[書籍紹介]
直木賞作家・辻村深月による
詐欺を巡る3つの物語。
2020年のロマンス詐欺
2020年と言えば、コロナ禍が拡大し、
世間が不安に満ちていた時代。
大学進学のため山形から上京した加賀耀太だったが、
緊急事態宣言が発令され、
入学式は延期され、大学の授業も始まらない。
定食屋を営む故郷の実家の売り上げも下がって、
仕送りが半分になるという。
バイトしようにも、仕事先がない。
そんな時、
友人から
「パソコンでできる簡単なバイト」
を紹介してもらう。
実際、始めてから分かったが、
そのバイトとはロマンス詐欺の片棒を担ぐことだった。
偽のプロフィールで、
架空の人物(六本木に会社を持つ実業家等)になり、
目星を付けた女性とメールで連絡を取り、
関係が出来た後、
最後は高額な商品を売りつける。
そんなわけだから、
罪悪感にとらわれ、なかなか実績は上がらない。
数多くの女性と接触する中、
未希子という主婦と親密なやりとりを交わすようになる。
ある日、未希子から「助けて」というメッセージが届く。
DVの夫に殺されそうだというのだ。
教えられた住所に耀太が行ってみると、
そこには・・・
五年目の受験詐欺
二児の母、風間多佳子に、ある人物から電話がかかってくる。
「あの紹介は、詐欺だったんです、私たち、騙されていたんです」
それは、5年も前のこと。
教育コンサルタントの「まさこ塾」で、
次男・大貴の中学受験に際して、
「特別紹介の事前受験」という名目で100万円を払って
中高一貫校に合格するよう、
便宜をはかってもらったのだ。
長男は優秀で志望通りに進学したが、
次男は成績が芳しくなく、
藁をもすがる思いで、話に乗ってしまった。
合格はしたものの、
いつバレて退学させられないかと不安な日々だった。
しかし、電話の話では、
実は金は学園に渡っておらず、
実力で合格したのを、口利きで合格したことにして、
金を巻き上げる詐欺だったというのだ。
不合格の人には、返金している。
訴訟団に加わってほしいと言われて多佳子は躊躇する。
夫にも、大貴にも秘密だったからだ。
もし詐欺だったとすれば、
大貴は自分の実力で受かったのであり、
そんなことを告白すれば、
子供の力を信じていなかったことがばれてしまう。
煩悶したあげく、多佳子は夫に打ち明けるが・・・
あの人のサロン詐欺
36歳の引きこもり女性・紡は
「谷嵜レオ創作オンラインサロン」を主宰している。
人気の漫画原作者・谷嵜レオとファンとの
非公式な交流サイトだったが、
今では月1000円の会費を取り、
オフ会を開き、谷嵜レオのファンと交流し、
会員の創作漫画に対する添削相談を受けてさえいる。
しかし、絆は、谷嵜レオではない。
ニセモノだ。
実は、紡はシナリオの専門学校に行ったが、
結局はモノにならず、
事務職などを転々とし、長続きしなかった。
ただ、谷嵜レオの漫画原作が大好きで、
その世界に没入している間に、
谷嵜レオ作品評価分析のサイトを開き、
その内容充実ぶりから、
「あなたは谷嵜レオではないか」という誤解を生み、
肯定した結果、会員が増え、
月1000円の会費を取るようになり、
創作指導さえし、
オフ会まで開催するようになったのだ。
というのも、谷嵜レオは、
ヒット作を連発し、
映画化もされている人気の漫画原作者なのにもかかわらず、
性別も経歴も容貌も謎の覆面作家だったからだ。
オフ会では、ファンたちは、
絆を谷嵜レオと思い、接して来る。
だから、この会合は秘密扱いと口止めする。
ファンたちが注ぐ視線が心地よくなり、
「女性だったんですね」「きれいですね」と
尊敬の眼差しで見られるのも快感だった。
娘が就職もしないで家にいることを心配していた両親も
いつしか絆が谷嵜レオであることを信ずるようになり、
早や5年。
そして、破局が来た。
本物の谷嵜レオが下着泥棒で逮捕されたのだ。
サイトは荒れた。
「あなたは誰?」
「ニセモノだったのか」
とのファンの質問に、
どう対処していいか分からない。
会費を取っているのだから、
詐欺になるだろう。
会員たちの動きが怖い。
ネットに公開された谷嵜レオの写真を見て、
絆は驚愕する。
それは最後のオフ会に来て、隅にいた男性だった。
どうやら、そういうオフ会があるとの噂を耳にして、
偵察にやって来たらしいのだ。
ネットにさらされた住所のアパートを訪ねた絆は、
たまたま帰宅してきた谷嵜レオ本人に会ってしまう。
そして・・・
3篇中、これが一番面白かった。
ニセモノが本物より本物らしくなるというアイロニー。
コアなファンの行き着く先を示して興味津々。
着地点もなかなかいい。
どの作品も、いかにも現代を反映している。
特にSNSの普及による匿名性が新時代の詐欺を生む。
題名の「ジェンガ」とは、
互い違いに組み合わせたブロックで作った塔から
ブロックを抜いて積み上げていくバランスゲーム。
ひとつ嘘をつくと、
ジェンガが積み上がるように嘘をつき続けなければならず、
バランスを崩すと一瞬で全て崩れてしまう。
嘘の論理を積み上げ、
ジェンガが崩れた瞬間に事件として発覚する。
というのが3篇の作品に共通する。
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