飛騨古川「狐の火祭り」
今年のノーベル平和賞は、世界のすべての民族紛争の和解を、決してあきらめないことを示しました。
南米のコロンビアで左翼ゲリラ、コロンビア革命軍との内戦終結に向けて政府は、5年越しの交渉の末、今年8月に和平に漕ぎ着けました。
コロンビアの内戦は、半世紀以上前に、マルクス主義を掲げる反政府勢力が台頭して最盛期には国土の3分の1を実効支配しました。内戦では22万人を犠牲にし、600万人が家を失いました。
「すべての犠牲者に謝罪する」「民主主義へようこそ」。大統領は平和を象徴する白いバッジを外して、和平合意署名式典においてゲリラ革命軍最高司令官に渡しました。
司令官はこのバッジを胸に着けました。
ノーベル平和賞を受賞したコロンビア大統領が、革命軍との和解合意条項の中に、麻薬犯罪に手を染め、殺害や誘惑を繰り返した革命軍がコロンビア議会に進出することを容認する内容だったことと、元戦闘員への処罰が軽かったことがありました。
国民は和解には賛同であったが、この条項に反発したのです。
和解合意の承認を求める国民投票は、ノーベル賞受賞式の5日前10月2日に行はれ、その合意を否決したのです。
国民投票の否決に対してノーベル賞委員会は「和平合意は死んだわけではない。国民投票は平和に反対した訳でない」として大統領と各党に建設的な関与と責任を分担するように求めました。
和平交渉は仕切り直しとなりましたが、大統領は「反対は和平合意の1部についてであり、団結力によっていさかいや憎しみは過去のものとしなければならない。」と言っています。
私は、サントス大統領がノーベル平和賞を受賞するまで、日本から地球の裏側にあるコロンビアにおいて悲惨な内戦があったことについて全く知りませんでした。
シリア、アフガニスタン、イラク、ナイジェリアの各紛争地は、国民を統合する国家の枠組みが揺れています。中東では民族や宗教対立が消えず、紛争の中で過激派組織イスラム国が建国を宣言しました。
欧州やロシアでもそのはざまで民族を結ぶ動きが広がっています。
なぜ国家は不安定になってきたのでしょう。作家の佐藤優さんは次のような見方をしています。
紛争の背景として、共産主義に勝利して、資本主義と資本家はあまりにも貪欲になりすぎ、資本の増殖に血道をあげ、過剰で不公平な競争を押し付けて、人間の気持ちを顧みなくなったことにあるとしています。
世界の富の偏在が顕著になってきたこと、格差を極端にまで広げていることからも、佐藤優さんの指摘は当たっています。
昨年の世界の人口の半分である31億人の資産に匹敵する1兆7600万ドルを、世界人口の1%弱の62人が取得し所有しています。
石油が出る中東で、なぜ大勢の人が貧困にあえいでいるのか。国際石油資本とそれに連なる王族と権力者に富が偏在しているのです。
日本でも昨年1億円以上の年収があった人は、人口の0.013%1万7000人で占めました。世界と同じ状況にあります。
中東紛争には二つの流れがあります。国家の枠を超えたグローバルなイスラム主義と、国民より下の小さな民族に主権を持たせるグループに分かれています。
イラクのスンニ派とシーア派の対立は帰属意識の変化です。
ナショナリズムの火種は世界各地にあります。資本主義が育てて来た国民国家は、富の集中により貧困を増殖してきたため安定を無くしているのです。
先進国では、富裕層と貧困層の中間にある中間層が消費社会の中で退化して減少し、若者にしわ寄せが行っています。中間層の貧困化です。
やがて未婚率が高くなり出生率の低下に現われ、人口が減少してきました。
発展途上国は、読み書きができるようになりますが、教育水準は低く、グローバル化により先進国と共存することで両者には衝突や相互軋轢が生じます。
これが欧州で起きている難民問題です。
こうした先進国と発展途上国の社会状況で大切なことは、テロを憎む対テロ戦争ではなく、特に先進各国は社会的背景の理解と中東の困難に向き合い、人々に寄り添う思いを示すことです。
米欧は、20世紀で世界中の国々の警察官として、紛争解決のため武力を行使してきました。その治安保持のための武力行使が、多々行き過ぎであったことが紛争を悪化させたのです。
関係国に紛争処理解決策を示していない米国の顔色を伺っていては、日本は、世界の各国の困難に立ち向かいことはできません。
日本国憲法に明記された武力の行使と戦争放棄を示して、自衛隊を海外へ派遣したり、武器や戦艦を派遣したり、輸出をしないで、平和外交によりイスラム社会や近隣アジア諸国と向き合って行きたいものです。
蘇生