唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第四章:生産要素表(3)生産拡大における生産要素の遷移)

2023-12-03 10:10:25 | 資本論の見直し

(10)生産拡大における生産要素の遷移

 上記に記載した生産要素を一覧にすると、以下にまとまる。

[物財生産工程における基礎的生産要素]


[物財生産工程における生産要素の遷移]


ここで上記の生産要素の一覧で捨象してきた物財の価値量についても、以下にその遷移を追記する。

[物財生産工程における価値量の遷移]


もともと価値量と物財数は、10進数と12進数の違いと同様に、単位規模が違うだけの異なる量表現にすぎない。その変化を物財量と同様に追跡しても、上記表と同等の遷移を示すだけに見える。しかし上記遷移で見ると、不変資本導入後の拡大再生産で物財生産数が増大する一方で、物財価値量は増大していない。これは物財生産数の増大を受けて、物財の単位価値が下落したせいである。価値単位減少の場合に比べると、拡大再生産の剰余価値搾取は、純生産物価値量がx/(x+r)だけ減少する。つまり純生産物rを労働者から直接搾取する価値単位減少と違い、拡大再生産は純生産物rを大きくするほどに、その取得価値量rpを減少させる。それは単純に不労取得者自身における搾取の相殺を示す。この純生産物価値量の減少だけを見ると、拡大再生産は価値単位減少に比べて剰余価値搾取を緩和する。しかしこの緩和は、上記表が生産物を全て消費する前提に従う。ところが不労取得者がいくら貪欲でも、彼は貧民より何倍もの食事をできない。彼はせいぜい労力のかかる高級食材をそこそこ多めに食べるだけである。このことは食事に限らず、衣食住の全体に該当する。また無駄な消費は、不労取得者にとっても無駄である。特に不労取得者が金融資本家であるなら、彼にとって消費の抑制それ自体が拡大再生産を実現する。それゆえに不労取得者は自らの消費を抑制し、多くの取得価値が死蔵される。この場合に上記に見られた搾取の相殺は実現しない。一方で無駄な物財生産の拡大再生産も、消費不能な上限量で停止する。それは消費に対応しない物財生産を抑制し、資産家の贅沢に対応する物財に生産を集中させる。しかしこのような物財生産の拡大は、貧民にとって別世界の出来事に留まる。拡大再生産はそれだけでは、資本主義における生産と消費の不均衡、すなわち労働と所有の不均衡を解消しない。むしろその不均衡はより激化する。ここでさしあたり求められるのは、上記表5の価値単位増大かもしれない。しかしそれは、上記表を見るまでも無く、不労取得者の収益を減少させる。また不労取得者の裾野は薄く広く伸びており、その多くが自らの不労収益に満足していない。どのみち不労取得者にとって収益の減少は忌まわしき事態であり、彼は全力でそれを阻止する。ただしもっぱらその対策は、減少した収益を国庫から引出し、国庫経由で貧民に負担させるものとなる。


(11)生産拡大が前提する価値単位の相対的縮小

 上記表2でも上記表4でも拡大再生産は、価値単位、すなわち人間生活の物財生産数に対する相対的縮小を前提する。それは相対的縮小なので、生産増に比して小さい人間生活の増大でも拡大再生産は可能であり、生産減に比して大きい人間生活の縮小でも拡大再生産は可能である。したがって生産のための投下物財数aがゼロでも、価値単位cを以前より小さくすれば、拡大再生産が可能である。しかしこのことが逆に、投下物財数aの増大が価値単位cの減少より小さい場合に、縮小再生産を起こす。そして往々に景気後退局面でこの事象が発生する。それと言うのも価値単位cは、投下物財数aの減少を超える急激な減少に耐えられないからである。それゆえにこのことは、ケインズ式の財政出動による有効需要創出を有意にする。ただしその効能は、麻薬が持つ短期的効能と同じである。医者が治療に麻薬を使用する場合、医者は麻薬が苦痛を消す間に患部の治療を終了する必要がある。もし患部の治療が不十分だと、麻薬の効力が失われたときに、有効需要が増大させてきた人間生活の絶対的縮小が始まる。それがもたらす苦痛は、麻薬の投入前よりひどくなる。もちろんある程度の患部の治療がされていたなら、それなりに苦痛も麻薬の投入前より緩和する。しかし苦痛が再来する限り、さらなる財政出動による有効需要創出が要請される。そして患部の治療が進まなければ、国民経済全体の麻薬漬けが常態化する。このときに有効需要創出の出資者が、国民経済全体を牛耳る権利を得る。その出資者は、国民を相手にした債権者である。その出資者は必要であれば国民経済を破綻させるが、必要が無ければ国民経済全体の麻薬漬けを放置する。その債務利益は巨大なので、ほどほどに利益が出るなら出資者も満足するし、必要ならたまに損失が少々出ても困らない。もともと彼の収益の中心は、国債収入ではなく、もっと別の剰余価値搾取と金融利益にある。むしろ借金財政である方が、債権者は債務者を支配できる。支配者の心得は、領民を生かさず殺さずに支配することである。ただしこの意志は、具体的個人が体現するわけではない。またその意志の実現者も、自らが不労利益集団に選ばれた操り道具であるのを自覚しない。むしろ彼には基本的事実に対する無知と無自覚を要請される。単純に言うと彼の信念は、事実乖離した知であり、物理から遊離した純粋な観念論である。さもなければさすがに彼も、一方で事実を知りつつ、他方で虚偽を信じる自らの自己欺瞞を自覚する。そしてそのような信念を、不労取得者の相反する利害の全体が実現する。この意志が注意して監視すべきなのは、共産主義革命の勃発である。もちろんそのような危機を見越して、その意志はあらかじめ国民経済に破綻圧力をかけるし、共産主義者を事前に壊滅させる。もし事前にその壊滅に失敗して共産主義政権が樹立しても、彼は国民経済の破綻圧力によってその政権を瓦解させられる。なんなら実際に国民経済を破綻させることも彼は厭わない。その場合にその意志は、共産主義者の自滅を期待して、自らの拠点を国外に移す。事前の準備さえしているなら、彼の損失も限定的である。さしあたりの歴史的経験から言えば、共産主義者たちは自滅する。そうであるなら彼の国民経済の掌握は、再出発可能である。そのための資金に彼は困ってもいない。現状の経験から見ると、むしろその後の支配者の地位は、共産主義者の失敗を経ることで、より盤石なものになる。
(2023/12/03)

続く⇒第四章(4)二部門間の生産要素表   前の記事⇒第二章(2)不変資本導入と生産規模拡大

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


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