写真は兵庫県宍粟市と佐用市、岡山県美作市の境にある日名倉山の宍粟市側の麓にある日名倉神社
「播磨国風土記に出てくるのは、『鹿や猪、鳥などの狩り』の話、『猪を放って飼った』話、肉を『鱠(なます)や羹(あつもの)料理』にして食べたという話と、見逃せないのは、『鹿の腹を割いて、稲をその血に種いた』『宍の血で田を作る』という記載があることです」
ヒナちゃんは珍しく、いつものようにカントクの問いかけには答えなかった。代わりに自分の説を述べ始めた。
「確かに、鹿の血に種を播いたり、猪の血で田んぼを作る、という話は奇妙だな」
カントクの、面白い話への頭の切り替えは早い。
「大国主の妻の玉津日女(たまつひめ)が鹿の血に種を播いたところ、一夜で苗が生えたので植えたところ、大国主は『おまえはなぜ五月夜(さよ)に植えたのか』と言って去ってしまったので五月夜(さよ)郡と名づけた。その神を賛用都比売命と名づけた、と書かれています。鹿の血に種を播いたため、玉津日女は大国主にフラれているんです」
「鹿の血に種を播いて育てた苗を植えたので、玉津日女の下から逃げ出した大国主って、とんでもない男よね」
ヒメがいつものように反応する前に、母上がかんできた。
「宍の血で田を作った、という方の話はどうなの?」
ヒメもいつものように質問せずにはおれない。
「こちらの話は、丹津(につ)日子神が川を雲潤(うるみ)の里に引こう太水神(おおみずのかみ)に言ったところ、『宍の血で田をつくるから河の水はいらない』と断った、というんです」
「面白いわね。播磨では、稲をつくる時に、鹿や猪の血を使った、というのね」
ヒメは次の推理小説に使えそうなネタがあると、必ず「面白い」と乗ってくる。
「私は、この地方では『黄泉がえり』の宗教が行われていた、と考えています」
ヒナちゃんは高木にはない、全く別のアンテナを持っている。
「黄泉がえりって、草剛君の映画があったわよね」
ヒメの母上がまぜっかえす。
「映画と同じように、死者が蘇る(黄泉がえる)と考えられていた時代があったんです。古事記では、イザナギが殺した子のカグツチの血や死体から多くの神が生まれ、スサノオが殺したオオゲツヒメの死体から、稲や粟、麦、小豆、大豆などの穀物が生え、蚕が生まれた、とされています」
「そういえば、アマテラスも死んで岩屋に葬られたあと、黄泉がえった、ということになっているわね」
「それは、岩屋の中で、死んだアマテラスから次の女王への『霊継ぎ』の儀式が行われ、アマテラスにそっくりの姫が岩屋からでてきたという史実から、天の岩屋の黄泉がえりの伝説が生まれたと思います」
「私って、こういう恐い話が大好きなのよ」
ヒメの母上の反応は、まさにヒメそのものである。推理小説家のヒメの血は、この母親から受け継いでいることは確実だ。
「稲作が伝わったとき、黄泉がえりの宗教のもとにあった播磨の人たちは、鹿や猪の血を種や稲にかけることで、豊作を祈願した、ということなのね」
小説家のヒメは、質問が具体的だ。
「水利工事を行おう、という丹津日子神の提案を太水神が蹴ったというのは、新しい稲作技術を古い宗教で受け付けなかった、ということだと思います」
「大国主が玉津日女のもとから去ったのも、同じように、宗教や稲作技術上の争いがあった、ということなのね」
ヒメの考えるテンポは、いつも高木より数歩、先に進んでいる。
※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
霊の国:スサノオ・大国主命の研究(http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
霊(ひ)の国の古事記論(http://hinakoku.blog100.fc2.com/)
帆人の古代史メモ(http://blog.livedoor.jp/hohito/)
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「播磨国風土記に出てくるのは、『鹿や猪、鳥などの狩り』の話、『猪を放って飼った』話、肉を『鱠(なます)や羹(あつもの)料理』にして食べたという話と、見逃せないのは、『鹿の腹を割いて、稲をその血に種いた』『宍の血で田を作る』という記載があることです」
ヒナちゃんは珍しく、いつものようにカントクの問いかけには答えなかった。代わりに自分の説を述べ始めた。
「確かに、鹿の血に種を播いたり、猪の血で田んぼを作る、という話は奇妙だな」
カントクの、面白い話への頭の切り替えは早い。
「大国主の妻の玉津日女(たまつひめ)が鹿の血に種を播いたところ、一夜で苗が生えたので植えたところ、大国主は『おまえはなぜ五月夜(さよ)に植えたのか』と言って去ってしまったので五月夜(さよ)郡と名づけた。その神を賛用都比売命と名づけた、と書かれています。鹿の血に種を播いたため、玉津日女は大国主にフラれているんです」
「鹿の血に種を播いて育てた苗を植えたので、玉津日女の下から逃げ出した大国主って、とんでもない男よね」
ヒメがいつものように反応する前に、母上がかんできた。
「宍の血で田を作った、という方の話はどうなの?」
ヒメもいつものように質問せずにはおれない。
「こちらの話は、丹津(につ)日子神が川を雲潤(うるみ)の里に引こう太水神(おおみずのかみ)に言ったところ、『宍の血で田をつくるから河の水はいらない』と断った、というんです」
「面白いわね。播磨では、稲をつくる時に、鹿や猪の血を使った、というのね」
ヒメは次の推理小説に使えそうなネタがあると、必ず「面白い」と乗ってくる。
「私は、この地方では『黄泉がえり』の宗教が行われていた、と考えています」
ヒナちゃんは高木にはない、全く別のアンテナを持っている。
「黄泉がえりって、草剛君の映画があったわよね」
ヒメの母上がまぜっかえす。
「映画と同じように、死者が蘇る(黄泉がえる)と考えられていた時代があったんです。古事記では、イザナギが殺した子のカグツチの血や死体から多くの神が生まれ、スサノオが殺したオオゲツヒメの死体から、稲や粟、麦、小豆、大豆などの穀物が生え、蚕が生まれた、とされています」
「そういえば、アマテラスも死んで岩屋に葬られたあと、黄泉がえった、ということになっているわね」
「それは、岩屋の中で、死んだアマテラスから次の女王への『霊継ぎ』の儀式が行われ、アマテラスにそっくりの姫が岩屋からでてきたという史実から、天の岩屋の黄泉がえりの伝説が生まれたと思います」
「私って、こういう恐い話が大好きなのよ」
ヒメの母上の反応は、まさにヒメそのものである。推理小説家のヒメの血は、この母親から受け継いでいることは確実だ。
「稲作が伝わったとき、黄泉がえりの宗教のもとにあった播磨の人たちは、鹿や猪の血を種や稲にかけることで、豊作を祈願した、ということなのね」
小説家のヒメは、質問が具体的だ。
「水利工事を行おう、という丹津日子神の提案を太水神が蹴ったというのは、新しい稲作技術を古い宗教で受け付けなかった、ということだと思います」
「大国主が玉津日女のもとから去ったのも、同じように、宗教や稲作技術上の争いがあった、ということなのね」
ヒメの考えるテンポは、いつも高木より数歩、先に進んでいる。
※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
霊の国:スサノオ・大国主命の研究(http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
霊(ひ)の国の古事記論(http://hinakoku.blog100.fc2.com/)
帆人の古代史メモ(http://blog.livedoor.jp/hohito/)
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