[書籍紹介]
作者の小野寺史宜(ふみのり)の小説によく登場する
ミツバ市に住む10人の人々の物語。
「小説すばる」に掲載された短編8篇に
書下ろしを2篇加えたもの。
「梅雨明けヤジオ」
小学校4年の少女が
クラスで無視されて引きこもっていた夏休み、
その原因を作ったクラスメートの男子と共に、
高校野球地区予選の試合に出かけ、
ヤジをする青年に出会う。
「逆にタワー」
中三男子の少年は、学友と作ったバンドで
サイドギター、ベースと「格下げ」され、
くさっていたが、
隣の席の女子と初デートで東京タワーに出かける。
しかし、女子はタワーに上りたくないといい、
二人で道路を歩くことになり・・・
「冬の女子部長」
三者面談の場で、奔放な母にへきえきした男子が、
夜、酔った母を迎えに行った場で、
実は弟がいる、と伝えられ・・・
「チャリクラッシュ・アフタヌーン」
一度はデビューしたものの鳴かず飛ばずで解散した
バンドのミュージシャンは、
恋人ともめて、別れて腐っている時、
小学生の乗った自転車に衝突され、捻挫。
小学生の家に行くと、出て来た母から
意外なことを言われる。
「君を待つ」
電車の事故で卒論提出が遅れて受理されず、
一年を棒に振った男が、
就職した地ビール販売会社で出会った
女子社員に好意を持つ。
初めての食事で
女子社員との間の不思議な因縁に気づかされ・・・
「リトル・トリマー・ガール」
小説家志望で、応募した文学賞に落ち続け、
節約生活をしている男が
近所のトリミングサロンになぜか関心を持つ。
いきつけのディスカウントストアで
1万円を拾い、ストアに届けた後、
サロンの前を通ると・・・
「ハグは十五秒」
結婚1年で、今だ朝晩妻をハグしている男が
妻から昔の元カレを泊めていいかと言われる。
泊めてやるが、出勤した後、
元カレの後をつけてみると・・・
「ハナダソフ」
40歳になった同窓会で
級友たちと再会した男は、
子供の頃、マンションの管理人との「戦争」の話題になり、
昔付き合った同級生の祖父が
その管理人だったことを知ってびびった過去の話の
真相を知って・・・
「カートおじさん」
中高生の頃、将来スーパーのレジのおばちゃんにはなるまい、
と思っていたが、今はレジをしている主婦。
その日常に起こる様々な出来事をつづる。
「十キロ空(から)走る」
引っ越しの荷物を整理していた時、
出て来た古いDVD。
試しに再生してみると、
昔、テレビ番組で
元カノとよりを戻すために
ハーフマラソンをさせられた素人参加番組の
録画が出て来た。
その放送の後、元カノと結婚したのだが、
物語には、まだ続きがあった。
11歳から42歳、
順に年齢があがる人々の
人生の小さな出来事に向き合う男女を描いた、
著者初の短編集。
どの作品も、特に劇的な事件は起こらないが、
いつでもどこでもありそうな庶民の哀歓を描いて、
心が温まる。
登場人物が全員いい人。
それにしても10作中7作が離婚に関わる話とは。
引っ越しも多い。
「冬の女子部長」「チャリクラッシュ・アフタヌーン」
「君を待つ」「リトル・トリマー・ガール」
「ハグは十五秒」「十キロ空(から)走る」
がオススメ。