唯物論者

唯物論の再構築

中国反日暴動

2012-09-17 02:37:53 | 政治時評

 昨日、尖閣諸島の日本政府による民間人からの土地収用に対し、中国全土で大規模なデモが行われ、それらが暴動となった。この暴動は、日本と関わる全ての商店・工場・公道の車両、および民間人に対する破壊行動、および暴力として吹き荒れている。その破壊活動は、破壊対象の所有者が中国人であるか日本人であるかを問わずに行われたが、中国当局はその盲動を容認せざるを得ない。なぜならその暴力の自己正当化の根拠を、中国の現体制が拒否できないからである。破壊者たちも、行為の全てを反日=愛国として自己正当化することで、自らを守る術を知っている。反日行動の主役は、中国共産党ではなく、中国民衆の側に移っている。それは事実上の反体制運動になっている。同じ図式は、日本ではかつて尊王攘夷として発生したし、中国でも文化大革命として発生した。一番の注目すべき点は、今回の暴動で、嘲笑いながら政府治安部隊を蹴散らす群集が、民衆弾圧に終わった天安門事件以来、ついに共産中国に登場したことである。

 今回の暴動では、デモ参加者たちは政府治安部隊を全く怖れていない。それは当然である。政府が彼らの主張を容認しているし、そもそも反日は中国の国家政策として、江沢民時代に確立した路線として存在しているからである。したがって中国国民から見ても、中国共産党にはこの暴動を終焉させる権利は無い。うかつに中国政府が反日行動の抑制をかけるなら、今度は中国政府が非愛国者になってしまう。つまりその場合には、中国政府は日本政府の犬だとみなされてしまう。この図式は、韓国政府が日韓協調を素直に進めることができない現状ととても良く似ている。中国と韓国は、両者ともに政権の正当性を国民にアピールするのを目的に、反日を国是に据えてきた。この国是の役割は、国民の不満の対象を日本に向けることで、政治問題の責任から政権を回避させることにある。その主張に従うと、現時点の政治的困難は、100年以上遡る形で、全て日本の責任となる。それは領土問題についても然りである。しかし反日を国家政策として取り込んだ結果、韓国の政治では常に、対日攻撃が国内問題に優先することとなった。このために韓国の政治は、常に日本政府の援助を当てにしながら、日本政府を罵り続けるという奇妙な状態から抜けられなくなってしまった。韓国政府は、自ら樹立した国是によって、逆に自らの行動を縛りつけたわけである。とはいえ、このことは日本の経済的地位から見れば、朗報とも受け取れる。なぜなら政治的合理性は、経済活動の合理性と切り離すことはできないからである。長期的に言えば、不合理な政治を続ける国に対して、日本は市場競争での脅威を感じる必要は無い。それは中国に対しても同じである。
 中国における攘夷運動が今後どのように展開するかは、予断を許さない。少なくとも反日暴動の自然消滅だけは、絶対に起きない。中国の国是の変更が無い限り、むしろ反日暴動は必ず増大するはずである。またそのときの中国政府は、韓国を見習うように、対日強硬姿勢から抜けられなくなっているはずである。つまり韓国の現状のように、うかつに中国政府が日中協調を進めるなら、政府批判が中国全土で炎上せざるを得ない。一方で今回の反日暴動は、中国が既に東欧革命と似た局面に突入しているのを示している。ベルリンの壁の権威は、ドイツ国境警備隊の脅威が守っていた。しかし既に中国民衆は、国境警備隊に対して脅威を感じていない。ドイツ国境警備隊が同胞の射殺を拒否したように、中国治安部隊も同胞の鎮圧に既に及び腰だからである。そもそも中国政府自らが反日行動を礼賛している以上、政府機関の一部としての治安部隊に、反日暴動の鎮圧などできるわけが無い。ベルリンの壁がどうなったかは、世界中の人が知っている。したがってこの次に中国で何が起こるかは、もう誰しもが知っているわけである。

 共産主義ソ連が崩壊した後に、ロシアでは民族主義を国是とする資本主義が誕生した。この民族主義国家の登場により、日本の北方領土問題の解決は永久に不可能となった。現状では、共産主義中国が崩壊した後に誕生すると予測されるのは、ロシアと同様に、民族主義を国是とする資本主義の新中国である。果たしてこの新中国は、どの程度冷静で、どの程度横暴なのかは不明である。もちろんそれは今の共産中国についても同じかもしれない。しかし現時点の中国の民主主義は、ロシアの場合と同様に、領土問題の解決には逆効果になりそうである。つまり民族主義新中国が誕生するなら、日中間の対立は悪化の一途となると予想される。民族主義が吹き荒れる中国の状態は、理性を失って戦争に突入していった戦前の日本の姿にかなり似ている。誰もが非愛国者と呼ばれるのを怖れており、中国では既に対外的な強硬論をなだめるものが見当たらない状態に入っている。
 ここで難しいのは、日本の今後の対応である。戦後日本の外交は、ソ連を除けば、中国などの近隣国との経済の一体化を進めることで、戦争の脅威からの回避を目指してきた。しかし中国の経済的自立の自信、そして今回の反日暴動は、このような戦後日本の賭けを無にするものに見える。また今回の事件は、日系企業も中国への資本進出の意欲をそぐはずである。田中角栄と周恩来が始めた日中友好の40年の歴史は、壊滅の危機にあるのかもしれない。もしそれが壊滅するのであれば、アジア発の世界最終戦争も含めて、あまり明るくない未来がこれから待っているように見える。

