたら周りの人間の嘘に堪えられるのかを尋ねた。
遠山:完全に堪えられるようにはならない。自分は今でも嘘をつかれると怒りが面に出てしまうことがある。
そのせいで「クロ遠山がとり憑いた」という人もいる。結局はこの能力と向き合っていくしかないんだ。
研究室に戻り、遠山から聞いた話を回想する尚哉
遠山:私は交番勤務時代、とても充実していた。
「大丈夫、学校はとても楽しい」と答える小学生が、実はいじめられていることを見抜いて相談にのったり
少年課にいたときも、素直な気持ちになれない少年たちの気持ちを汲み取ってやれた。
天職だと思った。あるいは運命・・・かな。あのときあの祭りに迷い込んだのは、この人たちを救うためだったんじゃないかって。
尚哉:それなら俺も、この力を使って役に立てる生き方を見つけることができるんじゃないでしょうか。
遠山:先に行っておく、年を重ねればマシになるなんて、期待しないことだ。
尚哉:えっ?
遠山:君はまだ若いから、友人に嘘をつかれて傷ついて・・・。でも社会に出たら、偉くなったら君が向き合う嘘は今までとは比べ物にならないくらい悪質になる。例えば今回の件。記者たちは異動させられるが、私の前任者に処分はない。上はスキャンダルになって世間に叩かれるより、もみ消すことを選ぶ。(遠山は悔しそうに目の前に出した自分の拳を握りしめる)嘘だと分かっていても、力のある人間の言葉はのみ込まなきゃいけない。真実を見逃さないと生きていけなくなる。生きるために、諦めることを覚えるしかない。
そう言って、遠山は帰って行った。自分の将来もそんな苦しいものになるのかと、打ちのめされる尚哉だった。
研究室に尚哉が戻るのを待っていた高槻。尚哉と遠山は違う人間なのだから、同じ人生が待っているとは限らないという。
先生には俺の気持ちなんか分からないですよ、と言う尚哉。
高槻:そうだね、わからないかもしれない。でも、特別な体験をしてそれを背負って生きる辛さは知っているつもりだよ。
僕はね、12歳のときに誘拐された。自分でも何が起きたか覚えていない。自宅の2階で寝ていたはずが、急にいなくなったらしい。うちは裕福なのに身代金の要求もなかったから、犯人の目的はお金じゃなかった。発見されたのは1か月後、世田谷の家から遠く離れた京都の鞍馬だった。新聞記事には「無事保護」って書いてあるだろ。(スクラップブックを見せる)でもね、何も変わってないわけじゃなかったんだ。僕は一か月間の間、記憶をなくしていた。そして完全記憶能力を手に入れた。君が見た「目が青くなる症状」それから鳥が苦手になったのも全部、無事保護の後からだよ。(背を向けたままスーツの上着を脱ぎだす)現実的な考え方の父は、誘拐犯が何か薬物を飲ませたことで記憶をなくし目が青くなり、僕が過酷な状況を生き抜こうとしたせいで、完全記憶能力が芽生えたと解釈した。母親の方は、自分の息子が恐ろしい犯罪に巻き込まれたと受け入れられなかった。だから思い込もうとしたんだ、天狗にさらわれたって。
尚哉:天狗?
高槻:発見されたのが鞍馬だったからね。鞍馬には・・・
尚哉:天狗の伝説がある。
高槻:そう、それと(シャツのボタンを外しはじめる)もうひとつ大きな理由がある。
そういって高槻はシャツを脱ぎ、あの背中の大きな二本の傷を尚哉に見せた。
高槻:母はこれを、天狗が僕を人間の世界に戻したときに、翼を切り取った痕だと考えたんだよ。12歳の子供を誘拐して、背中にこれだけの傷をつけて、道に放り出すような人間がこの世にいるのか?この世の中に、それだけの悪意を持った人間がいるのか?それとも・・・天狗の気まぐれなのか。僕は知りたいと思っている。
尚哉はこれまでの高槻の異常とも思える、怪異への興味を持った態度や言葉を思い出していた。
また、怪異の方がいい。誰かが誰かを襲う悪意があるのだから、それは悲しいと言っていたことも。
シャツを直しながら、涙声で尚哉にあの言葉を言う
でもね、残念だけど本物の怪異とはそう簡単に出会えないんだ。
その言葉は、今までと全く違う意味に尚哉には聞こえる。
ただ、深町君に逢えた。君が本物の怪異を体験したのなら、僕がこんな風になった原因も怪異かもしれないだろ?
深町君、もし君が自分に起きたことと向き合いたいなら、僕は付き合うよ、とことんね。
(尚哉)
俺の決意はまだ決まっていなかった。でも、先生と出会ったあの日に感謝していた。たとえこの先、二人で恐ろしい経験をすることになったとしても。
第7話終了。 そして、本日もおよそ2万8千文字のテキスト乙っ!次回はいよいよ、シーズン1の最終回だにょん。
映像撮影中
洞窟の入り口を撮影しながら、人が中へ入っていく。
男性の声:全部鬼のせいだ。鬼がいるからいけないんだ。(呼吸は荒い)絶対に許さない。
時々画像が乱れる。南京錠のかかった祠の前で道具を使って扉を開けると、中に祀られいる赤い布で包まれたものが見える。
男性の声:これは復讐だ。
布に手をかけようとしたとき何者かの陰が映し出され、男性の悲鳴と共に撮影は終了した。
青和大学 講義終了後(科目名は不明)
イヤホンを外す尚哉(青和大学文学部の新入生)神宮寺 勇太 の席の後ろで、男女が会話をしている。
女子学生:や、なにこれ。怖いぃ。
男子学生:やばくね、鬼だぜ、鬼。
尚哉(鬼?)、非日常な言葉に驚く。
難波(尚哉の同級生) - 須賀健太 たちに次の連休への旅行に誘われたが、用事があると断った。
スマホには母からの連休、帰ってくるよね。と通知が届いている。
以前、母との電話でお母さん、尚哉がいないと寂しくて。 と言われ、悲しい気分になったことが思い出される。
「悪いけど都合合わないから、ごめん。」と、返信するだけだ。
連休前とあって、皆はもう教室にはいない。
自分も帰ろうとしたとき、高槻から今度の連休バイトしない? という通知が入ってきた。
高槻の研究室
動画サイトに投稿された「酒井村 鬼を撮影」という、あの動画が再生されている。
動画にはテキストが追加されており、
「この動画は 洞窟で見つかった
カメラに残された映像を
編集したものである
このカメラの持ち主は
現在、消息不明 」
というテロップが表示されていた。
息をのむ尚哉に どぉっ?高槻が詰め寄る。どおっ?って。尚哉の返答に、高槻は声が歪んでいたかどうかを尋ねる。
歪んだ様子がなかったことを告げると、やっぱりこの動画は本当なんだ。すばらしい。と立ち上がった。
昨日、高槻が管理しているサイト「隣のハナシ」に投稿者不明のこの動画が送られてきて、この動画のせいで役場には問い合わせが来て困っていると、村役場の人間から相談があったそうだ。
酒井集落には、昔村を襲った鬼を退治し祀ったという伝承があるらしい。
尚哉:鬼って、角があって虎のパンツをはいているアレですか?
高槻:そう、それも鬼の一例だね。そもそも、「おに」というのは「おぬ」が転じて言われたもので、本来は見えないもの。この世ならざるものを指しているんだよ。
尚哉:見えないもの?
高槻:この動画の声が歪まないということは、世界に本当に鬼がいるのかもしれない。いゃ~心弾むね。ということで深町君、道案内よろしくねっ。
尚哉:えっ?
高槻:言っただろ、僕は極度の方向音痴で、初めて行った場所では必ずって言っていいほど迷子になる。断言してもいいよっ(キリッ)
尚哉:そんなこと断言されても。
高槻:もちろんバイト代ははずむし、きっと楽しいよ。
これ、もう行くパターンじゃん、はいはい。とばかりに、小さくうなずく尚哉だった。
オープニング
単線を列車が走るのどかな景色、境別駅に高槻と尚哉、そして生方(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 が降り立った。さすが田舎だけに空気がおいしい。生方が来るのなら、自分は来なくても良かったのでは?と伝えると、自分は調査担当で、道案内は大仏君の仕事よ。と生方に言われる。歩く気満々の二人の出で立ち。酒井村までは結構な距離があり、役場の人間が迎えに来てくれるというのを高槻は断ったらしい。早速見当違いの方向に歩き出す高槻を、生方の指示で尚哉が案内することに。
つり橋を一人だけ恐る恐る渡る尚哉。
尚哉:先生、そんな方向音痴ぶりで今までよく生きてこられましたね。
高槻:周りに親切な人が多かったんだよ。
生方:彰良先生は、完全記憶能力のせいで一度に入ってくる情報が多すぎるの。だから、簡素化された地図と目で見た情報が照合できないの。
高槻:一度歩いたことのある場所なら、必ず覚えているから大丈夫なんだけどね。
尚哉:それ、例えば何年か経って街の雰囲気が変わっちゃったら、どうなるんですか?
高槻:それは意外と平気。建物が建て変わったり店が変わっても、道そのものが大きく変わらない限りは、どこかで整合性がとれるから。昔の写真と現在の風景写真とかを比べても、どことなく面影が残ってたりするじゃない。そんなかんじ。
それよりも鬼のことが気になるとばかり、高槻はつり橋を走り出す。
生方は、橋を怖がる尚哉が面白くて大仏君、考えるな。感じろってことよ。 高槻の後を追い一緒に走り出した。
へっぴり腰の尚哉は、やはり恐々とあとをついていくことになるのだった。
たどり着いた集落の向こうには、富士山が見える。(ぇ、山梨?)
来てよかったでしょ?と高槻に聞かれ、えぇ、まぁ。と尚哉は同意する。
はしゃいで歩き出す三人を、竹藪の中から猟銃をさげた老人:鬼頭正嗣(酒井村鬼頭家当主) - 久保酎吉 が見ていた。
集落の入り口で、酒井村役場観光課の山村肇(酒井村役場職員) - 冨田佳輔 が、名刺を手渡して挨拶をしてきた。サイトをみた上司が高槻に相談することを提案し、申し訳なさそうに詫びる。
高槻は、そんなことはない、鬼に会えるなら地球の裏側まで飛んでいきますよ。そういいながら、道端の小屋の軒下に魔よけの豆がつるしてあることに気が付く。この村では、節分のときは豆を撒くのではなく、北東の方角に豆を吊るして魔よけをするのだそうだ。節分が二月ではないのかと思っていた尚哉に、
高槻:節分とは、季節の分かれ目。立春・立夏・立秋・立冬の前の日を指すんだ。今日は丁度その立夏にあたる。節分の行事は、立春の前日に行うのが一般的だけど、ここでは年4回全てで節分の行事を行っているんだよ。面白いですね。
山村:はい。
生方:まぁ、それだけこの村の人たちが、鬼に対して畏怖の念を持っているのかも知れません。
尚哉:なるほど。
更に別の家の前の魔よけの豆が、何者かによって食い散らされたのを見かける。この家を含めて、豆を食い散らされたのは5件。妙な足跡もあるようだ。 足跡を見た生方は、昔鬼がいたという京都の大江山の足跡に似ているという。こちらは土の上だが、京都のものは岩にがっつりと足跡がついているというのだ。
豆のことはあとで調べるので、先に動画に出てくるという洞窟を案内して欲しいと高槻は希望する。
怖がる尚哉に、ここでは子供頃よくみんなで肝試しをしたという山村。もうここには若者は少なくなってしまっている。誰もこんな山奥の辺鄙な村、住みたいと思いませんよ。 そう答える山村だった。顔をしかめる尚哉に、高槻が気づく。
そのとき、洞窟の奥から叫び声がして 難波たちが転げ出てきた。
洞窟の奥に骸骨があり、鬼・・・というところまで聞くと、高槻とそれを追って生方が洞窟の奥へ駆け出していく。
洞窟の奥、動画に映っていた祠(ほこら)が倒れており、朝方の地震のせいではないかと山村が言う。
高槻の足元には、丁度額の部分に穴があいた骸骨が転がっていた。
赤い布に包まれて、祠に安置されていたようだ。頭蓋骨を手に取る高槻。
生方:何でしょう。その穴。
山村:これきっと骨の折れた後ですよ。伝承では、鬼は一本角だったということですから。そうだ、写真。
高槻:瑠璃子君、警察に連絡してもらえる?残念だけどこれ、人の骨だよ。
警察が来て、規制線が張られる。
かなり古そうだが人の骨が出てしまっては、呼ばないわけにはいかないと、尚哉に言う生方。
第一発見者とされる難波たちは、連休にバズっているという動画を見て面白がってやってきたらしい。
山村は、そろそろ豆の被害について高槻にヒアリングをして欲しいといい、高槻がそれについて伝えようとしていると
先ほどの竹藪の中にいた老人:鬼頭が「鬼神さまに何をする」と怒鳴り込んできた。後ろには子供を抱いた鬼頭の息子の嫁:美和子 - 奥村佳恵 がついてきている。鬼神様の骨(さっきの頭蓋骨)を戻せと息巻くが、警察官は人骨かどうか鑑定してからでなければ返さないと取り合わなかった。
高槻が名刺を出して鬼頭に挨拶をし、鬼の祠の伝承について調べていることを伝えても、よそ者に話すことはないと帰っていった。
怒って去っていった鬼頭の代わりに、美和子が高槻に伝承について話すと言ってくれた。
鬼頭家にて
かやぶき屋根にカマド、立てかけてある鹿打ちの猟銃と田舎の風情の残る鬼頭家。囲炉裏の前に座り立派な作りに感心している高槻たちに、山村が鬼頭の家は昔から金貸しをしているほど裕福で、年配の村人は「人喰い」と呼ぶこともあった。今は細々と野菜を売ったり息子からの仕送りで暮らしている。去年正嗣の妻が亡くなり、足の不自由な正嗣のために子供を連れて美和子が一緒に住んでいる。息子は会社経営が忙しくて、東京から離れられないようだ。と、鬼頭家の暮らしぶりを話す。この部屋に飾られた息子を含む家族の写真をながめる高槻。子供を寝かしつけた美和子が、高槻たちに伝承の説明をしてくれた。
村に伝わる伝承について
酒井村がまだ、境村と呼ばれていた頃。額に大きな角が一本生えた鬼が村を襲い、酒とご馳走を振舞ってこの家で鬼を歓待した鬼頭家の先祖が、寝入った鬼の角を石うすで折って弱らせ、首を刎ねて鬼を殺した。鬼が生き返るのを恐れた先祖は、丁度その時大きな地震が起きてできた洞窟に祠を建てて鬼の首を祀り、自分たちは「鬼頭」と名乗って生涯鬼の首を祀ると、鬼の首に誓った。鬼神さまを祀ってからというもの、鬼頭家はやることなすことすべてがうまくいき、その財産を村人たちに貸し与えたおかげで、村人たちは豊かになった。のだそうだ。
高槻が「人喰いの家」と呼ばれたことについて尋ねると、義父は金貸しをしていた頃に返せなかった村人の恨みをかったのだろうと言っていた。と美和子が答えていた。
高槻:なるほど、人をばりばり食べていたということではないのですね、それはちょっと残念です。
そんなことを言い出して、生方たちを慌てさせるのだった。
鬼頭家の外で
来たかいがあったと喜ぶ高槻に、山村はそろそろ村人へのヒアリングをして欲しいと頼むのだが、高槻はもう調査をやめましょう。残念ながら、豆を引きちぎったのは鬼ではありません。と言い出した。
驚く山村。豆を引きちぎったのは人間だという高槻。
高槻:そもそも豆には、魔よけという意味がある。そんなものを鬼が食べるでしょうか?まぁ、地域によっては豆を食べる鬼もいるのでしょうが。
山村:だったらこの酒井にだって・・・。
高槻:山村さん。問題は豆だけじゃないんです。大事なのは柊なんです。鬼は柊だけはダメなんです。尖った葉が目を潰すから。鬼は柊を避けるんですよ。でも、あの家には柊が植えてありました。よりによって、足跡はそのすぐそばにあった。怪異を演出するにしても、もう少し鬼について勉強するべきでしたね。
山村:私だってしっかり調べて・・・。
