セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

映画鑑賞ノート「デス・ノート」

2006-06-18 22:04:07 | 文化
映画鑑賞ノート「デス・ノート」
この映画が終わったとき、観客積がざわめいた。こうした映画での通常の結末とは大分ちがっていたからだ。それにこの映画は終わっても物語はまだ続きそうである。
物語は、ある大学生が「デス・ノート」という標題のついたノートブックを拾ったことから始まる。そのとき彼はある殺人犯が心神喪失の理由により罰を受けずに暮らしているのに憤っていた時だ。ご丁寧にも死神まで現われてノートの使い方まで説明してくれた。そこに顔がわかっている人物の名を書けばその人物はたちまち心臓麻痺で死ぬ。また死に方の状況を書き込めばそのとおりに死ぬと言うものだ。
彼は犯罪のない社会をつくるため、犯罪者を次々と世界規模で殺していく。でもこれはおかしな話だ。犯罪者と世間的にわかっている人間を殺しているだけだから、死刑しかない社会と同じこと。でもそんな社会は犯罪がない社会でも少ない社会でもない。だってあえて犯罪する者は自分だけは捕まらない又はばれないと思っているからだ、だからそうした犯罪が例外なく明るみになるなら減るかもしれないが、すでに犯罪がばれた人間を殺して犯罪が減るとは思えない。それにこうしたドラマの設定では冤罪で殺された人もいる可能性もある。
映画の話に戻ると、正義感に燃え、犯罪のない社会をつくろうとする主人公がやがて、犯罪者でない人間までも殺していく。そうした行き着くさきの話が、映画を見終わった人のざわめきとなった。なぜ犯罪者でない人間まで殺すようになったかと言うと、それらの人は彼の理想、つまり犯罪のない社会をつくると言う理想を妨害しようとする人間だからだ。映画の結末としては異例だけれど、世間ではおうおうにあることだ。
たとえはある社会の支配者の公認の学問内容を容認しない学者や教師の場合、ナチス・ドイツでは学園から追放され、別の職種(大部分は肉体労働、単純労働)に就くしかないが、ソビエトロシアでは収容所に入れられ究極的には殺害された。ナチスにとってはそうした教師や学者は非民族的として教壇から追放されるだけだが、ソビエトでは、そうした考えを持つ人間がいるから社会が進歩しないと言うことで、抹殺の対象となった。それはソビエトが社会の歴史的発展というイデオロギーを持っているからだ。万人が豊かに暮らせる社会に世界史的に段階に入っているはずなのにうまく進まないのは、反革命的な思想を持っている者がいるからで、それらを社会から隔離殲滅することは正義ということになったのだ。そうした意味での寓話とみればこの映画は特に異例でもない。
でも僕が一番気になったのは、死神とあった主人公のあり方だ。もし僕だったら、この「デス・ノート」はどのようにして機能するの?だれか読んで執行する死神かいるの?死神に仲間はいるの?組織はどうなっているの?ボスはいるの?生まれることを担当している神様みたいな存在はいるの?そして神はいるの?って聞くよ、絶対に。でも主人公は、犯罪者をころすことだけに夢中だ。これっておかしい。

読書ノート:手嶋龍一「ウルトラ・ダラー」(新潮社)

2006-06-11 17:48:29 | 文化
NHKのワシントン支局長だった手嶋龍一氏による現代の国際社会が舞台のドキュメンタリー風の小説。国際社会の構図がよくわかるのだが、もちろん著者の創作によるフィクションも交えてあるのだが、モデルらしき人物もいるので読者に誤った印象を与える懸念がある。
「ウルトラ・ダラー」とは識別できないほど精巧につくられた北朝鮮製のドルの偽札だ。この偽札製造と北朝鮮による日本人拉致が関連つけられて話が始まる。
主人公は日本人ではなく、BBC放送の東京支局員の肩書きをもつ英国諜報部員の男性だ。
読み始めて「テッシー(手嶋氏)はなかなか旨い。プロの小説家に遜色ない」と思った。でもちょっと立ち止まり、ひょっとしたら随所に描かれる日本の高級なあるいは古典的な文化的な舞台装置や、英米の諜報組織の知識に幻惑されているのかもしれないと思った。
しかしその後、パリのセーヌ川でのクライマックス的場面では、ハリウッド映画的な見せ場があり感心した。映画になるのではと思ったが、日本語がぺらぺらな英米人は多いが、演技力と観客を呼べるパーソナリティを持ったものを探すのはほとんど困難だと思った。
しかしその後の展開が不満である。小説的にはセーヌ川の場面で完結すべきだったと思う。
というのは、偽ドルあるいは偽ドルで稼いだ資金とウクライナ製の巡航ミサイルの闇取引を邪魔された北朝鮮or中国の諜報組織が復讐のため、主人公の恋人の日本人を誘拐して主人公を呼び寄せて、主人公と銃撃戦(日本で)すると言うもの。これは荒唐無稽だ。復讐はありえるかもしれないが普通の暗殺にすると思う。
これ以外に不満な点は以下のとおり。
日本の外務省の高官の国外逃亡はおかしい。
外務省の高官の妻と偽札探知機のメーカーの社長の不倫場面の写真による脅迫は、話の流れにほとんど影響を与えていない。現実の世界では無駄なことも多いかもしれないが、エンターテインメントの世界では不要では?
北朝鮮による謀略のはずが中国の謀略に移っていった。このためか北朝鮮内部での偽ドル作成の内実がほとんど描かれていないのは期待はずれだ。