視界10メートル先は、ただ霧に包まれている。濃い霧の中、何も見えない、音も消されたかのように静かだ。私は、その霧の中に立ち、目の前の世界が消えていくのを見つめる。まるで、時間や空間がぼやけて、すべてが一瞬のうちに過去に飲み込まれていくような感覚だ。
先が見えないということ。それは、自分の内面と向き合わざるを得ないということでもある。目を凝らしても、前に進んでも、同じ霧の中にい . . . 本文を読む
バスが通ってきたウルバンバ川を眼下に見下ろす地点に立つ。山々がうねりながら続く壮大な景観の中に、太古の地層が剥き出しで浮かび上がる。流れる川は遥か下を通り、山々は、険しく切り立つが深い緑がその厳しさを少し和らげている。雲が低くたなびき、遥か遠くにそびえる山頂が一瞬見える。ここまでバスでやってきたのかと険しい道のりを思い返し感慨に耽る。
マチュピチュの壮大な遺跡を目の前にした時、まず目に飛 . . . 本文を読む
2007年3月に訪れたマチュピチュの紀行です。すでに17年が経っているが記憶は鮮明で、つまりそれだけ印象が深かったということでしょう。
1911年、アメリカの歴史学者ハイラム・ビンガムがインカ帝国の「失われた都市」を探すため、ペルーのアンデス山脈の奥地へと踏み込んだ。その彼が目指していたのは、「ビルカバンバ」と呼ばれる都市で、インカ帝国滅亡後も残された抵抗勢力が隠れ住んだとされる謎の場所だっ . . . 本文を読む
サン・ペトロニオ聖堂
ボローニャのマッジョーレ広場にそびえ立つサン・ペトロニオ聖堂は、未完成のファサードがその歴史的背景と街の複雑な過去を物語る、特別な存在。1390年にその建設が始まった当初、聖堂はさらに大規模なものとして計画されていたが、様々な困難に直面し、現在の形に落ち着くことになった。
聖堂は、5世紀にボローニャの司教を務めた聖ペトロニウスにちなんで名付けられている。彼は街の守護聖 . . . 本文を読む
あれじゃ互いに言いたいことだけ言って議論にまるでなっていない。真摯な討論はまるで期待していない。民主主義もこうしてみると案外脆いものだな。トランプは終始大人の態度をキープすることを続けた。ハリスはそれに対して挑発的な視線とニヤニヤ笑いとでトランプの怒りを誘う作戦に出たようだ。トランプは一切視線を合わさない。これもバイデンの時とは反対で、目をあわしてあのニヤニヤ笑いをみるとカッとなって自制が効かなく . . . 本文を読む
アレーナ・ディ・ヴェローナ
アレーナ・ディ・ヴェローナでのオペラ観賞は、時空を超えた体験だった。2006年6月ボローニャからヴェローナへの一泊旅行で、ヴェルディの『アイーダ』の公演を観るために訪れた。当時携帯の着メロまで「アイーダ」に設定するほどお気に入りのオペラを、1世紀末に造られた古代ローマ最大の円形劇場で鑑賞する、何とも特別な贅沢であった。
思い返せば1989年の夏、ベネツィアからミ . . . 本文を読む
サン・マルコ聖堂
サン・マルコ広場に座り、目の前に広がる壮大な風景に圧倒されながら、私はゲーテやマキャベリ、そしてアンデルセンがヴェネツィアをどのように感じ、どのように言葉にしたかを思い浮かべていた。この場所は彼らにとっても、私にとっても歴史が織りなす「生きた記念碑」であり、一つの文化、一つの民族が作り上げた芸術作品だ。
ゲーテが『イタリア紀行』で語ったように、この場所は「一君主の作り上げ . . . 本文を読む
生きていることは楽しいがあの世に行っても楽しいことがある。紀野一義氏はいつもそう思っていたという。死んだら過去の時間もひょっとしたら未来の時間も無くなるのでいろんな人に出会える。歴史上の有名人や自らの多くの先祖にも出会って楽しい話ができる。
