人はよく矛盾した行動をして
しまう。例えば、コロナ禍の
中で体重増加。「食べ過ぎは
健康に良くない」と思いなが
ら「食べる楽しさは生きる上
で価値がある」として同じ食
生活を送ってしまう。
そうした矛盾した行動につい
て、米国の心理学者フェステ
ィンガーは「認知的不協和」
という概念を提唱した。ま
わりからは一見矛盾とみら
れる行動でも、本人は理由を
とりつくろって納得している。
この状態が「協和」であり、
無意識もしくは意識的な防衛
機制により不快が減少し、精
神的な健康を保つ機能だ。
ただ、合理化した考え方が
うまくできないときは、自身
の中でも矛盾が生じる。これ
が「不協和音」という状態だ。
実は日常生活は不協和音で
あふれている。自分の売って
いる商品は良くないと思って
いるのに、仕事として客に販
売しなければならないときな
どだ。
頑張って働いたつもりなのに、
低評価を受け入れなければ
ならないときも、なかなか
腑(ふ)に落ちてくれない。
不協和音をそのままにして
おくと、精神衛生上は不愉
快なことが多い。そのため
「生活のため仕方ない」な
どと、とらえ方を工夫して、
少しでも協和に近づいて暮
らしている。社会に適応する
ための重要な機能ともいえる。
とはいえ本質的な問題解決に
つながるものではない。時間
がたつとさらに問題が大きく
なってしまうこともある。
冒頭の例では、精神衛生は保
てても身体疾患につながる。
時がたってもしこりが残る不
協和音の対処について2つの
方法がある。一つは合理化す
る考え方が他にないかを探る
こと。もう一つは行動そのも
のの変更。後者の方が決意や
意気込みが必要だが、問題
解決に近づきやすい。
アリストテレスが残したとさ
れる言葉に「我々の性格は我
々の行動の結果」というもの
がある。全般的な行動の変化
が難しいときは、どうしても
変えたくない部分以外のこと
からチャレンジしてみてはど
うか。大きな段差もまずは小
刻みに上がってみる感じで。