高槻:私だって・・・。あなたはさっき、こんな村なんか誰も住みたがらないと言っていました。でもあれは嘘ですね。きっとこの村のためだったんでしょう。本当はこの村が大好きで仕方がない。この村に人を呼び寄せるために、今回この騒ぎを起こしたんじゃないですか?でも、このやり方は逆効果ですよ。うそがバレれば、それこそこの村の印象は最悪になる。
山村は、今のままだと、あと10年もすればこの村はなくなってしまう。だから、人が集まってくれればなと。そんなとき、あの動画を見て今回の騒ぎを思いついたという。動画を上げたのが山村ではないと知り、高槻は驚く。
鬼頭家の囲炉裏の前では、生方と尚哉が茶わんを片付けている。美和子が恐縮して礼を述べる。生方は生まれたばかりと綺麗な奥さんを残して、旦那さんは気が気ではなくてしょっちゅう帰ってくるのでは?と尋ねる。
美和子;いえ、仕事が忙しいとかで今年に入ってまだ一度も家に帰ってきていません。
と何故かうそをついた。
寂しくないかという生方の問いかけに、あの人は自分と子供のことを一番に考えてくれているのは分かっているから、平気だ。というのだった。ではなぜ、正臣(正嗣の息子) - 黒木俊穂 が
今年はまだ帰ってきていないとウソをついたのだろうか?尚哉は不審に思うのだった。
家の中に入ってきた高槻は、美和子に正臣の東京での連絡先を教えて欲しいと頼む。
鬼頭家の敷地を離れる高槻・尚哉・生方の三人。
高槻は、二人に山村は嘘の鬼の話を使って町おこしを考えていたことを話したらしい。
生方には、小さい頃鬼を見たことがあるらしいという正臣の様子を見に行ってくれるよう頼む。
怖がった村人には、山村から謝ると言っていたそうで、これで庭先に鬼が現れた話は終わりそうだ。
尚哉は、先ほどの美和子の様子が気になって後ろ髪をひかれている様子だ。
鬼の祠のある洞窟で
鬼頭が手を合わせてお参りをしていた。
青和大学で
難波が尚哉に駆け寄ってくる。洞窟での騒ぎを詫びてきて、いつも一人だった尚哉が楽しそうな様子だったから安心したという。屈託のない難波の声はあまり歪むことはなく、面倒ではあるものの、なんとなく気が置けなくなりそうな予感がする。
研究室で大仏柄のカップ越しに、高槻をガン見する尚哉。それに気づいた高槻は、今生方が正臣のところに行っているのでどういう報告がくるのかを楽しみにしている。授業さえなければ、自分が行きたかったとソワソワした様子だ。
そこへ 健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠 がやってくる。洞窟で見つかった骨の鑑定結果を伝えるためだ。わざわざそんなことを伝えに来るなんて「刑事って暇なんですか?」という尚哉の問いかけに、健司はムッとする。あの骨は人骨だった。およそ200年ほど前のもので、額の穴は鈍器のようなもので殴られてできたらしい。現代の話なら殺人事件だが、江戸時代では何もできず骨も村に返すということになったそうだ。
生方からは、マサオミの会社はマサオミが不在でドアに鍵がかかっており、ビルのオーナーによると正臣の会社は破産寸前だったらしい。一か月前から消息が不明である。 という報告が高槻に伝えられる。
健司が帰ったあと、尚哉は高槻に美和子のうそについて話をした。
高槻は、記憶の中からあの村での様子を思い出している。
高槻:だとすると、正臣さんに会うにはもう一度酒井に行った方が良さそうだ。
佐々倉古書店
花江(健司の母) - 和泉ちぬ にお弁当を用意してもらい健司を運転手に、もう一度酒井村に行くらしい。
やっぱり刑事って、暇なんですか?と言い出す尚哉に、担当していた事件が検察に送致されたから、有休を消化するためだとオラつく健司。花江は、尚哉が高槻と仲良くなっていることに、健司がやきもちをやいていると思っているらしい。
健司の用意した車で酒井村に向かう。
三人は洞窟の入り口にきた。
健司は高槻に頼まれて、近所の農家でスチール製の脚立を借りており、高槻は棒で地面の軟らかさを確認している。
上から何かをみたい様子だったが、地面が軟らかくて危ないため下から脚立で確認したいことがあるらしい。
健司は上司からの電話が入りその場を離れ、高槻と尚哉の二人で洞窟に入ることにする。
やっぱりそうか上着を尚哉に渡し、高槻は下から脚立を立てかけて竪穴状態になっている洞窟の口というか縁を見ようとしている。足元が平らでない場所に脚立をたてて登ることに心配する尚哉に、健ちゃんから護身術習ってるから、体力には自信があるんだ と妙なことを言い出す。否、今護身術関係ないでしょ!と慌てる尚哉。
そのとき、猟銃の音に驚いて鳥が羽ばたいていった。
天神さまの鳥居の手前で、カラスが飛び立った時
両目が青く光り、鳥が苦手なんだと身をかがめていた高槻を尚哉は思い出して、声をかけた
先生っ
*******************************
尚哉からは見えないがあの時と同じように両目が青く光り、その後気を失ってそのまま脚立から落ちる高槻。
岩場で尚哉が高槻の身体を受け止め一緒に倒れ込む。
額にけがをして気を失った高槻、上から雫が落ちて足場の悪い洞窟を、尚哉は高槻を背負って懸命に歩く。洞窟の出口に来たところで健司が二人の様子に気づき駆け寄ってくる。
背負っていた高槻を尚哉の背中から降ろし、何があったのかを尋ねる健司。
高槻が脚立に上がって岩をよじ登ろうとしたとき、落ちてきたことを説明し、傾斜のある出口を健司が尚哉の代わりに背負って出て行こうとしたとき、尚哉は洞窟の雫で濡れた高槻のシャツから、背中に大きな2本の傷のようなものがあるのを目にしてしまった。
驚く尚哉に、無言で健司は自分の上着を高槻に被せる。
おい、よそ者が何をしている。
そこには、猟銃を下げた鬼頭がいた。
尚哉:先生が銃声に驚いて飛び立った鳥に驚いて、岩から落ちたんです。
鬼頭:うちに運べ。
気を失った高槻を、二人は鬼頭家へ連れていくのだった。
鬼頭家で
お医者様を呼ばなくても大丈夫かと心配する美和子から、薬箱とタオルを受け取って健司は奥の部屋へ入る。
囲炉裏の前で尚哉が鬼頭に詫びると、自分が銃を撃ったせいだから泊まっていっても構わないという鬼頭。
奥の部屋へ、高槻の様子を見に行く尚哉。
尚哉:こういうことって度々あるんですか、先生前にも言ってたんです。鳥が苦手だって。
それにさっきの背中の傷は一体・・・。
健司:お前、それを聞いてどうするつもりだ。
尚哉:えっ。
健司:世の中には、単なる好奇心で聞いていいことと、そうじゃないことがあることくらいわかるよな。てか、やめとけ。聞いても面白い話でもない。お前が(傷を)見たことも彰良には言うな。
尚哉:はい。
朝になり、二人はそのまま高槻の布団の脇でうとうとしていると、どうやら高槻は目が覚めていたらしい。
よく覚えてはいないけど、迷惑をかけちゃったみたいだね。そう詫びる高槻に、本当ですよ、危ないって言ったじゃないですか。というのが精いっぱいの尚哉だった。
生方から高槻のスマホにメールが届いており、内容は
正臣さん、酒井集落の鬼伝説をモチーフにしたスマホゲームを開発したみたいです。それさえ売れれば会社も持ち直すと。だからゲームの宣伝になるようにいろいろやってたみたいです。 と書かれていた。
高槻:残念だけど、そう簡単に本物の怪異とは出会えないみたいだ。
健司が起きたら、一緒に鬼退治に行くという高槻。鬼頭家の軒先では、正嗣が降る雨を見つめていた。
近寄って礼を述べる高槻。元気になったのならさっさと帰れという正嗣に、帰る前に洞窟の祠にある鬼神さまの正体についてお話したいという高槻。
鬼頭;正体も何も、鬼神様は鬼神様だ。
高槻:六部ですね、鬼神様として祀られていたのは。
六部=ウィキより引用
六部とは、六十六部の略で、六十六回写経した法華経を持って六十六箇所の霊場をめぐり、一部ずつ奉納して回る巡礼僧のこと。
尚哉;六部?
高槻:巡礼の僧侶のことだよ。六部は全国を周るため路銀を持っていた。そんな六部をもてなし隙を見て殺害し、金品を奪う。六部殺しというのは、昔話の類型のひとつなんだ。わりとあちこちの村であったと思うんです、貧しい村で。よそ者を殺して金品を奪うということ自体が。今ならすぐに警察に捕まるでしょうが、それこそ江戸時代全国を周っている旅人が一人いなくなっても誰も気づかない。ましてやそれが、盗賊やならず者なら尚更だ。集落の外からやってくるのは、村に災いをもたらすよそ者。つまり鬼、だから殺していい。鬼頭家がその財産で村を救っていたにも関わらず、人喰いだと忌み嫌われていたのは、よそ者殺しを請け負っていたからではないですか?
洞窟の入り口にあった無数の塚は、殺された人たちの供養のために建てられたものですね。
尚哉:じゃあ、あの下に人の骨がまだ・・・。
鬼頭:昔、日照りで村が困窮した頃のことだ、2百年以上前のな。今更罪を問われる者も、問う者もおりゃせん。
高槻:確かに遠い昔の話です。でも塚の中に一つだけ、真新しい建てられたばかりの塚がありました。
そのとき、健司が洞窟からあるものを持ってきた。どうやら高槻が脚立に乗って取ろうとしていたものだったらしい。
それは正臣の眼鏡だと高槻がいう。正臣の眼鏡は同じ部分が欠けているというのだ、(瞬間記憶能力を持つ)自分に限って見間違いはない。この眼鏡は、囲炉裏の部屋に飾ってある写真に写る正臣の眼鏡と同じものであると。
尚哉は写真と見比べ同じであることを確認する。
今年に入って、正臣が一度も酒井村に帰ってきていないと聞いて、記憶を巻き戻してみた。洞窟の裂け目に違和感があり、そこには眼鏡があった。これは、正臣があの裂け目から下に落ちたということですねと、正嗣に問いかけた。
どうやら、正嗣が手を合わせていたのは、正臣の塚だったらしい。
後ろで食器の割れる音がする。美和子が話をきいていたのだ。
正嗣は猟銃のある場所に飛び出していく。自ら命を絶つつもりだ。
鬼頭:あんたの言うとおりだ、正臣は死んだ。私が正臣を殺したんだ。あいつは私にこの家を捨てろと言った。あれはもうよそ者だ。だから私が正臣を殺した。殺したんだ。 その落とし前はつける。
高槻:鬼頭さん・・・。
尚哉:嘘だ。あなたは正臣さんを殺してなんかいない。あなたは死ぬ必要なんかないんだ。
一瞬の隙を見て、高槻が猟銃を取り上げようとして発砲が起きる。鬼頭は頬にかすり傷を負いながらも、なぜ死なせてくれないのかと言う。健司は高槻から素早く銃を受け取る。尚哉の言う通り、正嗣には死ぬ理由がないからだ。正臣は自分で足を滑らせて亡くなったのではないか。彼がいた洞窟の上になんの痕跡もなかった。正嗣が使っている杖の痕もない、あの場所には行っていない、だから正臣を突き落として殺すこともできないのだと。正臣は自分が開発したゲームの宣伝のために動画を撮影していたが、誤って洞窟から転落してしまった。正嗣は鬼神様を拝みに行ったところ、亡くなっている正臣をみつけた。すぐに警察に連絡することもできたが、美和子が悲しむと思い遺体を隠して生きていることを偽装した、それが美和子のためになると思ってと言う高槻。しかし、それを正嗣は否定した。自分が息子をよそ者と罵ってしまったのだ。鬼頭家はよそ者を殺す。だから私も死ぬべきなのだと。
美和子:勝手なことを言わないで、一度まさやを寝かしつけたときに誰かがお父さんを訪ねたことに気が付いてました。お父さんすぐに追い返したけど、もしかして正臣さんなんじゃないかって・・・。その後、正臣さんからの連絡がなくなり、それから義父さんの様子もおかしくなって、でも義父さんを追い詰めたのは私だったんですね。
高槻は、どんなに悲しい真実でも目を背けてはダメだ、そうしないと自分で自分を呪い続けることになると二人に告げるのだった。
佐々倉古書店
高槻と尚哉が待っていると、健司が帰ってくる。例の新しい塚から正臣の遺体は見つかったらしい。
尚哉があの動画について高槻に尋ねると、あれは正臣が自分のゲームの宣伝のために作ったフェイクであるらしいと言う。生方の追加調査によると、正臣は父親を東京に連れ出そうとしていたらしく、正嗣は鬼神様を理由にそれを拒み続けていた。先祖が罪を犯したのは2百年前、先祖が犯した過去の罪が2百年もの間鬼頭家を縛り続けていた。鬼への復讐っていうのも、案外正臣の本心だったのではないかと、高槻は言うのだった。
尚哉:だから動画にあった正臣さんの声は・・・(歪まなかったのか)
健司:声がどうかしたのか。
尚哉:いえ、なんでもないです。
健司:そうか、それにしても俺はてっきり、あの父親か嫁さんが殺したと思ってたんだが・・・。
高槻:それが判ったのも深町君のおかげだよ。二人の言葉に惑わされず、真実を掬い取ってくれたから。
健司:ふ~ん、こんな青っちょろいガキがね。
高槻:今回の深町君はかっこよかったよ、ありがと。
尚哉はまんざらでもない顔で笑った。
尚哉のアパートで
機嫌よく部屋に戻る尚哉。こんな自分でも、うまくやっていけるのではないかと。
しかし、部屋にあがったとたん頭を押さえ、ベットまでたどり着くことなく倒れてしまうのだった。
第3話終了
第3話
鬼頭正嗣(酒井村鬼頭家当主) - 久保酎吉
鬼頭美和子(正嗣の息子の妻) - 奥村佳恵
山村肇(酒井村役場職員) - 冨田佳輔
女優:藤谷更紗(女優) - 市川由衣 が洋館の階段セットの前で撮影スタッフと、これからの演技の打ち合わせをしている。すぐ近くには、宮原晴子(更紗のマネージャー) - 馬渕英里何 も一緒だ。
「本番行こう!」の声がかかり、それぞれの持ち場についた皆に緊張感が漂う。
階段を上がり始める藤谷。しかし、何故か途中でその足取りは止まってしまう。動かしたくても動けない、そんな感じだ。
藤谷:離して、やめて。
その声に、撮影画面を見つめていた監督:佐竹達也(映画スタッフ・監督) - 時任勇気 が驚く。
左手を上に掴まれ後ろに引き倒されるように、藤谷が階段を仰け反って落ちていく。慌てて駆け寄ったスタッフに受け止められた藤谷。なんとか大けがを待逃れる。
大丈夫なの?駆け寄る宮原。誰?私のこと引っ張ったの。身体を起しながら藤谷が尋ねるが、もちろんそんな人物の姿を、誰も見てはいない。
藤谷:うそ、白い服を着た女の人の腕が見えた。
それを聞いたスタッフ一同は、だれかいないか階段あたりを見回すが心当たりのある人間はいなかった。
304 文学部 史学科 民俗学考古学専攻 高槻彰良 の研究室
生方瑠衣子(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 が、高槻のスーツに合わせてネクタイをコーディネイトをしている。
どうやら女優と対談するテレビ撮影があり、生方が気合を入れて高槻の私服を確認しているのだ。
講義中に藤谷の話をしてみたが、知らない学生がいたと生方に伝えると、最近主役とかやっていないからですかねと答える生方。
高槻が、講義に尚哉が出席していないことを心配して生方に伝えても、大学在学中にデビューして女優になった。オーディションを勝ち抜いて「森で眠る」に主役デビューと、藤谷のことで頭がいっぱいで、反応がない。
尚哉のアパート
尚哉は熱を出して、寝込んでいた。第3話で気を失って梯子から落ちた高槻を助けたときに頭を打ち、自室でそのまま倒れたために熱が出てしまったようだ。
どうやら解熱剤は処方薬を持ち合わせていたようだが、空きっ腹ではいけないと冷蔵庫を開けても、入っていたのは調味料くらい。きれいに空っぽだ。
そんなとき、スマホに心配した高槻から連絡が入る。
高槻:今日は授業に来なかったみたいだけど、どうしたの。その声風邪?一人暮らしの病気は辛いよね。家に食べるものとかある?
