[書籍紹介]
宮部みゆきの「きたきた捕物帖」シリーズの第2作。
迷子の孤児で、
深川元町の岡っ引き・千吉親分のもとで育てられた北一と
湯屋の謎の釜炊き人・喜多次の
北・喜多=きたきた の事件簿。
未発達の青年・北一が
様々な事件に巻き込まれながら、
次第に大人になっていく成長物語。
「1」で扱う事件は、
ことごとく怪異めいた話だったが、
今作では一味違う。
第一話 子宝船
酒屋の伊勢屋の主人の描いた宝船の絵が子供に祟る、
という話が広まる。
何年か前、伊勢屋の主人に頼んで宝船を描いてもらったら、
子宝が授かった。
宝船の中の弁財天が赤子を抱いている絵だ。
しかし、その後、赤子は死んでしまい、
改めて宝船の絵を見ると、
弁財天の姿が消えていた、というのだ。
しかも、続けて2件。
絵をもらった人々が伊勢屋に詰めかけ、騒ぎに。
前作と同様、怪異談かと思ったら、
意外な形で真相が判明する。
第二話 おでこの中身
北一がよく知っていた弁当屋の一家三人が死ぬ。
はじめは一家心中かと思われたが、
現場検証の結果、毒殺されたと分かる。
北一は現場付近で、
怪しげなな女を目撃する。
捜査の途中で、
おでこが異常に突き出た人物の
特殊な記憶を頼るが・・・
第三話 人魚の毒
第二話の続き。
書下ろし。
弁当屋の妻に言い寄っていたやくざ者が捕まり、
拷問で白状したため、
その男の犯行だと断定され、一軒落着となるが、
北一はしっくりせず、
不審な女の似顔絵を配って捜査を続ける。
ある日、似顔絵を見たという
木更津から来た男が訪ねて来て・・・
宮部みゆきの小説には、
ごくごく異常な人間、
「人の皮をかぶった化け物」が登場するが、
この一篇もそれ。
はるか昔の田舎の漁村での一家6人毒殺事件と
弁当屋の事件がつながって来る。
犯人の正体は・・・
千吉親分のおかみさんの松葉、
深川一帯の貸家や長屋の差配人・勘衛門、通称「富勘」、
同じ町内にある武家屋敷の用人・青海新兵衛、
手習い所の師匠・式部権田左衛門など
様々な人々が北一を育てる役割を担うが、
今作では、新たな人物も登場する。
一人は正五郎。
回向院裏に住み、本所深川一帯を仕切る大親分。
子宝船にまつわる騒動をその貫禄で終息させる。
栄花
椿山家別邸、通称「欅屋敷」に住み、
絵を描くことで、北一の文庫づくりに参加している。
美形の女性なのに、男装をしている。
おでこ
実の名は三太郎。
政五郎親分の元配下。
記憶力抜群という才を生かし、
町奉行所文書係の助手として働く。
栗山周五郎
検視の手練れで、誰もが一目置く与力。
弁当屋の現場の検証で
心中ではなく、毒殺だと見抜く眼力は素晴らしい。
(人の心に潜むやっかみについて)
そのやっかみは、
小雨のひと降りで芽を吹く憎しみの種だ。
人の心は畑みたいなもんでな。
いっぱい種が植わっているんだよ。
てめえで植えた覚えのない種もある。
だから、まめに草取りするのが肝心なんだよ。
(弁当屋の事件に遭遇した後、富勘の言葉)
遠慮しないで泣いたっていいよ、北さん。
泣けるのも若いうちさ。
歳をくうと、こういう辛いことでは、
泣くより先に打ちのめされちまうからね。
容疑者に拷問をかけて
自白を吐き出させ、
事件を落着させてしまう
お上のやり方。
それは、今の検察での自白偏重主義、
冤罪事件につながる。
千吉親分の妻から語られる
岡っ引き制度の批判も驚かされる。
千吉親分の目指したものが
「岡っ引きの要らない町の仕組み」だったとは。
既に第三作が刊行されている。