キュイの作曲家としての知られざる面として取り上げたい「オペラ大作曲家」の顔。
ただし、そうだったかもしれない、という注釈付きでトーンダウンしてしまうのは、何しろ、作品の数はともかく、その質───肝心の内容がどのようなものなのか、ほとんど全く知る手がかりがないからです。
私の知る限り、キュイの歌劇の全曲盤の録音は今回の《ペスト流行時の酒宴》が初めてで、他はあったとしても断片的なものにとどまっているようです。【注】
旧メロディアなら全曲盤が出ていた可能性もありますが、残念ながら私は知りません。
キュイの歌劇の作品目録を一応記しておくと、次のようになります。
《中国役人の息子》 全1幕
《コーカサスの捕虜》 全3幕(プーシキンの長編詩)
《ウィリアム・ラトクリフ》 全3幕(ハイネの戯曲)
《ムラダ》 (ボロディンらとの合作)第1幕のみ
《アンジェロ》 全4幕(ユーゴーの戯曲)
《海賊》 全3幕(ルシュパンの戯曲)
《サラセン人》 全4幕(デュマの戯曲)
《ペスト流行時の酒宴》 全1幕(プーシキンの小悲劇)
《マドモアゼル・フィフィ》 全1幕(モーパッサンの戯曲)
《マテオ・ファルコーネ》 全1幕(メリメの戯曲)
《雪の勇士》 全1幕※
《大尉の娘》 全4幕(プーシキンの小説)
《赤ずきん》(ペローの童話)※
《イヴァンのばか》 全3場※
《長靴をはいた猫》 全3幕(ペローの童話)※
他に未完の作品もあるようですが、上記で全15作。
数だけなら「ロシア最大のオペラ作曲家」であるリムスキー=コルサコフと並びます。
キュイの15作品のうち、子供向けの児童歌劇4作(※印)と、ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、ミンクスとの合作予定で未完に終わった《ムラダ》とを除いた、「一般的な」歌劇としての作品数ならば10になります。
さて、今回リリースされた《ペスト流行時の酒宴》以外のキュイのオペラは聴いたことがありませんから、「どれが最高傑作か」などという話は私には出来ませんが、彼の小伝などで比較的目にするのは《ウィリアム・ラトクリフ》でしょうか。
スターソフもこの歌劇を褒め讃えていたようです。
音楽的な内容についてはもうこれ以上先に進めませんが、ただ、上記の作品目録を眺めているだけでもいろいろと興味が引かれるところがいくつかあります。
まず、「ロシア国民楽派」のキュイは、歌劇の目録を見ても、ロシアの土着的な匂いは希薄であること。
プーシキンの原作も3作ありますが、そのうち《ペスト流行時の酒宴》はイギリスが舞台。
プーシキン以外はフランス系のものが多く、この点は、ボロディンやムソルグスキー、リムスキー=コルサコフとは明らかに異なっています。
これはやはり父親から受け継いだ「血」なのでしょう。
2つ目は「児童歌劇」が4作もあること。
「児童歌劇」なるものがどのようなものか、私は全く知らないのですが、辛辣な批評で名を轟かせたキュイが子供向けの歌劇を書いているなどと聞くと、まるでブラックジョークです。
このジャンルの創作が晩年に集中しているのも何か理由のあることかもしれません。
3つ目は《ムラダ》。
未完となったこの合作による歌劇を後にリムスキー=コルサコフが単独で完成させたことは比較的知られていますが、元の方の《ムラダ》もキュイに割り当てられた第1幕は彼がすでに完成させていたのです。
ということは、《ムラダ》の第1幕に関しては、キュイのものとリムスキー=コルサコフのものとがあるということで、その両者の比較をしてみるのは面白そうです(可能ならば、ですが)。
他には《大尉の娘》。
これは小説(岩波文庫にあり)が面白かったので、音楽作品としてもぜひ聴いてみたいという個人的な期待感からです。
もちろん、他の作品も機会があればぜひ聴いてみたいと思っています。
繊細でエレガントな彼の作風が音楽劇となるとどのように感じるか───物足らないと思うかもしれませんが、他のメンバーのようなアクの強くない音楽も悪くないのではないでしょうか。
***
【注】今回(2020年5月)、改めてキュイの歌劇の録音を調べてみたら、旧ソ連時代(1949年)の録音で《イヴァンのばか》がCD化されていることを知りました!
入手できるかな?
