クスコの街は峻険な山に囲まれている。
遺跡を歩き回るのも少し疲れたので土産物売り場に入ってみた。
売り場にガラクタの積まれたの一角がありその中に筒様のものがある。
梅花の浮き彫りの中に下化衆生と書かれていて、手に取ると硬くて重く、芳香が漂い紫檀かそれに類する香木に違いない。
開きの扉を開けると中央とサイドの3面に釈迦三尊などが浮彫りされ、底には乾隆年製と版がある。
中華系の店員が500ドルだという。
「クスコに仏龕なんて珍しいね、18世紀に中華系移民が多かったので移民を扱う商人が持ち込んだのだろうか」と尋ねると店員が俺の祖先が持ち込んだものだという。店員の祖先は中華系移民だという。
18世紀以前のものか、乾隆年製と年代的な辻褄は合う。移民は奴隷同様であったというから、このような高価なものは持ち込まない、奴隷商人が持ち込んだのだろうかとの先入観で聞いてみたのだが、厳しい異国の地での救済を願って比較的裕福な移民が持ち込んだのだ。
中国人移民の中には厳しい異国の地で耐えられず、夏でも氷河が覆う峻険な山を裸足同然で逃げたという。美しい山も恐ろしい歴史を秘めている。
ガラクタの山を見直すと中国製らしいものが溢れているがこの仏龕以外に魅力のあるものはない。
乾隆年製と版があるのは乾隆皇帝時代の作の意味だが昨今は偽物が多いので有名だ。しかしこの仏龕の芳香が貴重な香木で彫られた本物だと言っている。偽物なら貴重な香木で彫らない。三尊のお顔も品が良い。本来なら博物館行きの代物だろうと購入した。
日本に持ち帰り10年たつがいまだに仏龕の芳香は衰えることがない。