
Set list : Sep 29,2010
1st
1 Broadway Blues
2 The Blessing
3 I Fall In Love Too Easily
4 Tonight
5 Some Day My Prince Will Come
2nd
6 Things Ain't What They Used To Be
7 You Won't Forget Me
8 G-Blues
9 Smoke Gets In Your Eyes
encore
10 Straight, No Chaser
11 Once Upon A Time
**************************
18時、仕事を終え、日本橋から銀座線に乗るも、
案の定、虎ノ門で大変な混雑になり、耐えきれずに列車を降り、
数本あとの列車を待って、渋谷へ向かった。
この日も雨降り、オーチャードホールへの道で、冷たく濡れた。
定刻を過ぎて、10分ほど経った頃、トリオの面々が現れた。
何だか、キースの様子がおかしい。
しきりにピアノの椅子の位置を目測で図っている。
かつて、グレン・グールドが、あるコンサートの際に、
ジョージ・セルとニューヨーク・フィルを傍らにしたまま、
椅子の高さを30分も調整し続けたという逸話を思い出した。
やがて、やっぱりずれている、と判断したのか、
キースは両膝を椅子に当てて、そのままちょこちょこ歩いて
位置を直した。
その仕草を滑稽と思ったのか、可愛らしいと思ったのか、
客席から、無数の微笑がさざめいた。
キースはそうして椅子に座ったのだが、突然に立ち上がって、
「One more」と言葉を発して、ステージ脇へ戻ってしまった。
この間、ピーコックとディジョネットは、何事もないように
チューニングやセットの微調整に忙しく、
キースの方に注意を払うこともしていなかった。
再びキースがステージに現れ、客席から拍手が起こった後、
キースが弾き始めたのは、オーネット・コールマンによる
ナンバーだった。
そうして、1st set の演奏が始まった。
****************************
キースのピアノの音に、強みが戻っていた。
ピーコックとディジョネットの反応にも鋭さが戻っている。
無論、ピーコックの技術や、ラインの組み上げ方に感じられる
加齢に起因する問題は、音になって出ていたし、
ディジョネットの創発性や反射感も、以前のような鮮烈さは
薄れつつあるように思う。
キースの音からも、あの独特な力感は消えつつある。
それでも、この日の演奏からは、無音に最も近い静寂と、
人智に最も近い微温が聴こえてきた。
シンプルでいて隙のない、必然的な音。
いちばん聴きたい音。
The Blessingで、単純明快でありながら怖ろしく緻密に
コントロールされた即興を織合わせた後に、
I Fall In Love Too Easily が演奏されたとき、
半音階的なシーツ・オブ・サウンドが、さざ波のように
始まって、大きな音のうねりへと育まれていくうちに、
聴き手の側のホメオスタシスが大きく揺さぶられて、
さまざまなひとの顔や、出来事の記憶が湧きあがって
奔騰して、感極まってしまった。
オスカー・ピーターソンの名演で知られるTonightを
演奏したのは、キースの幼少期のアイドルだった彼への
オマージュだったのだろうか。
そしてSomeday My Prince Will Come は、23日の演奏とは
次元も位相も異にするような音。
シンプルでリフ的な音型のフレーズを組み上げ、
次第に熱を加え、半音階的なシーツ・オブ・サウンドを展開する、
あの「Still Live」を思わせるような演奏だった。
****************************
実は、僕はここで帰ろうと思った。
一瞬、このまま死んでもいいな、とさえ思った。
2nd set は、Things Ain't What They Used To Beから始まった。
予想に反して、1st setに頂点が来てしまったためか、
ウォーミング・アップとして、やや弛緩した演奏に聴こえた。
You Won't Forget Me は、バラードからボッサ・リズムへ展開し、
トリオ結成初期によく聞かれたアプローチを取った。
各人のプレイ自体が当時と変化しているゆえに、印象は異なる。
G-Bluesを経て、キースが弾き始めた音は、ソロ・コンサートで
近年よく聴かれるアプローチだった。
そうして、徐に現れたSmoke Gets In Your Eyes は、一部の隙も
感じさせない、トリオとしての完璧な音だった。
encore、Straight, No Chaser は、4小節ごとに音の主体が交代し、
対話的に進行した後、4ビートへと転化する。
ディジョネットの創発性も十分に生きている。
最後のOnce Upon A Timeは、アイシングとは言わないまでも、
クール・ダウン、といった印象だった。
終演時、キースが、ピーコックとディジョネットに肩を回した。
***************************
この日の音は、分かち合いたい音だった。
めったに聴ける演奏ではなかった。
三者三様、コンディションもよかったのだろう。
音楽を始める契機をもたらしてくれた音楽は、
まだ鳴り止んではいない。
さりながら、気に罹ったことがあった。
これまで、どんなことがあっても、終演後、お辞儀をする前、
あるいはステージから下がる際に会話を欠かさなかった彼らが、
この日は、互いに一言も言葉を掛け合っていなかったことだ。
神戸での公演で、キースが発したという
「We burned out...This is our last concert...I guess...」
この言葉の真意を、どうにも測りかねる。
*****************************
次は、10月3日、最終公演。
その前に、明日から、名古屋と滋賀へと出張。
1st
1 Broadway Blues
2 The Blessing
