カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

マタイ福音書「山上の説教」について・その2(学びあいの会)

2017-06-26 21:13:37 | 神学

 2017年6月26日の「学びあいの会」は前月に続いてマタイ福音書「山上の説教」です。前回は第5章の真福八端が中心でしたので、今回は6章・7章に進みました。今回は勉強というよりはともに聖書を読み、味わい、祈るというもので、なにか聖書講座みたいでしたが、これはこれでたまには良い経験でした。
 S氏ははじめにマタイ福音書とルカ福音書の違いについて少し説明されました。Q資料など同じような資料に基づきながらも、マタイ福音書がルカ福音書に比べいかに良く構成・編集された福音書であるかを力説された。マタイ福音書は28章からなる長文の福音書である。全体としてイスラエルの歴史を語るが、イエスの登場によってイスラエルの歴史が未来に向かう人類全体の歴史と合流する様を描いていると言えようか。この福音書の編集の仕方は「交差配列」と呼ばれるらしく、各章がきれいな対照的な配列として置かれているのだという。念のために簡単に紹介しておこう。

【マタイ福音書の交差序列】

○出来事の話 誕生・避難・公現               1~4章
| ●第一の説教 八つの幸い・神の国の義   5~7章
| | ○出来事の話 奇跡・権威の話           8~9章
| | | ●第二の説教 神の国の宣教者      10章
| | | | ○出来事の話 この時代の不信  11~12章
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| | | | | ●第三の説教 神の国の秘義 13章
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| | | | ○出来事の話 弟子たちの信仰  14~17章
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| | | ●第四の説教 神の国の共同体       18章
| | ○出来事の話 問答ー権威についての論争  19~22章
| ●第五の説教 八つの不幸ー神の国の裁き      23~25章
○出来事の話 受難・死・復活                        26~28章

こうして並べてみると、マタイ福音書も格段に読みやすくなる。聖書研究者のおかげといえようか。
 イエスの生涯を時系列的に描くルカ福音書は、特にイエスの誕生や幼年時代の描き方はマタイ福音書と大きく異なっていることはいうまでもないが、9章51節から始まるエルサレムへの旅が延々と詳しく書かれており、これがルカ福音書の大きな特徴となっているという。これも念のためにこの福音書の構成を確認しておこう。

【ルカ福音書の構成】

1 序文                                       1:1~4
2 誕生・幼年期                            1:5~2:52
3 イエスの活動準備期とヨハネ        3:1~20および3:12~4:13
4 ガリラヤにおける活動                 4:14~9:50
5 エルサレムへの旅路                    9:51~19:27
6 エルサレムにおける活動              19:28~21:38
7 最後の晩餐と受難                       22:1~23:56
8 救いの歴史の計画による復活と天の旅空   24章

 さて、本論の山上の説教第6章である。ここでは、まず、施し・祈り・断食という3つの「信心行」が説明される。施し(6:1~4)では、他人に見てもらうための施しはしてはならない、祈り(6:5~15)では他人に見てもらうために祈ってはならない、断食(6:16~18)では偽善者のように断食してはならない、と警告される。信心は神と一つになるためで、偽善者になってはならないと繰り返し警告される。この時代よほど信心深さを装った行が横行していたのであろう。この施し・祈り・断食という信心行はアブラハムの神を持つ三大宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)に共通している。その行為の強弱には違いがあるにせよ、この三つは重要な信心行とされている。現在のカトリックでは断食の要請は弱まっている、または少なくなっているといえるだろうし、施しもその形が変わってきているが、無くなっているわけではない。ところが、プロテスタントではこういう信心行はない。行われない。義認論を採るプロテスタンティズムは基本的に「善行」を認めていないのだから同然と言えば当然である。S氏は、「でも、プロテスタンティズムは聖書のみと言うけれど、聖書には信心行は大事だと書いてあるのだがなーーー」とぶつぶつ言っていた。これはこれで予定説をいれればルターとカルヴィンたちとの比較という大問題になってしまうので、来月改めてこの問題を考えてみよう、ということのようだ。
 6章24節から7章12節までは態度論と呼ばれるようだ。6:19~21は「天に宝を積め」、6:24は「神と富(money)の両者に仕えることはできない」、所有欲は神の意志に従わせなさいと言う話で、「物」に対する態度の持ち方をいっている。そんなことを言われても、と凡人のわれわれは「マンモンの神」の誘惑に逆らうのは難しい。そこで、6:25~34は「思い悩むな」、神の摂理に信頼せよ、と言う話。「物」ではなく、「神」にたいする態度の持ち方を語っている。

