その1
1997年7月1日、英国のロンドンとバーミンガムのケーブル会社が運営を開始した電話サービスを見学するために出発した。利用航空会社がキャシーで香港空港にトランジットで立ち寄ったがたまたま香港返還の歴史的な一日であった。
その後に泊まったロンドンのホテルはそれ以前も以降もみたこともないインテリアで、白一色なのだった。ロビーからフロントに向かって長いボードがあり、その上に赤い炎が揺らめいている、本物の炎だ。エレベータ、部屋のドア、天井、鏡の枠、壁と見わたす限り何もかもが白だ。部屋の窓枠もポーチも手すりも白いペンキが塗られている。塗りなおされた輝かしい白、灯火に長いあいださらされて黄ばんだ白、風雨に洗われた白、厚化粧の白に囲まれてベッドに仰向けになり、天井を見上げているとなんだか棺に収まったような気分になってくる、そんな趣向のホテルで、おそらくギリシャ神殿をモティーフにしたのだろうと思えた。
その2
同じ白といってもこの鯉の白はあたりで見かける白と同じカテゴリーに入れることは無理がある、神々しい白とでも。
その3
チリの山中で見かけたこの白い頭骨、おそらくグアナコの頭骨でこの白から実に清潔で荘厳な感じを受けないだろうか、この世のお役目を終えて静かに横たわり平穏のメッセージを送っている。
その4 白いメリーさん
かつて横浜に住む同僚と仕事を終えて西口の焼き鳥屋で酒を飲んだ折に、何気なく気になっていた白塗りの女の話をすると「ああ、白いメリーさんね」と、いとも簡単に応えられた。なるほど、そういうわかりやすい通称なのか、そしてある種の有名人なのだと知った。
歌舞伎役者のように白い化粧を厚く塗っていて、そのため年齢不詳、大きめの白いレースの扇子を揺らしながら前方を見据え視点が動かない。ゆっくりとこちらを向いて悠々と貴婦人のように歩いてきた。
厚化粧をしたマリーの顔には
無数の皺が刻みつけられている
まるで宇宙衛星から撮影した地球の
氷河のようだ
港のマリー 田村隆一の詩集「5分前」
つらい人生を歩んできてファンタジーの世界に生きている白いメリーさんを、仕事のことしか頭にない20代後半の男は単に異形の女を見るように興味本位で見ていたに違いない。こういう白をなんというのか。
40年前の記憶だ。
その5 白鳩
ガルンガンの日、バリの市場の前の駐車場に白鳩がつがいで餌をついばんでいました。この白鳩は野生だが、人を恐れません。近づいてもこの通りこっちをみています。鋭い爪とくちばしはどことなくガルーダを思わせます。バリ島の白。
その6
パタゴニアの氷河
パタゴニアの氷河は白といっても青みがかっているが、それがかえって白の本質を強調している。原始の白と呼ぶべきかな。
その7 パタゴニアの白い野草
パタゴニアの太陽の下で輝く白い野草、誰が管理しているのでもないが単一種の白い野草のみが一面に広がる、湖が自らに合った色を選択しているのだろうか。あの世的な白。
その8 ウユニの塩湖
進むにつれ、水は少なくなり乾いたところと水のところとが縞になってくる。キラキラと輝きダイヤモンドの上を走っているようだ。ウユニの町をでて、約1時間のドライブで塩湖の入り口に到着する。 命からがらやっとたどり着いたと感慨無量の白だ。この白に出会うために高山病もくぐり抜けてきた。太古の白。
その9 バリ・スターリンの白
ジャラッ・プティ カンムリ・シロムク(Bali Starling )はバリ島にのみ生息するムクドリの一種で 目の周囲と尾の先だけが青い。体長20cmで絶滅危惧種に指定されている。神秘の白とでも。
メラスティ 白装束の人々
モロッコ 街路の白い花。
モロッコ、アガディールのレストランで真っ白な伝統衣装に身をつつむ7人の楽団員が食事中に演奏してくれる。笛、太鼓、なにかよくわからない楽器など。