昨日、登山イベントの仕事で、大菩薩嶺(だいぼさつれい・2056.9m/山梨県)の東に延びる尾根「牛ノ寝通り(うしのねどおり)」を歩きました。
その名前の由来は、なだらかな尾根筋が「寝ている牛の背中に似ている」ため?出発地の林道終点から、地図にない水源林の巡視道をつめて稜線に出ると、その名に違わぬのびやかさで、気持ちよく目的地の松姫峠まで導いてくれました。
このコースは、山梨県大月市と同北都留郡小菅村(きたつるぐん こすげむら)との境界にあたり、昔から大菩薩峠を越える甲州裏街道の一部として使われていた由緒ある道だそうです。
イヌブナ、ハウチワカエデ、シオジなど広葉樹のグリーンシャワー…生命(いのち)の洗濯です。
直径約1mのブナ(橅/ブナ科)の大木。推定樹齢150~200年ほどでしょうか。みんなで「悠久の力」をもらいます。
日当たりの良い尾根筋では、ミツバツチグリ(三葉土栗/バラ科)の黄色が眩しい。
西日本に多い「ツチグリ」の根茎(こんけい=根の部分)は肥厚(ひこう=丸く太ること)して、焼くと栗のような味がして、生でも食べられるとか。それに似て、小葉(しょうよう)が3枚であることからこの名がついたそうです。
しかし調べてみると…このミツバツチグリの根茎は食べられないようです。「遭難した時には掘り返して食べても良いですよ」と(冗談で)説明した皆さん、ごめんなさい!
こちらは、葉がボタンに似たルイヨウボタン(類葉牡丹/メギ科)。
そのまんまの名前ですが、林内に黄緑色の花を咲かせる控えめな姿が、かえって好感を誘います。花は地味ですが、裸の種子は藍色(あいいろ=濃い青)で美しいんですよ。
自然林の中の快適な1日でしたが、一つ心配になることがありました。
この写真を見てどこか不自然に感じませんか?
森林の地面~下層部分が空白になっているのがおわかりでしょうか。実はこれ、ニホンジカが首が届く範囲(地上190~195㎝まで)の植物を食べ尽くしてしまったために起こる現象です。「ディアライン(=シカ摂食線)」と呼ばれます。
丹沢、奥多摩を始めとする関東周辺の山では、増えすぎたシカによる森林植生への被害が深刻です。大菩薩嶺周辺でも10年前に広がっていたヤナギラン、マツムシソウ、コオニユリなど亜高山性のお花畑が、現在はほどんど消失してしまったようです。食べるものがなくなったシカは、リョウブやナツツバキほか樹木の樹皮も剥がして食べています。裸地化した表土が流出し、土砂崩壊が発生した場所も…
関東太平洋側ではよく出会う光景だけに、「自然のバランスが崩れかけている」ことを痛感する今日この頃です。
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