
何故若者がこの男に帰依したのか。すでに十分知られている神秘体験のテクニックを利用したのだということがわかる。神秘体験のテクニックとは呼吸法、強烈な光の体験、瞑想、LSDなどの薬物でこの4種類を組み合わせて使うことで、本来オームの信仰とはなんの関係もない体験が間違った帰依へと直結する。
どうも人類は昔からこの神秘に弱い脳のソフトを持っているらしい。このテクニックは今後も年月を置いて度々悪用される可能性がある。特にこの事件が風化して事件をしらない若者が再びこのような神秘の魔力に引きこまれないことを願って書いてみる。
「カラマーゾフの兄弟」でも奇跡、神秘、権威が人をコントロールする三種の神器になっているが、ドストエフスキーは神秘は宗教の本質ではなく単なるテクニックであることを示している。(ドストエフスキーは人間が進化の過程で得た脳のソフトとそのデメリットにも感度の鋭い作家であったことがわかる)
「カラマーゾフの兄弟」にみる神秘
「カラマーゾフの兄弟」では奇跡、神秘、権威が人をコントロールする三種の神器になっている。同じ意味のものを並べるはずがないので面食らってしまっていた。
「この地上には三つの力がある。ひとえにこの三つの力だけが、こういう非力な反逆者たちの良心を、彼らの幸せのために打ち負かし、虜にすることができるのだ。そしてこれら三つの力とは、奇跡、神秘、権威なのだ。・・・おまえはしらなかった。人間が奇跡を退けるや、ただちに神をも退けてしまう事をな。・・・そもそも人間は奇跡なしには生きることができないから、自分で勝手に新しい奇跡をこしらえ、まじない師の奇跡や、女の魔法にもすぐにひれ伏してしまう。例え、自分がどれほど反逆者であり、異端者であり、無神論者であっても。・・・おまえが降りなかったのは、あらためて人間を奇跡の奴隷にしたくなかったからだし、奇跡による信仰ではなく、自由な信仰を望んでいたからだ。・・・誓ってもいいが、人間というのは、お前が考えているよりもかよわく、卑しく創られているのだ!・・・人間をあれほど敬わなければ、人間にあれほど要求しなかっただろうし、そうすれば人間はもっと愛に近づけたはずだからな」 亀山訳p277
神秘体験を実体験したルポ
このオウムの修行がいかなるものかと、事件後に道場で体験したライターがいる。『麻原彰晃を信じる人びと』(洋泉社・1996)の大泉実成だ。大泉は教えられた呼吸法をするうちに、幻覚体験のようなものを経験する。後日、精神科医・高橋紳吾にそれについて尋ねると、高橋は強く速い胸式呼吸による強烈な光の体験は過換気症候群による幻覚症状であり、息を止めると様々な光が見えるようになるのは「脳の低酸素血症」だと、医学的見地から述べる。神秘体験が、オウムは本物であるとの確信を信者に与え、教団への強い帰依につながっていったのだが、その神秘体験の実像を解き明かすのであった。http://blogos.com/article/310177/
脳の低酸素血症 高地の脳内作用
ここで、いながらにして世界を見る目に戻ると、なんだか、似た国を思い出す。そうチベットだ。ここもラマ仏教僧のなかには、遊体離脱して、他の世界をみてこれる、とんでもない能力をもった人がたくさんいるという。
共通点は高地だ。インカもチベットも3000メートル以上だ。その空気の希薄さは経験したもので無いとわからない。アンデス高地4000メートルからペルーのリマ 0メートルまでバスで降りてきたときに、半分ほど飲んだミネラルウォータのペットボトルがひしゃげ、内容量が5分の一くらいになっていた。これを目の当たりに見て、如何に空気が薄いか実感したが、とにかく高地は空気が薄い。
故中島らも氏がチベットに行ったときの文章を記憶しているが、彼によると、酸素不足になると、脳内物質の何やらが作用して、特殊な状態になると記していた。それにより、もちろん厳しい修行とあいまってチベット僧の遊体離脱が可能となるとの説だった。チベットの有名な「死者の書」も、脳内麻薬の働きと想像されるシーンの記述があると記す人は他にもいる。