いや、まるで田舎のお母ちゃんじゃねーか!
尚哉はしんどいので、大丈夫です。来週は授業に出ますんで失礼します。と、通話を終了する。あぁ、辛い とばかりにまた布団に入るのであった。
オープニング
熱にうかされ、尚哉が子供の頃体験したあの奇妙な祭りの夢をみている。青い提灯の光りの中、皆が面をつけて踊るあの情景だ。亡くなったはずの祖父も面をつけて、お面をつけた尚哉に話しかける 尚哉、お前はこんなところに来ちゃだめだ。代償は払わなけりゃいけない。(3つある飴のうち、2つは「死」「歩けなくなる」だったかな。)べっこう飴を選べば孤独になる。 子供の尚哉(10歳時:嶺岸煌桜)は、べっこう飴を選ぶしかなかったが、独りは嫌だ、置いてかないで と祖父に言う。お面を外すと 今の尚哉になり独りは嫌だ と叫んでいる。あのときの祭り太鼓の音が、尚哉の部屋のドアをノックする音に変わり、尚哉は目を開ける。
居留守を使おうとしたのだけれど、ノックと一緒にあの人の声がする
深町君、深町君。ふ~か~ま~ち~く~ん。
ドアを開けると、高槻が食料を買い込んで立っていた。
高槻:熱があるなら、アイスクリームがいいかも。あれ、融けちゃってる。ごめん、ちょっと途中で道に迷っちゃったからさ。
尚哉:何時間迷ったんですか?
高槻:にぃじかん。
尚哉:(顔を一瞬背けたあと)3時間以上ですね。散らかってますけど、よかったらどうぞ。
高槻を部屋へ招き入れた。
マイスリッパで部屋に上がり込み、いそいそとおかゆを作る高槻。
(あ、やっぱりエプロンしてる。してるんだ。)
買ってきてもらった冷えピタをおでこに貼り、高槻の後姿を見つめる尚哉。
第3話で高槻を助けたとき、染みたシャツ越しに透けて見えた、あの背中の傷のようなものを思い出していた。
できあがったおかゆをいただこうとする尚哉に、ふぅふぅしてから食べて と、もう吹く気満々の高槻。尚哉の気配に、慌てて見ないふりをする。
尚哉:うん、おいしい。先生にこんなことさせてしまってすみません。
高槻:ただ、ありがとうって言ってくれればいいんだよ。
尚哉:へっ?
高槻:深町君、きみはもう少し人を頼ることを覚えたほうがいいよ。ひとりっきりで生きていける人間なんていないんだから、ねっ。
驚いた尚哉は、おかゆにやけどをする。あきれた高槻。コップにペットボトルのお茶をそそぎながら話しを続ける。
高槻:まったく、今度研究室に深町君のカップを置いた方がいいと思うんだ。今使っているカップはお客様用のモノなんだ。深町君は僕の研究室に必要な人で、もうお客様じゃないからね。
翌週の大学キャンパスで
高槻の言葉に、傷つきたくはないがもう少し他人との距離感を縮めてみようと思う尚哉。
何気ない他人の会話にも、嘘があると歪んで聞こえてしまうためと、話しかけられたくないこともあり、イヤホンをずっとつけていた。
今日はイヤホンを外してみようとする。
そこへ 難波要一(尚哉の同級生) - 須賀健太 が尚哉をみつけて駆け寄ってくる。
どうやら先週生方が話していた、バラエティー番組の藤谷との対談相手が高槻と知り、自分をその現場に見学に連れて言って欲しいと、尚哉に頼みに来たのだ。
難波:まぁ、俺は別にファンじゃないんだけどさぁ。やっぱり対談相手が高槻先生となると、あっちに行っちゃうのか。って思うわけよ。
あっちというのは路線変更のことで、最近藤谷がバラエティ番組などで「幽霊が見える霊感女優」という触れ込みで、露出が増えてきたことによるらしい。
高槻の研究室
テレビなんか出ていいのか?と、佐々倉健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠 が心配している。
高槻:怒るだろうね、父は。
どうやら高槻のメディア露出は、実家に好まれていないらしい。
健司は、そっちなんか勝手に怒らせておけばいい。俺が気に入らないのは、テレビなんかに出たら、昔のお前を知っている人間が昔のお前に気づくかもしれないって事だ。と危惧している。
高槻:あのとき僕は12歳だよ、さすがに判らないでしょ。健ちゃん、僕はずっと探している答えが見つかるなら、そろそろ危険を冒すべきなんじゃないかって思うんだ。
対談のセットが用意された大学の教室
藤谷はすでにセットに入っている。横にはマネージャー。
受講者席には、心配な健司とその後ろに難波と尚哉がいる。尚哉はどうやら耳の調子が悪いようで違和感があるらしい。
収録が始まる。藤谷が高槻に幽霊の存在について話をふると
高槻:僕個人においては、現代の多くの人たちが幽霊を見たと語る以上、実在していてもおかしくないと思います。むしろ僕は、いつか本物の幽霊に会ってみたくてしょうがないんです。
藤谷:会ってみたい、ですか。
高槻:僕は本物の怪異を探しているんです。
堪りかねて健司は咳払いをする。
藤谷が私は幽霊をみたことがあるんです。という。その言葉が歪んでいないことに、尚哉は驚く。藤谷の路線変更を信じている難波は、あんな出鱈目やめときゃいいのにというが、言葉が歪んでいない(嘘をついていない)のを知っている尚哉は、出鱈目・・・じゃないかも。というのだった。
収録が終わり、藤谷は高槻に相談がある様子だ。
高槻の研究室にて
やはり尚哉は、風邪の影響で耳を病んでいるらしい。
研究室には、高槻・生方・尚哉・藤谷・マネージャーの宮原がいる。
宮原:藤谷がバラエティー番組で幽霊を見たと言ってから、霊感女優なんて呼ばれてアレにはマネージャーとして困ってるんです。
藤谷は今、映画の撮影中で「資産家に嫁いだ女性が家の中で幽霊に遭遇する」という話を撮っているという。監督の才能にも惚れ込んでいて、この映画に賭けているのだが、怪奇現象が起きて撮影が途中で何度も中断してしまうらしい。最初は女性のすすり泣き、白い服の女性をみかけるスタッフがいて、気味が悪いの盛り塩をしたのだが、その塩がどろどろに溶けているというだ。
話を聞いていた尚哉は、どんどん耳が痛くなりその場を離れる。
藤谷は、この映画に賭けているので高槻に原因を突き止めて欲しい。という。快諾した高槻を残して、宮原と一緒に退室する。尚哉は階段の踊り場で、耳の不調に苦しむ。心配してくる高槻に、幽霊を見たという話の声は歪んでいなかったことを伝えると、高槻は素晴らしい、一緒に撮影現場に行かなきゃね!とはしゃぐのだった。
その後、尚哉は耳鼻咽喉科医院に行き中耳炎であると診断・治療を受ける。
帰宅すると、母から電話がかかってくる。
以前の母からの電話を思い出していた
母:お母さん、尚哉がいないと寂しくて。
またあんな思いをするのだろうか、仕方なく電話をとる。
自分宛ての郵便が届いていることと、お母さん、尚哉がいないと寂しくて。とまた言われるが、その言葉が歪んで聞こえないことに気づくのだった。
翌日のキャンパス
母の電話以来、人の声が歪んで聞こえなくなった尚哉。構内をイヤホンなしで歩くが、もう飛び込んでくる他人の会話が歪んで聞こえないため、なんだか嬉しくなりもう僕は孤独じゃない。と感じていた。
スマホには高槻の通知が届いている。撮影の時間・地図を送るから道案内をよろしくと書かれている。
撮影現場
助手の助手という肩書で、難波がついてくる。尚哉は生方にも頼んできてもらう。(うそが判らなくなったのが不安)藤谷は、怪奇現象の度に撮影が中断するため、監督がナーバスになっている。今日は調査ではなく、撮影現場の見学という目的だということにしてくれという。
宮原にヒヤリングをしたかったのだが、宮原は田辺純(映画スタッフ・制作見習い) - 北澤響 を代わりに呼んで、現場を案内させることになった。
田辺には、最初に起きた女性のすすり泣きからヒヤリングを始めた。撮影の開始10秒ほどで、女性の鳴き声らしきものが聞こえたのだという。また、藤谷が階段から落ちた時も、姿見の鏡に白い服をきた髪の長い女性が映っているのをみた。しかし、スタッフにも出演者にもそんな人はいない。というのだった。尚哉はうそが判らないため、所在ない態度をする。高槻はそれを見ていた。
次は、和田俊樹(映画スタッフ・小道具担当) - 篠崎大悟 へのヒヤリング。
藤谷が階段から落ちた日の夜。帰ろうとしたら、白い影が近くを通ってヒヤッとした風を感じた。丁度人間くらいの背丈で、白い服を着た女性のような気がした。 白い洋服・・・ですか? 丁度5年位前、この撮影現場に向かう途中、一人の若い女優が交通事故で亡くなった。その女優がひょっとしたらって。
嘘が判らない尚哉は、いたたまれず「トイレに行く」とその場を離れるのだった。
現場になっている洋館の庭先
ベンチに座る尚哉に、難波が(尚哉は)先生の助手ってこんな感じでいいの?もうちょっと(生方のように)メモを取るとか、先生に飲み物を渡すとか。と話しかける。嘘が判らないとは言えない尚哉は、いつもはもうちょっと役に立つんだけど、もう・・・。 と答えるのが精いっぱいだ。
二階ベランダで高槻は、その二人の様子をみていた。ヒヤリングの内容を、生方が高槻に報告する。生方は事故死したという女優が気になるらしい。
藤谷は高槻に様子を聴きながら、今なら録音部の浜村雅文(映画スタッフ・録音担当) - 阪田マサノブ と話ができそうだと声をかける。
浜村は背を向けたまま、なんか女のすすり泣きみたいなのが聞こえたんだよねといい音声を二人に聞かせる。
高槻:すばらしい。
浜村:あれだ、こういうのは、昔からあるんだよね。
高槻:例えば?
浜村:タイトルは言えないんだけど、有名な映画で主人公がキメ台詞のときによぉく聞いたら声が二人分聞こえるって言うんだ。そしたら、その声はその主役を争ったオーディションで負けて自殺した男の声にそっくりだって言うんだよ。
庭で尚哉が座っていると、監督が近寄ってきてこの映画に出てみないか?と声をかけてくる。他のスタッフもやってきて、眼鏡をとってみろ・髪型をかえてみろ・とってもいい と言われても、嘘なのかどうかわからない。
今まで声の歪みだけで相手を判断していた尚哉は、誰か本当のことを言ってください と拒絶するのだった。そのとき尚哉の頭の中で僕は深町君がいいんだよと高槻に言われ、自分が嘘が判るからではないかという気がして、尚哉はその場から逃げ出すのだった。
難波が尚哉がいないと言い出す。そこに藤谷が通りがかったため、難波は藤谷のデビュー作「森で眠る」のパンフレットを取り出し、サインをせがむ。
若いのに随分古いのを持っているのねと藤谷がサインを書きながら難波に話しかけるとこれが一番好きなんですよ。と難波に言われ、一瞬手が止まる。浮かない表情の藤谷を高槻が見ていた。
アパートへ帰ろうとする尚哉。高槻からは体調を心配する通知が届く。ふと、ウィンドウに飾られたマグカップ(ゴールデンレトリバー柄)に目がとまる。高槻に研究室に自分用のカップを置いたらいい。深町君はもうお客様じゃないからね。と言われたことを思い出していた。嬉しかったのに、嘘がわからない今の自分は役に立てないからこのカップは買えない、ウィンドウの前から尚哉は離れていった。
佐々倉古書店
健司の母 佐々倉花江(健司の母) - 和泉ちぬ は、尚哉がくると思ってトンカツを揚げたのにぃとがっかりしている。高槻は尚哉と連絡が取れない。健司が俺だって食うよ、トンカツとなぐさめる。
店に仏頂面の男が入ってくるコイツは客じゃない 健司は言う。
この男は、黒木(高槻の父の秘書) - 夙川アトム だ。
黒木:彰良さん、お元気そうで。
高槻:要件だけ言ってくれないか。どうせ僕が父の気に障るようなことでもしたんだろう。
黒木:彰良さんがというより、映画のスタッフです。(SNSに、撮影現場で高槻と藤谷が映っている写真をアップしている。)お父上は、彰良さんが注目を集めるのを避けたいとお考えです。先日はテレビの撮影にも参加なさいましたよね。それもお父上の耳に入っています。
高槻:あなたが伝えたんだろ。
黒木:軽率な行動はお控えください。彰良さんの過去を掘り返す輩が出てくる可能性もありますので。
健司:こいつがそんなことも分からずにテレビに出たと思ってるのか。(黒木と高槻の間に割って入る。)
高槻:ありがとう健ちゃん、もういいよ。映画のスタッフには伝えておく。だからもうここへは来ないでもらえますか?
