(3d8)統括労働
部門の統括労働は、消費財生産のための部門内支援労働に含まれる。それは部門内の生産労働の全てを統括し、生産消費財の生産とその交換消費財の分配を決定する。さしあたりその最初に登場する統括者は、ただの直観により部門を率いる。しかしその直観は、必ずしも正しくない。その出鱈目さから言えば、その統括労働の端的な姿は、当たるも八卦、当たらぬも八卦の占いである。それは祭事として集約される。しかし占いは、当たらなければ無益である。それゆえに精度が高くて当たる占いだけが淘汰される。それは経験に裏打ちされた占いであり、知識であり、物理に即した知恵である。このような占いは学問に転じ、統括労働を政治に変える。したがって言い方を変えると、学問は物理に従う占いであり、政治は物理と親和する祭事である。もし占いと学問に差異を見出さなければ、祭事と政治の間も差異は無い。しかし両者はその論理の起源において異なる。端的に言えば占いは意識の無に起源をもち、学問は物体に起源を持つ。それだけで言えば祭事は迷信であり、虚偽である。ところが祭事は物理的真からの自由において部門に無方向な発展を与え、また憩いと安定をもたらす。その無は進歩のための冗長部分であり、存在のために必要な空隙を成す。そのような政治と祭事の生産消費財は、不特定の個人を相手に消費財交換される。またそれらの消費財が必要とされる時期も確定しない。それゆえにこれらの消費財は、部門全体またはその不特定多数の一部分を相手にして消費財交換される。そこで部門においてこのような政治と祭事は、余剰労働力が対処する。そしてそれらと同様に、部門にとって余剰労働力でのみ対処可能な労働が存在する。それは防災である。もちろんその筆頭は、軍事である。それらはもともと政治または祭事と一体にあるが、次第に政治または祭事から分岐する。他方で祭事自身も、宗教と芸能に分岐する。これらの統括労働が生産する消費財は、単なる物品やサービスではない。それは真理であり、善であり、美である。その普遍的特性は、不特定な相手に不特定な時期に提供されるそれらの消費財の性質が限定する。
(3d9)消費財生産価値の基本構成
自立した間接生産労働力は、自らを支援労働として部門外に排出する。ただし生産部門は、全ての間接生産労働力を部門外に排出しない。間接生産労働には全部門共通のものもあれば、部門に固有なものもある。それゆえにそれぞれの間接生産労働は、その支援範囲に応じて分化する。生産部門が固有の間接生産労働を部門外に排出しないのは、部門外から行う支援労働の困難にも従う。その部門内に残る間接生産労働力は、彼ら自身の生産性向上と無関係に、自部門から生活提供を受け取りその生活価値を実現する。生産部門が部門固有の間接生産労働力に提供する生活資材は、部門が実現した余剰消費財から支給される。したがってその余剰消費財は、実質的に有効消費財である。そしてそれに対応する間接生産労働力も、実質的に必要労働力であり、余剰労働力ではない。それゆえに該当部門の消費財単位価値も、単に直接生産労働力のための生活価値の大きさではなく、間接生産労働力の生活補填の分だけ上積みされる。一方でここで上積みされる間接生産労働の生活補填も、実質的に部門外に排出した支援労働に及ぶ。生産部門は部門外の支援労働力に対し、貨幣を媒介にして彼らに生活価値を引き渡し、その労働力を受け取る。その貨幣媒介を別にして言えば、生産部門にとって部門内外の支援労働の生活維持の必要に差異は無い。このことから消費財単位価値の基本構成は、次のようになる。大雑把に言うとそれは、可変資本としての労働力と固定資本としての生産手段の合算値である。
部門内生活価値(直接生産労働力+間接生産労働力)+部門外生活価値
(3e)部門内の生活消費財の分与