インカには高地の条件のほかに、さらにアヤワスカなどの薬草がある。これはLSDと似たような作用をもたらす蔓性植物抽出薬だ。コリン氏は、高地作用は触れないで、こちらの薬物作用が、超常能力をもたらしたと推測している。チベットでは薬用植物にたよらないで瞑想と高地の脳内作用だけで高みに達したようだ。このアヤワスカからDMTという向精神薬ができるが、幻覚剤であり精神の分子だと呼ぶ人もいる。
薬用植物、瞑想、高地の脳内作用が通常の知覚を超える三大ポイントということができるのではないか。
強烈な光の体験
さらに光のきらめきが追加できるかもしれない。アンコールワット遺跡で見た、高みからふりそそぐ圧倒的な光は薬用植物と同じ効果をもたらすのではないかとも。ねじまき鳥クロニクルにも主人公が井戸の中でこんな圧倒的な光に出会い世界観が変わってしまうシーンがある。
瞑想
仏教徒などの瞑想もそれに近いのだろう。仏教徒はせいぜい茶に頼るほかは薬用植物によらないのは明らかだから、瞑想によって同じ効果をもつこと、たとえばドーパミンのような物質を脳内から分泌させて観仏するのだろうか。薬用植物の効果は疑似脳内物質だから本来誰もが脳の中に持っていると思われ、それが瞑想修行によってふんだんに分泌されると想定することもゆるされるだろう。瞑想による修行はなにも仏教に限らない。キリスト教でもある。
空海が土佐の洞くつで明けの明星が口の中に飛び込んできたという話が伝わっている。DMTを試みた人が星のかなたに飛び込んでいくような幻覚をみるがそれと同質のものであると思える。空海は瞑想だけでおなじ体験をしたと思う。
古代との交信
オリオン座に注目するようになった。きっかけはコリンウィルソンの「アトランティックの謎」を読んだことだ。定説に反し、10万年前の古代、その時代に高度な天文学の知識が存在したという。高度な文明の存在したその証明にオリオン座、特にその3連星のほぼ直線な並びのわずかなずれが重要な役割を果たす。我らが銀河系はさまざまな星団や星がさまざまな周期で運行しているが、その最大周期をこの3連星の並びのずれを通じて正確に知っていたという。
そのオリオン座がここバリの地では夜空にはっきりと見える。東京では星を眺めることもなかったので、オリオン座を特に意識的に見たことがなかった。ある日の夕食の後、ビラの外にでて夜空を眺めた。雲も無く大気は澄んでいた。オリオン座の3連星はほぼ直線的に並んでいる。しかしよく見るとほんの少しずれているのが見える。そのずれを確認した刹那、10万年の時空の隔たりが消えた。遠くにバイクの音が聞こえ、突如古代との交信は瞬時にして途絶えた。
これをきっかけにしてかつて訪れたクスコ周辺の石造遺跡や、さらにコリンウィルソンの「アトランティックの謎」の中に記述された、いながらにして世界を見る能力に思いを馳せてみた。
石の加工技術
南米ペルーのマチュピチュ遺跡やクスコ周辺の石造遺跡をみて、その石の加工技術に驚かぬ人はいない。皆一様に、剃刀の刃一枚入らない組石の精巧さに驚嘆する。西洋の教会建築の石組みとは、切り口の精巧さでは、全く比較にならない。隔絶している。そして、12角形やそれ以上の形にあたかもやわらかい粘土をナイフできるような技術にもただただ頭をかしげる。いまだに合理的な説明がつかない。ダイヤモンド鋸で切ったらようやくこのシャープさが実現できるらしいが、そんなにダイヤが産出するはずも無い。ある建築家が丸い石でたたく方法で平面化する実験をしていたが、なるほど平面にはなるものの12角形の切り口のシャープさと自由な組み合わせの説明には全くなっていない。いかなる高度文明があったのだろうと不思議に思う。