[2012.09.19追記]
 筆者の尖閣諸島の領有権についての見解は、どちらかと言えば中国寄りである。ただし中国が言うような14世紀に中国が発見したという見解には興味は無い。おそらく紀元前から台湾と石垣島の漁民は、尖閣諸島の存在を知っているはずだからである。筆者の見解が準拠するのは、井上清の見解である。彼は、江戸時代に民間レベルで魚釣島が中国領土だという日本国内の共通認識が存在していたと考えている。ちなみにこの見解のように林子平の海図に従えば、今度は逆に台湾が中国領土ではないという結論が出てくる。一方で、魚釣島に限らず中国の国境線は、常に変動してきたわけで、なぜそれが現代でも有効とみなし得るかと言われれば、あまり良い回答も見つからない。この水掛け論に終止符を打つには、日本は敗北を前提に国際司法の調停を仰いだ方が良いのではないかとも思える。(2012/10/01:その後にインターネットに出てきた見解を見ると、日本側の敗訴を想定した筆者の見解とは違い、判例に従うと国際司法に提訴しても、尖閣諸島は結局日本領になる見込みのようである。)

 なお上記の中国の反日デモは、柳条湖事件記念式典がピークとなると見込まれていた、このデモでは、先日を上回るさらなる激しい破壊と強奪が起きると思われていた。しかし中国当局の厳しい警護がデモ隊の動きを封殺した結果、一部の投石行動を除けば、その反日デモは平穏無事に終わった。ただし今回のような暴動は、これで終りではなく、さらに過激な形で繰り返すはずである。なぜなら格差に対する中国民衆の怒りは、その発散相手を必要としているからである。中国に限らず、格差に対する民衆の怒りは、安心して発散できる相手に対してだけ爆発する。中国や韓国にとって日本は、権力に対して気兼ねすることなく、安心して怒りをぶつけられる相手なのである。
 良く知られているように、共産圏を含めて原理国家や独裁国家での文化的な娯楽は、国家にとって当り障りの無いスポーツや古典芸能としてのみ存在する。なぜなら自由な文化的娯楽には、反体制思想が侵入する余地があるためである。同様に原理国家や独裁国家での善は、国家にとって当り障りの無い愛国主義や民族主義としてのみ存在する。しかし愛国主義や民族主義は、対外的比較としてのみ存在する善である。それらは過激になればなるほど、自ら成長せずに、比較する他者を貶め、暴力的にその殲滅を目指す悪へと容易に転ずる。このために民衆の怒りが激化するなら、それにつれて、安心して発散できる相手に対する暴力もますます過激になる。なにしろ怒りの相手はもっぱら外国人であり、自国内では無権利状態の弱者である。争うことのできない相手をいじめるのは、人間として恥ずかしいことなのだが、独裁国家ではそれが美徳として現われる。それは子供の鬱積した怒りが、弱者のいじめへと向かうのと全く同じである。ただし国家権力の狙い通りなのは、そこまでである。この愛国自慢の競争は同胞に対しても向けられている。自称愛国者は、自らに対立する同胞を非愛国者と罵るようになり、最後には国家に対してもその非愛国性を罵り、牙を向ける。非愛国者と呼ばれると生きていけない社会では、誰も愛国者に対して歯向かうことができない。それは国家も同じである。愛国主義は、独裁国家が自ら作った弱点である。独裁国家は、最終的に国家自らが、自称愛国者により滅ぼされる。愛国主義者に対する権力者の自己防衛は、当然ながらそれ以上の愛国主義を表明する道しか残っていない。この果てし無い愛国競争が本当に愛国かどうかと言えば、それが国を滅ぼす限りで嘘である。このような愛国主義は、真実の隠蔽を目指す観念論として現われ、真実を暴露しようとする唯物論を弾圧する。したがって前面に出てくる愛国主義とは、もっぱら愛国を自称するだけの偽愛国である。日本の戦後は、この偽愛国の反省から始まった。ところが中国は、偽愛国が跋扈した文化大革命に対して反省が不十分である。このために中国は、文化大革命での大混乱を経験している割に、日本ほどには愛国がもたらす悲劇を理解できていないように見える。
(2012/09/17)


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