黒木:わかりました。(店を出ていく。)
健司:あぁ、腹立つ。トンカツ食うぞ、トンカツ。
街中(天神様の境内の外)
尚哉は人々を見つめている。あんなに関わりたくなかった他人、うそが判らなくなって嬉しかったはずなのに、最初に受け入れてくれた研究室には、行きづらくなってしまった。生方が通りかかる。尚哉は生方に、これからは生方に先生の助手をやってもらいたい、自分はもう役に立てそうもない と話す。生方は私なら喜んでやるけど、あなたはそれでいいの?彰良先生、明日もう一回撮影現場に行くみたいだよと言って去っていく。
撮影現場(庭)
尚哉は高槻と現場に来る。体調を心配する高槻に尚哉は昨日の態度を詫びる。
撮影が開始されたが、天候が晴れてきたため一旦中断する。高槻は「まわった」というスタッフの言葉が気になり、田辺を捕まえて聞こうとしたが、わからないらしく宮原が代わりにこたえる「撮影が始まった」という意味で、昔はフィルムで撮影していたためモーターを回す必要があった。そこからきているという。尚哉は、高槻が実はその話を知っているのに尋ねたことを不審に思う。若い田辺は知らなかったのに、幽霊はそれを知っていたのだと。
高槻:残念ながら、そう簡単に本物の怪異とは出会えないみたいだ。
次の「まわった」に注目するよう、尚哉に伝える。
撮影がスタートし「まわった」と掛け声が出る。
すると、藤谷がベランダを指さし、誰かの悲鳴が上がる。
白い服を着た長い髪の女性と思われる姿が、ベランダから建物の中へ入っていったのだ。
皆が確認のため、洋館入り口に駆け込む姿を高槻は眺めている。
二階に上がり、皆が点検する様子を高槻は観察している。
高槻:皆さん、僕はいつも怪異を見たがるので変わり者だと言われているんです。でも、この撮影現場には変わり者がたくさんいるみたいですね。幽霊がいると分かった途端、逃げずに駆けつける人がこんなにいるのですから。ただ、幽霊がいるといって駆け出した人と、ここにいる人の人数が合いません。一人増えている。和田さん、あなたです。
和田:思い違いだろ。
高槻:僕は見たものを全て記憶してしまうんです。だからごまかしは効かない。あなたがここにいたのは、幽霊役をやっていたからでしょう。(和田のうしろにある扉の陰のスツールの中から、幽霊の白い服と黒髪のかつらが一部出ている。)みなさんがここに来たのは、幽霊の和田さんを紛れ込ませるため。つまり皆さんが、幽霊の仕掛け人ですね。
和田:今の白い服の幽霊は俺だ、でも今までの怪異は本物だ。
高槻:そのことに関しては、下で話しましょう。
高槻は、幽霊は昔から文芸や芸術の世界で好まれた題材で、幽霊とは死んだ人の魂で、生前の名前や事情があったはず、今でもお岩さんは顔が腫れ、お菊さんは皿を数える姿描かれている。ところが幽霊話が増えるにつれて幽霊の生前の情報は無意味になった。近世紀幽霊を題材にした絵画作品が多く描かれたが、その殆どが誰々の幽霊ではなく、単に幽霊であると。その結果として見た目は類型化し、現代ではさらにすすみ(主にJホラーの影響で)大抵の幽霊は、白い服に長い髪となってしまった。そして、この現場で現れたという幽霊も白い服で長い髪の女性、幽霊映画にしては作りが甘い、と。和田が話した女優の交通事故も、警察関係者(健司)に調べてもらったところそんな事故はなかった。音声の浜村は、すすり泣きの話には歯切れが悪かったのに、他の話は饒舌で嘘が苦手な人だと。
監督は、皆が撮影の邪魔をしたのかと言うと、高槻はその逆で、皆は成功を願っているのだという。この幽霊騒動は、回ったという映像証拠がある状態でしか幽霊が出て来ず、都合が良すぎる。ホラー映画のキャンペーンに、本当の幽霊騒動の映像があれば宣伝効果があるし、宮原は「藤谷が霊感女優と言われて困っている」と言うが、あれは本心なのか?彼女は霊感女優と言われるようになってから仕事が増えているではないか。もう一人、この状況をチャンスだと思っている人間がおり、「森で眠る」以上の主演作を熱望していた、藤谷がそうだと。
藤谷:さすが高槻先生、映画の番宣に一役かってもらおうと思ってたのに見抜かれちゃった。
監督が、自分の映画がいいものだと信じてくれないのかと問いただすと、藤谷は「いいっていうだけじゃ売れないの。」と言う。女優も芝居のできる若手がどんどん出てきて、31歳の自分には今が勝負の分かれ目なのだ。自分には今だからできることも沢山あるのに、周りが勝手に限界を押し付けてきてもがいて苦しんでいると。自分は努力しているのに、バラエティで幽霊が見えることを話しただけで仕事が増えて、悩みや努力は何だったのか。しかし、このチャンスをものにし、世の中が自分を諦めても、自分は自分を諦めないという藤谷だった。
監督には、この映画は絶対に成功させるから、このまま騙されていて欲しいという藤谷。スタッフも藤谷の本気を感じるから、この騒動に協力したのだと監督に言う。監督は撮影を続けることにし、スタッフと庭に出ていく。
高槻:お見事でした。
藤谷:嘘はついてない。
高槻:わかってますよ。でも、涙は演技ですね。
藤谷:自分でも嘘か本当かわからないといい、泣こうと思えばいつだって泣けるから。
高槻:全身・・・女優さんなんですね。
藤谷:全身女優・・・いい言葉。ありがとうございます。もうしばらく頑張れそうです。お礼にひとつ教えます。テレビで話した幽霊話は本当、私こどもの時におばあちゃんの幽霊を見たんです。先生もいつか会えるといいですね。
マネージャに促されて、撮影に戻る藤谷。あとをついていくマネージャーも高槻に感謝を示すのだった。
帰り道
高槻:いい話が聞けたよ、どうしたら幽霊に会えるんだろうね。
尚哉:先生は、俺がいなくても嘘が見抜けるんじゃないですか?
高槻:だとしても、わからないこともあるよ。例えば、深町君は嘘が判らなくなっても、どうして僕に言ってくれないのか。
尚哉:それも判ってたんですか。
高槻:深町君を見ればなんとなくね。
尚哉:そこまでわかるなら、俺は必要ない。道案内なら他の人にだってできます。暴走した先生を止めることだって。嘘が判らない俺には、役に立てることがない。
高槻:僕は深町君がいいって言ったよね。
尚哉:(嬉しい言葉だったはずなのに)今の俺には、その言葉が本当なのかどうかも分からないんです。孤独の呪いにかけられた俺は、きっと一人のままなんです。助手は、もうやめさせてください。
高槻:わかったよ。
尚哉は高槻を残して歩き去っていくのだった。
第4話終了。
すみません。
平日は仕事なんで、もんげー頑張っても
2時間で6分の1くらいしか入力が進みません。
しかも今日は、母が炊飯ジャーを壊しかけまして
いや、いろんなものと戦っているわけであります。
とりあえず、もうじき風呂場の掃除(サーキュレーターによる乾燥)が終わりますので
終わったら、もう寝たいんだパトラッシュぅ。
こんな拙ブログでも、御覧いただけるのはひとえに伊野尾くんのおかげです。
どっちに足を向けて寝ていいかわかりませんが、寝ます。
今、とりかかっているのは4話です。
こういうのにとりかかるのは「ハケンの品格」以来で大変大変ですが、自分の精度が徐々に上がっているので勝手に喜んでおります。そして、精度があがってテキスト量の減少に反比例して内容のデザインに時間がかかります。ごめんなさいね。
よろしくどうぞ。
青和大学の学食。
難波要一(尚哉の同級生) - 須賀健太 は、いつもながらコミュ力が高くキャンパス内の誰に対しても、うまく立ち回っている・・・というよりは
カラ元気が過ぎないか?
なんだか、小さな不運さえ感じられる。冷奴にはソースをかけられてしまうし、定食のメインの唐揚げは通りがかった学生に押された反動で、床に落としてしまう。追いかけていくとローファーで掌を踏まれ、仰け反った反動でバックの荷物が床に散らばってしまった。
その荷物を片付けようとしたとき、難波は自分の持ち物の中に怪しげな封筒が紛れ込んでいるのに気づいたのだった。
開いてみるとそれは、ーーー不幸の手紙だったのだ。
民俗学Ⅱ 第8回 江戸の怪談
高槻が、東京にある古い怪談について講義を行っている。
内容は「八百屋お七」。その後、お七が供養を求めて亡霊になったという説もあるらしい。
高槻は、尚哉(青和大学文学部の新入生)神宮寺 勇太 が出席していないことが気がかりなようだ。尚哉は前回、中耳炎を起こした際にウソを聞き分けることができなくなり、役に立てない自分は高槻のそばにいられないと話していたからだ。
高槻:僕は深町君がいいって言ったよね。
尚哉:今の俺は、その言葉が本当かどうかもわからないんです。孤独の呪いにかけられた俺は、きっとひとりのままなんです。だから、助手はもうやめさせてください。
そういって、尚哉は高槻の前から立ち去って行った。
高槻にはあぁ言ったものの、尚哉は悩んでいた。
そんなところに、なんだか負のオーラを漂わせた難波が寄り付いてくる。
難波は、尚哉に不幸の手紙を押し付けようと現れたのだ。
当然拒否したものの、困っている難波を見かねた尚哉は
高槻に相談するように提案する。
高槻の研究室
難波を連れてきたものの、高槻には気まずい思いの尚哉。
持ってきた不幸の手紙を、難波は高槻に見せる。
内容を読み上げた高槻は、典型的な文面だといい
封筒には消印がないため郵送ではないことを告げる。
難波:知らない間に、荷物の中に紛れ込んでいたけれど、思い返してみると先週の水曜からいろんな災難があって・・・やっぱり俺、呪われてる。
頭をかく難波に、高槻は抱きついて興奮を隠せない。
高槻:難波君、すばらしいよ。イマドキ手書きで不幸の手紙なんて。しかも君は呪われて不幸のドン底っ!(キャッ)
理性が飛んでいる高槻を、慌てた尚哉がとめに入らなければならない程だ。
高槻:失礼。結論から言うと、やっぱり君は呪われていると思う。でも心配しなくていい、僕がお祓いをしてあげるよ。
そういって高槻は、何やら紙を取り出して人形(ひとがた)を4枚作り始めた。
高槻:昔から人は、この人形を使って災難を負わせていた。だったら不幸の手紙の呪いだって同じように肩代わりさせられる筈だ。
難波には、不幸の手紙と同じ文面を5通書かせ、そのうちの4通を人形に渡した体裁を作った。残りの一通は高槻自身が受け取るという。自分自身が怪異を体験したくて堪らないからだ、呪われるなら本望だよ。というのだった。
礼を述べて退室する難波。それについて尚哉が出て行こうとすると、高槻が呼び止めた。このあと「隣のハナシ」に書き込まれた相談について、女性の来客があるから一緒に話を聞かないか?という。嘘が分からない状態でバイトはできないと、尚哉は辞退して部屋を出ていく。
オープニング
アパートに戻った尚哉。
テレビをつけると、4話に出てきた 藤谷更紗(女優) - 市川由衣 と高槻との大学での対談が放送されていた。思わずテレビの電源を切ってしまう尚哉。
高槻の研究室
「隣のハナシ」に相談をしてきた女性 桂木奈々子(ひとり暮らしの女性) - 鞘師里保 が研究室で黒髪切りをご存じですか?という怪談について相談している。黒髪切りは、髪を切るという妖怪で「髪切り」とも呼ばれているらしい。九州の地元から声優になる夢を諦められず、父の反対を押し切って上京し独り暮らしをしている彼女は、黒髪切りが出ると言われるために家賃の安い部屋に入居したのだという。高槻曰く、黒髪切りは全国で出没が言われる妖怪であるが、東京では番町下谷コヒナタで今の台東区下谷あたりだという。
桂木は、山口さんという名の不動産屋に、「そこは朝に黒髪が散らかってたという話も聞くから勧めないよ。」とは言われたものの、予算がないためそのアパートに決めたのだという。すると夜中に金縛りにあうようになって、すぐに引っ越したのだが、二回引っ越しても部屋のものの位置が変わっていたりしているらしい。
桂木がこれまでの現象をメモにして、高槻や生方瑠衣子(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 に見せる。
高槻が「すばらしい。」と言って桂木に近寄り始めたので、生方が慌てて間に入り、その場を取り繕う。
引っ越してもこのような現象に見舞われるのは、自分自身が妖怪に取り付かれているのではないかという桂木に、高槻はまた近寄ろうとする。
更に生方が高槻をブロックしたので、やっと理性を取り戻した高槻は「是非僕に調査させてください。」と、桂木に申し出るのだった。
山口不動産にてヒヤリング
高槻と生方。
店主の山口哲夫(不動産屋店主) - 螢雪次朗 は、奈々子ちゃんはまだそんなことを言うのかと困り顔だ。店主と桂木の母親が同郷であるため、母親がこの不動産屋を頼るように桂木に勧めたらしい。桂木は合計5回引っ越しをしており、その全てが山口不動産の紹介であるという。それぞれの間取り図を見て1件目の物件を見たいと生方が頼むと、今不景気で従業員をやめさせて人手が足りていないので、息子:山口雅史(山口の息子) - 金井浩人 に手伝わせている。いま物件を掃除しているので、帰ってきたら案内をさせるというのだった。
生方は、事故物件は一度別の人間が入居すれば、次の入居者には瑕疵の説明の必要がなくなるために、山口不動産がわざと事故物件ばかりを紹介しているのではないか疑う。
桂木は田舎から出てきたばかりで、騙されやすいというか・・・
高槻:距離が近いかんじだよね。
生方:それは先生も同じですよ。
息子が物件の掃除から戻ってきたので、1件目の場所へ向かう。今は別の入居者がいるので、内見は断られる。現在の入居者には怪異の現象は見られないそうで、壁が薄いので隣の声がうるさいというクレームを受けた程度だと息子が答えるのだった。
高槻は、怪異の原因が物件にあるのか桂木にあるのか分からないため、桂木に部屋を空けてもらいそこに泊まってみたいと生方にいう。自分も黒髪切りの怪異が体験できるかもしれないとはしゃぐ高槻。
ベンチで話す生方と尚哉
生方は、どうして高槻はあんなに怪異を体験したがるのか、いつか高槻が自分で大きな怪異を引き寄せてしまうのではないかと、尚哉に不安を漏らす。
心配だから生方も高槻と一緒に桂木の部屋に行きたいが、女子学生と一緒に部屋には泊まれないし、健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠 も忙しそうなので頼めないと尚哉に助けを求める。
しかし、自分は役に立てないと生方の頼みを断る尚哉。
桂木のマンション
山口不動産さんから借りてきたと、合鍵を高槻に渡す桂木。
高槻が部屋に泊まる間、代泊のホテルまで手配がしてあることに礼を述べる。
一緒に部屋に入り、この部屋に来てからの現象を確認する。
(拡大鏡の位置が移動していたという。)
この部屋は角部屋で、声優として声を出して練習するには最適な部屋であるため、ここは引っ越したくないという桂木。
一人部屋に残った高槻は、読書で時間を潰すつもりのようだ。
一方、自分のアパートにいる尚哉。進んで呪いを受け、怪異を体験しようとする高槻とそれが実現したときのことを恐れる生方の話が、気になって仕方ない。
22時少し前、部屋の隅になにかうごめくような音がする。
出入り口の気配を確かめに、扉をあける高槻。扉の前には濡れた黒髪が落ちていた。拾い上げて胸元にしまう。
差し入れのケーキを持った生方が、マンションに近づいてくる。黒い人影とすれ違ったあと、二階の外階段に高槻を見つけたが、高槻は階段から転がり落ちてきてしまう。
高槻の研究室
生方の連絡を受けて、尚哉が駆け込んでくる。
高槻は、生方が医者に見せようとするのを頑なに拒み、痛み止めを飲んでソファーに眠っているという。
尚哉は生方に、高槻が落ちた時の状況を確認する。
人影とはすれ違ったが、何かをよけるように一人で階段から転がり落ちた高槻を目撃した生方。怪異かもしれない。とつぶやく。
高槻のデスクには、まだ不幸の手紙が残されている。
うなされる高槻少年。背中の痛みと共に彼の両眼が青く光っている。
生方が帰り、ひとり研究室で高槻の様子をみる尚哉。生方が置いて行ったヒアリングのノートを読む。そこへ心配した健司も駆けつける。
健司に先生はうなされていた、何か苦しいことがあるんですね。と尚哉はいう。
健司:聞きたいか?
