まかろんのお茶会

日々の小さなことを詩モドキにしてます。
皆さまのお茶菓子代わりに楽しんでもらえたら嬉しいです。

新作 ~ 「砂漠に咲く花」 その10

2014-05-10 22:38:07 | 「砂漠に咲く花」 2014新緑
つづきです。


2014年5月1日~ブログ直接投稿 「砂漠に咲く花」10

  ひやっと 水のような感触が一瞬して
  でも 何も手に触れなかった
  つるを 引っ張ってみようとしたが
  やっぱり何も つかめなかった
  伸ばした手は 葉をすりぬけ壁に当たった

<つづき>

やっぱりなと 俺は思った
壁に頭と手をつけ 独り嗤った
額と手には 壁のざらざらした感触
けど皮膚が鼻が耳が 拾ってくる
水気と緑の香りと葉ずれの音を

俺は振り返って 通りを見た
花たちが 何人か歩いてて
苔まみれの車が 通り過ぎてた
辺りはいよいよ 緑が増して
俺のアパートだけが 異彩を放ってた

会社に行こうと 唐突に思った
オフィス街は どう視える
メトロカードを取りに 部屋に戻った
出がけに ふと見た鏡の中の俺は
乾いた笑いを 顔に張り付けていた

花と草の香りがこもる 地下鉄から
地上に出ると そこは巨大な森だった
ツタがビルになんて ちゃちなもんじゃない
ビルの大きさのままの 巨木が立ち並び
その間の草地を 苔の塊が走る

上空から 木のざわめきが聴こえた
俺は 蟻のように縮んだ気がした
花たちは ごく普通に草地を歩き
大きな大きな幹に開いた穴から
しきりに 出たり入ったりしてた

全てが 圧倒的な緑だった
あまりの変わりように 俺はつい
自分も植物になった気がして
自分の身体を見てみたが やっぱり
人間の身体でしかなかった


<つづく>


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変更:2018年8月1日
ツタどころでは なかった → ツタがビルになんて ちゃちなもんじゃない
しきりに 出入りをしていた → ~ 出たり入ったりしてた
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新作 ~ 「砂漠に咲く花」 その9

2014-05-09 21:39:17 | 「砂漠に咲く花」 2014新緑
つづきです。


2014年5月1日~ブログ直接投稿 「砂漠に咲く花」9

  財布と鍵を テーブルに放る
  首の社員証も 放り投げ
  あれ? とポケットを探る
  携帯電話が どこにもなかった
  そういや鳴らなかった と今頃気づく

<つづき>

会社かなと思って 気が重くなる
やっぱり 会社に戻らなきゃ
でも今日はいいかなと 思い直す
かけてくるのは 仕事関係だけだし
クビなら もうそのつながりすらない

ぽすっと ベッドに倒れてみる
ここだって いつまでいられるか
家賃が払えなきゃ 追い出される
俺の人生何だったんだと ため息殺す
なんて もろくて薄っぺらな人生なんだ

起きてのろのろと 窓に近づいた
会社の方向に むりやり目をやる
今日じゃなくても 明日には行かなきゃ
・・・と思った俺は 目を見張った
向かいのビルが ツタで覆われていた

今朝まで いやさっきまで
こんなじゃなかったはず
俺は 窓から食い入るように見た
ごく普通の ツタに見える
確かめてみようと 外に出た

街路樹は 昨日より緑を濃くしてた
向かいのビル群は 壁一面ツタ
振り返ったアパートは いつも通り
念のため待ち出した 財布や鍵があるか
ポケットに確かめ 俺はツタに手を伸ばした

ひやっと 水のような感触が一瞬して
でも 何も手に触れなかった
つるを 引っ張ってみようとしたが
やっぱり何も つかめなかった
伸ばした手は 葉をすりぬけ壁に当たった


<つづく>



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変更:2018年8月1日
確かめて 俺はツタに手を伸ばした → ポケットに確かめ
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新作 ~ 「砂漠に咲く花」 その8

2014-05-08 21:56:12 | 「砂漠に咲く花」 2014新緑
つづきです。


2014年5月1日~ブログ直接投稿 「砂漠に咲く花」 8

  俺は へたりと芝生に腰を下ろした
  今頃クビだなと 社員証をいじった
  あとで荷物取りに行かなきゃ・・・
  俺は膝を抱え込み うつむいた
  子供達の声と風のざわめきだけが聴こえた

<つづき>

俺は顔を上げ ぼんやり辺りを眺めた
変な話 それはとても心和む光景だった
木々は新緑で きらきらしてて
花たちは 言葉なく静かに揺れている
高層ビルは初夏の光に 白くかすんでた

・・・ボコッ! と頭を殴られた
と思ったら ボールが転がっていた
子供が とてとて駆けてくる
大きな赤い花が 後ろからふりふり
お母さんかな やれやれ

なんだか ここにも
出てけと 言われたみたいだ
俺は 怖がらせないよう
笑顔を作って 子供にボールを渡し
用がありげに 立ち上がった

公園の中を もっと歩いても良いけど
どこ行っても結局 俺の居場所じゃない
会社に戻ろうかと 思ったけれど
クビと言われてるのも 分からない自分を
想像すると 気がなえた

あてもないまま 帰りたくはないけど
でも行く場所が 他になかった
緑が活き活きと 伸しかかる公園を抜け
狭い無機質な アパートに戻った
灰色の壁に それでも少しほっとする

財布と鍵を テーブルに放る
首の社員証も 放り投げ
あれ? とポケットを探る
携帯電話が どこにもなかった
そういや鳴らなかった と今頃気づく


<つづく>



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新作 ~ 「砂漠に咲く花」 その7

2014-05-07 21:43:18 | 「砂漠に咲く花」 2014新緑
つづきです。


2014年5月1日~ブログ直接投稿 「砂漠に咲く花」7

  机の上の電話が 鳴った
  恐る恐る取ると 普通の言葉
  普通にやり取りできるのが すごく嬉しい
  だけど いつまでごまかせる?
  会社の奴らの言葉が 全然分からない

<つづき>

もうすぐ ミーティングで
その後に お客様のとこのアポで
・・・ムリだ 恐怖が首を締めあげる
きっと大失敗して 何だか分からない内に
叩き出されて・・・ダメだダメだダメだ!

キキィッと鳴る音で 我に返った
俺はいつの間にか 外にいた
自転車に乗った 黄色い花が
何かザワッと しきりに揺れている
怒ってるんだろうけど 分からない

小犬がワンッと 足元で鳴いた
リードを握るは 白い房状の優美な花枝
花枝マダムも さわさわ言ってる
犬はワンワン 今まで通り
動物は 花に変わったりしないのか

無性にどこか 人にぶつからない
広い所に 行きたくなった
二人に適当なことを 言って
俺は 地下鉄に乗り込んだ
目指すは 市内最大の公園だ

中央公園は 相変わらずデカい
服着た花たちが 芝生にあちこち
墓石みたいな 高層ビル群が
花人間たちと なぜか今まで通り見える
犬や子供たちを 見下ろしていた

俺は へたりと芝生に腰を下ろした
今頃クビだなと 社員証をいじった
あとで荷物取りに行かなきゃ・・・
俺は膝を抱え込み うつむいた
子供達の声と風のざわめきだけが聴こえた


<つづく>



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変更:2018年8月1日
追い出されて・・・ダメだダメだダメだ! → 叩き出されて~
何かザワッと しきりに揺れてる → ~揺れている


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新作 ~ 「砂漠に咲く花」 その6

2014-05-06 21:48:22 | 「砂漠に咲く花」 2014新緑
つづきです。


2014年5月1日~ブログ直接投稿 「砂漠に咲く花」 6

  これ他の人には 普通に見えるんだろな
  だってこの植物たち 葉っぱの手で
  普通に スマホなんかいじってる 
  表情なんか全然だけど もともと
  電車で表情豊かな人なんて そういない

<つづき>

ドキドキしながら 会社に向かう
俺こんな中で 仕事できるのか
エレベーターの中 植物たち
誰が誰だか 分からない
一人が振り向いて 何かを言った・・・

俺は ぞわわと凍りついた
聴こえるのは 風が草木を揺らす音
何を言われてるか 分からない
あてずっぽうで お早うと言うと
そいつは うなずいてまた戸口を向いた

そう言えば 電車の中もこんなだった
アナウンスは 普通だったし
朝の通勤電車は 話す奴も少なくて
あんまり 気に留めてなかった
ヤバい ヤバいぞ

と思ったら 社員証出してた
そうだ これで誰だかは分かると
一瞬 ほっとしたけれど
言葉が分からなきゃ 仕事にならない
不安を抱えて オフィスに入った

会社の奴らは 残らず植物になっていた
隣の奴は 立派な観葉植物だった
つやつや厚手の葉っぱが 服から出てる
そのどっしり感が うらやましい
オフィスは 緑のざわめきで満ちていた

机の上の電話が 鳴った
恐る恐る取ると 普通の言葉
普通にやり取りできるのが すごく嬉しい
だけど いつまでごまかせる?
会社の奴らの言葉が 全然分からない


<つづく>



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