一見能天気な話に聞こえ、出鱈目も大概にしろと言いたくなりそうな人もいるだろうがご本人は60を過ぎたお年の頃から何回も何回も講演で本気になってそう話し続けてい . . . 本文を読む
食い物
ナポリに根付く「真の味わい」は日本と少し異なる。ナポリでは、ピザ生地が高温の薪窯でわずかに焦げるまで焼かれることが一般的だ。これは、焼けた生地が持つ独特の香りと、風味豊かなトマトソース、オマール貝など新鮮な海産物とのバランスが絶妙であり、ナポリの食文化の核にある「シンプルな食材を最大限に活かす」を反映している。
日本でのピザの焼き加減は「焦げは発がん性を持つかもしれない . . . 本文を読む
ヴェネツィアの街角で、ふとした瞬間に立ち止まる。観光名所を巡るのではなく、ただ街を歩く、そんな時間が何よりも贅沢に感じられる。つれあいのショールは、明るい陽射しを浴びて風に揺れ、そのパープルの模様が、街の色と自然に溶け込む。
ムラーノガラスの店先に立ち寄っては、ガラスの中に閉じ込められた色彩や模様に目を奪われる。小さなグラスや瓶の中のどのガラスも、職人たちが一つ一つ丁寧に作り . . . 本文を読む
netflixで10エピソードを一気見した。筋はネットでたくさんあるのでそれらを参考にしてください。
日本の検挙者有罪率は99.9%だと繰り返される。それをわたしもぼんやりと日本の警察と検察がしっかりしているからだと思い込んでいた。いや疑おうともしていなかった。
でも99.9%の検挙率は異常だと思わないといけないのだろう、普通の判断力を持っていれば。きっと相当数の冤罪が含まれているに違いない、 . . . 本文を読む
ドゥカーレ宮殿
この写真は「嘆きの橋(Ponte dei Sospiri)」でドゥカーレ宮殿(Palazzo Ducale)とその向かい(写真では右)にある旧牢獄を結ぶために作られた。
この橋は、1600年頃に建築家アントニオ・コンティーノ(Antonio Contino)によって設計され、白い石材が使われている。この橋は、ドゥカーレ宮殿の裁判所から新しく建てられた牢獄(Prigioni Nu . . . 本文を読む
ベネツィアと言う運河の街に足を踏み入れるたびに、その美しさに心を奪われる。水面に映る古い建物の影、ゴンドラが静かに進む音。そんなベネツィアも、近年は厳しい現実と向き合わざるを得なくなっている。
2018年10月29日、サン・マルコ広場が閉鎖されたというニュースを耳にしたとき、私は驚きを隠せなかった。観光客たちは急ごしらえの高床式の歩道を歩き、地元の人たちは懸命に水をくみ出していたという。水位が観 . . . 本文を読む
大道芸人の独白。
夕暮れのベネツィア。私はまた、この街角に立っている。ここに来るのは何度目だろうか。どの街も私にとっては同じだと思っていた。どこへ行っても、私はただの通りすがりの異邦人に過ぎない。
私は今日もパントマイムを演じる。この芸は私にとっての言語だ。誰もが理解できるし、誰もが私を理解してくれる。だが本当は、この静かな動きの中に、私の孤独の声を隠しているのだ。私は故郷の家族、友人、か . . . 本文を読む
ナポリ
ナポリの霧がかった港に船が静かに滑り込む。あの丘の上に広がる街並みが徐々に現れるのを見つめながら、私の胸には幼少期の記憶が甦ってくる。ポッツオーリの狭い路地、海の香り、喧騒と活気に満ちた市場。そう、私はここで育った。ナポリは私の魂、私の原点。どんなに遠くに行っても、心の中にいつもこの街がある。
私の名前は世界中に知られるようになったけれど、私の心の中にはいつもナポリの娘がいる。生き . . . 本文を読む