命のために何を食べ、何を飲もうか、また体のために何を着ようかと思い煩って はならない(6:25 新共同訳)

Do not be anxious about your life, what you will eat or what you will
drink, nor about your body, what you will put on. (ESV)

 マタイ福音書では有名な箇所で、美しい文章である。詩的ですらある。この言葉に励まされた人は多いことだろう。衣・食・住のことを心配するのは当たり前だが、最後は神の摂理に信頼しなさいということであろう。タテマエ論と一笑に付すのは簡単だが、ルカ12章にもこの話があるのを見ると、この時代この言葉が持っていた重みを感じざるをえない。
 6:33には「まず、神の国とその義を求めなさい」とある。「天」という言葉を好むマタイがここでは珍しく「神の国」という言葉を使う。衣食住を心配するなといわれても、なかなかすんなりとは受け入れてもらえない教えだったからだろうか。

 第7章からは「人」にたいする態度が示され、最後に有名な「黄金律」が登場する。7:1~5は「人を裁くな」、7:6は「豚に真珠」で、聖なるものを汚すな、7:7~11は「求めなさい」で、ひたすら祈り、扉をたたき続けるならば必ず与えられる、と神に対する姿勢が求められる。そして 7:12「黄金律」だ。

だから人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい

So whatever you wish that others would do to you, do also to them,
for this is the Law and the Prophets.

 きれいな言葉だ。だが無理だ。山上の説教の教えは立派だが、そんなことはできない。これが現在ここを読む人の多くの人の印象だろう。でも、イエスの言葉を聞いた当時の人々は 多くの人が文字通りその通りに聞いたようだ。それにはいろいろな説明のしかたがあるようだが、結局は「終末」思想のとりかたにあるようだ。当時の人々は、「その日」(7:22)は、最後の日は、審判の日は、もうすぐ目の前に来ている、と思っていたのだろう。だから受け入れらた。「もうすぐ」はいつだかは判らないが、それほど遠くとは思っていなかったのだろう。それは無理だ、と言う人は、「その日」はいつか来るだろうけど、でも先のことだ、自分が生きている間にはないだろう、と思っている人々だ。この人たちはそう思って、2000年過ぎた。2000年も、なのか、たった2000年、なのかはわからないが、こういう終末論的説明は繰り返しなされてきた。さて、「その日」とはいつなのだろう。
 7:13~28は最後の部分で「注意事項」と呼ばれるらしい。7:13~14は「狭い門から入れ」。7:15~20「実によって木を知る」は偽物・偽預言者に警戒せよとの話だが、「羊の皮をかぶった狼」のコピーでよく売れた車の宣伝に使われ、よく知られることになったのは記憶に新しい。7:21~23「あなたのことは知らない」。I never knew you  もよく知られた言葉のようだ。そして7:24~28の結びは「家と土台」の話で、家は砂の上ではなく、岩の上に建てなさい、となる。ここで、7章は、山上の教えの話は、終わる。
 報告者は今回はラッチンガーの山上の説教論にはふれませんでした。今日の部分は『ナザレのイエス』では第4章第2節「メシアのトーラー」のなかで論じられています。ラッチンガーはユダヤ人学者ヤーコブ・ノイスナー『一人のラビによるイエスとの対話』を好意的に紹介しながら自分のトーラー解釈、律法解釈を述べていく。具体的には安息日論争、共同体論、を展開する。「イエスは革命家として行動したのでも、自由思想家として現れたのでもありません。彼はトーラーの預言者的な解釈者としての彼の務めを果たしました」(171頁)と述べて、自分の山上の説教論を終える。つづいて第5章「主の祈り」の説明に入っていきますが、この部分の検討はまた別の機会になりそうです。

 

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