[書籍紹介]
就活生の誰もが憧れるIT企業「スピラリンクス」の
最終選考に残った六人の大学生。
彼らに課題が与えられる。
一カ月後までにチームを作り上げ、
ディスカッションをするというものだ。
その内容によっては、
六人全員を内定するという。
六人は会合を重ね、それぞれの性格も把握し、
長所も認め、
いい感じにチームが作られていく。
ところが、本番直前に課題の変更が通達される。
それは、「内定者は一人。六人で最適の内定者を選ぶ」
というもの。
その瞬間から、六人は仲間から
一つの席を奪い合うライバルになった。
審査当日、部屋に六人が集められ、
議論をして、最良の内定者を選ぶことになった。
その様子は隣室でモニターされ、
ビデオに記録されている。
六人の一人から方法の提案がなされ、
30分ごとに最適内定者を投票し、
制限時間の2時間30分後までに
最多票を獲得した者が内定者になるというルールを定めた。
議論が進む中、
ドアに隠された大きな封筒が発見される。
その中には、六人それぞれに当てた小封筒が入っていた。
その中身は、それぞれの学生の過去の罪をあばくものだった。
高校時代の野球部で下級生をいじめて自殺させた者、
女学生を妊娠させて、捨てた者、
詐欺行為の一員だった者・・・
開封されるたびに新たな罪が暴かれ、
それは投票に確実に影響していく・・・
という異常状況を
前半は波多野という一学生の視点で描く。
そんな行為をした犯人は誰なのか。
どうやってそんな過去の罪を探り当てたのか。
最後に一人が行為を認め、
最多の得票を得た者が内定者となるが・・・
後半は、その8年後、
六人のうち死んだ一人の残した
新たな問いかけ文書から、
内定された人物が残りの4人に接触して回る。
(その内容は「インタビュー」として、
前半部分に織り込まれている。)
そして、あの時告白した人物が犯人ではなく、
新たな人物が犯人と判明し、
その動機も明らかにされる・・・
おそらく推理小説の新機軸。
こういう小説は読んだことがない。
新しい発想で興味深い。
作者は浅倉秋成。
その背景には、
就活における、
人の人生を決めてしまう、
面接の妥当性がある。
なにしろ、犯人の意図は、
最終選考に残った六人が
一人残らず全員、
最終選考に残すべきではなかった
ろくでもないクズということ明らかにするものだから。
犯人は言う。
「すごい循環だなと思ったよ。
学生はいい会社に入るために嘘八百を並べる。
一方の人事だって
会社の悪い面は説明せずに
嘘に嘘を固めて学生をほいほい引き寄せる。
面接をやるにはやるけど
人を見極めることなんてできないから、
おかしな学生が平然と内定を獲得していく。
会社に潜入することに成功した学生は
入社してから
企業が嘘をついていたことを知って愕然とし、
一方で人事も
思ったような学生じゃなかったことに愕然とする。
今日も明日もこれからも、
永遠にこの輪廻は続いていく。
嘘をついて、嘘をつかれて、
大きなとりこぼしを生み出し続けていく」
当時の面接の責任者であった人事部長は、
面接で相手の本質を一瞬で見抜くテクニックを問われて、
こう答える。
「これはれもうね、本当に簡単に一言で言い表せますよ。
そんなものはない。
これに尽きますね。
相手の本質を見抜くなんてね、
保証しますけど、絶対に、百パーセント、不可能です」
「五千分の一、真に最も優秀な人をたった一人採用するなんて、
そんなのどうです。
冷静になればわかるじゃないですか。
神様にだってできないですよ。
面接なんて長くたって一時間かそこらです。
そんな短時間で、
相手の何がわかるっていうんですか。
三回か四回繰り返したところで、
相対するのは三、四時間程度です。
何もわかりなんてしないですよ」
そして、こう続ける。
「『落とした学生の中に、
もっと優秀なやつがいたんじゃないか?』
保証しますけどね、
一万パーセント、いましたよ」
「考えるだけ無駄です。
絶対にいました。
でも、どうしろっていうんですか?
どうしようもできないんですよ」
「だからね、やるしかないんですよ。
この馬鹿馬鹿しい、毎年恒例の、頭の悪いイベントをね。
『将来的に何をやらせるのかは決まっていないけれど、
向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、
なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選ぶ』 日本国民全員で作り上げた、
全員が被害者で、
全員が加害者になる馬鹿げた儀式です」
事実、8年前、途中で落とされて最終選考に残らなかった人物が、
起業して、成功をおさめた事実も紹介される。
終盤、スピラリンクスに就職できた主人公は、
面接官に任命されて、おののく。
面接の間中、
私は人の人生を握っているんだ、
という思いで地獄のような時をすごす。
人を見極められるわけないのに、
しっかりと人を見極められますみたいな
傲慢な態度を取り続けて
では、どうしたらいいのか。
誰も回答できる者はいないだろう。
人間がいて、
社会を作っている以上、
避けられない課題を明らかにして、
興味深い小説だった。
最近、映画化され、公開中。
この極めて小説的な内容を
映像化できているのか、
それとも無理なのか。
また失望してしまうのか。
観ようか、どうしようか、
迷っている。