[映画紹介]
2019年4月15日夕刻に
パリのノートルダム寺院で起きた火災事故を題材にした実録ドラマ。
ノートルダム寺院といえば、
数ある世界遺産の中でもトップクラスに入る文化遺産。
のみならず、パリの象徴であり、フランスの魂でもある建造物。
その建物が燃え、崩落したのだから、只事ではない。
↓横から見たところ。
本作は、その経過を克明にドキュメンタリータッチで追う。
石作りの聖堂がどうして燃えるかというと、
天井部分は重さを軽減するために、木製であるため。
丁度その時、大聖堂は尖塔のメンテナンス作業を行っていた。
火災の原因は、作業員の煙草、
(実際修復作業員の吸い殻が7本、現場で発見されている)
鐘を鳴らすための配線の上に小鳥が乗って負荷がかかって発火、
等々と言われているが、
映画では、その原因のどれもが可能という作りをしている。
(検察当局の最終結論は、「詳しい出火原因は不明」。)
警報が鳴り、行われていたミサを中止し、
参列者を一旦外に出すなどの措置が行われるが、
機械の誤作動と判断し、
参列者を再度中に入れ、
ミサを再開する。
しかし、その間に火は広がり、
煙が出ていることが外部から通報されて、
初めて火災発生と認める。
それまでは防災責任者も火災を信じようとしなかった。
(第1回の火災警報が6時20分、
第2回の火災警報が6時43分、
出火の確認が6時50分。)
絵に描いたような現場の気の緩みだが、
外にいた観光客の撮影した動画で初めて当局が事態を把握、
その時点で、肝心の大聖堂からの通報はなかった。
その後の消防隊の奮闘も諸事情により困難を極める。
まず、交通渋滞で消防隊の到着が遅れる。
通れない細道を引き返したりする。
野次馬の整理にエネルギーを割かれる。
螺旋階段を登って火元に行こうとするが、
施錠されたドアが開かず時間を浪費する。
放水では、ホースがねじれて水圧が上がらない。
パリの消防署では梯子車の高さが足りないので、
応援をお願いしたヴェルサイユの梯子車が遅れる。
その間に炎は広がり、
屋根の鉛が溶けだし、消防隊員の上に降りかかる。
高温で溶けた鉛が滝のように落ち、ホースに穴を開ける。
聖遺物を救出に必要な
カギを持っている責任者が
ヴェルサイユ宮殿に出張中で、
電車を乗り継ぎ、自転車で駆けつけるが、
途中で警察に阻止される。
マクロン大統領が現場にやって来て、エネルギーを割かれる。
(この場面で福島第一原発にやって来て邪魔をした菅元総理を思い浮かべた人も多いはず。)
大統領視察にダミーの指揮系統を用意したこともあかされる。
火災発生位置は、正面から見て後方の尖塔部分で、
聖堂内部のドームに穴が空き、
そこから炎が落ちて来る、身の毛もよだつ光景も描写される。
そして、正面の鐘楼にも火が回り、
そこが崩落すれば、聖堂の外観も失われる。
そこで、決死隊が組織され、
鐘楼内部を上がり、消火作業をする・・・
等々、息を飲むリアルな映像の続出。
まさか聖堂内部で撮影したはずがなく、
セットを組んだのだろうか、と思っていたら、
実際に実物大のセットを作って燃やしたというから驚く。
身廊の大部分、螺旋階段、屋外の通路、北側翼廊の梁、
巨大な鐘楼の内部・・・。
そうでなければ、
この臨場感は出せなかっただろう。
本作は、
実際に大聖堂の内部で撮影できたシーンと
外観の似ている他の大聖堂で撮影した場面と
スタジオで大聖堂を模したセットで作り上げたシーンとで構成されている。
更に、外から撮影された当日の映像を
うまく組み合わせて編集し、
マルチ画面で見せる。
マクロン大統領の映像も出て、リアルだ。
実際に現地で起こったとされる「アヴェマリア大合唱」も描かれている。
聖遺物「いばらの冠」を救出したと思えば、
「それは展示用のレプリカだ」と指摘され、
本物が置かれている金庫を開けようとするが、
担当者がパニックで開け方を思い出せない。
スマホで連絡を取るが、電池の残りはわずか、
などというサスペンスも用意されている。
消防隊員の上司が
「大聖堂は再建できるけど、命は取り戻せない」
と言うセリフが印象的。
消火活動で死傷者は出ず(実際は軽傷者が一人)、
朝までに消し止められ、
全面崩壊は阻止された。
リアルな映像撮影を指揮したのは、
「愛人/ラマン」(1992)「セブン・イヤーズ・イン・チベット」(1997)の巨匠
ジャン= ジャック・アノー。
79歳でのこの仕事。
さすが。
ラストカットは、
少女が聖母マリア像に捧げたロウソク。
憎い映像だ。
面白い、と言っては不謹慎だが、
興味津々で画面に魅せられた映画だった。
全編IMAXカメラで撮影したが、
残念ながら、IMAX上映館は少ない。
「IMAXで上映」と書かれているから調べると、
実際は上映されていなかったりする。
5段階評価の「4.5」。
シネスイッチ銀座他で上映中。