198x年x月x日
友人のI君に旨い和風もつ料理の店に連れて行って貰う。彼の事務所の近くにあるために夕食代わりに利用していたという。店の名前は「あらた」で、主人夫婦で店を切り盛りしている。全席で10人も座れば一杯だが、席の空く暇がない。かなり早めに店に着いたのだがあっという間に席は埋まった。
最初にもつ煮込みが突き出し代わりで出てくる。大きな銅鍋にきれいに下ごしらえされたもつがふっくらとした泡を盛り上げて煮上がっている。これで先ず唸らされる。旨い!。目の前の青ネギを好きなだけのせて食べる。レバー刺し、心臓(ここではこころのたたきという)ちれ、タン、コールタンとメニューの端から平らげる。一品が250円くらいで安い。しかもとびっきり新鮮で旨い。
ここのもつ料理は脂肪を徹底的に排している。そのための下ごしらえが重労働だと聞いた。午前中解体場までいって仕入れ、午後一杯はそのあぶらをとるためにかなたわしで格闘するらしい。そのためここのもつはまったくぎとぎと感がない。(その後ここを越えるもつ料理はない。単にもつ料理から肉全般においてもこの店の水準をこえる店は知らない。)
198x年x月x日
友人のIK君を伴ってこの店に行く。残念ながらIK君は健啖家ではない。店の主人がだすもつ料理にあまり手が出ない。後ろには何人かの客待ちが出来ている。主人に「うしろのお客さんがお待ちなので」といわれてしまった。健啖家の友人と次々と食べていると最終まで粘っても平気なのだが。
198x年x月x日
同僚のM君を連れていく。彼は気に入ったらしく、その後ほぼ毎週金曜日の常連となった。しかし6時前にすでに客で席が埋まっている。その時間にいけるのは至難の業で、一回目の客が終える頃合いを狙っていく。それでも何人も待つことになる。しかし旨さの誘惑には勝てない。相当待っても必ず喰って飲んだ。ちなみに酒は特性のハイボールで調子に乗っていると相当に酔っぱらう。
200x年x月x日
東京に転職したために長らくいけなかった「あらた」に一人で行く。店の主人は随分の年月があいているのに、名前を覚えていることは序の口で、私の注文の順番を記憶していることにたまげる。ここでは座れば好みの順番でもつが順番に出てきた。この店の主人も私と似たような年齢だ。それでも猛烈に忙しく重労働の仕事を昔と同様にこなしている。たいしたものだ。
最後はテールおじやで締める。この店は実に長い年月に渡って味の幸せを与えてくれた。人生の幸せの一つはこうしたなにげない名店をいくつか知っていることだろうと思う。
回想のNTTデータ