[この記事は「コルシンカの雑記帳」に掲載していたものに加筆修正して再掲しました]
ただし、そうだったかもしれない、という注釈付きでトーンダウンしてしまうのは、何しろ、作品の数はともかく、その質───肝心の内容がどのようなものなのか、ほとんど全く知る手がかりがないからです。
私の知る限り、キュイの歌劇の全曲盤の録音は今回の《ペスト流行時の酒宴》が初めてで、他はあったとしても断片的なものにとどまっているようです。【注】
旧メロディアなら全曲盤が出ていた可能性もありますが、残念ながら私は知りません。
キュイの歌劇の作品目録を一応記しておくと、次のようになります。
《中国役人の息子》 全1幕
《コーカサスの捕虜》 全3幕(プーシキンの長編詩)
《ウィリアム・ラトクリフ》 全3幕(ハイネの戯曲)
《ムラダ》 (ボロディンらとの合作)第1幕のみ
《アンジェロ》 全4幕(ユーゴーの戯曲)
《海賊》 全3幕(ルシュパンの戯曲)
《サラセン人》 全4幕(デュマの戯曲)
《ペスト流行時の酒宴》 全1幕(プーシキンの小悲劇)
《マドモアゼル・フィフィ》 全1幕(モーパッサンの戯曲)
《マテオ・ファルコーネ》 全1幕(メリメの戯曲)
《雪の勇士》 全1幕※
《大尉の娘》 全4幕(プーシキンの小説)
《赤ずきん》(ペローの童話)※
《イヴァンのばか》 全3場※
《長靴をはいた猫》 全3幕(ペローの童話)※
他に未完の作品もあるようですが、上記で全15作。
数だけなら「ロシア最大のオペラ作曲家」であるリムスキー=コルサコフと並びます。
キュイの15作品のうち、子供向けの児童歌劇4作(※印)と、ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、ミンクスとの合作予定で未完に終わった《ムラダ》とを除いた、「一般的な」歌劇としての作品数ならば10になります。
さて、今回リリースされた《ペスト流行時の酒宴》以外のキュイのオペラは聴いたことがありませんから、「どれが最高傑作か」などという話は私には出来ませんが、彼の小伝などで比較的目にするのは《ウィリアム・ラトクリフ》でしょうか。
スターソフもこの歌劇を褒め讃えていたようです。
音楽的な内容についてはもうこれ以上先に進めませんが、ただ、上記の作品目録を眺めているだけでもいろいろと興味が引かれるところがいくつかあります。
まず、「ロシア国民楽派」のキュイは、歌劇の目録を見ても、ロシアの土着的な匂いは希薄であること。
プーシキンの原作も3作ありますが、そのうち《ペスト流行時の酒宴》はイギリスが舞台。
プーシキン以外はフランス系のものが多く、この点は、ボロディンやムソルグスキー、リムスキー=コルサコフとは明らかに異なっています。
これはやはり父親から受け継いだ「血」なのでしょう。
2つ目は「児童歌劇」が4作もあること。
「児童歌劇」なるものがどのようなものか、私は全く知らないのですが、辛辣な批評で名を轟かせたキュイが子供向けの歌劇を書いているなどと聞くと、まるでブラックジョークです。
このジャンルの創作が晩年に集中しているのも何か理由のあることかもしれません。
3つ目は《ムラダ》。
未完となったこの合作による歌劇を後にリムスキー=コルサコフが単独で完成させたことは比較的知られていますが、元の方の《ムラダ》もキュイに割り当てられた第1幕は彼がすでに完成させていたのです。
ということは、《ムラダ》の第1幕に関しては、キュイのものとリムスキー=コルサコフのものとがあるということで、その両者の比較をしてみるのは面白そうです(可能ならば、ですが)。
他には《大尉の娘》。
これは小説(岩波文庫にあり)が面白かったので、音楽作品としてもぜひ聴いてみたいという個人的な期待感からです。
もちろん、他の作品も機会があればぜひ聴いてみたいと思っています。
繊細でエレガントな彼の作風が音楽劇となるとどのように感じるか───物足らないと思うかもしれませんが、他のメンバーのようなアクの強くない音楽も悪くないのではないでしょうか。
***
【注】今回(2020年5月)、改めてキュイの歌劇の録音を調べてみたら、旧ソ連時代(1949年)の録音で《イヴァンのばか》がCD化されていることを知りました!
入手できるかな?
[この記事は「コルシンカの雑記帳」に掲載していたものに加筆修正して再掲しました]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます