雑記帳

日々の雑記帳です。

桑の実

2010年05月26日 | 日記
いつも通る道に大きな木があります。例年今の時期にその木の下は、実が潰れ、道路は濃いえんじ色で汚れています。それは桑の実なんです。

ずいぶん前まで、それが桑の木とは知りませんでした。あまりにも大木過ぎて…。でもその実でわかりました。

私が育つ頃、私はおじいちゃんおばあちゃん子でした。祖父母と一緒の部屋で寝ていました。丁度年の離れた弟が生まれたこともあったのでしょう。

祖父母はお蚕様を飼っていました。お蚕様が来ると、私たちは隅の方へ居を移し、それこそお蚕様に部屋は乗っ取られていました。

夜寝ていると、お蚕様が桑の葉を食べる、ムシャムシャという音が子守唄とは言いませんが、聞こえてきました。
お蚕様は白く、今でいう芋虫のようですが、お蚕様を触るのはへっちゃらでした。今でも暖かい感触だけは思い出すことができますが、他のことはほとんど思い出せません。

ですから部屋がどのくらいお蚕様に占領されていたのか、1ヶ月位かそれ以上か。繭を作るころになると、全体が1m程の大きさで、5~6cmの碁盤の目のように仕切りを作った箱に、お蚕様を入れます。そこで口から糸を出し、繭を作ります。

祖母は繭を鍋で煮て、絹糸にしていました。そのとき出来るのが「むつご」です。また祖母は、その絹糸で機も織っていました。部屋の片隅には機織りが置いてありました。

繭は布団を作る時の真綿になったり、着物にもなりました。

いつ頃からか、実家へ行ってもその機織り機が目に入らなくなりました。

あの頃、私に「欲」というものがあったら…。祖母からもっといろんなことを学んでいれば…。祖父母からただただ愛情だけを注がれた私に、そのようなことを考える能力は生まれませんでした。

この時期、桑の実が落ちた道路を通る度、お蚕様のムシャムシャという葉をかむ音と、祖父母のことが思い出されます。