3 I Fall In Love Too Easily
4 Tonight
5 Some Day My Prince Will Come
2nd
6 Things Ain't What They Used To Be
7 You Won't Forget Me
8 G-Blues
9 Smoke Gets In Your Eyes
encore
10 Straight, No Chaser
11 Once Upon A Time
**************************
18時、仕事を終え、日本橋から銀座線に乗るも、
案の定、虎ノ門で大変な混雑になり、耐えきれずに列車を降り、
数本あとの列車を待って、渋谷へ向かった。
この日も雨降り、オーチャードホールへの道で、冷たく濡れた。
定刻を過ぎて、10分ほど経った頃、トリオの面々が現れた。
何だか、キースの様子がおかしい。
しきりにピアノの椅子の位置を目測で図っている。
かつて、グレン・グールドが、あるコンサートの際に、
ジョージ・セルとニューヨーク・フィルを傍らにしたまま、
椅子の高さを30分も調整し続けたという逸話を思い出した。
やがて、やっぱりずれている、と判断したのか、
キースは両膝を椅子に当てて、そのままちょこちょこ歩いて
位置を直した。
その仕草を滑稽と思ったのか、可愛らしいと思ったのか、
客席から、無数の微笑がさざめいた。
キースはそうして椅子に座ったのだが、突然に立ち上がって、
「One more」と言葉を発して、ステージ脇へ戻ってしまった。
この間、ピーコックとディジョネットは、何事もないように
チューニングやセットの微調整に忙しく、
キースの方に注意を払うこともしていなかった。
再びキースがステージに現れ、客席から拍手が起こった後、
キースが弾き始めたのは、オーネット・コールマンによる
ナンバーだった。
そうして、1st set の演奏が始まった。
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キースのピアノの音に、強みが戻っていた。
ピーコックとディジョネットの反応にも鋭さが戻っている。
無論、ピーコックの技術や、ラインの組み上げ方に感じられる
加齢に起因する問題は、音になって出ていたし、
ディジョネットの創発性や反射感も、以前のような鮮烈さは
薄れつつあるように思う。
キースの音からも、あの独特な力感は消えつつある。
それでも、この日の演奏からは、無音に最も近い静寂と、
人智に最も近い微温が聴こえてきた。
シンプルでいて隙のない、必然的な音。
いちばん聴きたい音。
The Blessingで、単純明快でありながら怖ろしく緻密に
コントロールされた即興を織合わせた後に、
I Fall In Love Too Easily が演奏されたとき、
半音階的なシーツ・オブ・サウンドが、さざ波のように
始まって、大きな音のうねりへと育まれていくうちに、
聴き手の側のホメオスタシスが大きく揺さぶられて、
さまざまなひとの顔や、出来事の記憶が湧きあがって
奔騰して、感極まってしまった。
オスカー・ピーターソンの名演で知られるTonightを
演奏したのは、キースの幼少期のアイドルだった彼への
オマージュだったのだろうか。
そしてSomeday My Prince Will Come は、23日の演奏とは
次元も位相も異にするような音。
シンプルでリフ的な音型のフレーズを組み上げ、
次第に熱を加え、半音階的なシーツ・オブ・サウンドを展開する、
あの「Still Live」を思わせるような演奏だった。
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実は、僕はここで帰ろうと思った。
一瞬、このまま死んでもいいな、とさえ思った。
2nd set は、Things Ain't What They Used To Beから始まった。
予想に反して、1st setに頂点が来てしまったためか、
ウォーミング・アップとして、やや弛緩した演奏に聴こえた。
You Won't Forget Me は、バラードからボッサ・リズムへ展開し、
トリオ結成初期によく聞かれたアプローチを取った。
各人のプレイ自体が当時と変化しているゆえに、印象は異なる。
G-Bluesを経て、キースが弾き始めた音は、ソロ・コンサートで
近年よく聴かれるアプローチだった。
そうして、徐に現れたSmoke Gets In Your Eyes は、一部の隙も
感じさせない、トリオとしての完璧な音だった。
encore、Straight, No Chaser は、4小節ごとに音の主体が交代し、
対話的に進行した後、4ビートへと転化する。
ディジョネットの創発性も十分に生きている。
最後のOnce Upon A Timeは、アイシングとは言わないまでも、
クール・ダウン、といった印象だった。
終演時、キースが、ピーコックとディジョネットに肩を回した。
***************************
この日の音は、分かち合いたい音だった。
めったに聴ける演奏ではなかった。
三者三様、コンディションもよかったのだろう。
音楽を始める契機をもたらしてくれた音楽は、
まだ鳴り止んではいない。
さりながら、気に罹ったことがあった。
これまで、どんなことがあっても、終演後、お辞儀をする前、
あるいはステージから下がる際に会話を欠かさなかった彼らが、
この日は、互いに一言も言葉を掛け合っていなかったことだ。
神戸での公演で、キースが発したという
「We burned out...This is our last concert...I guess...」
この言葉の真意を、どうにも測りかねる。
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次は、10月3日、最終公演。
その前に、明日から、名古屋と滋賀へと出張。
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