(3a)生産性向上がもたらす消費財量の増大
生産性向上がまず目指すのは、生産消費財の増大である。しかし過剰に消費財が生産されると、その余剰消費財は消費されることなく廃材に転じる。そして余剰消費財の廃棄は、そのままその余剰労働力の廃棄に等しい。結局その廃棄が表現するのは、余剰労働力の生活不能である。そうであるとしても、余剰消費財は生産者の生活の安定させ、うまくすれば生産者に致富をもたらす。それゆえにさしあたり生産者は、自らがもたらす余剰労働力の生活不能について配慮しない。この余剰労働力の発生に至る前の消費財生産数は以下になる。
なお下記では生産性増大比を生産性向上係数Aとして表現した。当然ながらA≦1ならその部門は生産性を向上しないし、A<1ならその部門は経済部門としてそもそも存立できない。そして部門の拡大再生産は、基本的にA>1を前提する。ただし生活を縮小させる形で生活単位Nmの内容が縮小すれば、A<1でも一方に貧困を強いる形で、他方の富裕も可能である。
≪表4:生産性向上により変化する消費財生産数≫
(3b)生産性向上がもたらす消費財量の増大
消費財単位価値は、さしあたり倍の2なら半減する。さらに生産性向上係数が大きくなれば、その逆数に反比例して消費財単位価値は激減する。逆になんらかの事情で生産性向上係数が1より小さくなると、その逆数に反比例した消費財単位価値は増大する。ただしあらかじめ注意すべきなのは、この単位価値が廃材となる余剰消費財について配慮していないことである。それは投下労働力を消費財の生産量で按分しただけの単位価値である。ところが生産性を向上させた生産者の意図と別に、余剰消費財は消費されることよりも、そもそも余剰であることに意義を持つようになる。それは消費されないことに存在意義を見出す予備の消費財であり、消費される消費材がその分の価値交換を肩代わりして上乗せる。当然ながらその単位価値は、投下労働力を生産量で按分しただけの単位価値よりも大きい。そして端的に言えば消費財の単位価値は、投下労働力を生産量で按分した値ではなく、交換量で按分した値でなければいけない。上記の投下労働力を生産量で按分しただけの単位価値は、消費財生産に必要な労働力量に単純に対応するだけに留まる。結果的に労働力の生活価値が消費財の単位価値を、現状の消費財生産において維持すべき労働力量を過去値として始め、消費財生産に必要な労働力量を目指すべき未来値として擁立する。ただしその未来値は、すぐに実現するわけではない。現状の消費財生産における労働力は、自らを維持せんとするために消費財の単位価値の維持に連携し、消費財量増大に対して反発する。
(3b1)部門の一部から始まる消費財量の増大
上記表は二部門の両方で生産性向上が進む場合である。しかし生産性向上は、まずどちらか一部門から始まる。さらに生産性向上は、その部門内の一部から始まる。そこで生産性向上を一部門の中の一部だけに限定すると、下記要領になる。なお下記表では第二部門および部門全体の表を省略して、一部で生産性向上が進行する第一部門だけの影響を示す。さしあたりその省略した項目のうちで変化する項目は、第一部門全体の生産性向上係数Aftであり、その値は(Af1・Mf1+Mf2)/Mtとなる。ただしここでは部門内の同じ消費財が部門全体に現れるので、部門全体の単位価値を考察することが可能となる。一方で生産性を向上させた生産者にとって、最初は消費財の交換量の上限が現れない。それゆえに消費財単位価値は、ここでも消費財の生産量で単純に按分した単位価値で示される。
≪表5:一部門の一部の生産性向上により変化する消費財生産数≫
消費財単位価値に対する生産性向上係数の影響は、前項で述べたものと変わらない。消費財単位価値は、生産性向上係数の逆数に反比例して激減する。ただここでは同一消費財を生産する二部門における生産性向上を示しているので、第一部門全体の消費財生産量と消費財単位価値の変化を見ることができる。細かい話を省くと、第一部門1の生産性向上は、第一部門1の消費財単位価値を減少させるだけでなく、その効果を薄める形で第一部門全体の消費財単位価値も減少させる。要するにその消費財は、部門全体で以前よりも低い価値しか表現しない。一方で第一部門2の生産者は、以前と同じ労働力で消費財を生産する。ところがその商品は、以前の価値より低い価値でしか交換されない。すなわち第一部門2の生産者は、多い労働力を投じて消費財を生産し、それより少ない労働力を得る。この効果は、生産性向上を実現していない第一部門2の生産者にとって痛手である。他方で第一部門1の生産者は、第一部門2の生産者に痛手を与えた単位価値の減少分を原資にして余剰価値を得る。
(3b2)特別剰余価値
生産性向上が部門の限られた範囲で始まると、消費財1単位についてその単位価値は縮小する。ただし生産性向上が部門の狭い範囲だけで実現しているなら、該当消費財は旧来の価値で取引される。その消費財の価値は以前のままである。例えば生産性向上係数Aftが倍増を表す2だとすれば、消費者にとって消費財の単位価値は、以前の半分である。逆にこの消費財の価値は、生産性を向上させた生産者にとって2倍の価値である。それはその生産者に、消費財1単位における(∮p-∮p’)の余分な利益をもたらす。ただしその生産性向上者における2倍の価値が前提するのは、以前と同じ数量での生産消費財と必要消費財の交換である。もし生産性向上後の投下労働力量に従う形で、以前の半分の生産消費財と必要消費財の交換されると、今度は消費財生産量が倍増しても、その収得する消費財必要量は等倍のままに終わる。その半値になった2倍量の消費財は、以前と同様の等倍の消費財必要量と交換されるだけである。この場合に生産性向上で現れた余分な利益も、夢の如く消失する。生産性向上が垣間見せる2倍の価値は、単純に生産性向上で増大した生産消費財の量を表現するだけである。一見するとこのことは、生産性向上の努力を一過性の安楽の追及にする。そして科学技術の爆発的進歩にも関わらず、実際にいまだに人間生活の多くは、最低限の人間生活を実現するだけに留まる。さしあたりこの安楽の一過性は、この人間生活の現状を説明する。しかし生産活動は生活行動の一部なので、生産活動が安楽になれば生活も安楽になる。この効果は累積的に人間生活の全体的安楽の実現をもたらす。この点で科学技術の爆発的進歩に比して小さい人間生活の安楽の現状に対して、疑問の余地は十分残っている。ただどのみちそうであるとしても、ここでの生産性向上がもたらす価値の半減は、生産性向上技術が部門全体に拡散するまで実現しない。それゆえに生産性向上を実現した生産者は、自らの生産消費財の全てを必要消費財と交換できる限りで、以前の2倍の生活を可能にする。その収得価値の増分は、生産性向上がもたらす余剰価値である。それは、マルクスの言うところの一過性の特別剰余価値である。
(2023/03/31)
続く⇒第一章(3)消費財増大の価値に対する一時的影響 前の記事⇒第一章(1)消費財生産モデル
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル