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短編集『堪忍箱』

2024年11月15日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

宮部みゆきの初期短編集。
1996年単行本、2001年文庫化。
江戸下町に暮らす人々の
心の機微を描いた八つの短篇から成る。

「堪忍箱」
菓子問屋近江屋が火事で焼ける。
内儀のおつたは、
黒い漆塗りの文箱のようなものを取り出すために
火の中に戻って、死んだ。
それは、近江屋に代々伝わる、「堪忍箱」だった。
当主や内儀が、その箱に
何事かつぶやいていたのが目撃されている。
当主の孫娘・お駒は堪忍箱を受け継ぎ、
決して中を見ないと決心するが・・・

「かどわかし」
畳職人の蓑吉は、
見慣れない子供から
驚くような話をもちかけられる。
「おじさん、おいらをかどわかしちゃくれないかい?」
誘拐して、子供の父親から
百両という金を奪ってほしいというのだ。
身元を問うと、
名の知れた料理屋辰美屋の坊ちゃんだ。
蓑吉は辰美屋の畳替えをしたことがあり、
その子は、その時の蓑吉を見て、訪ねてきたらしい。
因果を含めて家に返したが、
それから半月後、
本当に子供の誘拐事件が起こる・・・
その背後には、親に顧みられなかった子供の
女中への思慕の念があった。

「敵持ち」
浪人の小坂井又四郎に、用心棒の話が持ち込まれる。
同じ長屋に住む加助の身辺警固だ。
加助は通いの飯屋で板前をしている。
その女将に横恋慕した男が
加助との仲を疑って、襲撃して来るというのだ。
事件は起こり、真相は分かるが、
その過程で、又四郎の素性と剣術の腕が明らかになる・・・

「十六夜髑髏」(いざよいどくろ)
ふきが奉公に上がった米屋の小原屋で
数々の異変が起こる。
そして、十六夜の月の夜、
初代が犯した罪の恨みが爆発する。
宮部みゆき得意の怪異談。

「お墓の下まで」
深川の長屋の差配人・市兵衛は、
身寄りの無い子供を引き取って育てている。
おのぶは、迷子で引き取られ、嫁に行って、子供も出来た。
藤太郎とおゆきは、親に捨てられて、市兵衛に引き取られた。
最近、おゆきのところに
母親が現れ、暮らせるようになったので
引き取りたいと言ってきた。
おゆきは藤太郎にそのことを伝えるが、
複雑な反応だった。
実は、おゆきと藤太郎には人に言えなる事情があった。
更におのぶにもわけがあり、
市兵衛夫婦にも、人に隠した秘密があった。
それぞれの人生の秘密を抱えて、
夜が更けていく・・・
3つの秘密が交錯する事情が切ない。

「謀りごと」
深川の丸源長屋の差配人・黒兵衛が
長屋の一室、浪人の香山又右衛門の部屋で亡くなった。
又右衛門の不在中の出来事だった。
長屋の住人が集まって、あれこれ話すが、
それぞれの黒兵衛像が食い違っていた。
やがて、又右衛門が戻り、
題名の「謀りごと」の意味が明らかになる・・

「てんびんばかり」
徳兵衛長屋で住むお吉とお美代は、
共に両親を亡くし、
姉妹のように暮らして来た。
一昨年、お美代は大黒屋の後添いに入った。
そのお美代が長屋に立ち寄ったという。
それを聞いたお吉の心の中に、
様々な複雑な思いが去来する。
嫉妬、捨てられたという恨み、
そして復讐。
幼なじみの片方が幸せになったのを祝えない
複雑な女心を描く。

「砂村新田」
眼病を患って仕事を失った父と母を助けるために、
通いの女中を始めたお春は、
その道すがら、一人の男に話しかけられる。
お春のことや、母親のお仲のことも知っているようなのだ。
その男のことを母親に聞きそびれていたが、
ある時、お仲が線香をあげに行ったことで、
男の死と母親との関わりをお春は知る。
それは、若い頃の母親に思いを寄せていた
男との過去の出来事だった。
その時、初めてお春は、
男がお春に託した
「おっかさんを大事にな。
 お春ちゃん、頼むよ」
という言葉の意味を知るのだった。

どの話を取っても、
ストーリーテラー宮部みゆきの面目躍如。
しかも、江戸時代の人々の思いを越えて、
今に生きる人間にも課せられた
様々な生きざまがあふれる。
今も昔も変わらず、
一人ひとりが、複雑な何かを抱えて、
悩み、苦しみ、あきらめ
それでも希望をもち生きて死んでいくのが分かる。

あやかしあり、落語のような人情ものあり、
深い人生の一コマを切り取った哀歓あり、
善人の心の中にも宿る闇あり。

特に「お墓の下まで」「てんびんばかり」「砂村新田」は
読後、良い話を読んだという感慨に浸り、
短編小説を読む醍醐味を与えてくれる。



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