尚哉:いえ、いつか先生が自分で話してくれるまでいいんです。
尚哉は首を振った。
尚哉:俺、突き止めたいんです。先生が不幸の手紙の呪いにかかったのならなんとかしなきゃですし、もし、誰かの仕業なら止めないと。
健司:気持ちは分かるが怪異というやつならお前の手には負えないし、人間がやっているなら危険すぎる。やめとけ。大人からの忠告だ。
尚哉:確かに俺は、専門的な知識も力もありません。でも、俺には人にできないことができるんです。人が嘘をつくとわかるんです。
健司:嘘がわかる・・・。
尚哉:俺は子供のときに不思議な体験をしていて、信じられないでしょうけど、それから人が嘘をつくとその声が歪むんです。だから俺には嘘が判る、きっと役に立ちます。
古書店での健司と高槻との会話
健司:あいつなのか。ついにみつけたってことか。あいつは何を経験した。
高槻:彼が自分の口で健ちゃんに話すまでは、僕からは何も言えない。いくら健ちゃんでもね。
**************************************
尚哉:何言ってんだこいつ、ですよね。
健司:いや、信じる。
山口不動産手前の通りで
難波が彼女とのラインのやりとりを、尚哉に見せる。
落ち込んでいたのは、彼女とけんかをしていたかららしい。
尚哉は難波にメモを渡し、山口不動産でのヒアリングの段取りを教える。
難波は声優養成所の桂木の同級生で、物件を探しているという設定。
尚哉はやりとりを聞くことに集中するという。
難波は店主と会話しながら、これまでの物件の話などについて会話を弾ませる。尚哉は聞き耳を立てるが、嘘を言っているのかはまだ分からない。
耳の調子を心配しながら表にでると、息子が帰ってくる。
バンドをしているらしい通行人にみとれて、息子が荷物を落としてしまう。
お互いに「自分が不器用だ」「自分もできることが限られる」と会話をしていると、息子はでも続けてると自分の新しい可能性が見えることがありますよ。というのだった。
佐々倉古書店
高槻は首のシップがまだ痛々しい。
尚哉が入ってくる。健司から尚哉が一人で調べているときいて、上着から「あの髪の毛」を取り出す。
灰皿に置いてマッチで火をつけると、通常とは違う縮れ方をしている。
人口毛は特徴的な縮れ方をするのだという。桂木の部屋で起きている怪異がすべて同じ人物によって起きているのかは分からないが、何かの意図で偽の怪異を仕掛けている。相手が尚哉に危害を加えるかも知れないのに心配だと。
尚哉:大人ぶらないでください。自分に呪いをかけて、怪異を体験するために一人で桂木の部屋に泊まりに行って、ケガをしたのは誰ですか?俺だって先生が心配なんです。それに、どうせこれ以上俺には何もできないんです。今日、山口不動産の人と話して、「続けてると自分の新しい可能性が見える。」って励まされたんですけど、全然見えないです、俺。
高槻:山口さんと話してくれたんだね。
尚哉:はい。でも、今のを言ったのは息子さんです。
桂木の話
山口さん、これ不動産屋さんの名前なんですけど。
これ山口不動産さんから借りてきましたのでどうぞ。
*********************************
キャンパス内で
尚哉が難波に、不動産屋でのヒアリングの手伝いについて礼をいう。
彼女も一緒のときに女性の名前を出されて、慌てる難波。
彼女に説明する。
俺は奈々子さんには会ってないの。奈々子さんのお父さんのお友達っていうのに会っただけ。
母親の知り合いではないのかと尚哉が確認すると、店主は奈々子の父親とも昨日電話をしたと言っていたという。父親は上京に反対していたはずだ。
尚哉は健司に電話をかける。今回の怪異の原因を突き止めたかもしれない、これから山口不動産に行って確かめるというのだ。
山口不動産の前
尚哉が歩いていくと、すでに高槻が不動産屋の近くにいる。なんでここにいるんですかと尚哉がたしなめると、健ちゃんは僕に隠し事はできないんだよ と高槻がすまし顔で話す。いざとなれば健ちゃん仕込みの護身術で僕が守るからという高槻に、ケガ人は引っ込んでいてくださいと尚哉が言う。掛け合いになってしまいお互いに笑う。そこに桂木がやってきたので、三人で山口不動産に入っていくのだった。
尚哉が、店主は桂木の父親と仲がいいことを問いただすと、桂木は知らなかったようで母親とは中学が同じだったはずだという。店主は父親と電話で話す仲らしい、そして父親は桂木の状況に反対している。店主は、桂木が怖がるように黒髪切りの話をしたのではないか?と尚哉が尋ねると
店主:なんだい急に。違うよ。
その声は尚哉に歪んで聞こえたのだった。
店主はついに、黒髪切りの話をした理由を認めた。自分も息子が夢を追って家を飛び出していたので、父親とは話が合ったからだというのだ。
尚哉がもう偽の怪異を起して、桂木を怖がらせるのをやめるように店主に告げると、店主は困った様子で怪異は起していない、自分の扱っている物件で怪異が起きたら困るのはうちだ。桂木が怖い思いばかりして、こっちも困っているんだ。と騒ぎを起こしたことを否定するのだった。息子にも同意を求めると
息子:ほんと、奈々子さんが来るようになってから、困ってます。
また尚哉には声が歪んで聞こえた。それを見た高槻は
高槻:なるほど、残念ながらそう簡単に本物の怪異とは出会えないみたいだ。
そう言って、人差し指を鼻に充てるのだった。
これは八百屋お七であると。桂木は山口さんと山口不動産さんというときがある。山口さんは父親の方で、山口不動産さんは息子の方を刺している。高槻が桂木の部屋に泊まった時、合鍵は山口不動産さんに借りたと言った。つまり高槻が桂木の部屋に泊まることを、息子は知っていた。そして様子を見に来たのではないか。そこで親しく話す高槻と桂木を見て、高槻を引き離したい一心で怪異を起したのだと。ミュージシャンの夢を諦めて実家を手伝う息子に、親の反対を押し切って上京した桂木は眩しく見えた。
ここで、父親が金縛りについて息子の関与を否定すると、その件については桂木が引っ越してきてマットレスなしの薄い布団を使用し、環境の変化で緊張の連日が続き「睡眠麻痺」の状態となっており、それが金縛りの正体ではないかと高槻は推理したのだ。しかし、山口から黒髪切りの話を聞いていた桂木は、睡眠麻痺による金縛りを怪異だと思い込んだ。そして引っ越そうと再び山口不動産を訪れたため、息子が「怪異が起きればまた桂木に会える」と。
思わず土下座をして、桂木に謝る息子。桂木は怖い思いをした分、腹を立てる。高槻は、引っ越す度に条件のいい物件を紹介したのは、桂木の夢を応援したい息子の山口不動産さんであることを桂木に理解させた。最初は桂木に会いたい一心だったかもしれないが、今は彼女の夢を応援しているのだと。
今の部屋で鏡が移動していたのは、あの鏡が拡大鏡で日向に放置しておくと収れん火災という火事が起きることがあり、実際息子は物件の掃除でマンションを訪れたとき、不在である桂木の部屋で火事が起きてそれを始末したからだった。
息子が部屋に勝手に入ったことを詫びると、桂木は火事を防いでもらったことにお礼を伝えた。高槻は、不本意にも父親の意向で始めた仕事に、いつの間にか他人の夢を支えられるという喜びを見つけたのかもしれないと言った。
でも、続けてると自分の新しい可能性が見えることがありますよ。
桂木が高槻に礼を述べ、洞察力に感嘆したことを伝える。
高槻:一人の力じゃありません、僕たちいいコンビなんです。
そういって尚哉に寄り添う、尚哉もまんざらでもない様子なのだった。
帰り道
尚哉:結局先生の力を借りちゃいました。ケガ人だけど引っ込んでくれてなくて良かったです。でも、先生が階段を落ちたのは何故ですか?
高槻:あれは僕のせいなんだ。
逃げる人影を追いかけた高槻。通用口から逃げた人影を追いかけようとしたとき、扉に映る自分の両眼が青く光っていることに気づいた。
外に出ると下には生方がおり、光っている両目を見られたくないため
腕で顔を隠して階段を落ちていったのだ。
それを尚哉に言うことは、まだできなかった。
高槻の研究室
高槻:不幸の手紙は、本来幸運の手紙なんだよ。
難波:へぇっ?
高槻:幸運の手紙は1922年に、新聞に載るほどの騒ぎになったんだ。
9枚のはがきを書いて差し出すと、九日後に幸運が回ってくるが
連鎖を断ち切ると大悪運が回ってくる。
そんな文面のはがきが大量に届いたんだ。受け取った多くの人たちが悪運に見舞われたくないために、文面通りハガキを出した。でも9✖9=81 81✖9=729
難波:あっという間にものすごい数ですね。
高槻:だから最終的には警察の取り締まりの対象になった。
尚哉:え、そこまでですか?
高槻:でも、警察が取り締まっても幸運の手紙は少しずつ文面を変えながら生き残った。そして、いつの間にか「幸運のために」という文言が削り取られ、不幸の手紙になってしまったんだよ。不幸の手紙というのは、呪いを媒介する。でも、そもそも呪いと言うのは一体何だろうね。何か悪いことが起こった時に、人はその原因を求める。理由が分からないのが不安だからだよ。そこに説明をつけてくれるのが、呪いというシステムだ。
そう言って、高槻は難波の前に不幸の手紙を出す。
でも、いったん呪いだと考えると思考はマイナスに向く。気持ちだって沈んでいくから、当然何をやってもうまくいかない。そうやって人は自分を呪いにかけ、縛ってしまうんだ。(両手で難波の肩を抑える。)
第一、難波君は不幸の手紙の差出人を知っているよね。
君は不幸の手紙が知らないうちにカバンに入っていたと言いながら
災難が起きたのは水曜からだと明言した。
難波:実は、家庭教師のアルバイトで小学校4年生の女の子を教えてて。俺、彼女ができて浮かれてて、それ話しちゃったんです。その子、俺のこと慕ってるって知ってたのに。
尚哉:差出人は小学生?
難波:だと思う。
高槻:もう呪いを恐れる必要はなくなったね。
難波:はい、じゃあもう行ってもいいっすか?彼女待たしてるんで。
高槻:いいよ。
難波:どうも。(不幸の手紙を尚哉に渡し)じゃぁ、ありがとやしたー。(そういって研究室を出ていく。)
尚哉:はぁ、自分で自分に呪いをかけた。実は俺、ここ数日。八年間で初めて嘘が判るようになりたいと思いました。
高槻:そう、僕のためにいろいろありがとうね。(尚哉の隣に座る)じゃ、健ちゃんのところでご飯でもごちそうになりに行こうか?
尚哉:はい、あの~買いたいものがあるので、寄ってもいいですか?
高槻:いいよぉ。
尚哉は、研究室に置く自分用のマグカップを眺めている。ゴールデンレトリバーの柄だ。実家で昔飼っていた犬に似ていて、大好きでした。あいつは嘘をつかないから。そういって高槻を眺める。どうやら高槻はその犬に似ているらしい。
彰良さん?
マグカップを眺めている二人に、中年女性が話しかけてきた。
テレビで高槻を見ていて、丁度思い出していたところだという。
女性:懐かしい。お母さまはお元気?
高槻:えぇ。
女性:あの頃、天狗様にはたくさん助けていただいたわよねぇ。
天狗という非日常の言葉が俺の日常に飛び込んできて、先生と俺の怪異の扉が開くことになった。
エンディング
第5話
桂木奈々子(ひとり暮らしの女性) - 鞘師里保
山口哲夫(不動産屋店主) - 螢雪次朗
山口雅史(山口の息子) - 金井浩人
本橋美弥(第四中学校2年生) - 横溝菜帆 は、図書館で本を見ている。
本の左上には、「次は 700-3-27-256」と文字が書かれていた。
彼女は、つい音読してしまう。
何かの気配を感じて、本から目を外して見渡すがこちらを見ている人もいなかった。彼女が本を閉じると、表紙には黄色いワンピースと黄色い風船が描かれている「ダークブルーな夜に」という本が手にされていた。
夕方、歩道で彼女がお参りをしているとき、黄色いワンピースの女性が道の向こうを通って行った。道に出ていくとトラックが近付いており、クラクションが鳴る中、黄色い風船の割れる音が響いていた。
高槻の研究室には、健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠
がソファーに腰かけている。スクラップブックを眺めながら、「俺の忠告を無視して、テレビに出るからだ。」と、説教口調だ。
どうやら、先回のエンディング間近に尚哉(青和大学文学部の新入生)神宮寺 勇太と高槻がマグカップを購入しようとしていたとき、現れた女性のことを言っているらしい。
高槻:そうだね。健ちゃんの言う通りだったよ。
健司:そう思うなら、これからは俺の言うことにも耳を貸せ。だいたいお前は、自分から呪われようとしたり、危なっかし過ぎるんだ。いい加減、これ(スクラップブック)も捨てたらどうだ。こんなものにこだわってるから、いつまでたっても・・・。
高槻:それを捨てたとしても、僕の頭の中には、その記事の内容は全て頭に入ってる。
校内で、高槻と一緒に買いに行ったマグカップを見つめる尚哉。
どうやら、そのときのことを思い出しているらしい。
女性:あの頃、天狗様にはたくさん助けていただいたわよね。
尚哉:天狗?
高槻:霧島(高槻の知人) - 小林美江 さんですね。旦那さんとは別の若い男性とドライブされていたのは、よく覚えていますよ。
女性:(慌てて)あら、何をおっしゃっているのかしら。見間違いじゃございませんこと?
尚哉の顔が苦痛を浮かべていた。
高槻:急いでおりますので、失礼します。
呆然とする女性を置いて、高槻と尚哉は、店の中へ入っていった。
マグカップを眺めながら、それを思い出す尚哉。
「え、呪いって、マジ?」大声で呪いについて、彼女と話す 難波(尚哉の同級生) - 須賀健太 と 彼女。スマホの画面を見ているようだ。難波は尚哉をみつけ、丁度いいとばかりにスマホの画面を見せ、尚哉はその画面にある数字(あの本の数字)を音読してしまう。難波は「ゴメン、お前今呪われたかも。」と言い出す。
高槻の研究室
高槻:この数字を声に出して読むと呪われる・・・か。
難波:はい。確か「図書館のマリエさん」だったかも。
高槻:図書館のマリエさんか、初耳だな。瑠衣子君(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 は?
生方:私も初めて聞きました。
難波の彼女 谷村愛美(尚哉の同級生) - 吉田あかりが
昨日、妹 谷村柚香(第四中学校2年生・谷村愛美の妹) - 平澤宏々路 の友達が呪いを受けているかもしれない。と相談を受けて、で暗号を解かなければいけなくなって、
高槻:暗号?
生方:珍しいですよね、ミステリー仕立ての呪いなんて。
難波もこの暗号を解こうと思ったが、全然分からず、そこに尚哉を見かけたので相談しようと思ったところ、尚哉が暗号を音読してしまった(呪いにかかった。)という。
尚哉:え、俺のせい?
難波:や、あれは違うよ。本当にゴメン。
高槻:その子が呪われたって思ったってことは、なんか変なことが起こったってことだよね、何かわかる?
