NTT法廃止と競合他社の時価総額
NTT法廃止議論を国民目線で考えるには、まずNTTの歴史と現在の状況を理解することが重要です。1985年に設立されたNTTは、組織変更を経て、かつては世界で最も価値のある会社の一つでしたが、現在は激化する競争の中で利益を出すのに苦労しています。KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなどの企業の台頭により、市場環境は一層競争的になっています。そして何よりもかつての象と蟻は互いの巨象に成長しています。
2023年12月8日時点で、NTT(日本電信電話株式会社)の時価総額は1,000.2億ドル(約13.2兆円、1ドル=132円換算)です。対して、KDDI株式会社の時価総額は654.5億ドル(約8.6兆円)、ソフトバンクグループの時価総額は583.3億ドル(約7.7兆円)と報告されています。
NTT法廃止論は妥当か
NTTからはNTT法の見直しの必要性が指摘され、特にユニバーサルサービスの再定義や外資規制などの点が主張されました。ユニバーサルサービスは簡単に言うと僻地離島でも通信手段を受けることができるサービスでNTT法によりNTTの責務とされています。
現在NTTでは固定電話からブロードバンドを中心としたユニバーサルサービスへの移行が銅線撤去の時代に入り、国民のニーズの必然性からも必須であり、特にラストリゾートの確保が重要な課題とされています。
ラストリゾート(英語:Last Resort)とは、「最後の手段」「切り札」「最後の拠り所」という意味で、他の手段が全て無くなり最後に残された手段のことである。ウィキペディアより
不採算地域でのサービス提供には、サービス品質を保ちながら無線技術など技術中立的な方法の採用が検討されています。技術中立的と難しい用語が使われていますが要は固定電話という特定の通信技術に拘らずに地域に即した、採算性を配慮した上で役に立つ技術を使いましょうということです。そしてその背後にはNTTのみの責務ではありませんよとのメッセージが込められています。
ここでユニバーサルサービスの責務がその後の象と蟻つまりNTT一強の時代を予想して制定されたことを思い出しましょう。すでに時代は代わり競合他社もその責務を引き受けることには特に反対はしていないようです。しかしその前提となる地域インフラのボトルネック解消を担保として要求しているように思いますが明確には発言していないようです。一種の条件闘争なのであまり先走って手の内を出さないようにしているのかもしれません。
株式の政府保有義務、外資規制、認可事項、業務範囲規制などに関して市場の実態や技術進展に合わせた見直しが必要とされていますが国民目線では当然のことだと思います。昨今の深刻な安全保障にも目配りがされていますがこれも必要性をいくら強調しても言い過ぎにはならないでしょう。仮にNTTの最先端であるIOWN関連技術が不当に流出したとしたら目も当てられないでしょう。子供や孫の世代のためにもしっかりとした見直しをお願いしたと思います。
NTT法廃止の議論においては、国民の目線に配慮されていますが、一方で他の通信会社の積年の懸念も重要な要素です。これらの企業は、NTTが市場でその巨大さで支配的な地位を維持することに懸念を示しています。
この危惧は一応もっともだと思われますが過去の亡霊の影に怯えているようにも見えます。あるいは経営者として株主の立場に立つあまりそう発言させるのかもしれません。しかしAT&T解体の時代に言われた巨人の弊害、影はすでに存在しません。競合他社の経営者も過去の旗印であった公正競争を主張していれば何とかなる時代ではありません。むしろ競合が結託してNTTの伸びを阻害しているという過去とは逆の意味の寡占弊害と言われかねません。
日本の通信市場が競争で公平であるためには今後真に何が必要でしょうか。時代の変化に即応した必要条件を探るために、先ずは競合他社の意見を集約してみましょう。
諮問委員会からの質問に対するNTTの回答にNTTの主張するポイントと論拠がよく現れていますので検討してみます。総務省の発表資料をもとに整理すると以下のようになります。
市場環境の変化とNTT法の役割についてNTTは、市場環境の変化を踏まえ、音声通話サービスのユニバーサルサービス責務や研究開発推進・普及責務など、NTT法設立当初の役割はほぼ完遂されたと考えています。ほぼ完遂されたとはその通りだと思います。特にIOWNの開発を通じての研究開発推進は認めざるを得ないでしょう。普及責務は今までのところ臨機に対応しているようです。しかしこの点で安全保障の問題が将来に大きく影を落としています。半導体産業は韓国にしてやられたような二の舞は国民として絶対に避けて欲しいところです。
ブロードバンドサービスのユニバーサルサービスについてはNTT法で定められた音声通話サービスのユニバーサルサービスに加え、電気通信事業法で定めるブロードバンドサービスのユニバーサルサービスも、実効性の高い制度として電気通信事業法に統合し、競合他社とともに責務を担うものとして検討・構築していく必要があると述べています。
これも光ファイバーの賃借権利以外は競合他社からは異論のないところで、NTTも反対していません。
NTT法の各種認可事項の規定の見直しについてNTTは、NTT法における各種認可事項の規定についても、ユニバーサルサービス責務や研究開発の責務の見直しに伴い、これらの規定は不要となると考えています。これは、より効率的かつ機動的な事業運営を行うための観点からです。
これも元々ユニバーサルサービス責務や研究開発の責務達成の整合性から生まれた規定であり、妥当な意見でしょう。
社名変更に関する相談の有無についてNTTは、社名変更について総務省に相談したことはないと回答しています。つまり憶測についての議論は行わないとの表明でしょう。
NTTは、電気通信事業法で定めるユニバーサルサービスの実効性のある制度構築が必要と考え、こうした改正の先に廃止が自然な形としてなされると表明しています。以上のNTT主張はわたしが1990年初頭からNTT再編成の実務に新電電側として携わってきた経験から妥当な意見と思われます。
ただし地域インフラのボトルネック解消、つまり地下管路などの実質的独占について全く言及していないことは注目すべきです。主として1990年代のアクセス議論に関する経験からももっとイコールフッティングに関して積極的な提案があればより良い現在があったのではと思います。
つまりこの点に関して今後NTTがどう出るのかの予測がつかない、NTTが電気通信事業法で光ファイバーの賃貸料金を保証すると言ってもあくまでもNTTが貸し与えるという態度と前提の元では競合他社も重大な危惧の残る点ではないかと思います。
自民党PTから地域インフラのボトルネック解消案として国有化など3案が出ていますがもう少し鮮明な議論と方向づけがないと競合他社の危惧は解消されないでしょう。今後NTTから積極的な国民目線の提案が出てくる可能性に期待します。ぜひ日本の通信最大手として自ら責任のある提案が欲しいと思います。
わたしは情報ハイウェイ気候による共同溝構想の実現で地域インフラのボトルネック解消が可能だと過去の歴史からも思います。
続く