波の背の背に揺られてゆれて
玄界灘の荒波に水葬された同胞が居た。
止まって汽笛が三度、暗い闇をつんざき、胸に深く刺さった。
艦橋に一点の灯りあり、船長が棺に向って敬礼を捧げ続けていた。
あと一歩、祖国の土を踏めなかった無念は察するにあまりある。
そう 祖国に帰れただけでも、自分達は幸運だとその時切実に想った。
そんな私達を慰める歓迎会で
船員さんの妙なる美声の絶唱♪
初めて聴いた日本の歌謡曲が眼からうろこの「かえり船」だった。
舞鶴港で上陸し、大浴場に入る前、素っ裸で頭から撒かれた
洗礼のDDTの白い粉。
舞鶴までは歓迎の日の丸小旗が振られたが、
各自散った行く先は貨物列車の切符を戴いた。
敗戦国での生活は果たして生還した方がよかったか?
舞鶴まで列島を船で並行して視る祖国は、山のまにまに無味乾燥として、
不安を募らせ、あたかもこれからの厳しい生活を示唆しているようであった。
それは的中し棘の道を踏む始まりだった。
心の葛藤にさいなむ着の身着のままの実体験は想い出すのも疎ましく
もう戦争は何としてもなしにしたいと叫びたい。
厳しかった一例として敢えて言えば、
食べ物が無く、隣村に父と彷徨い、
あ、いいものを見付けた それは芋ずるを取った、
裸の種イモが苗床にあったのです。
田舎の大きな本屋・長屋を構えた当主を見付け、
あの種イモが欲しいというと、なんぼ出すのかと言われ、
父はなけなしの金をはたいてどうせ捨ててかたずける手間を省くのに
全財産で買ったみじめさは今も忘れない。
父は、村が束になっても、わしの蓄えには勝てないわい。
それは口癖でみんなおまえのものだぞ
それが真っ逆さまのこのざまは
満鉄で身を賭し働き、幹部になっていた体面も地に堕ち
その悔しさは
夜泣く鳥のようにしとしと雨の夜中に聞いたことがあった。
その芋はカスのように味がなかった。
しかし、涙が絡んだ一種名状し難い、隠し味に心凍る味がした。
その種の任務を終えたタネ芋が、更に人間をも救い、
今の私があることを感謝しなければならない。
それでも死にたいと思ったことはなかった。
そこには私の応援団長・父が居て母が居た幸せがあった。
父母の愛 生きゆく意義を 教えられ
玄界灘の荒波に水葬された同胞が居た。
止まって汽笛が三度、暗い闇をつんざき、胸に深く刺さった。
艦橋に一点の灯りあり、船長が棺に向って敬礼を捧げ続けていた。
あと一歩、祖国の土を踏めなかった無念は察するにあまりある。
そう 祖国に帰れただけでも、自分達は幸運だとその時切実に想った。
そんな私達を慰める歓迎会で
船員さんの妙なる美声の絶唱♪
初めて聴いた日本の歌謡曲が眼からうろこの「かえり船」だった。
舞鶴港で上陸し、大浴場に入る前、素っ裸で頭から撒かれた
洗礼のDDTの白い粉。
舞鶴までは歓迎の日の丸小旗が振られたが、
各自散った行く先は貨物列車の切符を戴いた。
敗戦国での生活は果たして生還した方がよかったか?
舞鶴まで列島を船で並行して視る祖国は、山のまにまに無味乾燥として、
不安を募らせ、あたかもこれからの厳しい生活を示唆しているようであった。
それは的中し棘の道を踏む始まりだった。
心の葛藤にさいなむ着の身着のままの実体験は想い出すのも疎ましく
もう戦争は何としてもなしにしたいと叫びたい。
厳しかった一例として敢えて言えば、
食べ物が無く、隣村に父と彷徨い、
あ、いいものを見付けた それは芋ずるを取った、
裸の種イモが苗床にあったのです。
田舎の大きな本屋・長屋を構えた当主を見付け、
あの種イモが欲しいというと、なんぼ出すのかと言われ、
父はなけなしの金をはたいてどうせ捨ててかたずける手間を省くのに
全財産で買ったみじめさは今も忘れない。
父は、村が束になっても、わしの蓄えには勝てないわい。
それは口癖でみんなおまえのものだぞ
それが真っ逆さまのこのざまは
満鉄で身を賭し働き、幹部になっていた体面も地に堕ち
その悔しさは
夜泣く鳥のようにしとしと雨の夜中に聞いたことがあった。
その芋はカスのように味がなかった。
しかし、涙が絡んだ一種名状し難い、隠し味に心凍る味がした。
その種の任務を終えたタネ芋が、更に人間をも救い、
今の私があることを感謝しなければならない。
それでも死にたいと思ったことはなかった。
そこには私の応援団長・父が居て母が居た幸せがあった。
父母の愛 生きゆく意義を 教えられ