難波:実は愛美もそこまでは聞いてなくて、今、第四中まで行ってます。
第四中・・・だったらここに来てもらえる?と言って、高槻は店のカードを渡した。難波は受け取ると、すぐに連絡してきますと研究室を去っていく。生方は調べたいことがあると言って研究室に残り、高槻は難波と二人で待ち合わせ場所に行くという。尚哉は呪いをかけられているかもしれないのだから、留守番するようにと研究室に残されることになった。
待ち合わせ場所は、佐々倉古書店だった。
中には愛美と妹、そして呪われているかもしれない妹の友人が待っていた。
高槻:君がマリエさんに呪われたっていう。
美弥:はい。
高槻:何があったか聞かせてもらえる?
美弥:図書館の近くに、信号のない横断歩道があるんです。そこを渡ろうとしたとき、私ちらっと見たんです。黄色いワンピースを着た高校生くらいの女の人。そのすぐ後に、私もう少しで(トラックに)ひかれそうに。その話を柚香にしたら、「図書館のマリエさんの呪いだ」って。
柚香:図書館の本の中に何冊か、数字の暗号の書かれたものがあるんです。それを見つけても、声に出して読んじゃだめ。「マリエさん、お忘れください。」と三度唱えて図書館をでないと、マリエさんの呪いで三日後に死んじゃうんです。
難波:マリエさんっていうのは、そもそも何者なの?
柚香:図書館に住み着いている幽霊です。図書館が好きでよく通っていたけど、事故で死んじゃって。
難波:事故・・・。もしかして美弥ちゃんが見たっていう、ワンピースの女の人がぁ。
愛美:ちょっと。美弥ちゃんを怖がらせないで!
難波:あぁ、ごめんなさい。
柚香:三日以内に暗号を解けば助かるんです。お願いします。暗号を解くのに力を貸してください。
難波:美弥ちゃん。大丈夫だよ、この先生。俺が不幸の手紙の呪いにかかったかもってときも、瞬殺で助けてくれたから。今回もババッと解決してくれるよ、ですよね先生。
高槻:そうだね、暗号の解き方はもうなんとなく見当はついてるけど
柚香:本当ですか。
高槻:うん、そのためには一度図書館に行かなきゃだけど。
難波:よし、じゃあ図書館に行きましょう。
出かけようとした高槻たちに、美弥はクラスの子にもマリエさんのことを知っているか聞いてみたところ、そしたら「図書館にはもう行っちゃだめだ」と言われたことを告げた。
いや、ここからオープニングかいっ!(4291文字)
研究室でマトリョーシカをいじっている尚哉。生方はパソコンに向かって何かを調べているので尋ねると、謎の問いかけをうける。
生方:ねぇ。大きいツヅラと小さいツヅラ、あなたならどっちを選ぶ?知ってるでしょ、舌切り雀。ちっちゃい頃から思ってたんだけど、自分だったら絶対おっきい方選んじゃうなぁって思って。
尚哉:多分俺も大きい方です、で、痛い目にあう。
やっぱりそうだよね、とため息をついて生方はまたパソコンに向かうのだった。パソコンを閉じて行きたいところがあるからと、尚哉は一人で留守番を任される。まだ大仏君と呼ばれるので、買っておいたカップを研究室の棚に置くことにした。研究室にかかってきた電話を取る際に、高槻の机の脇にあるあのスクラップブックを落としてしまう。片付けようとして尚哉は、記事を読んでしまった。記事には「誘拐事件」「12歳」「京都の鞍馬で無事保護される」「高槻彰良くん」と写真付きで掲載されている。
そこへ難波が戻ってきた。呪いについていろいろな人にヒアリングをしてみたが聞く人によって話が違っていて、大変だったという。
マリエさんの呪いは、大きくわけて3つのパターンがある。
①呪われて、3日後に死んでしまう。ただし、暗号を解いたら助かる。(柚香が部活の先輩から聞いた話。)
②呪われた後図書館に行くと、マリエさんに異世界へ連れていかれてしまう。(美弥がクラスの友達から聞いた話。)ただし、これも3日以内に暗号を解けば、マリエさんに許されて助かる。
③3日以内に暗号を忘れないと、マリエさんが現れて殺されてしまう。
(柚香の部活の先輩の友達から聞いた話。)
どれが本当の話なんですか?と尚哉が尋ねると
高槻:三つ目だけ異質の話だよね。暗号を忘れないと殺されるという話になっている。実はこれに似た都市伝説で「むらさきかがみ」という都市伝説があるのを知っているかな。「むらさきかがみ」という言葉を、20歳まで覚えていると死んでしまうという都市伝説だ。理由として、二十歳で事故死をした女の子の鏡だという説もある。
難波:あれ、マリエさんも確か事故死ですよね。
高槻:そうなんだ、だからこのオチも「むらさきかがみ」を知っている人が考えたんじゃないかと、僕は思っている。
尚哉:考えた?
高槻:都市伝説は噂話が広がるなかで、より面白くより怖く話が作られていくことが多いんだ。きっとマリエさんの話は、まだ生まれてから日が浅いから話の体裁が整ってなくて、いろいろなオチが残っているのかもしれない。つまり、僕たちは新しい都市伝説が生まれる瞬間に立ち会っているんだよ。すばらしいよね。
尚哉:じゃぁ、呪いは存在しないってことですか?
高槻:そうとも言い切れない。実際に美弥ちゃんは、怖い思いもしているんだよ。話が生まれるには、その話の土台があるのが普通だ。もしかしたら、そこに本当の怪異が潜んでいるのかもしれない。
高槻は、難波に美弥が暗号を読んだ時間をきき、タイムリミットを確認する。尚哉にはまだ猶予が二日あるから、自分と図書館に来て力を貸して欲しいという。尚哉は承諾する。
難波と高槻と尚哉の三人は図書館に向かう、高槻は暗号について調べるから二人は図書館の人にマリエさんの噂について聞いてみて欲しいという。
高槻は、図書館のスタッフ 雪村桃子(図書館職員) - 松本若菜 に美術のコーナーの場所を尋ねる。マップを見るように促されたが、地図を見るのが苦手だと案内してもらう。ここは広くて、自分も子供の頃は迷っていたと雪村が話す。こちらの出身なのかと高槻が尋ねると、高校生の頃までよく通っていたという。市の職員で、一年前にここに異動してきたらしい。
美術コーナーに案内されると、高槻は雪村に「図書館のマリエさん」の話を知っているかと尋ねると、聞いたことがないというのだった。
高槻は、最初の暗号の記憶をたどりこの美術本コーナーにやってきた。
果たして、該当の本にはまた暗号が書かれており
「次は908-2-14-205」と記されていいた。やっぱり。高槻は確信を得たようだ。
難波たちの聞き込みは手ごたえがなく、だれもマリエさんについて知らないということだった。尚哉は高槻がどうだったか尋ねると「あの暗号を解くのは難しいかもしれない。」と答えるのだった。研究室に戻り、あの暗号の最初の3桁は図書館で使われる本の分類番号であることを説明する。次の番号は棚から何番目かを、次の番号は端から何冊目か、最後の3桁は暗号が書かれているページ数だと予測したという。尚哉は暗号は解けると思ったが、高槻は3冊目を見つけられなかったという。この暗号が書かれたのが何年も前だとしたら、紛失したり、すでに廃棄された可能性も考えられるからだ。そうなると見つけられない。しかし、明日には解決してあげなければタイムリミットがきてしまう。
あとは、生方からの連絡を待っていた。今、美弥が事故にあいかけた現場にいっているらしい。
ツヅラの話の件を高槻に相談しようとしたとき、生方から研究室に連絡が入る。事故のあった交差点では、やはり15年前の夏休みの最後の日、妊婦さんをかばった高校生が亡くなっているという。名前は「きたじままりえさん」その日は図書館に行く予定だったそうだ。まりえさんの同級生にきいたところ「雪村さん」という親友がいたらしいとのことだった。その人に聞けば、何かわかるかもしれないと生方は伝えるのだった。
雪村・・・。高槻には心当たりがある。スタッフおすすめの蔵書に「雪村桃子」と名前が書かれていたからだ。
美弥と柚香が図書館の前に座っている。尚哉が生方を見つけ、忙しいのでは?と聞くと、女の子が呪いの窮地にたっているのに、高槻ゼミの院生として美弥を救わなければと駆け付けたのだ。高槻はきっと美弥を助けてくれると励ます。
高槻は図書館のカウンターに雪村を訪ねる。雪村とはあの女性だったのだ。図書館の外で雪村は 私マリエさんなんて知りません。という。その声は歪んでいた。戻ろうとする雪村に、柚香は必死で教えて欲しいと頼み込む。もういいからという美弥の目の前で、柚香はあの暗号を読み上げる。美弥とは小学校のときからずっと一緒だった。これからもずっと一緒だからと言うのだった。
高槻:雪村さん。二人は小学生のときから親友同士なんです。あなたと「きたじままりえさん」のように。二人のためにも「きたじままりえさんのこと」話してもらえませんか。
回想
まりえ:一緒に本を読んでくれる友達がいるって、最高だね。
雪村:ごめんね。あれは呪いなんかじゃないの。だから安心して。
あれは、マリエのちょっとしたいたずらだったという。高校二年生のとき、告白してくる後輩の男子に残した暗号だというのだ。返事を保留にしていたマリエに、男子は毎日好きですと告白してきたそう。夏休みの直前、マリエは告白の返事をすると決めたらしい。彼に自分と同じくらい本のことを好きになって欲しい、彼には「図書館の本に暗号を書き込んだ、それを探して暗号の答えをみつけて。期限は夏休みいっぱい。もし暗号をといて正解をみつければ、告白の返事をしてあげる。」と伝えたそう。夏休みの最後の日に亡くなってしまったマリエさんは、返事をしないままだった。
男子生徒は暗号を解けたのかを、美弥が雪村に尋ねると、自分もすっかり忘れていて分からないという。それが昨年の異動で、利用者が暗号を読み上げていたときに雪村が通りかかり、マリエの筆跡で残したものだと気づいたそう。
利用者が消しておくか聞いたところ、雪村が「待って。この落書きはこの図書館が大好きだった女の子が亡くなる直前に書いたものなの。だから消さないでそっとしておいて。」これが、都市伝説の始まりだったらしい。
美弥たちは、友人を幽霊にしてしまったことを詫びる。
できれば、暗号をときたいと思い。高槻は、最初の一冊がなんだったかを雪村に尋ねた。
その本は、美弥が最初に見つけた本だったのだ。
雪村は、最初の一冊しかマリエにその話を聞いていない。
では、三冊目は分からないままで、きっかけの女の子が見つけた本は二冊目で
「次は908-2-14-205」だと、尚哉がいうと908は文学の双書・選書・全集の何かだと高槻が話す。それを聞いた雪村は、その本はメンテナンス中で書庫にある本かもしれないという。
書庫の中で、美弥が三冊目の暗号が書かれた本を見つける。次々と暗号をみつけて、本を揃えていく。違う本を戻しに行くとき、尚哉は「鞍馬の天狗伝説」という本を見つけるのだった。キリシマが「天狗様」といい、「12か月間行方不明」などとあのスクラップの記事が思い出されるのだった。
高槻は雪村に、図書館に勤めているくらいだから暗号の解き方は分かっていたはず、なのにどうして解かなかったかと尋ねる。
あれは、マリエが告白相手にだけ送った秘密のメッセージだから勝手に見てしまうと、マリエに怒られそうな気がして。そう答える雪村。今自分が座っている場所がマリエのお気に入りの席で、高槻が座っている椅子が自分の席だったと語る。夏休みの最後の日も、この席で待ち合わせをしていたがマリエは来なかった。翌日、彼女が事故死したのを聞いて、彼女のお気に入りのワンピースが血で真っ赤に染まっていた話をする。
そこへ美弥たちがやってくる。暗号が変になったというのだ。
9-1-1700+1F-NE(W)S wは〇がついている。
これだけ暗号のパターンが違うものがついていると、生方が高槻に報告する。
高槻:あぁ、これが最後の暗号だね。
尚哉:え、どうしてこれが最後だってわかるんですか。
高槻:これまでの暗号と数字の桁が違うよね。これは9月1日17時に1Fの西側(ウエスト)で会いましょう。って意味だと思う。
柚香:二学期最初の日。
美弥:暗号を解いて、会いに来てくれた男子に返事をするつもりだったんだ。
高槻:いや、もうマリエさんは返事をしているよ。
柚香と美弥:え?
生方は、そういうことかと本を順番にならべ、背文字を見せる。その一番上の一文字ずつをつなげると。
「ダイスキデス」
というメッセージが現れたのだ。
高槻が、それに対する彼の答えもさっき見つかったという。
マリエのお気に入りの席の向かいにある角の場所。
置時計をどけると、壁には
僕も、ずっと大好きです 2006.9.1
と書かれていたのだ。彼は15年前にここに来ていて、思いは繋がっていたことを喜ぶ美弥と柚香。そのとき雪村には、お気に入りの席に座る黄色いワンピース姿の図書館のマリエさん - 清田みくりが目に浮かぶのだった。
図書館の外、生方は美弥と柚香を送っていく。
雪村:今日はありがとうございました。呪いが消えて本当に良かったです。
声の歪みに顔を背ける尚哉。館内に戻っていく雪村を見ながら高槻は「雪村さんの声が歪んだんだね。」と尚哉に話しかける。雪村さんは呪いが消えて欲しくなかった。どうしてだろうという高槻。
佐々倉古書店で、高槻は美弥が見たという黄色のワンピースの女の子のことがずっと気になっていると話す。でも、図書館のマリエさんが黄色いワンピースを着ていたという情報は、誰も言っていない。どういうことですかと、尚哉は問いかける。そこへ健司が話に入ってくる。高槻が「幽霊の話」だというと健司はおびえだす。ひよっとして幽霊が怖いのかと尚哉が聞くと「お前の前では言わん。」と健司は背を向ける。
尚哉:大丈夫です。声が歪まなくても怖いって、ちゃんと伝わってます。
健司:びくっ。
高槻:えっ?
尚哉:佐々倉さんも意外に子供っぽいところ、あるんですね。
健司:うるさいよ。
高槻:え、なんでちょっとまって。(声の歪みのこと、健司に話したの?)
