[書籍紹介]
28歳の女性・千鶴(ちづる)は、
小学一年生の時に母・聖子と離れ離れになり、
高校生の時に父親を亡くし、
祖母と爪に火を点すような生活を送ってきた。
その後祖母も亡くし、
結婚した相手・弥一がクズで、
事業に失敗を重ねた挙げ句横暴になり、
何とか離婚したものの
今も千鶴を訪ねてきては暴力を振るい、金を巻き上げていく。
千鶴は、パン工場につとめていて、
そこでパンを無料で食べられるため、
なんとか食いつないでいる毎日だった。
22年前に別れた母には「捨てられた」という認識で、
千鶴の中では母親に対する恨みが渦巻いていた。
賞金目当てで応募したラジオ番組で、
その母と旅行をした思い出を書いたところ、
準優勝となり、
賞金5万円を獲得、
弥一にみつからないように隠すが、
弥一が勤め先まで給料を受け取りに来たことから絶望し、
弥一を殺して、自分も死ぬ決意をする。
そこへ、ラジオ局の担当者から連絡が入る。
放送を聞いた聴取者から、
あの手記を書いた人の母らしき人と同居しており、
書いた人に会いたい、と言ってきたのだ。
その若い女性・恵真(えま)と会った時、
千鶴は弥一によって顔に怪我をしていた。
恵真は迅速に対応して、千鶴を救出シェルターに届けて
弥一から隔離し、
今住んでいる家に保護することを申し出る。
恵真は、千鶴の母・聖子と共に、
さざめきハイツという、古い社員寮で共同生活をしているという。
躊躇する千鶴を説得して、連れていかれた家で
千鶴は22年ぶりに母と再会するが、
その時、52歳の母は、若年性認知症で、
記憶がさだかでないのだった・・・
というわけで、ひとりぐらしのお年寄り専門の家政婦だった聖子が、
老人の一人から遺産相続した「さざめきハイツ」での
共同生活を描く。
美人で美容院のスタイリストをしている恵真、
介護師をしている彩子との4人暮らし。
聖子はデイサービスに行くため、
昼間は千鶴一人。
弥一に発見されることを恐れて、一歩も外には出られない。
そして、千鶴の中に渦巻くのは、
母に対する怨嗟の想い。
娘を捨てた後、娘が幸福になったと思っているかもしれないけれど、
娘はこんなに不幸だ、
全部、あんたの責任だ。
私を捨てたあんたのせいだ。
そして、蘇るのは、
別れ別れになる直前、
母と共に旅行した思い出。
その記憶が母の中で消えていくのを恐れる千鶴。
共に住んでいる二人も不幸の固まりだ。
恵真は、父母を事故で失って、親戚の家で不遇な生活をし、
美貌ではあるものの、
それがあだになって、数々のトラウマを抱え、
男性に触れられることが出来ない。
彩子は、昔、離婚した結果、
娘から捨てられた経験があり、
ある時、その娘・美保17歳が男に捨てられ、
妊娠して頼って来る。
そして、母親らしいことを何もしていないんだから、と
様々な要求をする。
その姿を見ながら、
千鶴は、自分の姿を見る思いがする・・・
と、なぜこんなに不幸なんだ、
と思わせる登場人物たちの描写が辛い。
母親と娘というのは、
何か独特の愛憎関係があるらしい。
しかし、描写は直接的で、
お互いを非難し合う言葉のやりとりが過酷で、
読んでいて辛かった。
人生をやり直せないのも、
全部、その人本人の責任なのに、
過去にこだわり、修正できないでいる姿が
あわれでならない。
しかも、思い出の中に登場する祖母たちも、
みな同じ母娘問題を抱えている。
まるで遺伝するかのように。
もちろん、最後は親子関係は修復されるのだが、
あまりにも構築した小説世界が、
そのために作ったような設定で、
読者に不快な思いをさせてしまうのは困る。
「52ヘルツのクジラたち」で、
2021年本屋大賞受賞を受章した町田そのこの受章第1作目。
「読むんじゃなかった」という感想を与える本とは、
一体何なのか。
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