旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

  沈黙美少女

2016年02月15日 18時16分36秒 | エッセイ
  沈黙美少女

 小学校高学年で同じクラスに、一言もしゃべらない少女がいた。美少女だが、全く一言も発しないので誰も近寄らない。やせっぽちだが、目が大きくてとてもきれいな彼女は、勉強は常にクラスの1,2番だった。俺ともう一人の男子、それから彼女が一番を競っていた。頭が良いから一目置かれていたのか、誰かに苛められるようなことは無かった。と言いたいところだが、仕切りやの女子群に詰め寄られて、泣かされていたことがあったな。見たのは一度だけだけど、何度かあったのかもね。止めに入ったら、火に油を注ぐようなものだと子供でも分かっていたから、見ない振りをした。今思えばそれでも止めに入れば良かった。彼女は人を寄せ付けない雰囲気があったから、隣の席の子はしんどかっただろうな。
 生徒達のほとんどは彼女を、一人ぼっちで放っておいたのに、年配の女教師はわざと彼女に国語の朗読を指名したりして、きつかった。そんな時は周りがいたたまれなくなる。それでも普段はこの美少女、割りとケロっとしていて掃除なども率先してやっていた。休み時間は一人で本を読んだりして、特別寂しそうには見えない。時々は話しかけられてニコっとするが、返事はない。不思議な子だが、目ざわりではない。と言うか俺はいつも気になっていた。何しろすごくきれいで頭がいい。服がおしゃれでセンスがいい。絶対友達になりたいタイプじゃんか。でも話は出来ない。
たまたま放課後のとある夕暮れ、一人でちょっと離れた街を歩いていたら、前から親子が歩いてきた。きれいな母親と頭にお揃いのリボンをつけた姉妹だ。楽しそうに姉妹が話をして盛り上がっている。近づいてすれ違う時に、ふと気がついた。妹の方は彼女だ。あの一言も話さない美少女が、姉としゃべりまくっている。うっと驚いた瞬間、彼女も俺に気が付き、ハっとして話を止めたのが分かった。気まずい。今のなかった事にしてくれないかな。
すれ違った時に、ほんのちょっとだけ彼女の声を聞いたんだけど、割りと甲高い声だったように思う。彼女、自分の声がいやだったんかな。もしそうなら、全然いいじゃんそんなこと。もっと聞きたいよ、君の声。友達になりたいよ、君と。
彼女が街中で夢中になっておしゃべりをしていた事は、誰にも話さなかった。半世紀振りに今話しちゃったけど、もういいよね。その後、卒業まで美少女は学校で一言も話さなかった。俺は私立の中学へ行ったので、その後は知らない。もしその後どこかで彼女とすれ違っていたとしても、向こうは直ぐに気付いただろうけど、俺は気がつかなかったんじゃないかな。そんな気がする。


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