健司:安心しろ、こいつの耳のこと。こいつから話したんだ。
高槻:ほんと、尋問とかしたんじゃないよね。
健司:そんなことしないよ。
尚哉が自分から、健司に秘密を話すことができて喜ぶ高槻。尚哉の頭をうりうりと撫でる。健司は高槻に電話で頼まれていた件について知らせる。
図書館から雪村が退勤しようとする。そこへ高槻が現れる。高槻は雪村に「あなたはまだマリエさんの呪いが消えて欲しくなかったんですよね。」と語りかける。最初にマリエの呪いについて聞いた時、雪村はすぐに知らないと答えた。聞き返すこともせずに、この質問がくるのを分かっていたかのようだったと。雪村は来月結婚し、この図書館ももうすぐやめるつもりだという。しかし、自分が辞めたらマリエのことを覚えている人間がいなくなってしまう。そんなときあの暗号がみつかったので、敢えて呪いの噂が広がるのを放置していたのだ。マリエが望んでいる気がした、自分を忘れないでずっと覚えていてほしいと。
高槻は、マリエを覚えているのは雪村だけではないという。そもそも、図書館のマリエさんが黄色いワンピースを着ていたことは、誰も言っていない。なのに美弥は事故にあいかけたとき、黄色いワンピースの少女を見たと言っていた。それがなぜなのか、知り合いの刑事に確認してもらったところ、美弥はマリエが助けた妊婦さんのお腹の中にいた子供だったという。そして、自分を助けてくれた少女のことを忘れていなかった。毎月、あの事故にあった交差点で美弥は、お腹の中にいた自分を助けてくれた少女にお参りをしていたのだ。
現れる美弥、黄色いワンピースを着た女の子が、自分とお母さんを救ってくれた。そのことをずっと忘れないようにしようと、母親と話していて。だからあのとき、黄色いワンピースの人に気を取られて立ち止まって、そのおかげで事故にあわずにすんだ。マリエさんがまた、自分を助けてくれた。
雪村に美弥は、図書館のマリエさんのことをもっといろんな人に話します。怖い幽霊じゃなくて、図書館が大好きでみんなのことを守ってくれる優しくて、素敵な女の子だって。いいですか?と尋ねた。
もちろんよ。ありがとう、本当にありがとう。と、雪村は答えるのだった。
研究室に戻りながら、高槻と尚哉が話している。まさかマリエさんと美弥につながりがあり、またマリエさんが美弥を助けるとは。これって本当の怪異ですか?と尚哉が言い出す。高槻は、健司に調べてもらって分かったことが二つあり、ひとつは15年前マリエが助けた妊婦は、美弥の母親であったこと。もうひとつは、美弥が事故にあいそうになったとき防犯カメラには、本当に黄色いワンピースの女性が通るのが映っていた。ということだった。
しかし、不思議なのはあと一か月もすれば雪村は図書館をやめており、あの暗号が見つかっても誰も解くことができなかった。そういう意味ではその偶然を怪異と呼ぶことができるかもしれない。どんな都市伝説も、最初は個人的な想いから始まっているのかもしれない。その想いをいろんな人が繋がっていくことで都市伝説は広がっていく、いやぁ、勉強になったな。と。
研究室に入る高槻。
すると、生方と佐々倉たちが高槻にサプライズの誕生日会を企画していた。あのツヅラの話は、ケーキの大きさについて悩んでいたのだ。ごちそうは健司の母に頼んで、高槻が喜びそうなものを頼んだそうだ。
尚哉が、自分には内緒で企画していたことを生方に話すと、尚哉に話すと態度でバレるからと言われ、納得する。大仏君と尚哉を呼んでいた生方が、棚にある新しい尚哉のカップに気づく。それにしても、今日の美弥への励まし方で生方が本当に高槻を信頼しているのだと、感心したことを話す。生方に眼鏡をとってみろと言われて嬉しそうに拒む尚哉。こんな風に大勢ではしゃぐなんて、子供の時以来だと、高槻に話す。
そんなこと言ってるけど、次は尚哉の番だと高槻に言われる。生方には「ここの人間になったからには、サプライズの餌食になってもらう。」と言われる。
高槻に「君は僕の大切な友達だからね。」と言われて、お手洗いに行くと席を外す尚哉。高槻のスマホに連絡が入る。どうやら父親の秘書黒木(高槻の父の秘書) - 夙川アトムが、高槻に父親から渡したいものがあると階下にいるようだ。
階段で眼鏡をはずす尚哉。そこで偶然、秘書と高槻の会話を聞いてしまう。ありがとうと伝えておいて、でも本当はそんな用事で来たわけじゃないですよね。さっさと要件を言ってくれないか。という高槻。先日 霧島(高槻の知人) - 小林美江 という夫人にとった態度が高槻の父親の耳に入り、そのクレームを言いに来たのだ。秘書を見送った高槻の両眼がまた青く光る。声をかけた尚哉の瞳には、青く光った自身の目が映っているのだった。
第6話 終了。
今日、急いでおこしてみたけど。目が死んだ。死んじまったよw
こちらは、准教授・高槻彰良の推察 第2話(後編)になります。
翌日の研究室
姉の琴子が昨日の学食での出来事を、「お騒がせしました。」と詫びている。
高槻:お聞きしたいことがあります。あなたが見た人形は、どのようなものでした?
琴子:どのようなって、藁でできた人形ですけど。
生方:(藁人形を持ってくる。)こういうものですか?
琴子:これです。
高槻:これは昨日の藁人形です。貴女が見たものも、こんな風に針だけが刺さっていたんですか?
琴子:はい。
高槻は、ボードに向かい歩き出し、生方は「そうですかぁ~」と藁人形を持ち上げる。
琴子:よく触れますね。
生方:怖がる必要はないんです。これは呪いの人形じゃなくて、「藁でできた単なる人形」ですから。
琴子:へっ?
高槻が、どうみてもヒトデにしか見えない絵に、杭のようなものを刺した図をボードに書き込んでいる。
高槻:藁人形とは、こういうものです。(ドヤ)
尚哉:先生、絵じゃない方が判りやすいです。
高槻:そぉ?
尚哉:はい。
高槻:あ~、藁人形で人を呪うことを「丑の刻参り」と言います。丑三つ時、つまり午前2時から2時半の間に白装束で頭に三本のろうそくを刺し、神社の御神木に呪う相手に見立てた藁人形を打ち付ける。つまり、かなり厳密に作法が決められたものなんです。その作法の一つに、「使うものは五寸釘である」というものがある。
生方:これです。一寸は約3センチですから、長さ15センチの釘です。
高槻:つまり、針じゃ丑の刻参りにならない。それに藁人形が落ちていたという木の周りをまわりましたが、藁人形が打たれた痕も残っていませんでした。この藁人形を作った人物の目的は、呪いをかけることではなく、驚かしおびえさせることだと思います。
琴子:でも。
高槻:ところで琴子さんは、今年でおいくつですか?
尚哉:(え、それ聴く?)
琴子:今年で24ですけど。
キャンパスのベンチ
尚哉がスクラップ記事のような紙を持って、座っている高槻に駆け寄ってくる。どうやら図書館にあった、姉琴子の選手時代の記事のようだ。
高槻:彩音さんがもらっていたメダルと同じだね。
尚哉:へっ?
どうやら、以前尚哉がスマホで見せた彩音の画像と比べているようだ。精神の宮殿よろしく、頭の中のページをめくっている。琴子の年齢から、その当時の大学新聞の記事を探しているらしい。尚哉は、生方が言っていた「彰良先生は、一度見たものは忘れないの。」という言葉を思い出し
尚哉:先生は、一度みたものは忘れなっいて本当なんですか。
高槻:全部記憶をしていて、録画を再生するみたいに記憶をたどれるんだ。「超記憶症候群」とか「瞬間記憶能力」っていうのかな。
尚哉:生まれつきですか?
高槻:12歳から。
尚哉:へぇ~。
高槻:違う。(ふっっとみつけたらしく)だから初めてなんだよ。ちょっと確認したいことができたから、先に行くね。19時頃。この前の佐々倉古書店。
と、尚哉を残してベンチを一人去っていってしまった。
19時、佐々倉古書店と書かれた暖簾をくぐって、尚哉がやってくる。
店主の女性が「あぁ、聞いているわよ。」と、高槻から聞いている様子。
ここで、最後まで書いたブログのデータが飛びました。これぞ怪異!(ゴーナキ)
二階にあがると、強面のサングラスの男が本をバックに入れて万引きをしている様子をみてしまい。尚哉は慌ててしたに降りてきます。花江に「警察を呼んだ方がいい」という尚哉。
降りてきた男が「警察?呼んだか?俺は警視庁の刑事だ。」といい
店主は「それで私の息子。」と言った。
高槻がやってきて、強面の男「健司」が高槻の幼なじみであることを尚哉は知る。
健司が「視聴草」と書かれた古書を、高槻に渡す。
自分の考えていたとおりの状況だったらしく
残念だけど、そう簡単に本物の怪異とは出会えないみたいだ。と人差し指を鼻に充てる高槻。
今日の用事はこれまでで、店主花江のオイシイ手料理をみんなで食べようと高槻が言い出す。
花江が尚哉をお手伝いに指名し、二人は奥のキッチンに向かう。
健司は、高槻に「あいつなのか、ついに見つけたってことか、あいつはどんな経験をした。」
と尋ねるが、高槻はそれは本人の口から健司に言うまで、自分からは言えない「いくら健ちゃんでもね。」と答えるだけだ。
翌日、研究室に彩音と琴子の姉妹が来ている
高槻:琴子さんも優秀な選手だったんですね。貴女は初めてここに来た時、大変緊張していて(研究室なんて初めてで緊張してしまって、と言っていた。)高校時代の恩師に話を聞いたところ、琴子さんは大学進学で競技を続けることを希望していたが、家庭の事情でそれを断念し就職した。青和大学にスポーツ奨学金制度ができたのは翌年のことで、あと一年遅ければあなたは大学に進学できていたかもしれない。
琴子:今日は呪いの話なんですよね。
高槻:この視聴草(みききぐさ)という本は、元は江戸時代に書かれていた本で、その中には「奇病」という話がある。薬屋に奉公していた14歳の梅は、身体のあちこちが痛いといい、痛いところをさすってやるとそこには針の先端が飛び出していた。(高槻はボードに歩みだし「怪異」「現象」「解釈」と書き始める。)いくら治療しても効果がないため、梅は実家に帰され、家に戻ると病気は出なかったという。母親はこれを「イタチの仕業かも」と答えたそうだ。怪異というのは、現象と解釈で成り立っている。身体から針が出てくるという現象を、当時の人々は「イタチのせい」と解釈したわけだ。これは江戸時代の解釈で、僕たちは現代人として解釈をしなければならない、梅の身体は、奉公先では治療の効果が見られなかったのに、実家ではそうならなかった。通常はいじめか虐待を考えられるが、でも僕はもうひとつ別の可能性があると考えた。梅が自分で自分の身体を刺していた可能性。家に帰りたかった少女は、自分で自分の身体を刺していたのではないかな。
というものだ。高槻は彩音にどう思うか尋ねる。
彩音:どう思うって。
高槻:梅の気持ち、わかるんじゃないかな。
彩音:わかりません。
尚哉が苦痛に顔を背けている。高槻は、藁人形も針も彩音が自分でやったことではないかというのだ。
琴子:彩音がそんなことする理由がありません。
理由は梅と同じで、逃げ出すためだと言う高槻。
琴子:何から逃げるんですか。念願の大学進学ができて、自分の才能を存分に伸ばせる環境にいるんですよ。
高槻:そう、そのうえ夢を諦めたお姉さんが、必死で自分を支えてくれている。なのにどうも調子が出ない。人は説明のつかない事態を恐れる、だから彩音さんは解釈を無理に作り出した。「自分が呪われているからだ」って。チームメイトが話していましたよ。琴子さんが彩音さんの練習につきっきりで、誰かが彩音さんのシューズに針を入れることは無理だって。だとすれば針を入れられる人間は、二人に絞られる。彩音さんか琴子さん。二回目に藁人形が出てきたとき、そこに琴子さんはいなかった。もうこれ以上、言う必要はないね。チームメイトが「彩音さんが本気を出せていない」と言っていたよ、プレッシャーで集中できなくなっているんじゃないかな。
琴子:そうなの。どうしてそんなに自分を追い込むの。
彩音:お姉ちゃんが、自分を犠牲にしてるから。自分が恵まれているのは分かってます。でも、チームメイトにはもっと恵まれている人もいて、新しいシューズも買えて、そんな人と戦う自信ない。最初にタオルに針が紛れ込んでたとき、そのあと思うように記録が出なくても、お姉ちゃんそのとき「さっきあんなことがあったもんねぇ。」って言ってくれて、すっごく楽だった。
琴子:あたしは、自分が犠牲になってるなんて思ってないよ。
高槻:そうだろうか。あなたは僕が「藁人形は呪いではない」と言ったとき、不満がある様子だった。なぜなのか、私がここまでしてるのに彩音の不調は呪いくらいしか考えられない。そう思っていたから。
あなたもまた、解釈を求めていたんです。
琴子:そう、かもしれません。ごめんね。
彩音:お姉ちゃん。ごめん。
涙ぐみ手を取り合う二人。
彩音:お姉ちゃんにはこれからも応援して欲しいの。
琴子:もちろん、ずっと応援するよ。
尚哉は二人の声の歪みに、この二人ないわーと苦しみ。高槻はそれを見ている。
天神様の境内を歩く高槻と尚哉。
高槻:二人の最後に言った言葉が嘘だったってわけだ。
尚哉が残念そうに、それは嘘だったことを伝えると「それは良かった。」と高槻が言った。どうしてかを尋ねる尚哉。
高槻:二人はこれからもお姉ちゃんに応援して欲しい、ずっと応援するっていったよね。その言葉が歪んだのは、彩音さんはお姉さんの重圧を跳ね返す決意ができたし、琴子さんは妹に干渉しないって決めたってことだと思う。
少なくとも僕はそう解釈する。と、高槻は言った。
高槻:ここは菅原道真をお祀りする天神様だ。天神様では「鷽替えの神事」という行事をやるんだけど、知ってる?
菅原道真が蜂に襲われたとき、この鷽(うそ)という名の鳥が飛んで助けたことが由来していて、この鳥の名前:うそ と嘘本当のウソが、同じ音だから生まれた神事だ。前の年にあった嫌なことは、全部うそだったことにして、新しい年はいい年になることを願うとても前向きな行事だよ。
現象と解釈だ。うそという現象にも、いろいろな解釈が成り立つ。いつも失望する必要なないよ。
高槻はそういって、境内を歩き出すのだった。
ここで、データが合計三回飛びました。
高槻:改めて、僕の助手をしてくれないかな。嘘が判るからじゃないよ。今回みたいなことをして欲しい。
尚哉:俺なにかしました?
高槻:僕は怪異のことになると興奮して、常識が判らなくなってしまうんだ。そんなとき止めてくれたじゃない。あと、ものすごく方向音痴だから、これからは道案内もお願いしたい。
尚哉:俺でいいんですか?
高槻:深町君がいいんだよ。
尚哉:それなら。
良かったと、嬉しそうに歩き出す高槻。
この少年みたいに喜ぶ人が、俺を探し当てたのかもしれない。俺の方が引き寄せられたのかもしれない。そう考える尚哉だった。
鳥居にさしかかるころ、カラスが枝から飛び立っていき、驚いた高槻が頭を抱えてしゃがみこんだ。
先生、大丈夫ですか。
尚哉が近寄ると、「鳥が苦手なんだ。」という高槻の両眼は、一瞬だけ色が青く変わっていた。
立ち上がり、そのまま境内から去って去っていく高槻たちを、木陰から男がタブレットで撮影している。
(尚哉の声)
どちらにしても、この人が怪異を探す理由を僕が知るのは、もう少したってからのことだった。
第2話はここまで
ワシ、もつだろうか。この1本作るのに11時間かかりました。
いや、データ飛びすぎでしょうがっ!
