唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第一章:基本モデル(3)消費財増大の価値に対する一時的影響)

2023-04-03 19:16:26 | 資本論の見直し

(3c)消費財量増大の価値に対する一時的影響

 消費財生産量の増大は、それに対応する消費財必要量の増大を伴わなければ、その増分の分だけ余剰消費材(=廃棄消費財)を生む。この余剰消費財量の全体は、部門全体の消費財必要量を上限にした消費財生産量の超過分である。一方で交換される生産消費財の割合は、同一消費財生産部門の異なる二生産者の間に生産消費財に差異が無いのを前提すると、単純に消費財生産量の割合に従う。そして生産性向上後の消費財生産量の割合は、既存の消費財生産量の割合に生産性向上係数が反映したものとなる。そしてさらに既存の消費財生産量に余剰消費財量が無いのを前提すると、同一消費財生産部門の異なる二生産者における既存の消費財生産量の割合が、そのまま二生産者における生産消費財の部門内占有率となる。また既存の消費財生産量の全体は、部門全体の消費財必要量のさしあたりの上限として現れる。この部門内占有率を加味して上記表を訂正すると、次のようになる。

≪表6:一部門の一部の生産性向上により変化する消費財生産数の2≫

 生産性向上を果たした生産者とそうでない生産者において、廃棄消費財が生産量に相応して現れる。このためにその分の廃棄労働力は、それぞれの生産消費財の単位価値に上乗せされる。ただし上記の結果から言えば、この廃棄労働力の上乗せに関わらず、生産性向上を果たした生産者の生産消費財の単位価値が減少する。これに対して生産性向上を果たしていない生産者の生産消費財の単位価値は、部門内占有率の減少に伴って増大する。


(3c1)価値と価格

 生産性向上を果たした生産者の生産消費財は、単位価値が減少する。しかしその分だけ部門内占有率の増大があるので、彼は自らの投下労働力を消費財交換で回収できる。これに対して生産性向上を果たしていない生産者の生産消費財は、部門内占有率の減少があるので、自らの投下労働力を消費財交換で回収しようとすると、その生産消費財の単位価値が増大する。他方でいずれの消費財も、市場において同価値で交換される。それゆえに交換の結果、生産性向上を果たした生産者は、自らの投下労働力を超えた消費財を受け取る。逆に生産性向上を果たしていない生産者は、自らの投下労働力に見合わない消費財を受け取る。ここでの生産性向上を果たした生産者が受け取る余剰消費財は、以前であればもう一方の生産者が受け取っていた消費財である。端的に言えばそれは、他者の予定受け取り分を奪取したものである。ここで市場に現れる消費財単位価値は価格であり、それは二種類の生産者が必要とする消費財単位価値と乖離している。すなわちそれは、価格と価値の乖離である。それは一方で価値の未来と過去を代表する。ただしその乖離は、全体と部分または一般と個別の乖離にすぎない。さらに言えばそれは、一般価格と個別価格の乖離である。したがってここに価格と価値の乖離は無い。それは全体と部分の乖離にすぎない。それゆえにここでの一方の生産者による他方の生産者の予定受け取り分の奪取は、市場交換の巷に常に存在する出来事に留まる。なるほどその奪取は、奪取される生産者にとって確かに災難である。しかし生産性を上げる優位の生産条件が全ての生産者に開かれているなら、その災難は非道の責めを受けるものではない。その場合に他の生産者は遅ればせながら、同じ生産性向上を自分が実現することができる。その災難が非道となるのは、優位の生産条件を特定の生産者が支配している場合に限られる。


(3c2)生活単位の二極分離と収束

 余剰消費材量は、そのまま生産からそれに対応する余剰労働力を部門から排除する。したがって生産性向上は、一方で生産者の生活をより富裕にし、他方で余剰労働力を廃棄する。それは一方の富者の生活単位の内容増大であり、他方の貧者の生活単位の内容縮小である。ここでもし貧者の生活単位の内容が極度に委縮すると、貧者の生活が壊滅する。この生産増大の局面で生活単位Nmは二種類現れる。その生活の富裕と貧困を決めるのは貧者の生活単位である。すなわち生活単位Nmは、常に貧者の生活単位である。ただしこの富者と貧者の格差は、貧者の生活壊滅へと直線的に進まない。生産性向上は、同じ部門の生産性優位者と劣位者の両方に余剰消費材をもたらす。さしあたりまずこの余剰消費財の分散は、一方的な余剰消費財の増大を縮小させる痛み分けになる。次にこの余剰消費財は、労働力の余剰に等しい。それゆえに余剰消費財は、生産性劣位者において余剰労働力の活用可能性を成す。余剰消費財は廃棄されるので、それはあらかじめ生産する必要も無い。その不要化した生産時間は、余剰労働力を自由にする。一方で技術発展には技術発展の素地が必要であり、端的に言えばそれは余裕である。さらに言うならその余裕は、自由に等しい。そして生産性劣位者にとって労働力の余剰は、強制された余裕だとしても、やはり劣位者を自由にする。そして自由がある限り、彼にはまだ貧困を挽回する機会がある。したがってここでの貧困は、特別剰余価値の対極に現れる一過性の特別損失だとも言い得る。ところが部門分割による生産消費財の限定は、余剰消費財の用途を限定する。当然ながらそれは、劣位者の自由を制約する。それゆえにこの用途限定は余剰消費財の発生を、余裕の発生ではなく、貧困の発生に変える。貧困を挽回する機会を失った劣位者の人生は、優位者の手に握られる。価値単位としての労働力が表現する生活単位は、このような最低限の生活である。

(2023/03/31)
続く⇒第一章(4)価値単位としての労働力   前の記事⇒第一章(2)生産と消費の不均衡

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


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