カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

難民と入管 ー カトリックがみる難民問題

2023-11-26 11:46:12 | 教会


 今日はわたしの所属教会で難民問題に関する講演会が開かれた。テーマは「日本に辿り着いた難民達をめぐる問題と入管問題」というもので、講師は弁護士の駒井知会氏(「入管を変える!弁護士ネットワーク共同代表」)だった(1)。主催者は横浜教区の委員会のひとつである共同宣教司牧サポートチームの第4地区「神の愛を証しする力を育てる部門」だった(2)。
 参加者は多かった。50名ほどはおられたであろうか。とはいえ参加者は他教会所属の信者さんがほとんどのようで、わたしの顔見知りの方は少なかった。

 講演は熱のこもったものだった。講演の内容は話しが多岐にわたり焦点が解りずらかったが、講師の駒井氏の熱意はよく伝わってきた。駒井氏は話したいことがたくさんあるらしく、パワーポイントを使って早口で1時間40分休みなく話し続けられた。かなり専門的な国際法の細かい話やカレントな法改正の話もあり、予備知識の無いわたしはフォローするのが精一杯だった。そのためメモも十分には取れていないので、ここでは記憶のみに頼って印象に残った点をいくつか記してみたい。

 会の冒頭に主催者を代表して雪の下教会の古川勉師が講演会の主旨を説明された(3)。鎌倉市十二所(じゅうにそ)のイエズス会の修道院が「アルペなんみんセンター」に変わり(4)、サポートチームもそこにすむ難民達を支えてきたが、同センターが昨年ウクライナからの難民を受け入れ始めのを契機に、「難民問題の理解を深めたい」と思い、今回の公演を企画されたという。

 駒井師の講演は話題が多岐にわたったが、ポイントは、日本の難民をめぐる入国管理制度は国連の人権理事会から勧告を受けるほど国際法にあわず、入管法(出入国管理及び難民認定法)の改正が必要だ、ということだと理解した(5)。

【駒井弁護士講演会】

 

 


 駒井師は具体例、ケースの紹介から講演を始められた。次いで難民申請の制度の話し(6)、入管への収容の話し、裁判での援護での話しが続いた。

 最初はコンゴからの来日7年、仮放免6年の人のケースが詳しく紹介された。日本の難民認定がいかに困難かが説明された。調査官の聴取の方法、通訳や翻訳の問題など細かな説明があった(7)。日本の難民申請の認定率は平均で2022年度は1.95%(一次で3.27%、二次で0.3%)だという(8)。そのほか様々なデータがスライドで紹介され、詳しく説明された(9)。
 
【難民認定申請】(出典はClover)

 

 


 ついで本論とも言うべき入管への収容の実体が説明された。具体的にはウィシュマさんの死亡のケースについて詳しく紹介された。2年前に名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ国籍の女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が助かるべき生命を落としてしまったケースだ。2020年8月に収容された彼女は体調不良を訴え続けていたが点滴など適切な治療を施されないまま死亡した。そのため、出入国在留管理庁の体制そのものが問題視され、現在も裁判が続いているという。

 裁判に至るまでの調査や援護活動の話は興味深いものであった。難民調査官とか難民審査参与員(10)の実態、提出書類の翻訳や面会の通訳の話など初めて聞く話が多かった。実際に活動しておられるからこそ伝えられる話なのであろう。

 講演の最後に駒井氏は、二つの問題点を強調された。一つは、日本政府の難民条約や国際難民法の解釈が恣意的であること、二つ目は入管法の改正により第3者の審査機関の設置が必須だ、という。どれも専門的な話でしかも国策に関わる話なので氏の議論は慎重であった。

 ということでこの講演会は特に宣教司牧に関わる講演ではなかった。カトリック教会では難民についてはカリタスが国際面で、難民移住移動者委員会が国内面で対応しているという。次回は入管難民法改正の件だけではなく移民に関する教会の関わり方の特徴についての話も聞きたいものだと思った。横浜教区の宣教司牧委員会の努力に感謝したい。



1 古川師によると、駒井氏は、東大、Oxford、LSEを経て(LLM)、日本の弁護士になられ、外国人の人権問題に精力的に取り組んでおられる経験豊かな弁護士だという。
2 横浜教区には11の委員会があるようだが、各委員会の活動は小教区レベルにはよく見えない。今回は「難民移住移動者委員会」ではなく「共同宣教司牧サポートチーム神奈川」の第4地区の主催だという。
3 「アルペなんみんセンター」は難民申請中の外国人を受け入れているNPO法人が運営するいわゆる「シェルター」だという。アルペはイエズス会の第28代総長であったアルペ神父様(1907-1991)に由来するという。アルペ神父様は戦後に広島の被爆者救済に助力され、自らも被爆しているので被爆神父として広く知られていた。その影響力はカトリック教会だけではなく広く日本社会全体に及んでいると言われる。
4 古川師は9条の会で発言されたり、ごミサのお説教でカレントな話題に言及されたりするする方なのでわたしは少し身構えたが、今日の主旨説明はテーマにかなったものだった。
5 現在国会では難民等保護法案や入管法改正案が審議されているという。
6 難民調査官とか難民審査参与員とか収容とか難民認定とか強制退去とか、聞いたことはあっても具体的な法的定義や実態の理解が難しかった。
7 難民申請者が収容されている収容所での生活がどのようなものなのか公開されていないようだ。ただ、難民以外の理由で(例えばオーバーステイなど)収容されている人もいるので外部の人(弁護士など)との面会は可能らしい。
8 認定率の低さは諸外国とはまったく比較にならない低さだ。ただこれは、移民問題や、外国人労働者問題、技能実習生制度(こんど制度変更があるようだ)などとも関連した問題だという指摘もあるので国連人権委員会の指摘(勧告)をそのまま鵜呑みにして良いのかどうかは門外漢のわたしにはよくわからなかった。しかも、今年度は、ウクライナ関連のJICAの難民認定(補完的保護制度とか準難民とか呼ぶらしい)、クルド人に対する法務大臣の初の認定という異例の出来事があり、事態は流動的だという。
9 ウクライナからの難民を特別に認定しているので昨年今年は数字は変わっているようだ。
10 入管庁(出入国在留管理庁)による難民認定はこの人達によるらしいが、駒井氏によるといろいろ問題のある制度らしい。人数は100名余いても実際には数人にしか割り当てられていないらしいとか、対面審査はほとんど無いとか、審査が適正におこなわれているかどうかが問われているという。

 

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