機会があって映画「PLAN75」を観てきた。この6月に公開されたばかりの映画だという。カンヌ国際映画祭 カメラドール 特別表彰の作品とのこと。監督は早川千絵さん、主演は倍賞千恵子さん。2時間近い長編映画だった。
鑑賞後の第一印象は後味の悪さだった。映画だから、フィクションだからと言えばそれまでだが、なんとも気持ちの晴れない映画だった。まるでノンフィクションのようだ。
冒頭の銃殺事件。まるで安倍元首相暗殺事件や相模原障害者施設殺傷事件を想起させるようなシーン。しかも背景の音楽はピアノだ。かといって後のストーリーにつながっているわけではなさそうだった。映画全体としても何を言いたいのかよくわからなかった。各自お考えください、なのだろうが、後味の悪さだけが残った。
安楽死(尊厳死ではない)をテーマにした高齢化社会批判と言えば言えるが、特に社会批判・政治批判映画を打ち出した映画ではない。安楽死は現在の日本では犯罪行為だからだ。そもそもナレーションがほとんどない。マスクをした人が誰も出てこない。防犯カメラなど高齢者施設にあるはずの安全設備が何も出てこない。社会批判を正面から打ち出しているわけではなさそうだ。では何を言いたかったのか。
救いはやはり主演の倍賞千恵子さんの演技だろう。恐らく実年齢に近い役柄なのか、印象的だった。観客はみな高齢者ばかりだった。みな、倍賞千恵子さんのご姉妹での子役時代を知る人たちだ。少女歌手から女優へとよくぞここまで成長されたと喜んでおられたことだろう。今や大女優になられたのであろう。
興味深かったのはフィリッピンからの外国人労働者の描き方だ。技能実習制度の問題点を指摘しているのかもしれないが、日本の高齢化社会が外国人労働者なしではたちいかないことを描いているように見えた。教会でのお祈りや集まりのシーンはどうみてもプロテスタント的で、カトリックが主流のフィリッピンらしからぬ印象を受けたが、出身地によってはプロテスタント系の技能実習生もいるのかもしれない。
「林檎の木の下で」という歌が全編を貫いている。倍賞さんがきれいな声で歌う。昔を思い起こさせるこの歌が、本当は何を歌った歌なのか、私は知らない。また、なぜこの歌がラストシーンで歌われるのか、私にはわからなかった。なにか監督の思いがこめられているのかもしれない。
【林檎の木の下で】
倍賞千恵子さんの歌声
https://www.youtube.com/watch?v=uoiBVps8V2U