ちなみにナスカの地上絵は超常能力を持ち出さなくても、拡大図を描く要領で十分説明がつくそうだ。日本の小学生がどこかの先生の指導の下に運動場に地上絵を再現していたが、小さな絵を杭と拡大倍率に伸ばしたロープで見事に再現されていた。また、よくある数字合わせの不思議もトイレットペーパなどを使っての反論説明をみるとなるほどと思わされる。クフ王のピラミッドの底辺と高さがπを表現しているという話も簡単に反論されていた。正確に南北を表しているということもある星を基準にすると精度は実現できるという。だからトンデモ本をみるような疑いの視点も必要なのだが。
アヤワスカ
一方、コリン・ウィルソンの「アトランティスの暗号」によると、インカ文明は車輪をすら作れなかった。このギャップを埋める説明がつかない。コリン・ウィルソンによると、現代文明とは全く異質の文明があったと推測している。岩をシャープにカットする技術のみならず、アヤワスカという植物を飲んでいながらにして世界を見る能力とか、ブラウン気体だとか。ブラウン気体は、酸素と水素の混合気体で、これまたにわかに信じられないが、熱くないのに、金属を溶かしたりできるもので、ユル・ブラウンという最近まで生存したブルガリア人が発明した。このような超常科学がインカに存在し、石をシャープに切ったのかと想像してしまう。それにしても、車輪すらつくれなかったのに。
なんだかトンデモ本のようだが、あのコリンさんが書くのだから半信半疑くらいの立場は許されるだろう。いながらにして世界を見る能力で、天体の動きを正確に把握し、正確な冬至、夏至の把握などを可能にしたのではとの仮説だ。特に注目したのはアヤワスカという植物による幻覚のなかに世界をみるという記述だ。
アヤワスカは具体的にはDMTを含む植物と、MAO阻害剤(ハルマラ・ヤヘイなど)を含む植物を一緒に取る行為、DMT+MAO阻害剤 直接ケミカルとしてのDMTとMAO阻害剤をいっしょに取るやり方は「pharmahuasca」
DMT単体を口頭摂取しても胃の中の酵素によって分解されるため、なんの効果も得られない。服用後、激しい嘔吐を催し次に大変強烈な、意識変容状態「今ここに生きている、それはとてつもない奇跡であり、アヤワスカはそれを実感として教えてくれる。
アヤワスカを安全な薬用植物に
幽体離脱や空や輪廻が科学になりえないのは実験による実証ができないからだが、この薬用植物による視覚化ということは、実験による実証のヒントを与えてくれる。
1956年にアヤワスカを試した人類学者マイケル・ハーナーはエクアドルで実際に飲んでみて不思議なリアルを体験したが同時に非常に危険であったとも「アトランティスの暗号」序文で書かれている。つまり死と隣り合わせなのだ。だがアヤワスカから抽出されたDMTは医師の観察のもとに使用すると安全な薬用植物になりえるという。高地、そして合理的な瞑想が科学に準じるレベルに達してくれないものかと思う。
映画「DMT 精神の分子より」
映画「DMT 精神の分子より」によると次のようなインタビュー回答をみることができる。
DMTを試した女性は、自己は脳の中にいない、脳は単なるアンテナだという。
自己が溶解する感覚。フィルターを外される感覚。
幾何学模様が見える。
松果体がアンテナであり、松果体が機能をもっていることはデカルトも認識していた。
完璧な安心感を味わう。
星のかなたに向かう。
wikiPedia抜粋
アヤワスカは、ペルー、ボリビア ケチュア語で、「魂のつる」、「死者のロープ」
先コロンブス期のアメリカ大陸 アヤワスカによる幻覚を描写 岩絵 最古の記録は、1851年にブラジルのアマゾン地域を探検したイギリス人のリチャード・スプルース
アヤワスカの向精神性成分 ハルマリンは、1841年 分離に成功し、1927年にはじめて化学合成 1923年には、カーピからハルマリンが分離 テレパシン(テレパシーに由来)
1953年、作家ウィリアム・バロウズが、アヤワスカ(ヤヘイ)を探しにコロンビアとペルーを訪れる。バロウズはコロンビアで、植物学者のリチャード・エバンス・シュルティス (Richard Evans Schultes) と出会っている。この時の体験を元に1963年には、バロウズと詩人アレン・ギンズバーグによる書簡のやり取り『麻薬書簡』が出版される。
