[書籍紹介]
三谷幸喜さんの前立腺がん闘病記というより、
前立腺がん「経験記」。
その体験記を主治医の頴川晋(えがわしん)さんと
対談形式でまとめたのが、この本。
頴川さんは、東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授。
人間ドックでPSA値(腫瘍マーカー)が高かったことから、
生検(生体組織検査)を受け、がんが発見された。
この生検の話が笑える。
というか、さすが喜劇作家らしく、
随所に笑える対話が出て来る。
生検は、肛門に器具を差し入れて、針を飛ばして、サンプルを取る。
その機械の形状が「チャッカマン」に似ているのだという。
そして、音も「カチャッ!」という音。
(私の経験では、手術台に上がって、
顔に麻酔のマスクを付けられた段階で
眠ってしまったので、その「カチャッ!」は聞いていない。
三谷さんは聞いていたらしい。
私は睡眠薬を飲んだことがないので、
麻酔ガスもよく効いたのだろうか。) その肛門談義も笑わせる。
三谷 ただ、僕はこれまで人前でお尻を公開したことがなかったので、
その衝撃というか、精神的なダメージはかなり大きかったです。
頴川 人前でお尻を公開する人はそうはいませんよ。
三谷 それから、自分で自分の肛門を見たことはないんですが、
あんまり自信がなかったんです、おのれの肛門に。
頴川 肛門に自信のある人もそうはいませんね。
前立腺がんの治療法は、4つある。
手術、放射線治療、ホルモン療法(抗ガン剤治療)、監視療法。
三谷さんのがんは早期発見で低リスクだった。
放射線治療は週5日のペースで1カ月半。
照射は1回につき5分。
三谷さんは全摘出手術を選択。
その場合、勃起もしなくなり、射精もしないから、
子どもは作れない。
三谷さんはその前年、子どもを一人授かっていた。
ただし、三谷さんの場合は、
神経を残したので、
勃起機能は残った。
三谷 術後、最初に勃起したときはものすごくうれしかった。
見せていいものなら、たくさんの人に見せたかった。
手術は2016年の1月。
トータルで6~7時間。
麻酔をかけて準備をし、
手術後麻酔が醒めるまでの待機時間を含むので、
手術自体は3時間くらい。
腹腔鏡手術で、おへそのくぼみの中をうまく切り、
それを含む4つほどの穴からカメラ(腹腔鏡)と器具を入れて手術をする。
(開腹手術という方法もある)
手術用ロボットのダビンチを使う。
三谷さんの場合、穴が開いているのに気づかないほどだった。
手術中は音楽を流す。
曲目の検定権は執刀医が権限を持っているという。
瀬川さんの場合、ユーミンの曲を流したという。
オペラやロックや浪曲、落語を流す人もいる。
落語は笑ってしまわないように、
何度も聞いている話を流す。
三谷 生歌は? ユーミン本人が横で歌ってくれるとか。先生の誕生日に。
頴川 それはうれしいですね。(笑)うれしすぎて集中できないかもしれない。
三谷 もうひとつ、術後にうれしかったことがあります。
僕、臀部にちょっとできものといいますか、
プチッとした吹き出物、ピッとイボみたいのできていて、
それがずっと気になっていて・・・、
手術前に「どうせ手術するんだったら、これもとってならえないですか?」
と先生に聞いたじゃないですか。
そしたら、「それは私の管轄外です」とおっしゃったのに、
終わったらなくなっていた。
その部分に絆創膏が貼ってあって。
頴川 サプライズプレゼントです。
三谷 追加料金は発生してないですか?
頴川 サービスさせていただきました。(笑)
三谷 ありがとうございます。
手術が終わった後、三谷さんは先生にショートメールを送ったという。
それもかなり長いものを。
「大河ドラマでいうと何話くらいですか」
「大体5話くらいでしょうか」
尿道に入れた管を取り除く時は、痛かったという。
全摘出手術の後は、尿失禁に苦しめられる。
(そうでない人もいる)
膀胱と尿道の間にあった前立腺を取り去ったので、
クッションが効かず、にじみ出てしまう。
頴川 排便排尿というのは小さいときからきちっと躾をされるじゃないですか。
ある意味、人間の尊厳にかかわるんです。
ですからそこがうまくいかないと、
一気に自信が崩壊してしまいます。
三谷さんだけでなく、
手術された方は皆さん同じように心理的ダメージを受けています。
今、日本の男性の罹患数の1位は前立腺がんだという。
昔、「日本には前立腺がんはない」と言われた時代があった。
それなのに、なぜ前立腺がんが増えたのか。
その理由は、寿命が延びたから。
昔は前立腺がんで亡くなる前に他の病気で亡くなっており、
別名「長生き病」ともいわれ、
高年齢の人がかかる病気だった。
つまり、長生きするだけ前立腺がんにかかる確立が高いのだという。
それとPSA検査の普及で、
前立腺がんが発見される確率が増加したのだという。
昔は前立腺がんが発見された時は、
骨に転移していて、痛くてたまらなかったという。
三谷さんは言う。
手術により、子どもをつくることは難しくなった。
「もう数年早くがんになっていたら、
息子はいなかったのだと思うと、
神様にすごく感謝しています」
2021年10月、この対談本を出版し、
前立腺がんであったことをを公表した。
前立腺がんは怖くない、
治る病気だ、
ということを伝えるために。
「癌」という言葉をやめて「ぽん」と言おうという運動についても触れている。
頴川 前立腺ぽん。
三谷 「オレ、前立腺ぽんになっちゃってさ」みたいな。
すごく言いやすい。
胃ぽん、大腸ぽん、肺ぽん、みんな印象が変わります。
頴川 国立ぽんセンター、ぽん研病院。
三谷 行きたくなるじゃないですか。
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