ヴェネツィアの街角で、ふとした瞬間に立ち止まる。観光名所を巡るのではなく、ただ街を歩く、そんな時間が何よりも贅沢に感じられる。つれあいのショールは、明るい陽射しを浴びて風に揺れ、そのパープルの模様が、街の色と自然に溶け込む。
ムラーノガラスの店先に立ち寄っては、ガラスの中に閉じ込められた色彩や模様に目を奪われる。小さなグラスや瓶の中のどのガラスも、職人たちが一つ一つ丁寧に作り上げたものであり、その細やかな手仕事に感心する。光が透過し、輝くガラスの奥に息遣いも感じられる。
ヴェネツィアは、眺めるのも良いが、こうして触れんばかりに近寄り感じ取るものなのかもしれない。歩くたびに新しい発見があり、その一つ一つが街に息づいているのを感じ記憶にしっかりと刻み込まれていく。
写真に撮ったのはムラーノガラスショップのグラス。
左端の微かに見えるグラスは、透明なガラスをベースに、内側に薄い緑とオレンジの模様があり表面には小さな気泡がいくつも見られ、ムラーノガラス特有の「ソンマージュ」技法で、ガラスの層を積み重ねることでその奥行き感を出している。緑色は透明感があり、ムラーノガラスの独自の発色法で、自然光を反射することでより鮮やかに見える。
左から2番目と3番目は似ており黄色とオレンジの温かみのある色が際立ち絵筆で描いたような流動的なラインが巻きつくように描かれ、小さな点や模様が浮かび上がっている。ムラーノガラスの特徴である「ミッレフィオーリ」(千の花)技法で作られた可能性があり、小さな花のような模様がガラスの内部に封じ込められている。
4番目のグラス(青いガラス)は地中海の海の色を思わせる深いブルーが特徴です。内側には黄色や赤色の流れるようなラインが幾重にも絡み合い、波打つ動きを表現している。光が当たると色が立体的に浮き上がり、ムラーノガラス特有の複雑な屈折と輝きが強調されている。
右端のグラス(赤茶色のガラス)は赤茶色の濃い色に黄色や白、赤のラインが絡み合い温かみのある色合いがムラーノガラスの伝統的なカラーパレットを感じさせる。表面には微細な気泡があり、ガラスに閉じ込められた光が柔らかく反射することで、暖かみのある雰囲気を作り出している。
リベルタ橋近くにあるこのプチホテルの中庭は、まるで隠れたオアシスのように感じられる場所だ。あじさいが花壇を飾り、濃い緑の葉が美しい。日本で見るあじさいとは違い、ベネツィア特有の土壌や湿度が、この花々に異なる趣を与えているのか。
小さなテーブルと椅子が整然と配置され、テラスには赤と白のクロスが掛けられ、この庭の奥へと続く小道も緑に囲まれ、白いパラソルがよく庭に溶け込んでいる。
このホテルを営む女主人は見たところ60を過ぎている。夫を亡くしてから一人で切り盛りしていると言う品の良い婦人だ。ある日、彼女が庭の花が虫に食われて困っていると相談されたので、私は簡単に作れしかも人間には安全な虫よけ剤の作り方を伝授した。どこにでもある唐辛子を酢につけたものを使うだけで効果があるというと、彼女はその実用的な知恵に感心し、すぐに試してみると言っていた。(客に対するリップサービスかもしれなかったが。)
ベネツィアのリベルタ橋あたりの喧騒から離れ、静けさと花々に囲まれたこの中庭で過ごす時間は、心が穏やかに休まるひとときだった。風に揺れる花々や、そよ風に揺れる白いパラソルが、ただ座っているだけで心地よい。
プチホテルの中庭にあるモザイクをはめ込んだ椅子はモロッコ風だ。
ヴェネツィアンビールには、ヴェネツィアの豊かな文化と長い歴史を感じさせる味わいが秘められている。地元で作られるクラフトビールは軽いホップの香りと、ほんのり甘さを持つモルトの風味それに何より香ばしく甘い香りが気に入った。ヴェネツィアの暑い6月の午後にぴったりだ。
口に含むと、ビールの冷たさが心地よく広がり、ホップの苦みが適度に効いている地元のヴェネツィアンビールは軽やかな後味が残る。アドリア海沿いの都市という立地もあり、ビールの味には地中海の食文化が影響し、魚料理やシーフードとよく合う。だから日本人のわたしにも気に入るのかも。
写真の場所で、木陰に座って運河を眺めながら飲むとその冷たさと芳醇な味が体に染み渡り、観光で疲れた体を癒してくれる。