(はじめに…今回の報告は長いです。文字を読むのが苦手な方は写真だけ見てください。それでおわかりになるはず…ホンマに!?)
5/1(土)~3(月・祝)の三日間、北アルプス・剱岳(つるぎだけ・2999m/富山県)へ行って来ました。2001年7月以来ほぼ9年ぶり。
今回のパートナーは、東京都内の「山岳同人K」代表のT氏と、同会会員のY氏、そして私の3人。ルートは、剱岳頂上までの距離約10km、標高差2200mが“日本三大急登”の一つに数えられる早月尾根(はやつきおね)です。
入山初日の5月1日、同尾根上部で滑落死亡事故が発生。気が重いスタートとなりました。が、幸いにも登山中は好天に恵まれ、積雪期の登頂を無事に果たすことができました。
出発地の富山県・中新川郡上市町(なかにいかわぐん かみいちまち)の馬場島(ばんばじま)。標高は750m。奥に剱岳の荒々しい山容が望めます。
早月尾根北側の池ノ谷(いけのたん)に滑落した先の登山者の救助活動のため、上空には、富山県警山岳警備隊のヘリコプターがホバリングしていました。700mも落ちたら、助かりませんよね…私たちは「とにかく、悪いところではロープを出して安全第一で行こう」と改めて確認し合いました。
馬場島を昼12時前に出発。今日の予定は1900m地点の幕営予定地までです。登山口周辺の積雪は約50cm(昨年は0cm)。今年は雪が多いようです。「試練と憧れ」‐有名な石碑に見送られ、気も自然に引き締まります。
足元にはトクワカソウ(徳若草/イワウメ科)の花が満開、しばし安らぎを与えてくれます。関東で見られるイワウチワ(岩団扇/同科)の変種のようです。カタクリも一緒に見ごろを迎えていました。
標高1030mの松尾平(まつおだいら)付近。前方に長大な早月尾根が立ちはだかります。「キツそう…」3人で苦笑い。
バカみたいな急登に息が上がります…(泣)
尾根北側のあちらこちらに亀裂が…春先によく見られる全層雪崩の予兆です。慎重に通過します…(汗)
16時、予定より少し進んだ2050m付近を幕営地に。整地してブロック積んで…
ベースとなるテントを張りました。富山市街と富山湾が一望できる一等地です!
剱岳頂上まで標高差であと950mほど。
今夜のメーンディッシュは、山で定番の具だくさんマルタイ・ラーメン4人前。満腹…明日のアタックに備えて早々と飲んで食べて、20時過ぎには就寝しました。
翌5月2日。朝2時半起床、ヘッドランプをつけて4時半に出発しました。気温は‐4℃、放射冷却で雪は堅く締まり上々のコンディション。
高山の厳しい環境にも関わらず、ここでもノウサギ(右)とキツネの足跡を見つけました。やはり、喰うもの喰われるものの「危険な関係」なのでしょうか?
標高2200mの早月小屋を過ぎます。まだ誰も出発していません。先陣を切ります。
池ノ谷を挟んで北側には、小窓尾根(こまどおね)の岩峰群が屹立(きつりつ)しています。
6時過ぎ、北方稜線(ほっぽうりょうせん)の向こうから陽が上ると、目指す剱岳本峰(中央奥)が朝の清冽な空気の中に浮かび上がりました。美しい…
その剱岳も、高度を上げるにつれて次第に険しさを増します。標高2600m過ぎに出現した20mほどの雪壁。難しくはないのですが、ミスったら峻嶮な池ノ谷まで数百m真っ逆さまです。ここから、ロープを出しました。
ナイフリッジ(細い稜線)もロープで確保して慎重に…
“獅子頭(ししがしら)”“カニのハサミ”など雪稜・岩稜の難所を慎重にこなし、別山尾根(べっさんおね)合流点へ最後のルンゼ(岩の溝)を詰めます。
別山尾根との合流点。道標の文字が消えかかってほとんど読み取れません(苦笑)。そして、ここを過ぎると…
剱岳頂上です。9時前着、ベースから約4時間半。
南側には、広大な剱沢(つるぎさわ)を挟んで、3000m峰の立山(たてやま)。その奥に北アルプス南部の峰々が連なります。遠く穂高連峰も。
北西には、いま辿って来た早月尾根。実は、この写真の真ん中下辺りに、山頂の祠(ほこら)の三角屋根が見えます。私たちがいる場所からは5mほど下方 。ということは、現在の剱岳の高さは2999m+5m=3004m!?なんて3人で笑いました。それにしても、雪が多いです。
頂上は風速10m以上の風が吹き、寒い…15分ほど休んで早々と下山開始。
下降が本日の「核心」です。 後続のパーティーが続々と登って来ます。
下りは、神経を集中させてクライムダウン(雪壁に身体の正面を向けて後ろ向きに下りること)…
懸垂下降(ロープにぶら下がって下りること)も駆使。そして、この連続2ピッチ(ロープの長さ2回分)の下降の後…
わかりますか?写真右下あたりに何かいるのが…「氷河時代の生き残り」ライチョウ(雷鳥/キジ目ライチョウ科)です。(写真が悪かったらごめんなさい…)
写っているのは、眼の上が赤いオスです。この写真の左外側、2mほど離れた場所にはメスの姿も。例によって、まったく逃げません…大の男3人が、しばし時を忘れて見入ってしまいました(笑)
緊張の下降が続く中、唯一「ホッ…」と出来る瞬間でした。
その後も、つい緩みがちになる気をお互いに引き締め合いながら下山を続けました。この頃になると気温が20℃以上に上がり暑い…考えるのは「泡の出る飲み物」のことばかり。途中の早月小屋でアサヒ・スーパードライのショート缶を計5本購入(¥600/本)し、13時半には、ベースへ無事に帰着しました。
下山に要した時間も登りとほぼ同じ4時間半。ロープを積極的に使用したためですが、高温で雪が腐る(グサグサになる)中、納得の下降でした。
その日の午後、どう過ごしたかはご想像にお任せします…この写真がヒント(笑)
そして夜の晩餐は…
T氏作のペミカン(生肉や野菜をたっぷりのラードで炒めて固めた山の保存食) を使った特製ビーフシチュー。20年の山生活でシチューは初めて食べました。旨かった!
