カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

映画「修道士は沈黙する」を観る

2018-05-23 22:02:13 | 映画

 「修道士は沈黙する」を観てきた。原題は Le confessioni で、 2016年のイタリア=フランス合作映画。いろいろな国際的な映画の賞をもらったようだ。
 映画はイタリア語・フランス語・英語が入り交じる。本映画でのG8の開催地はバルト海に面したドイツのリゾート地らしいが、ドイツ語は出てこない。タイトルはイタリア語か。「告解」という意味であろう。邦題「修道士は沈黙する」は意訳だろう。悪い訳では無いが、「修道士」とか「沈黙」の意味がどこまで伝わるか。意味が正反対だから、面白い訳と言えば言えなくも無い。
 これは宗教映画では無い。が、メッセージは宗教的だ。痛烈な資本主義批判だ。社会派のスリラー、ミステリー映画と呼べそうだが、観たあとの第一印象は「要領が得ない」だ。良くわからなかったと言っても良い。宗教映画に関心のあるカト研の皆さんにはちょっとお勧めしたいとは思わない。わざわざ見に行くほどのものではないと思う。
 ストーリーはネットでも紹介されているので繰り返す必要はあるまい。主人公はイタリア人修道士ロベルト・サルス。舞台は高級リゾートホテルで開かれたG8(Group of Eight)、先進8カ国首脳会議(サミット)。出席者は、日本も含む8ヵ国の蔵相、中央銀行総裁など。ならびに、誕生日祝いに特別に招かれた3人の民間人。サルス修道士もその一人だ。
 議題はある決議を下すこと。主催者のダニエル・ロシェ(国際通貨基金IMFの専務理事)に呼び出されたサルスは、彼の告解を聴く。しかし、サルスが部屋に戻った翌朝、ロシェがビニール袋をかぶって死んでいるのが発見される。映画はここから展開し始める。
 自殺か他殺か? 疑心暗鬼のG8メンバーの結束は乱れ、結局決議は見送られる。修道士サルスは叙階以前は数学者であり、世界経済を混乱に陥れる、経済格差を拡大させる「数式」の意味を理解できたからだ。
 映画の中では、サルス修道士は最後まで自分の口からロシェの告解の内容を語ることはない。だが、サルスはロシュに、告解しても悪を行うならば神は罪の赦しを与えないと言ったようだ。ロシェの死はサルスによる他殺ではなく、絶望したロシェが自殺したらしいことが暗示される。
 サルスがロシュの葬儀ミサで行う説教がこの映画の主題だろう。非人間的な合理主義、拝金主義、資本主義、まやかしの民主主義、そして恐らくは「近代主義」の呪縛から逃れられない現代社会への厳粛な問いかけが心に響いた。ドイツ経済相が飼う猛犬が悪魔のように牙を剥くのに、最後にはおとなしくサルスのあとをついて行く。サルスがロベルトという自分の名前を犬に新たに与えるのはおかしかった。クリスチャンには、サルスは、ライオンのとげを抜いてあげたという聖ヒエロニムス(347-420 ヴルガータ訳聖書の翻訳者)を連想させるそうだが、エンディングは悪くない。

 この映画を評した谷口幸紀神父様(注1)は、ご自分のブログで、「自由主義的・民主主義的資本主義」の世界が巨悪に満ちた世界であると断罪したあと、

「自由で平等で平和で幸せな共産主義社会」が、「神を信じる共産主義」「神の国」という「シンテーゼ」として、弁証法的に、発展的に、形成されることの可能性を、私は信じるようになった。それが「新しい福音宣教」というものだ。

と述べておられる(注2)。これが「新求道の道共同体」の理念とつらなるのかどうかはわからないが、興味深い評論である。映画評論というよりは社会評論といった方が良いかもしれない。

注1 谷口神父様はカト研の先輩だという人もいるが、名簿には名はない。ホイヴェル師のミサ答えをしておられたというからカト研最盛期の頃を知っておられるかもしれない。日本から追い出された「新求道の道共同体」は日本に帰ってくるという話も聞く。岡田大司教様が引退され、菊池功司教様が東京大司教になられた。また、前田万葉大司教様が枢機卿におなりになるという。日本司教団も変わるのだろうか。新求道共同体は日本に戻れるのだろうか。菊池大司教様は以前は新求道の道共同体の受け入れには否定的であったという
(http://bishopkikuchi.cocolog-nifty.com/diary/2011/02/post-7ea6.html)。司教協議会が今後どのような対応をするか見守りたい。バチカンとの関係が変われば、教皇様の日本訪問も夢ではなくなる。
注2 https://blog.goo.ne.jp/john-1939/e/038dfe601750bb114a4611632b2665f4

 

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