生産部門は生産消費財を生活消費財に交換し、その生活消費財の一部を部門外支援労働に貨幣形態で引き渡した後に、その残余の生活消費財を部門内労働力に配分する。このときに統括労働は、その残余の生活消費財を配分する役目を果たす。当然ながら統括労働力は、自らの労働に対する生活消費財分与を決定する権限を持つ。ただしさしあたりその生活消費財分与は、直接生産労働力が生産した余剰消費財を、間接生産労働力の必要消費財に充当するだけの部門内の労働力生活の平準化である。そしてその平準化の恩恵をあずかる間接生産労働力に、統括労働力自身も含まれる。したがって見方を変えれば、間接生産労働力は直接生産労働力から、その生産した余剰消費財を搾取している。その見方に従えば、間接生産労働力が直接生産労働力から搾取した余剰消費財は、剰余価値である。しかし消費財生産において両者の労働はともに必要労働であり、ここにまだ搾取は起きていない。搾取が起きるためには、該当部門が取得する生活消費財量が、該当部門の全労働力に必要な生活消費財量を上回る必要がある。そのときに部門内の労働力間に起きる取得消費財の不均衡が搾取である。そこでの取得消費財の不均衡は、基本的に統括労働力における取得消費財の増大として現れる。それは統括労働力が持つ生活消費財の分与権限に従う。ただしその収得消費財の不均衡も、余剰消費財が廃棄される限りまだ搾取として自己を実現しない。それが搾取として実現するためには、余剰消費財の貨幣交換を必要とする。
(3e1)生活補填を反映した消費財単位価値
部門内支援労働は、商業と貨幣を媒介にして自立し、部門から自らを排出する。その間接生産労働力は、部門内の余剰労働力でもある。そしてその排出は、その余剰労働力に対応する余剰消費財量を減少させる。しかし余剰消費財は、既存の部門内労働力の全体に作用する生産性向上の産物である。したがって余剰労働力は、掃いても掃いても部門の中に出現し、廃棄される。この点について上記に記載してきた消費財生産数の変化を、部門内支援労働の主だった排出後の生産性向上において確認すると次のようになる。
≪表8:一部門の一部の生産性向上により変化する消費財生産数の3≫
消費財の単位価値は、内実的に労働の生産性向上に応じて減少する。しかし部門全体の人数に変化が無ければ、部門全体の生活を維持するために増分補填される。しかしそれでもその取得価値量は、生産量を増やした側で増大し、生産量の変化しない側で減少する。そしてその相殺で以前と同じ部門全体の生活を実現する。このときに生産量を増やした側の取得価値増加分は、生産量の変化しない側の取得価値減少分に補填される。その取得価値の差分は、生産量を増やした側が生みだした余剰価値量であり、生産量の変化しない側が受け取る補填価値量である。
(3e2)部門全体の取得価値の水平化
上記に示した補填価値は、生産性向上が生みだした余剰消費財である。しかしそれは余剰消費財の廃棄を通じて、余剰価値の姿を失う。部門内の労働力は、それが直接生産労働力であろうと、間接生産労働力であろうと、またそれが必要労働力であろうと、余剰労働力であろうと、全員が等しく以前と同様の生活を続ける。その生活の平等は、部門における消費財生産が、部門内労働力の全員で一丸となって行うことに従う。基本的に生産性向上が現れるのは、消費財の直接生産工程である。しかしその直接生産労働は、間接生産労働の支援なしに実現しない。それだからこそ直接生産労働力は、間接生産労働力の生活を補填する。その補填は統括労働の役目であるが、別に統括労働力がいなくても直接生産労働力自身が行う。また統括労働力は最初から統括労働力であったのでなく、そのように間接労働に転じた直接労働力であったとも推測できる。ただし統括労働力は、直接生産労働力が生活補填する間接生産労働力の一部である。したがって統括労働力は、彼自身の生産性向上と無関係に、その生活を保証される。統括労働は部門が取得した生活消費財の一部を部門外支援労働力に提供した後、その残余の生活消費財を部門内労働力に配分する。さしあたり生産消費財全体の価値は、それらの労働力全体に必要な生活消費財量に等しい。しかし必要生活消費財量と本当に等しいのは、生産消費財全体の価値ではなく、必要とされる生産消費財全体の価値であり、すなわち有効消費財量の価値である。消費財の単位価値は、労働力全体に必要な生活消費財量をこの有効消費財量で割っただけの値である。そして労働力をその必要生活消費財量と同じものとして理解するなら、消費財の単位価値も労働力全体を有効消費財量で割っただけの値として簡略して捉えられる。それゆえにこの消費財生産価値の基本構成に、労働力間で取得する生活消費財量の不均衡は無いし、搾取関係も現れない。
(2023/03/31)
続く⇒第一章(7)剰余価値 前の記事⇒第一章(5)商業
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移