白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

paradoxism

2006-12-10 | こころについて、思うこと
気がよくまわるのは空腹のときばかり
サービスしてくれるのは敵ばかり
・・・・・・
まことの愛はお世辞の中にしかなく
出会う相手は不幸なやつばかり
本当の関係は嘘付き同士だけ
分別があるのは恋狂いの男だけ。
・・・・・・
真実の人間関係は作り話の中にしかなく
卑劣漢は男らしい男の中にしかない

      (ヴィヨン「逆説のバラード」から)



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午前2時
タクシーのなかで
車窓に映写される15倍速の夜を眺めていた
ひとのこころのあり方が それとは
比べ物にならぬほどに速くすれ違っていくことなど
もう 飲み込めぬほど知っている




こころはどんどん追い越されていく
雨に濡れて じっとことばに聴き入っていると
こころがことばに追い越されて 
こころを灯せぬままに ことばは虚しく 
屋上の空調の機械音にかき消されていく




こころはあるのに そのこころを例えば 
抱きしめるとか 殴りつけるとか
行為に変換することが許されずに
いつのまにか 立ち尽くすしかなくなって
足もとの水たまりに ぼくが溶け出していくような気がした




「何かをよくしようとすれば 何もしないことだ」と
ジョン・ケージは言った
では 眼の前で沈んでいこうとするオフィーリアを
見捨てろ、とでも?
けれど もし差し出した手をオフィーリアが跳ね除けたなら
あるいは その手が届くことがなかったなら
互いに手を差し伸べあっていたにせよ
ぼくの手は 初めからそこになかったのも同じではないのか




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こんな手紙を、書いていた。




「大切なひとのことが わかりすぎてしまうと
そのひとの邪魔をしないように、と思う」




「幸せは、それが還らぬとわかったときに ひとを苦しめる。
だからこそ還らぬものをふたたび求める。
新しい幸せ、というものはなく、
引き剥がされたものが、 互いにひきつけあうようにして
求めなおすものかもしれない」




「きみには、いま、こうするより外になかった。
 それにうなずいて、きみの今をこころから感じる事以外に
 ぼくには何ができるだろうか?
 そしてきみの明日を想うこと以外に。
 きみのこころのありかたと、書かれたことばたちと、
 ことばになりきれなかったものたちを、
 まごころから、ほんのわずかの微笑をたたえながら
 そのまま抱きとめること以外に、何が出来るだろうか」




「きみが自分の弱さや卑屈さや汚さを
 まごころから告白して、それに悩み、
 時には開き直って、しかし開き直りきれずに
 どうしようもなくなってうずくまっているのを
 ほんの少しでも楽にしてあげようとすれば、
 ぼくにはそうするしかない。
 誰かの幸せを見送ることしかできないっていうのは
 その延長にある思いです」




「人間、生きていくことには 大した理由なんかないから、
 奇麗事も裏切りも恥も罪もあって、
 まごころも愛情もひたむきさもある。
 この得体の知れない怪物がわんさかいて
 ぼくたちはそのなかの群れのひとかけら。
 そのひとかけらであることを
 お互い知っているから
 大切に思うんです」




「僕の言葉は、きみには必要ないのかもしれない。
もはや何をいっても無駄だろうと言うことも知っている。
そして このようにいうことが
君をもっと苦しめることも分かっている
なんて残酷なことか
そしてそれをわかっていても こうやって言葉にしてしまう
そうやってきみをまた苦しめている僕自身の
そのあまりの呪わしさに命を絶ちたくもなるけれど
かといって
命を絶つはずもないのが卑怯さ 卑劣さ 滑稽さ」




「きみにとって
 たいせつなひとの孤独は いくら抱きしめても足りない。
 けれど、どうでもいいひとの孤独など
 見向きもしないだろ?
 その当たり前のことに
 少しだけ 傷ついて欲しいんです」




「誰かの幸せを助け、誰かの力になろうとすることが、
 もし、その誰かに対する、
 あるいは、「人間」そのものに対する、
 かたちをかえ、動機すらもすりかわった復讐であるならば、
 こんな恐ろしいことはないのです」




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暗闇の中をそっと ぼくに気付かれぬように
駆け出していこうとすればするほど
ぼくはそれにきづいて それ以上のことに気付いて
たまらなくなって うつむいて歩いていて
ふ、と、呼吸の仕方を忘れかけて
暗闇すらも失いかけてしまう
どこにも安らげる場所はないし
何をすることも許されない気もして
疲れてしまって しばらく起き上がれなくなった




ことばにすればするほど遠くなる
ことばにしないなら 忘れ去られる
どうすれば?




中学生のころにつけていた雑記帳を読み返していて
こんな書付を見つけた。




ことばは、なにも語れない。

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