ピンセット
これを使って擂った人参や林檎、小さく裂いたピオーネをキリギリスにあげるようになるまで
1年という時が必要でした。
使ったほうがキリギリスが食べやすい量を食べやすい所に食べやすい高さで置いてあげられて
怪我をさせる可能性が最も低いと確信を得るのに要したのが1年間だったのです。
今の僕の経験と知識があればキリギリスは孵化から終齢になるまで育てることができます。
終齢後もなるべく不自由さを解いて栄養の偏りも少なく長生きさせることも可能です。
それは6年前から愛情を持ってキリギリスを知りたいと思い続けてきたからなのですが
最初は特にそうですが大切にしたいという思いがどうしても先走るようで
育てるために精根尽き果てる寸前まで全力を注いできたつもりでも
何かを成し得る時に一度も過ちを犯すことなく成就させるなどということが不可能なように
あの時に今の知識があればと思うことがしばしばあります。
ソニアと名付けた♀は、この世を旅立つ何日か前に僕の手のひらで卵を産みました。
通常ではあり得ない行動でした。勝手な思い込みですが僕に託してくれたような気がしています。
その時期、札幌は既に雪が降っていて、野草を鉢植えして持って来てあげる発想もなくて
でも生活環境を少しでも良くしてあげたかったので
1日おきに野草を持ち帰ってケースの中に入れていました。
ある日、真っ白な雪の絨毯の一箇所に赤いものを見つけました。
ムラサキツメクサ 何故か一本だけ咲いていました 非常に稀なことです。
少しは喜ぶかななどという軽い気持ちで持ち帰ってソニアのケースに入れると
ソニアは迷うことなくムラサキツメクサに近づいてきました。
少し口にして あとは花を抱いていました。
傍を離れませんでした。
花を掴み続けていました。
僕は
涙が止めどなく溢れて、抑えられなくて もうどうしようもなかった。
稀に咲いていた花を、ほんのささやかな気持ちで持ち帰ったものを
君はこんなにも待っていたのか
喜んでもらえた でも君には足りなくて遠すぎて遅すぎたのか
キリギリスを愛し卵まで託された人間と
故郷に咲いていた花を待ち焦がれていたキリギリス
冬に咲くはずのない花
導かれたところは忘れられないあの日
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