また近年アマゾン西部には、主に欧米人向けに改良されたアヤワスカ体験を提供する宿泊施設が建てられ、数週間の代替医療プログラムへの参加や変性意識体験を求めて多くの人が訪れる。アヤワスカ・ツーリズム。
アヤワスカの精霊から歌を授けられ、その歌を使いわけることにより、アヤワスカ茶は病気を治す薬となったり、敵を攻撃する毒となったりする。シャーマンが歌う歌や口笛は、病気の治療と呪いをかけることのいずれにも使われる。シャーマンはアヤワスカを飲むことにより体内に粘液を生成
アヤワスカ(カーピ)は、熱帯雨林の樹木に螺旋状に巻き付きながら成長し、小さなピンク色の花をつける。ハルマリンを含有する。
カーピの幹から樹皮を削り取り、これにアカネ科のサイコトリア・ビリディス(Psychotria viridis、チャクルーナ)や、キントラノオ科のディプロプテリス・カブレラナ(Diplopterys cabrerana、チャクロパンガ、チャリポンガ)などの葉を加え、十数時間から一日煮詰めるか水に浸して得られる褐色の液体 トリプタミンアルカロイドであるN,N-DMTや、5-メトキシ-N,N-DMT (5-MeO-DMT) を含んでいる。ハルマラアルカロイドに代表されるMAOIと組み合わせることにより向精神性作用を発現する。
DMTの供給源としてミモザ・テヌイフローラ(Mimosa tenuiflora、シノニムのミモザ・ホスティリスとして知られる)の根の皮などが使用される。
アヤワスカを頻繁に飲んでいるシャーマンが吐気や嘔吐の症状を示すことは稀である。吐気や嘔吐は、ハルマリンの作用による 服飲後30分ほどで効果が現れ、作用時間は2〜6時間程度。
視覚に及ぼす作用が特徴的で、目を閉じると、鮮やかなイメージが夢を見ているかのように連続して現れる場合が多い。訓練を積んだシャーマンが体験する「ヴィジョン」と呼ばれるイメージにはおおむね段階があり、まず幾何学模様が現れ、植物、動物、幻想的な建築物や都市という順序で展開する ヘビ、ジャガーなどのネコ科動物、裸の黒人女性などのイメージが多く報告されている。
シャーマンはアヤワスカの幻覚効果を通じて、はるか彼方の惑星を見たり、遠方に住む親戚の健康状態を知ったり、紛失した物の在処や、配偶者の浮気相手、患者を病気にした呪術師の身元をつきとめたりする。
一時的な自我の崩壊を起こし無意識と向き合う。
1993年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のチャールズ・グロブ医学博士、薬理学者のJ.C.キャラウェイ、デニス・マッケナらが、ブラジルのウニオン・ド・ヴェジタル信者15名を対象に精神鑑定を行った。被験者は10年以上団体に所属し、定期的にアヤワスカを飲用していた。鑑定の結果、彼らは極めて健康であり、過去に患っていたアルコールなどの依存症、うつ病、不安障害からの改善を示した。神経症や精神病の傾向は皆無だった。また、血液検査では、気分を調整する神経伝達物質であるセロトニンの再取り込み部位の増加を確認し、抗うつ薬と同様の効果が得られることを示唆している
ペルーのタキワシ治療施設では、アヤワスカを使用し、アルコールや薬物(主にコカイン、ヘロイン)依存症の治療に取り組んでいる。
対照実験ではないが、6名でのアヤワスカのうつ病に対する効果に関する研究では、ハミルトンうつ病評価尺度にて、摂取の翌日でスコアは平均62%減少し、21目では82%減少していた。
法規制 DMT(ジメチルトリプタミン)は、国際的にスケジュールI薬物に指定され、あらゆる所持、使用が禁止されている。日本においても、麻薬及び向精神薬取締法において規制されている。
ブラジルでは、1980年代半ばに宗教上の使用が合法化されている。
2007/4/11初稿
2015/09/27 追記
2015/12/12 追記
2018/7/11 追記