初めて漁協のセリに行ったとき、先輩漁師たちから
「あそこに座っているオバァたちには気をつけろよ。」といわれた。
そこを見るとオバァたちが4〜5人座っていた。それが市場のオバァたちだった。
何を気をつけろといっていたのか意味はわからなかった。
海千山千の市場もオバァたち。
当時は市場のオバァたちも毎日セリで魚を仕入れていた。
ある日、セリに行く途中に雨濡れて歩いているオバァを見かけた。
セリに行くのは同じだからオバァを車乗せて行った。
その次の日も雨が降っていて傘をさして歩いているオバァを車に乗せて
行った。その翌日も… 3日間連続してオバァと一緒にセリに行った。
晴れた日にセリにむかっているとオバァに呼び止められた。
そして車に乗せると「そこを右に、そこの角を左。」
ついたところがオバァの家。「明日は7時に迎えに来い」といわれた。
それから10年以上、雨の日も風の日もオバァの送り迎えが始まった。
漁に出るのは月のうちに10日〜13日ほどで、つまりそれ以外は
セリに行く用事はない。オバァは毎日セリに行くので、
セリに行く用事がない私まで毎日、毎日オバァの送り迎えでセリに行く。
いつまでも続く毎日だと思っていたが公設市場が閉鎖となった。
オバァとの毎日が終わった。
市場が閉鎖されてからも露天で野菜などを売っていたのは知っていた。
そしていつのまにかその姿を見かけることもなくなった。
先日、新聞の訃報欄にオバァの名前を見つけた。
95才だったそうだ。
オバァ ありがとう。