第2話
黒木(高槻の父の秘書) - 夙川アトム(第4話)
山崎綾音(青和大学陸上部の新入生) - 山田杏奈
山崎琴子(綾音の姉) - 金澤美穂
細木まりな(青和大学陸上部員・1年生) - 喜多乃愛
夏目春(青和大学陸上部員・1年生) - 三浦理奈
相沢香織(青和大学陸上部・マネージャー) - 石川萌香
青和大学陸上部
青和大学の陸上部の山崎綾音(青和大学陸上部の新入生) - 山田杏奈が
練習で他の学生と一緒にトラックで練習をしているが、思うようにできていない。
男性コーチ(青和大学陸上部・コーチ)- 森渉から
「彩音、高校時代のお前の成績からしたら、もう少しいける筈だ。スポーツ推薦の意地を見せてくれ。」と言われる。
他の部員や女子マネ
(細木まりな(青和大学陸上部員・1年生) - 喜多乃愛
夏目春(青和大学陸上部員・1年生) - 三浦理奈
相沢香織(青和大学陸上部・マネージャー) - 石川萌香
達からは「「彩音」だって。私たちとは期待値が違うから。」「スポーツ推薦だからね。」と、冷ややかに言われてしまう。
彩音がベンチで休憩をとっており、山崎琴子(綾音の姉) - 金澤美穂 に足のメンテナンスをしてもらっている。仕事はどうしたのかと尋ねると「彩音が心配だから、早退させてもらった。」という。彩音は「ごめん。」と謝っている。
姉は心得があるらしく、彩音は「うん、いい調子」と伝える。
姉がシューズを渡して彩音が履こうとすると、シューズに違和感があるらしく痛がっている。
シューズには「長い針」が入っていた。
他のベンチにいる学生(まりな達)は気づかず、タイムがいいらしいので「絶対選手確定じゃん。」「そうかな。」「ここまで来たらメンタル勝負だよ。」とはしゃいでいる。
それを眺めていた姉は「私がなんとかする。だから(彩音は)集中して。」と告げる。
「わかった。」改めてシューズを履きなおした彩音は、ベンチから離れて練習に戻る。見送ってベンチの手荷物の場所に戻る姉。大木を囲むように設置されているベンチ。手荷物のあるベンチの下に、足に数本の針が刺された藁人形を見つけて、驚くのであった。
尚哉が大学構内の階段を上がり、高槻の部屋へやってくる。
高槻は自身のサイト「隣のハナシ」を見ている。
どうやら最近は、新しい怪異の書き込みがなく退屈しているようだ。
生方(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実は、
「ついこの間「コックリさん」の話で盛り上がっていたじゃないですか。」と、高槻に背を向けたまま作業をしている。
その言い方、母親が子供に「この間新しいおもちゃを買ってあげたでしょ?」と言っているみたいだという高槻。
「先生は子供みたいなもんですから。」という生方。
ノックする音に「新しい怪異の相談かも。」と、立ち上がりドアを見る高槻。
入ってきたのは尚哉(青和大学文学部の新入生) - 神宮寺勇太 だった。
この前のコックリさんの件で、小学生が「もうコックリさんが怖くなくなった。」と礼を述べてきたそうで、それを伝えにやってきたのだ。
高槻のサイトにもお礼の書き込みがあったそうで、
(生方演じる)かわいい巫女さんが、お祓いをしてくれたのでロッカーのコックリさんはもう怖くなくなりました。ありがとうございました★
報告に来ただけだからこれで失礼しますと、尚哉が告げる。高槻は「深町くんは、サークルに入ってるの?」と聞いてきた。
尚哉は「僕はみんなで盛り上がるとかできないんで。」と告げると、どうしてか高槻は尋ねる。
幼い頃の尚哉が母親と一緒にいる。
尚哉:僕、だれかがうそをつくと、声がぐにゃっと曲がるからわかるんだよ。(10歳時:嶺岸煌桜)
母:でたらめ言わないの。
母(尚哉の母 )-小林さやか は怒っている。
(どうやら、第1話でも高槻にそれを伝えていたらしい。)
尚哉は、生方をちらっと見る。不思議そうにしている生方に「(サークルは)どうしてもです。」という。
高槻:じゃあアルバイトは?
尚哉:それは探さなきゃと思っています。
高槻が、それじゃ自分のサイト「隣のハナシ」で、怪異にまつわる相談が寄せられるので、助手としてバイトをしないか?もちろん報酬は出すよ。と誘う。
生方:助手なら私がいますよ。
高槻:君は(院生なんだから)論文を書かなきゃいけないだろ。
生方:(スマホの巫女に扮した画像を出し)貴方、お祓いできる?
高槻:お祓いは瑠衣子君に頼むから、助手は深町君に頼みたいんだ。
尚哉はその動機が、「高槻は自分の能力が採用の理由だろう、それくらいしか価値がない。」と解釈していた。
オープニング
教室に向かう高槻、花壇に目をやっていると、受講している女子学生からは「先生、早くしないと遅れちゃいますよ。」と急かされている。
201号教室 3限 授業連絡表 民俗学Ⅱ 文学科 高槻彰良 (連絡事項)鬼と雷様
雷の現象について、講義を行う高槻。
昔の人の雷に対する解釈は、雲の上に和太鼓を打ち鳴らす鬼:雷様がいて地上に雷を落としている。怪異として解釈していたという。
人は、説明のできない事態を恐れる。だから現象を解釈しようとする。
と高槻は言うのだった。
講義後、山崎琴子(綾音の姉)が高槻を訪ねて教室にくる。
准教授とはいえ、まだ若い高槻に琴子は驚く、案内した学生たちは離れていった。「自分が学生ではないが、相談に乗って欲しい。」と琴子が頼むと「是非。(捕まえた尚哉)助手も一緒に。」と、高槻は快諾するのだった。
准教授である高槻の研究室。独特の口調で、毎回ココアを推しているようだが来客にはいつもコーヒーを選択されているらしい。
お客様には青いカップ。自分のカップがない学生の深町には「大仏柄のカップ」で、コーヒーが出される。(一話をちらっと見たときには、これにより生方から「大仏君」と深町は呼ばれていた。)
琴子:すいません。研究室なんて初めてなんで、緊張しちゃって。誰かが妹を呪っているようなんです。
尚哉は、その声が歪んでいないことに気が付いているようだ。
高槻:なぜそう思ったんですか。
琴子:妹は(陸上部の)山崎彩音なんです。
怪異にしか興味のない高槻が理解できないでいると、尚哉がスマホで画像を見せながら、スポーツ推薦で入学した自分たちの学年では一番の有名学生であることを説明する。
スポーツ推薦で大学に入った妹が、入学して2週間目から記録が伸びなくなったという。
高槻は、姉が「二週間目」とはっきり述べたことから、理由に心当たりがあるのではないかと、琴子に尋ねた。「二週間頃ではなく、二週間目」とはっきり時期が判っていると。
琴子:はっきりそれだとわかっているわけではないのですが、自分が練習を見学していた時、彩音が自分のタオルで汗を拭こうとしたところ、タオルに針が混入しており、それは女子マネージャーがゼッケンをつけるときに誤って混入したもので、マネージャーさんは何度も謝ってくれて、その日はいいタイムがでなかったのですが、私もあんなことがあったからだなと。なのにそれから彩音の記録が全く伸びなくなってしまって。
すると、昨日これ(針)がシューズの中に と、ハンカチに包んだ針を見せた。
尚哉:それ、呪いっていうより、嫌がらせじゃないですか?
琴子:(首をふり)私、藁人形を見つけたんです。
高槻:素晴らしい。
琴子:素晴らしい?
高槻:人を呪う動機は何か?それは古来より「恨みと嫉妬」です。人は許せない相手、そして手に入れられないものを持っている相手を呪ってきた。平安時代、人は役職や住んでいる場所で呼ばれ、本名は隠していました。それはなぜだと思いますか?
琴子:さぁ?
高槻:(琴子の手を取り立ち上がらせ)名前を知られると、呪いに使われる可能性があるからですよ。それほど人は呪いを恐れていたんです。
琴子が引いているのを恐れる尚哉が、やきもきしている。高槻に落ち着くよう促し、高槻は琴子の手を離した。
高槻:ということで、呪いを軽んじてはいけません。
と、琴子に告げるのだった。その藁人形を見せて欲しいと頼むと、琴子は「そんな恐ろしいもの触れません。丁度お掃除の人がいたので、片づけてもらいました。」と言うと、高槻は「もったいない。」と残念がるのであった。妹の彩音もこの部屋に連れてきて欲しいと頼むが、「妹をこれ以上不安にさせてたくない。」というので、彩音へのヒヤリングは助手とされた尚哉が行うことになった。
構内掲示板で、アルバイトの掲示を見ている彩音をみつけた尚哉、さりげなく接しようと意気込んでいるが、怪しまれて上手くいかない。そこへコミュニケーション能力の高そうな 難波要一(尚哉の同級生) - 須賀健太 が現れ、うまく状況を聞き出してくれていた。奨学金をもらっていても、シューズ代や身体のメンテンナンスにお金がかかるらしい。一人親で、姉が必死で働いてくれているから、頼れないという。難波が「人ってなんでも持っているわけじゃないんですねぇ。」というと
彩音:最近記録が伸びなくなっちゃって、うまくいかない理由がわからないんだよね。
その声は、確かに歪んでいたのだった。
去っていく彩音を明るく励ます難波、その肩を叩き尚哉は「お前が(先生の)助手をやるべきだ。」と、掲示板の前を離れていくのだった。
ベンチを囲む大木を調べている高槻
ヒアリングの内容を伝えた尚哉をほめる。また尚哉は、彩音が、不調の原因がわからないという声が歪んでいたことを伝えた。「この(能力の)ために、自分を助手に誘ったんですよね。」とも言うと、高槻は「それだけじゃないよ。」という。
尚哉:いままでずっと、うそが判るってバレると(相手に)警戒されてました。嫌がられるよりずっといい。先にお伝えしておきますけど、本人にウソをついているという自覚がない場合は、声が歪みませんのでお役に立てません。(彩音が)「うまくいかない理由がわからない」という声が歪んだので、彩音さんは理由をわかっている。つまり呪われている自覚があるんだと思います。
高槻:だとしたら、身近な人間であるという可能性が高いね。今日の放課後時間ある?
尚哉:ありますけど。
夕方、大学の食堂で綺麗目女子の格好で生方が、尚哉の隣の席にやってくる。これが彼女のバイトスタイルらしい。彼女は尚哉のことを「大仏君」と呼び、ここのメニューのおすすめはナポリタンで、蕎麦もなかなか美味しいという。最初、生方であることに気づかず、生方に自分が「大仏柄のカップ」を高槻の部屋で出されているため「大仏君」と呼ばれていることを説明される。塾のバイトに出るときの格好には37分かかるので、研究室ではやっていないそうだ。ここで、高槻に報告するフィールドワークの内容があるらしい。そこへ高槻がやってくる。
食堂の離れた席には、彩音を含む陸上部の女子たちがいる。一緒にいるのは彼女の中距離走のライバルや彩音と奨学金を争って負けた女子。そして、2年生の女子マネージャーは、元は選手だったがケガで競技を断念したという。生方の報告に、「全員気になるね。」と高槻は言うのだった。
食事をしている彩音が、急に口に刺さった針を掌に載せた。床には複数の針が散らばり落ちる。
歩み寄った高槻が、ハンカチに針を受け取る。シューズにも針が入っていたことを尋ねる。他の女子たちも顔を見合わせている。彩音が荷物を取って帰ろうとすると、今度は頭部と左腕に針がたくさん刺さった藁人形が、荷物から床に落ちるのだった。驚いた彩音は、荷物を持って食堂から走り去る。
藁人形を拾い上げた高槻は、残った女子学生たちに話を聞かせて欲しいという。
「これは、あの場所にいた人なら誰でも置くことができた。」と高槻。「自分たちを疑っているのか?」と一人が尋ねると、「事実を言っているだけだよ。」と高槻が言う。
高槻:そこでもうひとつ検証したい。彩音さんのシューズに入っていた針は、誰なら入れられたと(君たちは)思う?
ライバル学生:誰にも入れられないですよ。彩音のお姉さんは彩音にべったりだから、気づかれずになにかするなんて、不可能。
高槻:物理的に針が入れられるのが不可能ってなると、考えられるのは「呪い」だけど。
奨学金に敗れた学生:呪い。入学してからすぐ、彩音がケガするよう神社にお参りに行こうかって言ってたよね。
ライバル学生:はぁ?冗談ですよ。それにもう呪いなんかに頼る必要ありませんから。
高槻:必要がないって?
ライバル学生:彩音明らかに本気出せてないし、あれならそのうち実力で勝てます。
生方:なつめさんは彩音さんにスポーツ奨学金で負けたって噂があるけど。
奨学金に敗れた学生:うち親が会社やってるんで、別に奨学金なくても関係ないの。彩音の方は、奨学金が決まらなかったら大学進学諦めてたらしいから、必死だったと思うけど。
高槻は、尚哉が皆うそを言っていないと首を振っているのを見る。
生方:相沢さんはケガをする前は選手だったんですね。
女子マネ:はい。でも私は選手を支える方が向いてたなって思ってます。琴子さんと同じ。
高槻:琴子さん?
女子マネ:元選手だったんでしょ。だから彩音のメンテナンスとかも指導してる。にしても彩音心配だよね。
ライバル学生:やめるとか言い出しちゃうかも、それは寂しいですね。
女子マネ:彩音には皆を引っ張ってってもらいたいし。
奨学金に敗れた学生:彩音はみんなの希望だしね。
学生たちのウソに苦痛を覚える尚哉。ついには食堂で倒れてしまうのだった。
目が覚めると、そこは高槻の研究室のソファーだった。「嘘をつくと声が歪んで聞こえて不快であることを理解していたのに、ごめんね」と藁人形を触っていた高槻が謝る。
尚哉:いえ、先生が運んでくれたんですか。
高槻:そう。
尚哉:(羽織っていた高槻の上着を、丁寧にソファーにかける。腕時計は21時を過ぎている。)先生、ご家族とかはいらっしゃらないんですか。俺はもう大丈夫なんで、先生もう帰ってください。
高槻:独り暮らしだから、気にしないで。
尚哉は、高槻が「僕も独り暮らし。自由でいいよね。」と言っていたことを思い出した。
尚哉:先生のご実家は遠いんですか?
高槻:(グラスに注いだ水を尚哉の前に置きながら)世田谷だよ、ここから電車で一時間ぐらい。両親も健在だけどほとんど連絡は取っていない。親といるより、独りでいる方が楽だというのは同じだね。
尚哉:俺、こんな自分が嫌なんです。
高槻:どうして
尚哉:人って簡単にうそをつきます。保身のため、見栄のため、親しいと思っていても平気でこっちを欺きにかかる。声が歪むたびに、俺は人に失望するんです、勝手に。傷つきたくなかったら、誰とも親しくならねければいい。線を引いて、うわべだけの話をして、空気にあわせて笑って、絶対に線の向こうには踏み込まない。だから、サークルも入りません。親友を作る気もない。楽しい大学時代なんて、俺には縁がないんです。でも・・・でも。
高槻:お腹すいたでしょ。インスタントスープくらいなら作れるから、一緒に食べようか。
校外で、高槻は「本当に大丈夫。歩くのが辛かったらほら。」とおんぶの姿勢を作る。尚哉は遠慮するが「さっきはこれで運んだんだよ。」という。ご迷惑をおかけしましたと、帰ろうとする尚哉に首をふる高槻。歩き出しながら尚哉が尋ねる。
尚哉:結局あの三人は呪いに関わっているんでしょうか?
高槻:三人とも言っていることに筋は通っていたし、呪うほどの強い動機はないと感じた。彼女たちじゃないと思うな。
尚哉:そうですか。あぁ、すいません。解決しなきゃいけないのは分かってるんですけど、なんか・・・。
高槻:なんか?
尚哉:俺なんて、何百人もいる新入生のその他大勢だから、彩音さんみたいに目立った人がいると、嫉妬すると思うんです。あの三人が呪いに関わってなくてよかった。
高槻:(微笑みながら)深町君、君は本当に優しいね。
尚哉:それ、やめてください。恥ずかしいんで・・・。
高槻:だってそう思うんだもん。今日分かったことで確認したいことができたんだ、明日調べてみようと思うんだけど、明日も助手やってもらえるかな。
尚哉がうなずいたのを喜んで、高槻は先を歩いていく。尚哉も嬉しそうにその後をついていくのだった。
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