僕の右脚は5月20日金曜日に切り離された。ちょうど同じ頃我が家でも同じ八事の地で大事な行事が行われていた。6年前の曜日も同じ金曜日の5月20日に母は死んだ。その母の遺骨を八事霊園の我が家の墓に納骨するのがちょうど手術当日の5月20日である。もちろん僕は喪主ではあるが手術台の上で参加できない。でも偶然にも入院前に埋葬許可書と墓地の使用許可証を霊園管理事務所に提出していた。そこで入院直後に坊さんと弟に事情を話し納骨式を僕なしで行うことを依頼した。この時期に納骨すると決めたのにはわけがある。母の死亡後の早い時期に納骨の事を坊さんに相談したことがある。その時は坊さんは乗り気ではなさそうで結局うやむやになった。
昨年エアポートウオークで足が痛んだ時このまま豊山町方面の病院に運ばれて我が家が空き家となって野良猫やハクビシンが骨壷や仏壇を荒らしたらどうしようと思った。そこで期限を区切って納骨を実施しようと思った。今年の初めに坊さんと相談したら坊さんも気にかかってたと見えてすぐ賛成してくれた。日にちはたまたま七回忌の命日にあたる5月20日にした。突然の入院にも関わらず必要な事務はみな済ませてあったので、僕の眠っているうちに納骨は無事済んだ。
僕の危惧はあたったが、それを避ける納骨はジャスト・イン・タイムで成功した。
僕の人生を総括すれば問題を心の底にでも持ち続けると、解決策が向こうから突然現れるというもの。ただそれは余裕を持っては来てくれず何時もギリギリに現れるということ。今回の脚の切断も知らされた時は「あの問題の解決策か、でも相当に荒っぽいな」と考えた。ここ数年の僕の問題は収入より支出が多いため、預金通帳のマイナス額が100万円の定期預金を担保とした限度額を超えそうでヒヤヒヤしてこと。限度額を越えればクレジットカードが使えなくなる。このため毎年、たとえば生命保険の残留金の解約、保有株を一部売却、サプリメントの大幅な解約などをしてきたがここに万策尽きてきた。まだ持っている株を売る方法もあるがそれをし始めると僕の資産の全面崩壊となる、次には住居を手放すこととなる。
脚の切断を聞いた時頭に浮かんだのはこれで親の建てた住居を手放さずに次の世代(甥になるかも)に引き渡せるというもの。
弟の次男は尾張旭に住んでいて名古屋の職場に通っている。そこで甥にこの家と自動車を引き渡し、相続時に揉めないように僕と養子縁組をするが同居とか扶養を求めない。僕は(特別養護)老人ホームに引っ越す。こうすれば固定資産税と自動車関連費用は無くなるので僕の収支は安定する。親の建てた住居(僕が建て替えしたので土地だけ)を親の子孫に引き継がせることができるので心残りはない。ところが甥はことわった。今住んでいる部屋をだいぶ壊したから原状に戻すのはむつかしいから引っ越せないと言うのだ。
浮かんだ第一案は潰れたが、義足も使えそうなのであの家に住み続けられそうだ。固定資産税は引き続き払わなくてはいけないが、自動車関連費用はなくなる。入院を機にいくつかの毎月の出費も削った。障害者控除もつくから市県民税も国民健康保険料も安くなるだろう。もう映画にいくことは少ないから中日本興業の株式を売り払ったからその金で当面の医療費と通帳のマイナスも補填できるだろう。
さて問題を心のそこに持ち続ければ解決策は向こうからやってくるという話に戻ろう。現役時代僕は問題を回避したり他へ押し付けたり聞かなかったこととして無視することは無かった。なぜならなら僕が気に留めなければその問題は誰にも目も止められず闇の中に消えていくと思うからだ。
「係長、昨年度課税漏れになっている人をみつけました」「僕が行って納得して納税してもらう」「主査、外国人女性が実年齢が若いのに、他人の名義で国民年金の特別給付を受けているので、辞退届に判をもらってこいと本庁に言われました」「僕が行って判をもらってくる」。隣の課の課長が「##君、精神を病んだ中年女性が徘徊して地域の人が困っている。保健所も権限が無くて手が出せない。なんとかならないか」「僕は高齢者の便利屋みたいなものですが、中年女性は対象外です。それに押さえようとしてふれたら、体に触ったといわれるとこまります」そこで一旦机に戻ったが介護記録を検索したら同居の高齢の女性がいるはずなのに、施設に入所しているとか、介護保険を利用してる記録がない。そこで「高齢者の婦人についてなにか言ってましたか」「いいやそんな話は聞いてない」「高齢者について安否がわかるまで調べてみます」
いずれも僕が噛みついて粘ったせいもあるが、大半は解決策が向こうからやってきた。
僕には自分の知識や能力に自信があるわけではない。ただ能力もないのに問題を引き受けるわけは僕の心の片隅に問題を持つといつか宇宙の中心にあるなにか意思的なものに繋がる気がするからである。
光より早いものはないという。でもあるのである。分裂した素粒子はどんなに遠く離れても一方の変化は瞬時に他方に伝わる。この繋がりの中に偶然に意味のあるものができたならそれを核にして巨大なネットワークが宇宙にできあがる。それが僕に解決策をもたらしてくれる。