充実感満点の剱岳2日目の夜は、静かに、そして美しく更けて行きました。(ベースから見る富山湾沖に沈む夕日)
最終日5月3日も晴れ。のんびりとテントを撤収して、9時半ころ下山開始。気温は朝からグングン上がり、10時過ぎには20℃超えに。やはり雪が腐り、急斜面では予想以上に緊張の下りを強いられました。
12時ちょうど、馬場島に下山。日本を代表する山岳景観を誇る「中部山岳国立公園」にあって、第一級の存在感と異彩を放つ剱岳は、やはり素晴らしい山でした。厳しさと美しさを併せ持ち、ライチョウを始めとする多くの生命(いのち)を育む母なる大地の役目も。ますます好きになりそうです。
一方で、入山初日に、同じルートで死亡事故が発生した事実が頭から離れません。早月小屋のご主人によると、毎年この時期に訪れていた某企業山岳部のベテランとか。よく知っているはずのルートで何があったのか…雪崩?一瞬のミス?慣れからロープを出さなかった?…
山に登る以上「遭難」は紙一重なのだということをあらゆる場面で実感した山行でもありました。「試練と憧れ」‐剱岳によく似合うこの言葉が、身に沁みます。亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り致します。
最後に、とても充実した、楽しい山行を共有して下さったTさん、Yさんに感謝します。ありがとうございました。
(長文を読んで下さった皆さまも、ありがとうございました)
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おめでとうございます!!
ハラハラドキドキしながら読ませていただきました。
3日間大変お疲れ様でした。
ありがとうございます。
ハラハラドキドキして読んで頂ければ、本望です(笑)
「ウサギとキツネ」お陰さまで今回はすぐにわかりましたよ。
それにしても、あんなに高山の厳しい環境で、多くの生きものの姿や痕跡に出会うと、嬉しいと同時に、この環境を大切に残していきたいと思いますね。
今年のGW予定してたのに×となってしまいました。
家庭の事情はなかなか厳しいものがあります。わはは・・・・
昨年の馬場島は雪が全くなくて、下山後は松尾平で
M先生の絵手紙教室でしたよ。
でも、カタクリもイカリソウもそして可憐なキクザキイチゲなど、花爛漫でした。
落ち着いたらまた訪れたいと思ってます。
広島のhoriさんからこちらのサイトをご紹介いただきました。
現役で山ヤをやってる頃はだいたい毎年GWは剱岳に行っていたのですが、ここ2年ほどご無沙汰なのでとても懐かしく拝見いたしました。
やっぱり山はいいなー。
一瞬の油断が取り返しのつかない事態を招くこともありますけれど・・・
私、日頃は兵庫県の六甲山あたりを徘徊(?)しています。
奥多摩も魅力的なところですね。また拝見させていただきます。お邪魔いたしました。
いつもありがとうございます。
剱、キャンセルになったとのこと。残念でしたね。実は私も、どこかでお会いできるかもしれない偶然を期待してはいたのですが…(笑)
日本海側は今年ほんとに雪が多いようで、花に関しては種類がまだまだと感じました。カタクリはさすがに終わりましたが、イカリソウ、キクザキイチゲあたりは、奥多摩がちょうど旬でしょうか…?
はじめまして。
訪問して頂きありがとうございます。
サイトというほど立派なものではないですが、私が住む東京・多摩地方を中心に、山と自然について勝手につぶやいて(語って?)おります。
兵庫といえば六甲山と氷ノ山、そして雪彦(せっぴこ)でしょうか?広島にいるころはよく通いました。懐かしいです。
またそちらの情報も教えてくださいね。
今後もよろしくお願い致します。